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4(ユリウス視点)
『ユリウス、だいじょうぶ?』
そう言って手を差し伸べてきた、奴の血に塗れた笑顔が、いつまで経っても忘れられない。
ユリウスは窓の外の訓練場で走り込みをする第一師団の騎士達を眺めながら、自然と一つの影を探す。
一つに括った赤褐色の長髪を揺らしながら一団の中央を走る、大きな影に囲まれた小さな体を見つけると、ユリウスは面白くなさそうにデスクへ肘を突いた。
彼女の名はフィオナ・アルバート。
ユリウスとは訓練学校時代からの同期で、同じヴァルトレア王宮騎士団に所属する同僚だ。爵位を持たないユリウスとは違い、ヴァルトレア王国に領地を持つ伯爵家のご令嬢である。もうかれこれ10年以上の付き合いになるだろうか。
腐れ縁とも言える付き合いの彼女へ、ユリウスは複雑な感情を抱いていた。
『ーーこんな、ぁっ、じゅぽじゅぽされたらぁっ、あぁんッ、!』
「……くそっ」
ユリウスは嘆息すると、艶のある藍色の髪を掻き混ぜる。
先日、スライムに下腹部へ侵入された際、ユリウスへ助けを求めてきたフィオナであったが、その治療の実情は他言できるようなものではなく、卑猥なこと極まりないものであった。
スライムを除去するには彼女の恥部を直視する他無く、ユリウスは恥丘から花弁、その先に控えるぐっしょりと濡れそぼった蜜壺や菊の門に至るまで、フィオナのあられもない姿をその目に収め、また自らの手で快楽を与えることとなった。
不本意であったとは言え、恋仲である男女でなければ行わない行為を、自分がしてしまった。ユリウスも男だ。しかも、相手がフィオナともあれば、平静な心地でいられるはずもなく。
『や、…ぁあっ! また、イッちゃ…っ、んんぅう、 ゆり、うすっ、見ないで、みないでぇっ!』
遠くに見える彼女の横顔と、あの時見た真っ赤になりながら涙目で自分を見つめる、快楽に歪んだ彼女の顔が重なる。ユリウスは額に手を置き、項垂れた。
先日からずっとこの調子だ。フィオナを視認したり、彼女のことを考えると、あの時の姿が蘇り、下半身に熱が集まる。
ユリウスは頬を赤らめながら、顔を顰めた。
「くそ……屈辱だ……」
ユリウスはフィオナのことが嫌いだった。
昔こそ、話しかけてきたのはあちらだったが、一緒にいて居心地が良く、また無鉄砲で快活な彼女のことが放っておけず、気付けば四六時中行動を共にしていた。そこに友人以上の感情があったことも、否定しない。フィオナは自分のことを異性とは見ていなかっただろうが……他に恋人も作っていたし。
けれど、それと同時に自分に持たざる才能を持つ、フィオナのことが憎らしく、また妬ましかった。伯爵家に生まれながら、武術と攻撃魔術の才能を持ったフィオナ。
ユリウスは、第一師団に入りたかったのだ。
ユリウスは平民の生まれであった。
ヴァルトレア王国の、辺境の街で生まれたユリウスは、物心ついた頃には、母親と二人だった。裕福では無いながらも、母親は娼館で働きながら、ユリウスを養ってくれていた。慎ましいながらも、肉親が傍にいて、微笑んでくれる。食事ができる。眠る場所がある。ユリウスは十分に幸せだった。
ユリウスは幼少期から回復魔術の才能があり、ある日ユリウスの母親が傷を負って仕事から帰ってきた時、彼女の傷を癒したことでそれが発覚した。息子が希少な回復魔術の使い手であると分かった母親は、大層喜んだ。母が嬉しそうだと、ユリウスも嬉しかった。
ユリウスの母親はしばしば体に傷を負って、帰宅した。ユリウスはその身を案じたが、母親はユリウスが癒してくれるから大丈夫と笑うものだから、何も言えず。彼女の傷を治せることが誇らしく、けれどそれ以上のことは何もできない自分が、ひどく歯痒かった。
ある日母親が動かなくなった状態で、帰宅した。客の行為に伴う暴行がエスカレートし、その命を奪ったのだと、彼女を家へ連れて来た職場の者が語った。
治安の良くない街での、管理が行き届いていない店だった。こう言った事例はよくあることだった。己の魔術で傷を治しても、彼女が息を吹き返すことはなかった。
客の居場所を尋ねてもその所在は分からず、そもそも、子供である非力な自分が行ったところで、何もできることはないと。職場の人間に止められた。
ユリウスは深く絶望した。自分が強ければ、母親の仇を打てたし、そもそも、彼女の命が奪われる前に、彼女を守ることができたのにと。自分の持つ才能が回復魔術でなければ、こんなことにはならなかったのではないかと。
ユリウスは12の歳になると、ヴァルトレア王国王宮騎士団の訓練学校へ入学した。類稀なる回復魔術の素養があるだけで、入学試験は難なく突破できた。
国内最高峰の学校で勉強をすれば、攻撃魔術の才能も開花するかと思ったのだ。母親亡き後、攻撃魔術の才を身に付けたところでどうなるのかという話だが、それでも、当時後悔して欲しくてたまらなかったものを諦めるには、まだ自分は幼すぎたのだ。
ある日武術の組み手のペアを探す際、人見知りをしていた自分に話しかけて来たのがフィオナだった。天真爛漫で、運動神経が良く、攻撃魔術の素養もあるという噂の、クラスでも目立つ奴だった。
伯爵家の出自で、しかも才能にも恵まれている。正直、疎ましいことこの上なかった。自分の苦手な分野が得意な者を傍に置いておけば、後々役に立つだろうと、その程度に当初は考えていた。
けれどフィオナはユリウスのそんな打算的な考えで付き合い続けるには、あまりにも真っ直ぐで、純粋な奴で。
『ユリウス、聞いて聞いて! 私、マルセン先生の癖見つけちゃった! あのね、あのつるっパゲ頭を3回掻いた時は後ろめたいこと言われた時でね』
『お前授業聞かないでそんなとこ観察していたのか』
『ユリウスはすごいなー、こんなに難しい回復魔術の術式も一瞬で覚えちゃうんだもんなー、天才だなー、かっこいいなー、』
『煽てても宿題は写させてやらないよ。……分からないところ教えてやるから、どこなの』
『あ、その味も美味しそう一口!』
『あっ、お前! 一口がいつもでかいんだよ! というか、まだ食べていいなんて一言も言ってない!』
フィオナに調子を崩されながら、気付くと彼女の世話を焼いており、いつの間にか友人と言える関係になっていた。孤児院時代は塞ぎ込んでおり、特に親しい者がいなかったため、初めての親友と呼べる相手だった。
いつしか彼女へ淡い気持ちを抱くようになった後も、友人としての立ち位置を変えなかったのは、それだけ彼女のことが大切で、自身の欲のみで彼女との関係を失いたくなかったからだ。
ある日の学校の授業の一環である、野外演習でのことだ。
王都を出て、地方の山間部にある廃村を開拓した訓練場において、実戦形式で行う試験だった。数隊に分かれて、互いの陣地にある旗を取り合う内容だったが、そこで戦果を残した者が攻撃分野で好成績を収められる。ユリウスは躍起になっていた。
隊を一人外れて、ユリウスは森の中へ出ていた。陽動をするでも無く、完全なる単独行動である。ユリウスの武術、攻撃魔術の成績は芳しくなく、ここで大きく高成績を残しておきたかったのだ。
木々に隠れながら相手の隊の動きを読んでいたところ、突如、ユリウスの目の前に男が複数人現れた。学校の人間じゃない、大人の男3人だ。身形は薄汚く、その面持ちは柔和なものではない。衣服には血の跡も残っていた。
その男達が廃村を根城にしていた野盗であることを瞬時に察したユリウスは、すぐさま逃げようとしたが、体格差に敵うことなく、あっという間に捕えられてしまう。
『どうします、兄貴。このガキ人質にして、近くにいる親の手持ち金ふんだくりますかい?』
『いや、よく見てみろ。この制服、王宮騎士団の訓練学校のものだ。近くに教師もいると思えば、ここで殺っちまってトンズラした方が賢明だろう』
『くそっ……離せ!』
身じろぎするが、拘束が解ける様子もない。力では大人に敵う気配もなかった。だったらと、攻撃魔術を発動させようと試みるも、手元がほんのりと温かくなるのみで留まる。ユリウスの魔力では、炎を出すことも叶わず、その程度が限界なのであった。
『お? こいつ、一丁前に魔術使おうとしてやがるのか?』
『ぐっ……』
『わはははっ、全然熱くもなんともねーや! 落ちこぼれなんじゃないかこいつ!』
『残念だったな、恨むのなら、こんなところで俺たちに出会した、自分の運のツキを恨むんだな』
嗚呼、また自分は結局、強くも何もなれなかった。そうして自分の弱さのせいで、今度は自分の命を失うのだ。
首元にナイフを翳され、ユリウスが死を覚悟した瞬間、近くにいた男が血飛沫を上げながら倒れ伏した。そしてもう一人の男も、続け様に叫び声を上げ、周囲を真っ赤に染め上げながら倒れる。
ユリウスを拘束していた男が、拘束を解き、警戒体勢に入るも、強い風が吹き荒ぶと同時に胸元が十文字に切り裂かれ、醜い断末魔を上げながらその場へ倒れた。ユリウスの整った顔面にも、血飛沫が飛び散る。思わず、その場へユリウスは尻餅を付いた。腰が抜けたのだ。
男が倒れ、視界が開けた先には、一人の少女が、血に塗れて佇んでいた。
『ユリウス、だいじょうぶ?』
歩み寄り、自分を安心させるよう微笑みながら手を差し出して来たのは、よく見知った少女だった。
その少女、フィオナは返り血で真っ赤に染まり、いつものとぼけた様子とは打って非なるその姿に、ユリウスは身震いした。恐怖と、安堵と、自分に対する情けなさ不甲斐なさに、ユリウスは彼女の手を掴むことができなかった。
何が強くなりたいだ。また自分は、何もできなかったじゃないか。非力で、無力で、回復しかできない弱い子供のままだ。
対してフィオナは、風魔法を用いて的確に相手を仕留め、本来ならば躊躇するであろう人間に対する攻撃も、友人のためであればできてしまった。悔しいことに、友人は生まれもっての戦人であった。
引き続き自分へ向かって、笑顔で手を差し伸べているフィオナ。
自尊心を大きく傷付けられたユリウスは、フィオナの手を思わず払い除けた。
それ以降、人が変わったように回復魔術にのみ打ち込むようになったユリウスは、高成績を残して訓練学校を卒業し、第二師団へ入団した。その後も出世を続け、齢25にして三部隊部あるうちの一部隊の隊長を務めるまでにもなった。フィオナは第一師団の副部隊長のため、位としては自分の方が上になってしまった。
それでも未だ胸のしこりは取れないまま。
あれからフィオナともぎくしゃくするようになり、ユリウスは今もフィオナに冷たく当たり続けている。
生来きつめの性格であった彼の歯に着せぬ物言いは、フィオナも勘に触るようで、あちらも言い返してくるうちに喧嘩ばかりの関係になってしまった。
あれから10年ほど経過するが、今更彼女とどうやって普通に接していたのかも分からない。昔のように戻りたいとも、然程思ってはいなかった。
だけど、
ユリウスは、視線を落とす。
診察台に蹲るフィオナは、こちらに臀部を突き上げ、涎を垂らしながら気絶している。
その目元は手巾で目隠しをしており、涙を流しているのか少し濡れていた。こちらに丸見えになっている尻の穴は、大きく弛緩しており、はくはくと震えるそこからは、ごぷっ…ぶぽっ…と、白濁の粘液が溢れ返っていた。
そして自身に視線を落とすと、未だに主張をしたままの屹立した分身の切先から、同じように白濁を漏らし、フィオナの菊紋と糸になって繋がっている。
またフィオナが懲りずに、魔物による攻撃の治療をしてほしいと訪れた。
あんなことをされた上で、よくもまた自分の元を訪れられるなと、一周回って驚いたが、避けられていないことに安堵している自分もまたいた。
しかも今度は尻の様子がおかしいとほざいている。
勘弁してくれ。
とはいえ、命の危険もあるこの状況、ユリウスは再び熱くなりそうな股間を必死に鎮静化させながら、施術にあたった。フィオナに取り付いていたのは、パラサイトヴァイン。放っておくと、孵化と同時に腹を内側から食い破り兼ねない恐ろしい魔物だ。
フィオナの痴態に堪えながら、なんとか卵を摘出したが、まだ腸内の消毒が残っていた。資料によると、パラサイトヴァインの成長していない卵は、精液の成分により中和されると、記載されていたのだ。
そんなふざけたことあるかと思うが、背に腹は変えられない。
他の男に頼もうかという考えは、全く浮かんでこなかった。
自分が出したものを注入することで解決することもできただろうが、ユリウスの頭の片隅に芽生えた仄暗い感情はその考えを押しやり、代わりに終始主張してやまない己の怒張が、はち切れんばかりにズボンの布地を押し上げていた。
『へ? なんで目隠し……』
『消毒液の成分は、言外できないんだよ。フィオナにも見せることはできない』
『あ、っ…ゆ、ゆりう、すッ…! なんかこの注射…! 太すぎない!? …それにあつ、い…っ…ぁあっ…おしり、さけちゃ、ぅっ…!』
『……っ……ん。そう、なんだ。……ッ…がまんして』
『あっ、あっ、ん、!…ひっ、ぁあっ、やぁっ! こんな、ちゅうしゃ、動かすひつよう、っ、あるぅッ!?』
『んっ、…うん、……ッ…しっかりと、…塗り込まないと、ね』
『あ、あぁんっ、……ま、まって! …またっイッちゃ…! ちゅうしゃでイッちゃう! ~~~~ンンンッ!』
『……くッ……!』
フィオナの目隠しの手巾を取ると、快感のあまり流れた涙が、目元から滲んでいた。
それを指の背で拭うと、ユリウスはフィオナの頬に唇を落とした。
ユリウスは、フィオナのことが嫌いだった。彼女の才能が、出自が、強い騎士たる意志が、憎らしく、妬ましく、思っている。
けれどそれと同じくらい、いやそれ以上に、フィオナ自身のことを愛おしく、大切に思っていた。彼女のくしゃっと笑う笑顔も、負けず嫌いでよく流す涙も、ユリウスを呼ぶ愛らしい声も、エメラルドグリーンの澄んだ瞳も、全てが欲しくてたまらなかった。
完全に一線を越えることは未だ叶っていないが、ユリウスは自身の雄に塗れたフィオナの姿を再び見下ろし、満足げに微笑むのだった。
そう言って手を差し伸べてきた、奴の血に塗れた笑顔が、いつまで経っても忘れられない。
ユリウスは窓の外の訓練場で走り込みをする第一師団の騎士達を眺めながら、自然と一つの影を探す。
一つに括った赤褐色の長髪を揺らしながら一団の中央を走る、大きな影に囲まれた小さな体を見つけると、ユリウスは面白くなさそうにデスクへ肘を突いた。
彼女の名はフィオナ・アルバート。
ユリウスとは訓練学校時代からの同期で、同じヴァルトレア王宮騎士団に所属する同僚だ。爵位を持たないユリウスとは違い、ヴァルトレア王国に領地を持つ伯爵家のご令嬢である。もうかれこれ10年以上の付き合いになるだろうか。
腐れ縁とも言える付き合いの彼女へ、ユリウスは複雑な感情を抱いていた。
『ーーこんな、ぁっ、じゅぽじゅぽされたらぁっ、あぁんッ、!』
「……くそっ」
ユリウスは嘆息すると、艶のある藍色の髪を掻き混ぜる。
先日、スライムに下腹部へ侵入された際、ユリウスへ助けを求めてきたフィオナであったが、その治療の実情は他言できるようなものではなく、卑猥なこと極まりないものであった。
スライムを除去するには彼女の恥部を直視する他無く、ユリウスは恥丘から花弁、その先に控えるぐっしょりと濡れそぼった蜜壺や菊の門に至るまで、フィオナのあられもない姿をその目に収め、また自らの手で快楽を与えることとなった。
不本意であったとは言え、恋仲である男女でなければ行わない行為を、自分がしてしまった。ユリウスも男だ。しかも、相手がフィオナともあれば、平静な心地でいられるはずもなく。
『や、…ぁあっ! また、イッちゃ…っ、んんぅう、 ゆり、うすっ、見ないで、みないでぇっ!』
遠くに見える彼女の横顔と、あの時見た真っ赤になりながら涙目で自分を見つめる、快楽に歪んだ彼女の顔が重なる。ユリウスは額に手を置き、項垂れた。
先日からずっとこの調子だ。フィオナを視認したり、彼女のことを考えると、あの時の姿が蘇り、下半身に熱が集まる。
ユリウスは頬を赤らめながら、顔を顰めた。
「くそ……屈辱だ……」
ユリウスはフィオナのことが嫌いだった。
昔こそ、話しかけてきたのはあちらだったが、一緒にいて居心地が良く、また無鉄砲で快活な彼女のことが放っておけず、気付けば四六時中行動を共にしていた。そこに友人以上の感情があったことも、否定しない。フィオナは自分のことを異性とは見ていなかっただろうが……他に恋人も作っていたし。
けれど、それと同時に自分に持たざる才能を持つ、フィオナのことが憎らしく、また妬ましかった。伯爵家に生まれながら、武術と攻撃魔術の才能を持ったフィオナ。
ユリウスは、第一師団に入りたかったのだ。
ユリウスは平民の生まれであった。
ヴァルトレア王国の、辺境の街で生まれたユリウスは、物心ついた頃には、母親と二人だった。裕福では無いながらも、母親は娼館で働きながら、ユリウスを養ってくれていた。慎ましいながらも、肉親が傍にいて、微笑んでくれる。食事ができる。眠る場所がある。ユリウスは十分に幸せだった。
ユリウスは幼少期から回復魔術の才能があり、ある日ユリウスの母親が傷を負って仕事から帰ってきた時、彼女の傷を癒したことでそれが発覚した。息子が希少な回復魔術の使い手であると分かった母親は、大層喜んだ。母が嬉しそうだと、ユリウスも嬉しかった。
ユリウスの母親はしばしば体に傷を負って、帰宅した。ユリウスはその身を案じたが、母親はユリウスが癒してくれるから大丈夫と笑うものだから、何も言えず。彼女の傷を治せることが誇らしく、けれどそれ以上のことは何もできない自分が、ひどく歯痒かった。
ある日母親が動かなくなった状態で、帰宅した。客の行為に伴う暴行がエスカレートし、その命を奪ったのだと、彼女を家へ連れて来た職場の者が語った。
治安の良くない街での、管理が行き届いていない店だった。こう言った事例はよくあることだった。己の魔術で傷を治しても、彼女が息を吹き返すことはなかった。
客の居場所を尋ねてもその所在は分からず、そもそも、子供である非力な自分が行ったところで、何もできることはないと。職場の人間に止められた。
ユリウスは深く絶望した。自分が強ければ、母親の仇を打てたし、そもそも、彼女の命が奪われる前に、彼女を守ることができたのにと。自分の持つ才能が回復魔術でなければ、こんなことにはならなかったのではないかと。
ユリウスは12の歳になると、ヴァルトレア王国王宮騎士団の訓練学校へ入学した。類稀なる回復魔術の素養があるだけで、入学試験は難なく突破できた。
国内最高峰の学校で勉強をすれば、攻撃魔術の才能も開花するかと思ったのだ。母親亡き後、攻撃魔術の才を身に付けたところでどうなるのかという話だが、それでも、当時後悔して欲しくてたまらなかったものを諦めるには、まだ自分は幼すぎたのだ。
ある日武術の組み手のペアを探す際、人見知りをしていた自分に話しかけて来たのがフィオナだった。天真爛漫で、運動神経が良く、攻撃魔術の素養もあるという噂の、クラスでも目立つ奴だった。
伯爵家の出自で、しかも才能にも恵まれている。正直、疎ましいことこの上なかった。自分の苦手な分野が得意な者を傍に置いておけば、後々役に立つだろうと、その程度に当初は考えていた。
けれどフィオナはユリウスのそんな打算的な考えで付き合い続けるには、あまりにも真っ直ぐで、純粋な奴で。
『ユリウス、聞いて聞いて! 私、マルセン先生の癖見つけちゃった! あのね、あのつるっパゲ頭を3回掻いた時は後ろめたいこと言われた時でね』
『お前授業聞かないでそんなとこ観察していたのか』
『ユリウスはすごいなー、こんなに難しい回復魔術の術式も一瞬で覚えちゃうんだもんなー、天才だなー、かっこいいなー、』
『煽てても宿題は写させてやらないよ。……分からないところ教えてやるから、どこなの』
『あ、その味も美味しそう一口!』
『あっ、お前! 一口がいつもでかいんだよ! というか、まだ食べていいなんて一言も言ってない!』
フィオナに調子を崩されながら、気付くと彼女の世話を焼いており、いつの間にか友人と言える関係になっていた。孤児院時代は塞ぎ込んでおり、特に親しい者がいなかったため、初めての親友と呼べる相手だった。
いつしか彼女へ淡い気持ちを抱くようになった後も、友人としての立ち位置を変えなかったのは、それだけ彼女のことが大切で、自身の欲のみで彼女との関係を失いたくなかったからだ。
ある日の学校の授業の一環である、野外演習でのことだ。
王都を出て、地方の山間部にある廃村を開拓した訓練場において、実戦形式で行う試験だった。数隊に分かれて、互いの陣地にある旗を取り合う内容だったが、そこで戦果を残した者が攻撃分野で好成績を収められる。ユリウスは躍起になっていた。
隊を一人外れて、ユリウスは森の中へ出ていた。陽動をするでも無く、完全なる単独行動である。ユリウスの武術、攻撃魔術の成績は芳しくなく、ここで大きく高成績を残しておきたかったのだ。
木々に隠れながら相手の隊の動きを読んでいたところ、突如、ユリウスの目の前に男が複数人現れた。学校の人間じゃない、大人の男3人だ。身形は薄汚く、その面持ちは柔和なものではない。衣服には血の跡も残っていた。
その男達が廃村を根城にしていた野盗であることを瞬時に察したユリウスは、すぐさま逃げようとしたが、体格差に敵うことなく、あっという間に捕えられてしまう。
『どうします、兄貴。このガキ人質にして、近くにいる親の手持ち金ふんだくりますかい?』
『いや、よく見てみろ。この制服、王宮騎士団の訓練学校のものだ。近くに教師もいると思えば、ここで殺っちまってトンズラした方が賢明だろう』
『くそっ……離せ!』
身じろぎするが、拘束が解ける様子もない。力では大人に敵う気配もなかった。だったらと、攻撃魔術を発動させようと試みるも、手元がほんのりと温かくなるのみで留まる。ユリウスの魔力では、炎を出すことも叶わず、その程度が限界なのであった。
『お? こいつ、一丁前に魔術使おうとしてやがるのか?』
『ぐっ……』
『わはははっ、全然熱くもなんともねーや! 落ちこぼれなんじゃないかこいつ!』
『残念だったな、恨むのなら、こんなところで俺たちに出会した、自分の運のツキを恨むんだな』
嗚呼、また自分は結局、強くも何もなれなかった。そうして自分の弱さのせいで、今度は自分の命を失うのだ。
首元にナイフを翳され、ユリウスが死を覚悟した瞬間、近くにいた男が血飛沫を上げながら倒れ伏した。そしてもう一人の男も、続け様に叫び声を上げ、周囲を真っ赤に染め上げながら倒れる。
ユリウスを拘束していた男が、拘束を解き、警戒体勢に入るも、強い風が吹き荒ぶと同時に胸元が十文字に切り裂かれ、醜い断末魔を上げながらその場へ倒れた。ユリウスの整った顔面にも、血飛沫が飛び散る。思わず、その場へユリウスは尻餅を付いた。腰が抜けたのだ。
男が倒れ、視界が開けた先には、一人の少女が、血に塗れて佇んでいた。
『ユリウス、だいじょうぶ?』
歩み寄り、自分を安心させるよう微笑みながら手を差し出して来たのは、よく見知った少女だった。
その少女、フィオナは返り血で真っ赤に染まり、いつものとぼけた様子とは打って非なるその姿に、ユリウスは身震いした。恐怖と、安堵と、自分に対する情けなさ不甲斐なさに、ユリウスは彼女の手を掴むことができなかった。
何が強くなりたいだ。また自分は、何もできなかったじゃないか。非力で、無力で、回復しかできない弱い子供のままだ。
対してフィオナは、風魔法を用いて的確に相手を仕留め、本来ならば躊躇するであろう人間に対する攻撃も、友人のためであればできてしまった。悔しいことに、友人は生まれもっての戦人であった。
引き続き自分へ向かって、笑顔で手を差し伸べているフィオナ。
自尊心を大きく傷付けられたユリウスは、フィオナの手を思わず払い除けた。
それ以降、人が変わったように回復魔術にのみ打ち込むようになったユリウスは、高成績を残して訓練学校を卒業し、第二師団へ入団した。その後も出世を続け、齢25にして三部隊部あるうちの一部隊の隊長を務めるまでにもなった。フィオナは第一師団の副部隊長のため、位としては自分の方が上になってしまった。
それでも未だ胸のしこりは取れないまま。
あれからフィオナともぎくしゃくするようになり、ユリウスは今もフィオナに冷たく当たり続けている。
生来きつめの性格であった彼の歯に着せぬ物言いは、フィオナも勘に触るようで、あちらも言い返してくるうちに喧嘩ばかりの関係になってしまった。
あれから10年ほど経過するが、今更彼女とどうやって普通に接していたのかも分からない。昔のように戻りたいとも、然程思ってはいなかった。
だけど、
ユリウスは、視線を落とす。
診察台に蹲るフィオナは、こちらに臀部を突き上げ、涎を垂らしながら気絶している。
その目元は手巾で目隠しをしており、涙を流しているのか少し濡れていた。こちらに丸見えになっている尻の穴は、大きく弛緩しており、はくはくと震えるそこからは、ごぷっ…ぶぽっ…と、白濁の粘液が溢れ返っていた。
そして自身に視線を落とすと、未だに主張をしたままの屹立した分身の切先から、同じように白濁を漏らし、フィオナの菊紋と糸になって繋がっている。
またフィオナが懲りずに、魔物による攻撃の治療をしてほしいと訪れた。
あんなことをされた上で、よくもまた自分の元を訪れられるなと、一周回って驚いたが、避けられていないことに安堵している自分もまたいた。
しかも今度は尻の様子がおかしいとほざいている。
勘弁してくれ。
とはいえ、命の危険もあるこの状況、ユリウスは再び熱くなりそうな股間を必死に鎮静化させながら、施術にあたった。フィオナに取り付いていたのは、パラサイトヴァイン。放っておくと、孵化と同時に腹を内側から食い破り兼ねない恐ろしい魔物だ。
フィオナの痴態に堪えながら、なんとか卵を摘出したが、まだ腸内の消毒が残っていた。資料によると、パラサイトヴァインの成長していない卵は、精液の成分により中和されると、記載されていたのだ。
そんなふざけたことあるかと思うが、背に腹は変えられない。
他の男に頼もうかという考えは、全く浮かんでこなかった。
自分が出したものを注入することで解決することもできただろうが、ユリウスの頭の片隅に芽生えた仄暗い感情はその考えを押しやり、代わりに終始主張してやまない己の怒張が、はち切れんばかりにズボンの布地を押し上げていた。
『へ? なんで目隠し……』
『消毒液の成分は、言外できないんだよ。フィオナにも見せることはできない』
『あ、っ…ゆ、ゆりう、すッ…! なんかこの注射…! 太すぎない!? …それにあつ、い…っ…ぁあっ…おしり、さけちゃ、ぅっ…!』
『……っ……ん。そう、なんだ。……ッ…がまんして』
『あっ、あっ、ん、!…ひっ、ぁあっ、やぁっ! こんな、ちゅうしゃ、動かすひつよう、っ、あるぅッ!?』
『んっ、…うん、……ッ…しっかりと、…塗り込まないと、ね』
『あ、あぁんっ、……ま、まって! …またっイッちゃ…! ちゅうしゃでイッちゃう! ~~~~ンンンッ!』
『……くッ……!』
フィオナの目隠しの手巾を取ると、快感のあまり流れた涙が、目元から滲んでいた。
それを指の背で拭うと、ユリウスはフィオナの頬に唇を落とした。
ユリウスは、フィオナのことが嫌いだった。彼女の才能が、出自が、強い騎士たる意志が、憎らしく、妬ましく、思っている。
けれどそれと同じくらい、いやそれ以上に、フィオナ自身のことを愛おしく、大切に思っていた。彼女のくしゃっと笑う笑顔も、負けず嫌いでよく流す涙も、ユリウスを呼ぶ愛らしい声も、エメラルドグリーンの澄んだ瞳も、全てが欲しくてたまらなかった。
完全に一線を越えることは未だ叶っていないが、ユリウスは自身の雄に塗れたフィオナの姿を再び見下ろし、満足げに微笑むのだった。
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「そうだ‼ リードが帰ってきたら、私がリードのお願い、一つだけなんでも叶えてあげる‼」
そんなとっさにステラから飛び出た約束を胸に、リードは村を旅立つ。
それから半年、毎日リードの無事を祈り続けるステラのもとに、リードの史上最速での魔王城攻略の知らせが届く。
勇者一行はこれからたくさんの祝勝パーティに参加した後、故郷に凱旋するというが、それと同時に、パーティメンバーである聖女と女剣士、そして女魔術師の話も耳にすることになる。
戦いの昂りを鎮める役割も担うという三人は、戦いの後全員が重婚の認められた勇者の嫁になるということを知ったステラは思いを諦めようとするが、突然現れたリードは彼女に『ステラの身体《約束のお願い》』を迫って来て──?
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