私のことが嫌いな同期の魔術師に不本意ながらもえっちな治療を施されております

小村辰馬

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「あ」
「げっ」

 騎士達の喧騒で賑わう昼食時。
食堂でユリウスと遭遇し、思わず包み隠さず顔を歪めてしまった。
隊長と部下と一緒に、王宮お抱えの料理人が作る絶品日替わりランチに舌鼓を打っていた優雅な昼時に、なんという不運。

 ユリウスは席を探していたようで、お盆に私たちと同じ日替わりランチを乗せてこちらへ歩いて来たところだった。

「命の恩人に向かって何だその顔は」
「そうだぞ、フィオナ。ユリウスくんに先日のこと、ちゃんとお礼は言ったのか」
「ち、違うんです隊長……あれは……」
「ユリウスさん、ここよかったら座ってください!」

 隊長の正面に座る私達の部下、クルトが笑顔で己の隣の空席の椅子を叩いた。余計なことを。
 ユリウスは一瞬顔を顰めたのち、私の顔へ視線向けた。
座るのか? いや座らないだろう。大嫌いな私の顔を見ながらの食事なんてーー

「どうも」

 そう言ってクルトの隣、私の正面の席に腰掛けたユリウス。えええ座るの?
 早速パスタサラダを口に運ぶと、ユリウスは整った双眸でこちらを見据えた。

「なに。俺が同席するのがそんなにも不服なわけ?」
「ち、ちが……そんなんじゃないよ」
「あのスライムに襲われた日から、フィオナがやたらユリウスくんから逃げようとするんだよなー。何かあったの? 君ら」

 隊長に尋ねられ、私は「んぐふっ」と喉に食事を詰まらせる。
 何かあったも何も、貴方が退室してから私はユリウスにアソコの穴から尻の穴まで見られ、盛大にイきまくる姿を晒し、ついでに失禁までかましたのだが。
 あの後結局ユリウスは様々な液体でぐちゃぐちゃになっていたであろう私を、綺麗に清めた上で、医務室のベッドに寝かせてくれていた。目覚めた時の羞恥と感謝の気持ちと絶望感をないまぜにした何とも言えない感情たるや。
私は目覚めて彼と目が合うと、礼だけ述べて脱兎の如く医務室を後にしたのだ。

 平然としていられる方が、無理というものだ。気まずすぎる。
 咳き込みながらちら、とユリウスを見やると視線が合う。すると彼もカッと顔面を瞬時に朱色へと染め上げ、「ぐふぅっ」と咳き込み始めた。
いやお前は平静でいろよ。

 二人してむせ返る異様な光景に、ギリアム隊長とクルトは顔を見合わせる。

「なーんか怪しいっすね。二人で真っ赤っか。もしかして、とうとうお二方、これ! な、関係になったんすか!?」

 そう言ってクルトは、両手でハートマークを作ると、その隙間から私とユリウスを交互に覗き込む仕草をした。こういうお調子者な点を除けば、私達第二部隊の一兵卒の隊員の中では、一等優秀なんだけどな。

「とうとうって何よ、とうとうって」
「えー? 俺らん中で有名ですけどね。何やかんや仲が良いお二人のこと。さっさとくっつけばいいのにーって」
「だ、だれがこんな野蛮な女の風上にも置けない野生児と恋仲になるか。相手を選ぶ権利くらい俺にもある」
「んなっ! 誰が野蛮な野生児ですって!?」

 お互い今度は怒りで顔を赤くしながら睨み合う。この男、本当に口が悪い!

「お似合いだと思うけどねぇ」
「隊長まで何を仰るんですか……やめてください」
「でも訓練学校時代は、仲は良かったんだろ?」

 言われて、またユリウスと顔を見合わせた。
 ……まぁ、そうなんだよな。
 女性騎士の志願者がそもそも少ない中、やたら綺麗な顔をしたクールビューティな女生徒がいたから組み手の時の相手探しの際声を掛けてみたら、それがユリウスだった。因みにこの時性別を間違えたことは今も言っていない。
回復魔術が苦手な私と、武器の扱いや攻撃魔術がからっきしだったユリウス。凸凹であった二人が、仲良くなるのにそう時間はかからなかった。

 私が武器の扱い方、武術の基礎をサポートし、ユリウスが高度な技術を要する回復魔術の理屈や発動方法を指南する。そうして私達は苦手な分野を補い合って優秀な成績を収めていった。
 二人で居残りして勉強し、寮まで帰る際に寄り道して屋台で買って食べたパニーニが美味しかったことはよく覚えている。
私の口元に付いたマスタードを、ユリウスが拭ってくれたりして。よくよく思い返したら世話されまくっていたな、当時の私。

 忘れ物をした時はユリウスに教科書を見せてもらい、訓練中に怪我をした際はユリウスに肩を借りながら医務室へ連れて行ってもらった。
他にも、思い返せば私の傍にはいつもユリウスがいた。
あれ? もしかしたら彼がいなかったら、私はこうしてこの地位に就けていなかったのでは?

 ふと恐ろしいことに気付き、ユリウスを見やると、彼は私から視線を逸らした。

「……昔のことですよ」
「ま、若い頃って色々あるよな。俺もそーだった! 青春ってやつだな」
「隊長、そんな発言するから、歳の割におっさんくさいってよく言われるんスよ」

 隊長を茶化すクルトを無視して、黙々と食事を続けるユリウスを盗み見る。
ユリウスは私のことを嫌いなようだけど、私はもう少しユリウスに歩み寄ってみても良いのかもしれない。
少なくとも、これまで世話になった分の恩は報いる必要があるだろうし、私までユリウスに対して苦手意識を持つ必要など無いだろう。


 非番の日、私はユリウスの仕事場である医務室を訪れてみた。

「ユリウス、いるー?」
「! ……お前、今日非番の日だろ。業務外で負った怪我は請け負ってないんだけど」
「じゃーん」

 ユリウスの目の前に、小さな紙袋を突き出した。
彼は目を瞬かせると、胡乱げな視線でこちらを見上げて来た。

「なに? これ?」
「あれ、紙袋じゃ思い出さないか。じゃあ、はい」

 私は勝手にユリウスの傍にある患者用の椅子に腰掛け、紙袋の中身を取り出す。

「これ……」
「あ、思い出した? 学生時代よく一緒に食べたよね」

 紙袋の中身はワッフルサンドだ。
学校が休みの日や、学校帰りの買い食いによく利用した屋台で、王都でも人気な店の一つだ。生クリームにチョコレートソース、イチゴにバナナにアーモンド、好きな味付けをトッピングできて、ほっぺたが落ちそうなほどに美味しかった記憶がある。

「久々に食べたいなと思って、買っちゃった。ユリウスにはこれ、キャラメルとアーモンド。好きだったよね?」
「……お前、食べ物のことはよく覚えてるんだな」

 大人しく私からワッフルサンドを受け取るユリウス。どうやら一緒に食べてくれそうだ。

「私はこれ!」
「イチゴとチョコレートか?」
「当たり~」
「変わってないな」

 珍しくユリウスが微笑んだものだから、私は思わず瞠目してしまう。
ユリウスはそれに気付いたようで、いつもの仏頂面に戻った。

「……なんだよ」
「や。いつもそう言う顔してればいいのに」
「うるさいな。……でもまぁ、ありがと。いただきます」

 二人でワッフルサンドにかぶり付く。
外はカリッ、中はモチっとしており、チョコレートソースの甘さと、いちごの酸味が舌の上で混ざり合い踊っている。めちゃくちゃ美味しい。三食これで良い。
夢中になって頬張っていると、不意に視線を感じた。

「? ふぁに?」
「いや、なんでも……」

 ジロジロ見られると食べ辛いのだが。
ユリウスの視線をこそばゆく感じながらワッフルサンドを引き続きもぐもぐ頬張っていると、突然ユリウスの手がこちらに伸びて来た。
 な、なに!?

 私の口元を指でぐい、と拭うと、彼は自分の口へそれを運んだ。

「……お前、ほんと昔から変わらないよな。食べ方汚すぎ」
「……あ、ありがと」

 チョコレートソースが私の口元に付いていたらしい。
ユリウスが私の顔に付いていたものを取って舐めたと思うと、何だか照れ臭くなって顔が熱くなるのを感じる。
少なからず容姿が優れているのだから、こういったイケメンにのみ許される甘い行為をする時は細心の注意を払ってほしいな……。他の人にもこんなことしていたら、勘違いさせてしまうのではなかろうか。
でも、こうしていると昔に戻ったようで、何だか胸がソワソワと弾む心地だった。

「チョコレート、かなり甘いな」
「え。そうかな? そっちも食べさせてよ」

 そう言って何となしに、ユリウスの手首を掴んで彼の食べ掛けのワッフルサンドにかぶり付いた。
あれ、こんな味だったっけ。昔もこうして食べさせてもらったことがあったけど、キャラメルは思ったよりビターで、なんだか大人のお味だ。年を重ねて味覚が変わったのかな。

 ユリウスに感想を伝えようとすると、彼の手はフルフルと何故か震え、顔を見上げれば耳まで真っ赤になっている。え、なに。一口が大きすぎて怒った?

「……け」
「へ?」
「俺はまだ仕事があるんだ! さっさとそれを食べたら出て行け!」
「えええっ!?」

 何故か顔を真っ赤にして突然怒ったユリウスに、医務室から摘み出されてしまった。

 昔みたいに仲良く作戦、失敗に終わってしまった。上手くいったと思ったんだけど、ユリウスはやっぱり気難しい捻くれたヤツで、私のことが好ましくはないようだ。食べ物を奪われたら怒るくらいには……。

 これは暫く彼の所に行くのは控えた方が良いのかな、と思っていた矢先、私は再び魔物の餌食になり、彼の元を訪れることになる。
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