前向きスタートダッシュ!

秋乃晃

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第五話・ダンスクラブの見学

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 藤森くんからダンスクラブの活動場所を教えてもらったわたしたちは、深川区民スポーツセンターの第二体育館に行く。バスケットボールのコートが二面取れる広さの体育館だ。真ん中で仕切って、右半分をバドミントン、左半分をダンスクラブが使用していた。
 ひまりは、おとなりにいるひまりのお友だちとおしゃべりしている。ちょうど休みの時間に来られたみたいだ。よかったあ。活動中に「すみません」って言いながら入っていくのは気が引ける。
 ダンスクラブにはわたしと同じクラスの神崎さんもいた。神崎さんも、ひまりと同じように、周りの女の子たちとお話ししている。わたしには気づいていないみたい。このまま気づかれないように、そーっと、ひまりに差し入れして帰ろう。元からそうするつもりだったけど、神崎さんの姿を見つけて、より決意が固くなった。
 実は、神崎さんのことはちょっと苦手なのだ。出席番号順で加賀美の後ろだから、授業の班や給食でいっしょになるのだけども、なんというか……わたしは、やりづらい。クラスで『目立つ女子』っているじゃない。神崎さんは、女子グループのリーダーみたいな人。きっと、神崎さんだって、わたしとじゃなくて別の仲良しの子がいいなあ、って思っているはずだ。
「あの子か」
 ジョンもひまりを見つけた。と同時に、ひまりもこちらに気づいたみたい。
「よく分かったねえ」
「家に写真が飾られていたからね。きみにも、よく似ている」
「そうかなあ。あんまり、言われたことないけど」
 わたしとひまり。加賀美姉妹は、正反対。ひまりは水泳をやっていた頃にはベリーショートだったけど、最近は髪を伸ばしているみたい。それでも、わたしのほうが長い。顔は、わたしはどちらかといえばおとうさんに似ていて、ひまりはおかあさんに似ているね、って言われることが多い。
「あれぇ。加賀美さんじゃん」
 ひまりではなく、神崎さんがわたしとジョンに近付いてきた。神崎さんの後ろに、先ほど神崎さんとお話ししていた女の子たちが、ふたり、くっついている。
「こっ、こんにちは」
 苦手意識からか、ついつい声がこわばってしまった。神崎さんはクラスメイトであるわたしに話しかけてくれただけなのに、わたしはジョンの服の袖をつかんだ。
「あの、どちらさまですか?」
「ん?」
「あっ、ああ、別に、その、男の子は見学不可ってわけではないんですがっ!」
 どうやら神崎さんにもジョンの姿が見えているらしい。藤森くんに続いて、二人目。いや、後ろのふたりにも見えているから、わたし含めて五人。
「ぼくは、マリア様の執事のジョンと申します」
「しつじ!」
 ジョンの自己紹介は間違っていないのだけども、言葉が足りていない。神崎さんとそのお友だちはわたしとジョンとを交互に見て『信じられない』って顔をしている。
「ちょっと、ジョンくん」
 マリア様の執事であってわたしの執事ではない、って、ジョン自身が言っていたじゃない。ここ、大事でしょう?
「まりあさんの妹さんにお届け物がありまして」
 マイペースだ。すごく、マイペース。わたしは感心してしまう。神崎さんたちの様子なんておかまいなしだ。
 わたしは、神崎さんたちがわたしに話しかけてきたのはジョン目当てだろう、と予想する。クラスで目立たない女子がかっこいい男の子を連れて歩いていたら、そりゃあ驚くだろう。声をかけてみたくなるものだ。わたしも逆の立場だったら、話しかけに行っちゃうと思う。
「えっ、ああ。……ひまりちゃーん!」
 神崎さんたちはひまりを呼びに行った。遠目で様子をうかがう。ひまりも、こちらを見て「えっ」という顔をしている。
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