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枝垂れ桜は春の訪れを告げるかの様に 桜の中でも早く咲き始める。
こんもりと盛り上がる丘の上にその木はあった。
由花はその大きな桜を見上げて「綺麗だね~」と言った。
月並みな言葉だがそれ以上の言葉など見付からない。
本当は言葉など要らないのかもしれない。
由花は飽きること無くそれを見上げる。
隣に居る仁の存在など忘れたかの様に...。
仁は由花を見つめながら、由花と出逢った時の事を思い出していた。
由花は風来の家臣の久我邸で仁が見つけた。
小さい納戸に押し込められる様に入れられていた由花は 風呂に入れてもらえず、結構な汚れ具合だった。
前回の発情期で誰かの相手をさせられた事は直ぐに解かった。鬼の世界は力社会なので力が強い者が付けた匂いは、それよりも力の弱い者は匂いが無くなるまで手が出せないからだ。
その日は愛馬の東雲が外に出たがり 仁は遠出に出たついでに久我の孔宇(こうし)の家に寄ってみた。
何の気兼ねもなく...。
東雲を外に置いて 庭の方に回ると納戸に直ぐに目がいった。
別に何処の家にもある 普通の物置が何故か気になって近付いてみた。
「仁様、直ぐに孔宇様が参りますので、どうぞお上がり下さい」
使用人が声を掛けるが、仁には聞こえなかった。
近づいて直ぐに中に人が居ると解ったから...。
「誰かいるの?」
そう声を掛ければ、返事の代わりに「コンコン」と扉を叩く音が聞こえる。
『喋れないのかもしれない...』
そう思った仁は
「危ないから伏せていてね」
そう言うとメキメキメキっと納戸の壁を剥がした。
中に居たのは女の子だった。
怯える様に見上げたその子と目が合った瞬間に『こんな所に居たのか...』と思った自分に仁は今、出逢うべくして出逢ったんだとハッキリ言える。
「孔宇を呼んで」
風来では人身売買は御法度。部屋に上がった仁は鋭い目付きで孔宇を見た。
「火炎の慎之介様からの預かり者なんです」
そう言った孔宇の言葉に嘘は無さそうに思えた。
「慎之介様が、火炎に居れば売られるか慰み者になるだけだろうと 風来で預かって貰えるように...と話があったんです。本当はもっと早くに連れてくる筈だったんですが、向こうに手違いがあったらしく...。その子の身体に付いている匂いが...部屋に置いて置く事が出来ませんでした...」
そう言って項垂れる孔宇に仁は何の咎めもしなかった。
東雲に乗せて城に帰る途中で見るもの見るものに感動している由花の、仁を見上げて笑ったその顔を今でも思い出す。
そんな事を思い出しながら由花が桜を見上げている横顔を眺めていた。
由花は何でも一生懸命な娘だ。
不器用に家事をこなし、辛くても泣き言を言わない。
多分、大事に育てられたんだろう、とても素直な性格で自分を飾らない。
味噌汁が美味しくなかったとしょぼくれて、庭に鶯が来たと喜ぶ。
そんな何気ない毎日が一生一緒に過ぎればいい。
「仁さん、私、毎年此処に来たい」
やっと自分の存在を思い出してくれたのか...と仁は笑いながら
「毎年連れて来るよ」
と言った。
発情期にになると与えられた女を1晩だけ抱いた。
どうしても気が乗らない時は東雲に乗ってブラブラとして過ごした。
仁は一生子孫を残せ無いのかもしれないと思った事もあった。
これが恋なのかは解らない。
でも仁は、心がとても穏やかで、こんな日が長く続けば良いと思っていた。
「仁さん、お饅頭食べる?」
しのが持って来てくれたんだと言いながら 由花が饅頭を差し出した。
大きい口を開けて饅頭を頬張る仕草に何故か胸が高鳴った。
枝垂れ桜を見上げると、桜が微笑んでくれてるかの様に花弁が揺れる。
そして、2人を祝福するかの様に花弁が舞い散った。
こんもりと盛り上がる丘の上にその木はあった。
由花はその大きな桜を見上げて「綺麗だね~」と言った。
月並みな言葉だがそれ以上の言葉など見付からない。
本当は言葉など要らないのかもしれない。
由花は飽きること無くそれを見上げる。
隣に居る仁の存在など忘れたかの様に...。
仁は由花を見つめながら、由花と出逢った時の事を思い出していた。
由花は風来の家臣の久我邸で仁が見つけた。
小さい納戸に押し込められる様に入れられていた由花は 風呂に入れてもらえず、結構な汚れ具合だった。
前回の発情期で誰かの相手をさせられた事は直ぐに解かった。鬼の世界は力社会なので力が強い者が付けた匂いは、それよりも力の弱い者は匂いが無くなるまで手が出せないからだ。
その日は愛馬の東雲が外に出たがり 仁は遠出に出たついでに久我の孔宇(こうし)の家に寄ってみた。
何の気兼ねもなく...。
東雲を外に置いて 庭の方に回ると納戸に直ぐに目がいった。
別に何処の家にもある 普通の物置が何故か気になって近付いてみた。
「仁様、直ぐに孔宇様が参りますので、どうぞお上がり下さい」
使用人が声を掛けるが、仁には聞こえなかった。
近づいて直ぐに中に人が居ると解ったから...。
「誰かいるの?」
そう声を掛ければ、返事の代わりに「コンコン」と扉を叩く音が聞こえる。
『喋れないのかもしれない...』
そう思った仁は
「危ないから伏せていてね」
そう言うとメキメキメキっと納戸の壁を剥がした。
中に居たのは女の子だった。
怯える様に見上げたその子と目が合った瞬間に『こんな所に居たのか...』と思った自分に仁は今、出逢うべくして出逢ったんだとハッキリ言える。
「孔宇を呼んで」
風来では人身売買は御法度。部屋に上がった仁は鋭い目付きで孔宇を見た。
「火炎の慎之介様からの預かり者なんです」
そう言った孔宇の言葉に嘘は無さそうに思えた。
「慎之介様が、火炎に居れば売られるか慰み者になるだけだろうと 風来で預かって貰えるように...と話があったんです。本当はもっと早くに連れてくる筈だったんですが、向こうに手違いがあったらしく...。その子の身体に付いている匂いが...部屋に置いて置く事が出来ませんでした...」
そう言って項垂れる孔宇に仁は何の咎めもしなかった。
東雲に乗せて城に帰る途中で見るもの見るものに感動している由花の、仁を見上げて笑ったその顔を今でも思い出す。
そんな事を思い出しながら由花が桜を見上げている横顔を眺めていた。
由花は何でも一生懸命な娘だ。
不器用に家事をこなし、辛くても泣き言を言わない。
多分、大事に育てられたんだろう、とても素直な性格で自分を飾らない。
味噌汁が美味しくなかったとしょぼくれて、庭に鶯が来たと喜ぶ。
そんな何気ない毎日が一生一緒に過ぎればいい。
「仁さん、私、毎年此処に来たい」
やっと自分の存在を思い出してくれたのか...と仁は笑いながら
「毎年連れて来るよ」
と言った。
発情期にになると与えられた女を1晩だけ抱いた。
どうしても気が乗らない時は東雲に乗ってブラブラとして過ごした。
仁は一生子孫を残せ無いのかもしれないと思った事もあった。
これが恋なのかは解らない。
でも仁は、心がとても穏やかで、こんな日が長く続けば良いと思っていた。
「仁さん、お饅頭食べる?」
しのが持って来てくれたんだと言いながら 由花が饅頭を差し出した。
大きい口を開けて饅頭を頬張る仕草に何故か胸が高鳴った。
枝垂れ桜を見上げると、桜が微笑んでくれてるかの様に花弁が揺れる。
そして、2人を祝福するかの様に花弁が舞い散った。
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