4 / 18
第四話・クラスメイトにばったり出会う
しおりを挟む
やきそばを食べ終えたわたしは、ジョンとふたりで深川区民スポーツセンターに向かっている。今日のひまりのスケジュールは、ダンスクラブが夕方の五時までだとおかあさんに教えてもらった。今から行けば、お昼休みのあと、午後のレッスン再開に間に合う。どうせ行くなら、と、おかあさんからひまりへのお届けものとして、スポーツドリンクも持たされちゃった。運動後の水分は大事だものね。
「ほっほう」
ジョンにとっては、こちらの世界での初めての外出。わたしが帰ってくるまでの時間は、おかあさんに気付いてもらおうとして、手を振ってみたり、逆立ちしてみたりしていたらしい。無反応だからしょんぼりして、わたしの部屋に戻ってすぐにわたしが帰ってきたのだとか。
「気に入ってもらえた?」
「はい。とても便利ですね。スマホ!」
車や信号機といった機械類だけではなく、咲いているお花や緑の木にも「これは?」と聞いてくるので、わたしはジョンにスマホを貸した。アプリを起動して、名前のわからないものにピントを合わせると、画面に名前が出てくる。わたしは植物博士ではないから、聞かれても答えられない。ここでパパッと答えられたら、ちょっとはかっこつけられたんだけどなあ。
「ジョンくんのスマホをもらえたらいいんだけど……」
たぶん、無理だ。おかあさんにはジョンの姿が見えていないのに、スマホを買ってもらおうなんて。ひまりが「水泳で帰りが遅くなるから」という理由でスマホを持たせてもらえるようになったときに、わたしも「周りのみんなが使っているから」とおとうさんを説得し、このスマホを手に入れた。
「きみの名前は出てこないのですね」
ジョンはわたしにスマホのカメラを向けている。わたしは、人に撮られるのが苦手だ。タイミングが悪く、いつも目をつぶってしまう。その上、ひまりばかりが注目を浴びて、おとうさんもおかあさんもたくさんのひまりの写真を撮っている。家にわたしの写真は少ない。
「使わないのなら、返して」
「あっ」
ジョンからスマホを取り上げる。上着のポケットにしまう。
「……ジョンって、わたしからしか見えないんだよね? 今のって、周りからどう見えていたんだろう?」
しまった、と思った。スマホがぷかぷかと宙に浮かんでいるように見えたかもしれない。きょろきょろと周りを見てみる。
「「あっ」」
男の子たちがこちらを見ていた。大きめのエナメルバッグを持って、バスケットボールを持ったサルのマークの付いたおそろいの服を着ている。わたしと目が合ったのに気付いて『見ていないですよー』というふうに目をそらした。
「見られたかも」
「ぼくとしたことが……」
ジョンが頭をかかえてしゃがみこむ。わたしはジョンの肩をたたいた。
「ジョンのせいじゃないよ。わたしがうっかりしていただけ」
周りから見えないってことを知っていたのだから、わたしがスマホを持って、ジョンの気になるものを調べて、ふたりで画面を見ればよかった。時すでに遅し。
しかも、男の子たちは深川区民スポーツセンターの前に集まっている。どうしても横を通っていかないといけない。裏から入ることもできるけど、ここでわざわざ裏に回るのも変に見える。
「どうしよう?」
「ここは、気にせず行きましょう」
堂々と胸をはって、ジョンはわたしの前を進む。気にせずって言ったって、あちらは気にしていたし。けれども、おかあさんにたのまれちゃっているから、行かないわけにもいかなくて。ほら、一人来た!
「うちのクラスの、加賀美、だよな?」
話しかけられちゃった。この人は、藤森くん。わたしの小学校は奇数学年ごとにクラス替えがあるのだけど、去年からいっしょのクラスになっている男の子。
「う、うん。藤森くんは、バスケ?」
「お。名前覚えてくれているんだ」
藤森くんはへへっと笑った。一応、クラスメイトの名前は全員ぶん覚えている。去年といっしょのクラスだからね。
「オレたちは『深川モンキーズ』っていうミニバスのチームで、オレがキャプテン!」
袋に入れていたバスケットボールをわざわざ出して、藤森くんは人差し指の上でくるくるとボールを回転させ始める。すごい。わたしにはできない。ジョンも目がはなせなくなっている。
「ところで、オマエは? うちの学校にはいないよな?」
ボールの回転をやめて、藤森くんはわたしではなくジョンに話しかけた。藤森くんはわたしをクラスメイトとして知ってくれているから、ジョンに対してだ。
「えっ……」
話しかけられると思っていなかったから、ジョンがおどろいている。わたしはついつい「見えるの!?」と言いそうになって、ぐっと我慢した。見えていない人に話しかけるわけがない。
「あ、外国の人? アー、マイネームイズ、マコトフジモリ!」
ジョンが『外国の人』に見えるかな。わたしは『仮面バトラー』の人に見えたけれども。
「ぼくは、名乗るような者ではございませんが、あえて名乗るとすれば、ジョン・ドゥとしておきます。ジョンとお呼びください」
「カッコイイ!」
そうかな?
なんだか不思議な名前だなあ。
「ぼくはマリア様の執事で、まりあさんの妹さんにお飲み物をお届けに参りました」
「執事! だからカッコイイ服を着ているんですね!」
藤森くんの目がキラキラしている。カッコいい、と二回も言われて、ジョンはちょっと照れていた。
ジョンはおかあさんからは見えないけど、藤森くんからは見える。ということは、スマホで遊んでいたところを見られていたのは、わたしが知らない男の子といたから、みんな気になったのかな。
「加賀美さんの家って、執事がいるんだな!」
あっ、それは……そうじゃないけどそうというか……?
「ほっほう」
ジョンにとっては、こちらの世界での初めての外出。わたしが帰ってくるまでの時間は、おかあさんに気付いてもらおうとして、手を振ってみたり、逆立ちしてみたりしていたらしい。無反応だからしょんぼりして、わたしの部屋に戻ってすぐにわたしが帰ってきたのだとか。
「気に入ってもらえた?」
「はい。とても便利ですね。スマホ!」
車や信号機といった機械類だけではなく、咲いているお花や緑の木にも「これは?」と聞いてくるので、わたしはジョンにスマホを貸した。アプリを起動して、名前のわからないものにピントを合わせると、画面に名前が出てくる。わたしは植物博士ではないから、聞かれても答えられない。ここでパパッと答えられたら、ちょっとはかっこつけられたんだけどなあ。
「ジョンくんのスマホをもらえたらいいんだけど……」
たぶん、無理だ。おかあさんにはジョンの姿が見えていないのに、スマホを買ってもらおうなんて。ひまりが「水泳で帰りが遅くなるから」という理由でスマホを持たせてもらえるようになったときに、わたしも「周りのみんなが使っているから」とおとうさんを説得し、このスマホを手に入れた。
「きみの名前は出てこないのですね」
ジョンはわたしにスマホのカメラを向けている。わたしは、人に撮られるのが苦手だ。タイミングが悪く、いつも目をつぶってしまう。その上、ひまりばかりが注目を浴びて、おとうさんもおかあさんもたくさんのひまりの写真を撮っている。家にわたしの写真は少ない。
「使わないのなら、返して」
「あっ」
ジョンからスマホを取り上げる。上着のポケットにしまう。
「……ジョンって、わたしからしか見えないんだよね? 今のって、周りからどう見えていたんだろう?」
しまった、と思った。スマホがぷかぷかと宙に浮かんでいるように見えたかもしれない。きょろきょろと周りを見てみる。
「「あっ」」
男の子たちがこちらを見ていた。大きめのエナメルバッグを持って、バスケットボールを持ったサルのマークの付いたおそろいの服を着ている。わたしと目が合ったのに気付いて『見ていないですよー』というふうに目をそらした。
「見られたかも」
「ぼくとしたことが……」
ジョンが頭をかかえてしゃがみこむ。わたしはジョンの肩をたたいた。
「ジョンのせいじゃないよ。わたしがうっかりしていただけ」
周りから見えないってことを知っていたのだから、わたしがスマホを持って、ジョンの気になるものを調べて、ふたりで画面を見ればよかった。時すでに遅し。
しかも、男の子たちは深川区民スポーツセンターの前に集まっている。どうしても横を通っていかないといけない。裏から入ることもできるけど、ここでわざわざ裏に回るのも変に見える。
「どうしよう?」
「ここは、気にせず行きましょう」
堂々と胸をはって、ジョンはわたしの前を進む。気にせずって言ったって、あちらは気にしていたし。けれども、おかあさんにたのまれちゃっているから、行かないわけにもいかなくて。ほら、一人来た!
「うちのクラスの、加賀美、だよな?」
話しかけられちゃった。この人は、藤森くん。わたしの小学校は奇数学年ごとにクラス替えがあるのだけど、去年からいっしょのクラスになっている男の子。
「う、うん。藤森くんは、バスケ?」
「お。名前覚えてくれているんだ」
藤森くんはへへっと笑った。一応、クラスメイトの名前は全員ぶん覚えている。去年といっしょのクラスだからね。
「オレたちは『深川モンキーズ』っていうミニバスのチームで、オレがキャプテン!」
袋に入れていたバスケットボールをわざわざ出して、藤森くんは人差し指の上でくるくるとボールを回転させ始める。すごい。わたしにはできない。ジョンも目がはなせなくなっている。
「ところで、オマエは? うちの学校にはいないよな?」
ボールの回転をやめて、藤森くんはわたしではなくジョンに話しかけた。藤森くんはわたしをクラスメイトとして知ってくれているから、ジョンに対してだ。
「えっ……」
話しかけられると思っていなかったから、ジョンがおどろいている。わたしはついつい「見えるの!?」と言いそうになって、ぐっと我慢した。見えていない人に話しかけるわけがない。
「あ、外国の人? アー、マイネームイズ、マコトフジモリ!」
ジョンが『外国の人』に見えるかな。わたしは『仮面バトラー』の人に見えたけれども。
「ぼくは、名乗るような者ではございませんが、あえて名乗るとすれば、ジョン・ドゥとしておきます。ジョンとお呼びください」
「カッコイイ!」
そうかな?
なんだか不思議な名前だなあ。
「ぼくはマリア様の執事で、まりあさんの妹さんにお飲み物をお届けに参りました」
「執事! だからカッコイイ服を着ているんですね!」
藤森くんの目がキラキラしている。カッコいい、と二回も言われて、ジョンはちょっと照れていた。
ジョンはおかあさんからは見えないけど、藤森くんからは見える。ということは、スマホで遊んでいたところを見られていたのは、わたしが知らない男の子といたから、みんな気になったのかな。
「加賀美さんの家って、執事がいるんだな!」
あっ、それは……そうじゃないけどそうというか……?
20
あなたにおすすめの小説
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。
猫菜こん
児童書・童話
小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。
中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!
そう意気込んでいたのに……。
「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」
私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。
巻き込まれ体質の不憫な中学生
ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主
咲城和凜(さきしろかりん)
×
圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良
和凜以外に容赦がない
天狼絆那(てんろうきずな)
些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。
彼曰く、私に一目惚れしたらしく……?
「おい、俺の和凜に何しやがる。」
「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」
「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」
王道で溺愛、甘すぎる恋物語。
最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
あだ名が242個ある男(実はこれ実話なんですよ25)
tomoharu
児童書・童話
え?こんな話絶対ありえない!作り話でしょと思うような話からあるある話まで幅広い範囲で物語を考えました!ぜひ読んでみてください!数年後には大ヒット間違いなし!!
作品情報【伝説の物語(都道府県問題)】【伝説の話題(あだ名とコミュニケーションアプリ)】【マーライオン】【愛学両道】【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】【トモレオ突破椿】など
・【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】とは、その話はさすがに言いすぎでしょと言われているほぼ実話ストーリーです。
小さい頃から今まで主人公である【紘】はどのような体験をしたのかがわかります。ぜひよんでくださいね!
・【トモレオ突破椿】は、公務員試験合格なおかつ様々な問題を解決させる話です。
頭の悪かった人でも公務員になれることを証明させる話でもあるので、ぜひ読んでみてください!
特別記念として実話を元に作った【呪われし◯◯シリーズ】も公開します!
トランプ男と呼ばれている切札勝が、トランプゲームに例えて次々と問題を解決していく【トランプ男】シリーズも大人気!
人気者になるために、ウソばかりついて周りの人を誘導し、すべて自分のものにしようとするウソヒコをガチヒコが止める【嘘つきは、嘘治の始まり】というホラーサスペンスミステリー小説
ノースキャンプの見張り台
こいちろう
児童書・童話
時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。
進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。
赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる