転移した世界で魔王を倒せって言われたから、あずきのアイスで無双します。

春似光

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 ――不味まずった。
 さっきから戦っていて分かる限りではサルの魔力も結構強力で、それが籠められた投石は、荷台の幌を容易に打ち破ってしまうだろう。尤も『強力』と言うのは絶対的な基準で言った場合であって、俺達と比較してしまうとそれ程でも無いし、だからこそ一撃の下に倒せているのだけど。
 サルの群れに突っ込んだ際に馬車から離れてしまっているので、今からあの石が幌を貫通する迄の間に魔力を籠めてカバーする事は出来ない。
 七妃も一生懸命考えているのか動きが止まっているし、懸命に向かっている黒風でも、離れ過ぎていて間に合いそうに無い。
 ――ならば、やってみるしかない。
「頼む、あずきボー!」
 あずきボーを1本出し、馬車に向かって投げた。手元から伸びる、魔力の糸、若しくは棒。
 ガキィン!
 大きな音を立てて、あずきボーはサルが投げた石を弾いた。
 風の力で後押しして貰い、どうにか間に合わせる事が出来た。
善哉ぜんざい凄い、お手柄っ!」
「……ああ、サンキュ」
 七妃の歓声に、安堵の息を吐きながら答える。穴でも開いてしまった日には、修理や急な雨等で旅に支障が出兼ねなかったからな。それに勢いで横転して車輪が破損でもしてしまっていたら、修理の為にこれを運ばなくてはいけなくなっていた。
(風も、ありがとな。助かったよ)
『どういたしまして!』
「あ、またおサルちゃんっ!」
 七妃の声にサルの方を見ると、大きく振り被って2投目を馬車に投げる処だった。残りの2匹のサルは、黒風に追い掛けられている最中だ。
「そうは行くかっ」
 手元から伸びる魔力を手繰って幌に投げたあずきボーの位置を調整し、石の進路を遮る。
 果たして、サルの渾身の2発目の石も、馬車に当たる事は無く地面に落ちた。
「うわぉ」
 七妃が楽しそうに声を上げた。最高の賛辞だ。
 3つ目、4つ目、5つ目と。
 サルはムキになったのか足元の石を手当たり次第に投げ始めたが、同様にあずきボーを動かして弾き落す。慣れて来ると、そこまで意識せずに操れる様になって来た。経験値役、有り難う。
 ……ああ、仕舞った。当たる筈の無い大暴騰迄迎えに行って叩き落してしまったか。
「えいっ!」
 サルが足元の石を粗方投げ終わった頃、じりじりとその背後ににじり寄っていた七妃がフライパンを振り下ろした。
 くらくらと体を揺らしたサルは、その内にパタッと倒れてその姿を消した。
「でかした、七妃!」
「へへっ、善哉ぜんざいのお陰だよっ!」
 七妃の笑顔と、Vサイン。
 やれやれ、これじゃどっちがサポート役か分からないな。
「あ、黒風ちゃんはっ?」
「ヒヒーン、ブルブルブル」
 七妃に応える様に、ご機嫌な声と共に黒風は戻って来た。この様子なら、無事に二匹とも倒せたみたいだな。
「黒風ちゃん、偉い偉い。疲れたところ悪いんだけど、またよろしくね」
 身体を撫でながら笑い掛けた七妃に頷いて、馬車の許に戻った黒風。
「ああ、ちょっと待って」
 馬車に黒風を繋ごうとした七妃を止め、俺は一旦荷台に入った。
「どしたん、善哉ぜんざい?」
「外したついでに、ブラッシングしてやろうと思ってな」
 荷台から取り出したのは、馬車を買った時に揃えておいた、馬用のブラシ。
「あ、そだねっ。でも水は?」
「水は、風から……」
『お安い御用だよ!』
 バッシャァン。
「ブルルルル……」
 風が俺の呼び掛けに応えた次の瞬間、黒風の頭上から大量の水が降り注いだ。低く唸りながら、びしょ濡れになった顔をこっちに向ける黒風。
「悪い、加減が分からなくてさ」
 頼むからそんな目で見ないで欲しい。威圧感が凄い。
「あははは、ごめんね、黒風ちゃん。善哉ぜんざいはぶきっちょだからね。よーし、あーしもっ! 風ちゃん、お願いっ!」
 笑いながら黒風の背中に翳された七妃の手許から程良い量の水が、黒風の身体を程良く濡らす。
善哉ぜんざい、ブラシ貸してっ!」
「あ、ああ」
 言われた通りにブラシを渡すと、七妃は楽しそうに鼻唄を口遊みながら黒風をブラッシングし出した。
 黒風も、気持ち良さそうにそれに身を委ねている。
 風の力を使って、手の平に水を溜めてみる。
『僕の力の使い方に関しては、七妃ちゃんの方が上手みたいだね』
(……反論出来ん)
 風と話していると、七妃の鼻唄が止まった。どうやら、ブラッシングを終えたらしい。
(なあ、黒風の身体を乾かせるか?)
『勿論だよ。どれ位の強さが良い? イメージしてみて』
(ああ)
 風に言われ、強過ぎず弱過ぎず、ドライヤーの様に乾かす程良い強さの風が黒風の身体を吹き抜ける処を思い描く。
『うん、分かったよ』
 次の瞬間黒風の身体を包む様に吹き始めた風が七妃の髪も揺らし、七妃は髪の毛を描き上げながら、擽ったそうに笑った。

 黒風を馬車に繋ぎ直し、今度は俺が御者台で手綱を握って、先を急がせる。
「ねっ、善哉ぜんざい、さっきのあずきボーのやつ、いつ考えてたの?」
 隣に座る七妃が訊ねて来た。
 順番に休む約束だったし『荷台で寝ていろ』と言ったのだけど、こっちの方が落ち着くと言い張って譲らなかったのだから仕方無い。
「さっきのって、パンチの方? 馬車を護った方?」
「まもった方っ!」
「ああ、アレは考えてたって云う意味では、ボンヤリと身体をうまく護れないかなって考えてた位だったんだけどさ。身体から話して使うあの使い方はぶっつけ本番だったけど、上手く行って良かったよ」
「へえっ、凄いねっ!」
 七妃の目が分かり易く輝いた。俺にとっては、初見で風の力を使い熟した七妃の方が凄い。あの後で風に訊いた処に拠ると、力を使って水を出した人の殆どが、最初は何らかの失敗をしているらしいし。
 因みに俺が漠然と考えていた『あずきボーで身体を護る』って云うのは、自分のでは無く七妃の。フライパンが有る事は分かったから、今後必要となるのは背中に攻撃が来た時くらいか。
「同時にもっと沢山のあずきボーを出す事が出来る様になったら、馬車ごととか覆って護れるんだけど、今はアレで対処していくしか無いかな」
「あはは、でもさ、ガッツリ固めるより、今みたいに動かしながらピンポイントで護る方が面白いしカッコ良いよっ! ……あっ、名付けて、『ピンポイントあずきボーバリア』だねっ!」
 自分で口にした『ピンポイント』と云う言葉を繰り返した七妃は、俺が見せた技の命名をした。
 そうなると、パンチの方は差し詰め『ピンポイントあずきボーバリアパンチ』か? ……何とは言わないけど、大丈夫かな。
「あーしもフライパンで、あんな事出来るのかな?」
「どうだろうな」
 魔力は人に依ってその性質が変わるのかも知れないし、同じなのかも知れない。そこは転移者の持たされるユニークスキルと云う事で、魔法の学問書には――少なくとも今の処読み終えた部分には――書かれてはいなかった。
 雰囲気的にも、その先で触れられても居なさそうだ。少なくとも、元々この世界に存在していた魔法由来の物では無い。
 これに関しては、風が言っていた様に存在する俺達以外の転移者の力を比較検討して見ない事には分からないだろう。七妃の力の現れ方が俺と違ったとしても、それは七妃が特殊なのか俺が特殊なのかを断言する事は出来ないし、少なくとも魔王を倒す迄の旅の中では明らかになる事は無いんだろう。
 ――余程、転移者が集まりでもしない限りは。ただ、これに関しても前から考えている様に、集まる事は無いんだろうな。居たとしても自分から名乗ってくれるかは分からないし、下手へたに訊く事も出来ない。
善哉ぜんざい?」
「んっ?」
 気付くと七妃の顔が目の前に有って、俺の顔を覗き込んでいた。
「なあに難しい顔してるの? 考え事?」
「そんな顔してたか?」
「うん、してたっ」
 七妃の人差し指が、俺の眉間にトンっと触れる。確かに皺が寄っているのが感じられた。
「あーしも居るんだし、考え事とかも1人で抱え込まないでねっ! ……前に、善哉ぜんざいが言ってくれた事だよっ!」
「そうだったかな」
「うんっ!」
 跳ねる様な声を上げる七妃。あの時の七妃には必要だと思ったから言ったんだけど、そんな大切な記憶にされていると、正直面映い。
「天気も良いし、あずきボーでも食べよっ!」
「ああ、そうだな」
 あずきボーを1本出して七妃に渡してから、自分の分を出した。

 晴れ渡った蒼天の下、俺達を乗せた馬車は黒風がリズミカルに奏でる蹄の音と共に、北への道を進み続ける。
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