6 / 10
6
藍色の前髪から覗く蜂蜜色の瞳が動くたび、月明かりが反射してきらりと煌めく。私を組み敷くユリウスは無表情であるものの、その頬は確かに紅く灯っていて。酔っ払って正気じゃないことは分かる。
とにかく何やら良からぬ雰囲気なので、ユリウスの腕から抜けようと力を入れるも、びくともしない。彼の私の手首を握る手が、振り解けないのだ。
う、嘘でしょ。私、ユリウスに武術で負けたことなんてなかったのに……。いやそれも学生時代の話ではあるけど、でも、自分の戦闘技術の腕はなかなかのものであると、自負しているつもりだった。
あまりのショックに、頭の中が真っ白になる。
そうこうしている間に、ユリウスが私の首元に顔を埋めて来た。な、なになになに!?
「ちょ、ちょっと、ユリウス……! ぁっ!」
首筋に生温かく、柔らかいものが突然触れたものだから、驚いて声が出てしまった。
それがユリウスの唇であることは想像に容易く、恥ずかしくて顔が熱くなった。
「ちょっ、……ぁあんっ、」
止める間も無く、ぬろりと、首筋を湿った柔らかいものが這い上がる。ユリウスはそのまま舌を私の耳の裏へ這わせると、ぴちゃちゅぷと耳介を舌先でなぞり始めた。
ひ、ひぇええ。完全にスイッチ入ってる。やらしいことするスイッチが入っちゃってる! 酔っ払って相手を間違えてるとか……? いや、兎に角、理由がどうあれ、今ユリウスにされているのは治療でもなんでもない。性的な行為を目的とする行動だ。是が非でも彼を止めねばならない。
彼と本当にそういう関係にでもなったりしたら、今度こそ顔を合わせられなくなる。
そんなことを脳内で猛スピードで思考しても、彼に与えられる快感は確かに拾ってしまっていて。こそばゆくも甘い感覚に、私はびくびくと肩を跳ねさせた。
だめだ、しっかりしろ。快楽に流されるな、私。女を見せろ、第一師団第二部隊副隊長フィオナ!
「ゆ、ユリウス……! ……っ、いい加減に…、……目をッ……覚ませーーーーっ!!」
ドゴッ
「ぐはッ!?」
ユリウスの横腹に膝を勢い良く入れると、彼の苦悶に満ちた声が響いた。と同時に、手首を掴む手の力が緩んだので、その一瞬の好機を見逃さず、私は彼の体の下から素早く這い出た。
ユリウスを振り返ると、くぐもった呻き声を上げながら、脇腹を押さえてその場へ倒れ伏している。しまった。力を入れすぎたか……?
「ユリウス、ごめ……生きてる?」
軽く肩を揺すると、彼はうっすらと瞼を開けてこちらを仰ぎ見た。ちょっと涙目だ。
「……おま、……加減ってもんがあるだろ……」
「ごめんって。でも元はと言えば、あんたが変なことするから……」
「あー……、うん。それは、ごめん。今ので大分酔いは覚めたから」
脇腹をさすりながら、ユリウスは上体を起こした。まだ頬はほんのり赤いが、先ほどより目の焦点も合っている。
早鐘を打つ心臓の音が、まだ煩い程に響いている。
よかった、危うくユリウスと男女の関係になるところだった……。
これまで見たことのなかった、ユリウスのそ・う・言・う・時・の・雰囲気を目の当たりにして、動揺している自分に驚いた。
ユリウスの掴む手が振り解けず、絶望していたというのに。あんな風に色香を孕んだ潤んだ瞳でこちらを見下ろし、私をベッドに押し付け、熱い吐息が耳に掛かってーー少なからず、胸が高鳴ってしまった自分もいた。
彼の力に敵わず、愛撫に屈しかけた屈辱と、ユリウスの男の部分に高揚してしまった自分。それらがない混ぜになって、頭の中がめちゃくちゃだ。
「フィオナ」
「へ?」
突然名を呼ばれ、驚いて顔を上げる。
「悪かったね。気持ち悪い思いさせて」
「え、そんなこと…………」
全くもってないのだが。驚きはしたけれども。
見慣れない殊勝な態度を取られ、こちらの声が上擦ってしまう。
オタつきながらユリウスの様子を伺っていると、彼は己の片手を見つめ、グーパー手を開いたり閉じたりしている。次いで何故か私の手元を見やると、ガシガシと己の髪を掻き混ぜた。なんなんだ。
「……いやー、しっかし危ないところだったよ。お前に手を出すなんて、25年の人生において最大の汚点すぎる」
「んな……! それはこっちの台詞だよ! あー、誰もが羨む私の魅惑の体を良いようにされなくてよかった。本当によかった!」
「まな板が何言ってんの。ついでに毛深い癖に」
「なっなっ……! うるさいばか! 毛のことは言うんじゃないよおばか! そっちだって雪みたいに真っ白でヒョロヒョロの癖に……!」
「見たことない癖によく言うよ」
「うぐっ」
大人しく謝罪の意を述べてきたと思ったらこれだ。すっかり酔いは覚めたらしい。
ほっとしたような、それはそれで腹が立つような。
私は小さく息を吐くと、部屋の入口の方へ向かった。
「それだけ口が回るようならもう大丈夫だね。私もう部屋に戻るから」
「あ、フィオナ」
「なに」
「…………」
ベッドの上のユリウスを見やると、彼は頭をポリポリ掻いて視線を逸らした。
「……今夜はたまたま調子が悪かっただけだから。……疲れていなかったら、俺はお前より強い」
「ああ、はいはいわかったわかった。お酒の話ね。体壊すからほどほどにするんだよ」
呼び止めてまで言うことか。
私は適当に返事をすると、彼の部屋を後にした。
手首に残ったユリウスの手の感触は、未だに消えていない。
* * *
騎士団内の昇格試験は、これまでの実績含めて、団長との面談と、自身の所属する隊の隊長との実技試験の結果で決まる。
実績については申し分無い自信がある。魔物の討伐数、犯罪者の検挙数、内戦の平定への貢献度、かなり尽力してきたつもりだ。
面談は、まぁ、事前に練習をすれば大丈夫だろう。
問題は、実技試験だ。あのギリアム隊長とどう渡り合うか……。彼を負かせる必要は無い。というか、勝てる筈がないし。どれだけ有効な攻撃を彼に仕掛けられるか、身のこなし、攻撃力、判断力等の本人の戦闘スキルをどれだけ披露できるかが肝なのだ。
まあ、そんなことを考えたとて、今は既に試験本番。目の前に筋骨隆々、戦る気満々のギリアム隊長がお控えなすっているので、あとは己の力と訓練した日々を信じて挑むしか無い。
私は剣を握り直すと、試験官である騎士の号令に合わせて地を蹴った。
* * *
「落ちたんだって? 昇格試験」
「ぐっ」
廊下でユリウスとすれ違い、何か言われるんじゃ無いかと身構えていると、やはり言われた。
馬鹿正直に振り返ると、蜂蜜色の瞳と視線が交わる。
畜生、畜生、既に第二師団にも話は行き渡っているのか。結果が出たのは今朝だというのに、早すぎやしないか。
「試験前に俺に役職が追い付くから待ってろと息巻いていたのに、滑稽だな」
「う、うるさいな。……凹んでるんだから、傷口に塩塗らないでくれる」
「何故落ちたのか内省はしたのか?」
「わかんないよ、そんなの。自信はあったし、隊長にも、得意の速攻からの不意打ちを喰らわせることができたし……」
そうだ。隊長との実技試験は、特段問題が無かったように思えた。なのに、どうして不合格の判定をされたのだろう。
「これは俺の推測に過ぎないけど……お前、昔っから無鉄砲なんだよ」
「え?」
「素早さや攻撃魔法、接近戦の技術は申し分ないと思う。けど、お前はその分我が強すぎる。周囲を見ることなく動くその短絡さや、自己犠牲を厭わずに先陣を切るところ、そういった自信過剰さも、隊長には不向きだ」
「なっ……!」
ユリウスの言葉に、顔が熱くなるのを感じる。
それは彼の態度があまりにも不躾だったからなのか、彼の言葉が図星だったからなのか、おそらく両方だろう。
誰よりも強く、誰よりも速く、相手を仕留め、戦功を立てる。そのためだけに突っ走ってきた。
そりゃ、周囲との連携も必要かもしれないけれど、自分さえ強ければ別に問題は無いじゃないか。先陣を切る隊長がいたって、いいじゃないか。
そうユリウスに返そうとしたが、上手く言葉を紡ぐことができない。ユリウスに言論で挑もうと思っても、こと今回の件については特に、弁舌が立つ彼に勝機を見出せなかった。私は唇を噛み締める。
「そもそも、なんでお前、そこまでして武功を挙げたいわけ?」
「! それは……」
本当の理由を話すべきか。いや、そんなことを話しても呆れられるだけだろう。
「……少しでも早くギリアム隊長に追い付きたいから……だよ」
「……へえ」
ユリウスが不機嫌そうに眉を顰めた。
なんだ、嘘は言っていない。し、正当な理由だ。そんな顔をされる筋合いはない。
突然ユリウスに手首を掴まれ、廊下の壁に背中ごと押し付けられた。
「な、なに」
「こんな細い腕で、あのゴリラ隊長に近付けるとでも?」
「そ、それは、隊長より私の方がスピードで優ってるし、それにーー」
「俺の手も振り解けないのに?」
キュッと、胃が縮み上がるのを感じる。
ユリウスも覚えていた。あの夜のことを。
ユリウスを見上げると、彼は至極落ち着いた表情で私を見下ろしている。
彼の腕を振り払おうとするけど、やはりそれは叶わず。私の手首を掴む手の力は強く、私の手よりも一回り以上大きい。
いつから、こんなに差が付いてしまったのだろう。
ユリウスよりも私の方が戦闘能力は高くて、だから、第一師団でもこの地位に就けた。それで、これからも私は出世していって誰からも、家の者からも認められる立派な騎士になるのだ。ならなければならない、のに、第二師団のユリウスにも敵わないほど、私は弱くなっていたのか。
胃の奥が、みるみる冷えて行く。
「フィオナ?」
「っ……離して!」
ドゴッ
「うぐっ!?」
ユリウスの腹を空いた片手で目一杯殴ると、漸く手の力が緩み、拘束から解放された。すかさず壁際から離れ、己の腹部を両手で押さえるユリウスに対峙する。
「お前、……相変わらず手加減ってものを……」
「うるさい! ちょっと私より体が大きくなったからって調子に乗って……意地悪言うユリウスなんて嫌いだ! バカ! 陰気野郎! もう話し掛けてこないで!」
幼子もかくやな語彙力ゼロの捨て台詞を吐くと、私はその場を走り去った。
本当は嫌いなんかじゃないけど、何故彼があんなに私を嫌って、嫌味を言って来るのか分からない。それに、騎士としてのあり方を問われるのは、我慢ならなかった。
『フィオナは、回復魔術の素養は無いようだね。残念だ』
幼い頃に受けた、私を見つめる失望の意の込もった眼差しが忘れられない。
私は、第一師団で地位を築かないと、騎士として立派にやっていけていると、認めさせねばならないのだ。
とにかく何やら良からぬ雰囲気なので、ユリウスの腕から抜けようと力を入れるも、びくともしない。彼の私の手首を握る手が、振り解けないのだ。
う、嘘でしょ。私、ユリウスに武術で負けたことなんてなかったのに……。いやそれも学生時代の話ではあるけど、でも、自分の戦闘技術の腕はなかなかのものであると、自負しているつもりだった。
あまりのショックに、頭の中が真っ白になる。
そうこうしている間に、ユリウスが私の首元に顔を埋めて来た。な、なになになに!?
「ちょ、ちょっと、ユリウス……! ぁっ!」
首筋に生温かく、柔らかいものが突然触れたものだから、驚いて声が出てしまった。
それがユリウスの唇であることは想像に容易く、恥ずかしくて顔が熱くなった。
「ちょっ、……ぁあんっ、」
止める間も無く、ぬろりと、首筋を湿った柔らかいものが這い上がる。ユリウスはそのまま舌を私の耳の裏へ這わせると、ぴちゃちゅぷと耳介を舌先でなぞり始めた。
ひ、ひぇええ。完全にスイッチ入ってる。やらしいことするスイッチが入っちゃってる! 酔っ払って相手を間違えてるとか……? いや、兎に角、理由がどうあれ、今ユリウスにされているのは治療でもなんでもない。性的な行為を目的とする行動だ。是が非でも彼を止めねばならない。
彼と本当にそういう関係にでもなったりしたら、今度こそ顔を合わせられなくなる。
そんなことを脳内で猛スピードで思考しても、彼に与えられる快感は確かに拾ってしまっていて。こそばゆくも甘い感覚に、私はびくびくと肩を跳ねさせた。
だめだ、しっかりしろ。快楽に流されるな、私。女を見せろ、第一師団第二部隊副隊長フィオナ!
「ゆ、ユリウス……! ……っ、いい加減に…、……目をッ……覚ませーーーーっ!!」
ドゴッ
「ぐはッ!?」
ユリウスの横腹に膝を勢い良く入れると、彼の苦悶に満ちた声が響いた。と同時に、手首を掴む手の力が緩んだので、その一瞬の好機を見逃さず、私は彼の体の下から素早く這い出た。
ユリウスを振り返ると、くぐもった呻き声を上げながら、脇腹を押さえてその場へ倒れ伏している。しまった。力を入れすぎたか……?
「ユリウス、ごめ……生きてる?」
軽く肩を揺すると、彼はうっすらと瞼を開けてこちらを仰ぎ見た。ちょっと涙目だ。
「……おま、……加減ってもんがあるだろ……」
「ごめんって。でも元はと言えば、あんたが変なことするから……」
「あー……、うん。それは、ごめん。今ので大分酔いは覚めたから」
脇腹をさすりながら、ユリウスは上体を起こした。まだ頬はほんのり赤いが、先ほどより目の焦点も合っている。
早鐘を打つ心臓の音が、まだ煩い程に響いている。
よかった、危うくユリウスと男女の関係になるところだった……。
これまで見たことのなかった、ユリウスのそ・う・言・う・時・の・雰囲気を目の当たりにして、動揺している自分に驚いた。
ユリウスの掴む手が振り解けず、絶望していたというのに。あんな風に色香を孕んだ潤んだ瞳でこちらを見下ろし、私をベッドに押し付け、熱い吐息が耳に掛かってーー少なからず、胸が高鳴ってしまった自分もいた。
彼の力に敵わず、愛撫に屈しかけた屈辱と、ユリウスの男の部分に高揚してしまった自分。それらがない混ぜになって、頭の中がめちゃくちゃだ。
「フィオナ」
「へ?」
突然名を呼ばれ、驚いて顔を上げる。
「悪かったね。気持ち悪い思いさせて」
「え、そんなこと…………」
全くもってないのだが。驚きはしたけれども。
見慣れない殊勝な態度を取られ、こちらの声が上擦ってしまう。
オタつきながらユリウスの様子を伺っていると、彼は己の片手を見つめ、グーパー手を開いたり閉じたりしている。次いで何故か私の手元を見やると、ガシガシと己の髪を掻き混ぜた。なんなんだ。
「……いやー、しっかし危ないところだったよ。お前に手を出すなんて、25年の人生において最大の汚点すぎる」
「んな……! それはこっちの台詞だよ! あー、誰もが羨む私の魅惑の体を良いようにされなくてよかった。本当によかった!」
「まな板が何言ってんの。ついでに毛深い癖に」
「なっなっ……! うるさいばか! 毛のことは言うんじゃないよおばか! そっちだって雪みたいに真っ白でヒョロヒョロの癖に……!」
「見たことない癖によく言うよ」
「うぐっ」
大人しく謝罪の意を述べてきたと思ったらこれだ。すっかり酔いは覚めたらしい。
ほっとしたような、それはそれで腹が立つような。
私は小さく息を吐くと、部屋の入口の方へ向かった。
「それだけ口が回るようならもう大丈夫だね。私もう部屋に戻るから」
「あ、フィオナ」
「なに」
「…………」
ベッドの上のユリウスを見やると、彼は頭をポリポリ掻いて視線を逸らした。
「……今夜はたまたま調子が悪かっただけだから。……疲れていなかったら、俺はお前より強い」
「ああ、はいはいわかったわかった。お酒の話ね。体壊すからほどほどにするんだよ」
呼び止めてまで言うことか。
私は適当に返事をすると、彼の部屋を後にした。
手首に残ったユリウスの手の感触は、未だに消えていない。
* * *
騎士団内の昇格試験は、これまでの実績含めて、団長との面談と、自身の所属する隊の隊長との実技試験の結果で決まる。
実績については申し分無い自信がある。魔物の討伐数、犯罪者の検挙数、内戦の平定への貢献度、かなり尽力してきたつもりだ。
面談は、まぁ、事前に練習をすれば大丈夫だろう。
問題は、実技試験だ。あのギリアム隊長とどう渡り合うか……。彼を負かせる必要は無い。というか、勝てる筈がないし。どれだけ有効な攻撃を彼に仕掛けられるか、身のこなし、攻撃力、判断力等の本人の戦闘スキルをどれだけ披露できるかが肝なのだ。
まあ、そんなことを考えたとて、今は既に試験本番。目の前に筋骨隆々、戦る気満々のギリアム隊長がお控えなすっているので、あとは己の力と訓練した日々を信じて挑むしか無い。
私は剣を握り直すと、試験官である騎士の号令に合わせて地を蹴った。
* * *
「落ちたんだって? 昇格試験」
「ぐっ」
廊下でユリウスとすれ違い、何か言われるんじゃ無いかと身構えていると、やはり言われた。
馬鹿正直に振り返ると、蜂蜜色の瞳と視線が交わる。
畜生、畜生、既に第二師団にも話は行き渡っているのか。結果が出たのは今朝だというのに、早すぎやしないか。
「試験前に俺に役職が追い付くから待ってろと息巻いていたのに、滑稽だな」
「う、うるさいな。……凹んでるんだから、傷口に塩塗らないでくれる」
「何故落ちたのか内省はしたのか?」
「わかんないよ、そんなの。自信はあったし、隊長にも、得意の速攻からの不意打ちを喰らわせることができたし……」
そうだ。隊長との実技試験は、特段問題が無かったように思えた。なのに、どうして不合格の判定をされたのだろう。
「これは俺の推測に過ぎないけど……お前、昔っから無鉄砲なんだよ」
「え?」
「素早さや攻撃魔法、接近戦の技術は申し分ないと思う。けど、お前はその分我が強すぎる。周囲を見ることなく動くその短絡さや、自己犠牲を厭わずに先陣を切るところ、そういった自信過剰さも、隊長には不向きだ」
「なっ……!」
ユリウスの言葉に、顔が熱くなるのを感じる。
それは彼の態度があまりにも不躾だったからなのか、彼の言葉が図星だったからなのか、おそらく両方だろう。
誰よりも強く、誰よりも速く、相手を仕留め、戦功を立てる。そのためだけに突っ走ってきた。
そりゃ、周囲との連携も必要かもしれないけれど、自分さえ強ければ別に問題は無いじゃないか。先陣を切る隊長がいたって、いいじゃないか。
そうユリウスに返そうとしたが、上手く言葉を紡ぐことができない。ユリウスに言論で挑もうと思っても、こと今回の件については特に、弁舌が立つ彼に勝機を見出せなかった。私は唇を噛み締める。
「そもそも、なんでお前、そこまでして武功を挙げたいわけ?」
「! それは……」
本当の理由を話すべきか。いや、そんなことを話しても呆れられるだけだろう。
「……少しでも早くギリアム隊長に追い付きたいから……だよ」
「……へえ」
ユリウスが不機嫌そうに眉を顰めた。
なんだ、嘘は言っていない。し、正当な理由だ。そんな顔をされる筋合いはない。
突然ユリウスに手首を掴まれ、廊下の壁に背中ごと押し付けられた。
「な、なに」
「こんな細い腕で、あのゴリラ隊長に近付けるとでも?」
「そ、それは、隊長より私の方がスピードで優ってるし、それにーー」
「俺の手も振り解けないのに?」
キュッと、胃が縮み上がるのを感じる。
ユリウスも覚えていた。あの夜のことを。
ユリウスを見上げると、彼は至極落ち着いた表情で私を見下ろしている。
彼の腕を振り払おうとするけど、やはりそれは叶わず。私の手首を掴む手の力は強く、私の手よりも一回り以上大きい。
いつから、こんなに差が付いてしまったのだろう。
ユリウスよりも私の方が戦闘能力は高くて、だから、第一師団でもこの地位に就けた。それで、これからも私は出世していって誰からも、家の者からも認められる立派な騎士になるのだ。ならなければならない、のに、第二師団のユリウスにも敵わないほど、私は弱くなっていたのか。
胃の奥が、みるみる冷えて行く。
「フィオナ?」
「っ……離して!」
ドゴッ
「うぐっ!?」
ユリウスの腹を空いた片手で目一杯殴ると、漸く手の力が緩み、拘束から解放された。すかさず壁際から離れ、己の腹部を両手で押さえるユリウスに対峙する。
「お前、……相変わらず手加減ってものを……」
「うるさい! ちょっと私より体が大きくなったからって調子に乗って……意地悪言うユリウスなんて嫌いだ! バカ! 陰気野郎! もう話し掛けてこないで!」
幼子もかくやな語彙力ゼロの捨て台詞を吐くと、私はその場を走り去った。
本当は嫌いなんかじゃないけど、何故彼があんなに私を嫌って、嫌味を言って来るのか分からない。それに、騎士としてのあり方を問われるのは、我慢ならなかった。
『フィオナは、回復魔術の素養は無いようだね。残念だ』
幼い頃に受けた、私を見つめる失望の意の込もった眼差しが忘れられない。
私は、第一師団で地位を築かないと、騎士として立派にやっていけていると、認めさせねばならないのだ。
あなたにおすすめの小説
巨乳のメイドは庭師に夢中
さねうずる
恋愛
ピンクブロンドの派手な髪と大きすぎる胸であらぬ誤解を受けることの多いピンクマリリン。メイドとして真面目に働いているつもりなのにいつもクビになってしまう。初恋もまだだった彼女がやっとの思いで雇ってもらえたお屋敷にいたのは、大きくて無口な庭師のエバンスさん。彼のことが気になる彼女は、、、、
【短編完結】元聖女は聖騎士の執着から逃げられない 聖女を辞めた夜、幼馴染の聖騎士に初めてを奪われました
えびのおすし
恋愛
瘴気を祓う任務を終え、聖女の務めから解放されたミヤ。
同じく役目を終えた聖女たちと最後の女子会を開くことに。
聖女セレフィーナが王子との婚約を決めたと知り、彼女たちはお互いの新たな門出を祝い合う。
ミヤには、ずっと心に秘めていた想いがあった。
相手は、幼馴染であり専属聖騎士だったカイル。
けれど、その気持ちを告げるつもりはなかった。
女子会を終え、自室へ戻ったミヤを待っていたのはカイルだった。
いつも通り無邪気に振る舞うミヤに、彼は思いがけない熱を向けてくる。
――きっとこれが、カイルと過ごす最後の夜になる。
彼の真意が分からないまま、ミヤはカイルを受け入れた。
元聖女と幼馴染聖騎士の、鈍感すれ違いラブ。
拾ってないのに、最上位が毎日“帰る”んですがーー飼い主じゃありません!ただの受付係です!
星乃和花
恋愛
王都ギルド受付係リナは、今日も平和に働く予定だった。
……のに。
「お腹すいた」
そう言って現れたのは、最上位の英雄レオン。
強いのに生活力ゼロ、距離感ゼロ、甘え方だけは一流。
手当てすれば「危ない」と囲い込み、
看病すれば抱きしめて離さず、
ついには――
「君が、俺の帰る場所」
拾ってない。飼ってない。
ただ世話を焼いただけなのに、英雄が毎日“帰ってくる”ようになりました。
無自覚世話焼き受付嬢 × 甘えた天然英雄の
距離感バグ甘々ラブコメ、開幕!
⭐︎火木土21:20更新ー本編8話+後日談9話⭐︎
幼馴染の勇者に「魔王を倒して帰ってきたら何でもしてあげる」と言った結果
景華
恋愛
平和な村で毎日を過ごす村娘ステラ。
ある日ステラの長年の想い人である幼馴染であるリードが勇者として選ばれ、聖女、女剣士、女魔術師と共に魔王討伐に向かうことになる。
「俺……ステラと離れたくない」
そんなリードに、ステラは思わずこう告げる。
「そうだ‼ リードが帰ってきたら、私がリードのお願い、一つだけなんでも叶えてあげる‼」
そんなとっさにステラから飛び出た約束を胸に、リードは村を旅立つ。
それから半年、毎日リードの無事を祈り続けるステラのもとに、リードの史上最速での魔王城攻略の知らせが届く。
勇者一行はこれからたくさんの祝勝パーティに参加した後、故郷に凱旋するというが、それと同時に、パーティメンバーである聖女と女剣士、そして女魔術師の話も耳にすることになる。
戦いの昂りを鎮める役割も担うという三人は、戦いの後全員が重婚の認められた勇者の嫁になるということを知ったステラは思いを諦めようとするが、突然現れたリードは彼女に『ステラの身体《約束のお願い》』を迫って来て──?
誰がどう見ても両片思いな二人がお願いをきっかけに結ばれるまで──。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
田舎の幼馴染に囲い込まれた
兎角
恋愛
25.10/21 殴り書きの続き更新
都会に飛び出した田舎娘が渋々帰郷した田舎のムチムチ幼馴染に囲い込まれてズブズブになる予定 ※殴り書きなので改行などない状態です…そのうち直します。