枝垂れ桜~幸せの日々~

あくび

文字の大きさ
2 / 3

2

しおりを挟む
「由!由!」
騒がしく帰ってきたのは時期頭首の仁だ。
「え?もう帰って来たの?」
由花は縁側で拭き掃除をしている所だった。雑巾を片手に小首をかがげてる。


今日は風来の街で大きな祭りがあると言うことで 何日も前から由花はそれに行くのを凄く楽しみにしていた。
昨夜は祭りの前日で由花の家にも沢山の人が集まって宴会があっていた。
ワイワイ賑わいながら、風来の一大イベントである『五穀豊穣祭り』がどれだけ楽しい物か皆で話してくれたのだった。
櫓の上で物凄く大きな太鼓を叩いたり、民衆で踊りを披露したり、催し物がとにかく沢山あるらしく、とても楽しい祭りだと仁を初め皆が身振り手振りで歌ったり踊ったりして大笑いした楽しいひと時だった。

特に仁が茶碗や箸でカチャカチャ鳴らしてる中「よいしょー、よいしょー」の掛け声に合わせて ひょうきんな踊りを踊るのを見て由花は逆にびっくりした。
『こんなに面白い人だったんだ...』
前から気が長くて、ワクワクする事やいたずらが好きな少年の様な人だとは思っていたけれど、ここまで来ると、学校で必ず1人はクラスにいるムードメーカーみたいな感じの人なんだ...と感心すらした。


今朝は祭りに行く気満々で、早くから起きて準備をしていたが、仁が1時間ほど前に 風来の西の方の村でトラブルがあったと家老の壮太郎が呼びに来た。
「行きたくない!!」
「行きたくないでは御座いません!!来て頂かないと困ります!!」
「お前達だけで対処出来るだろう」
「そんな問題じゃ御座いません!!」
家老の壮太郎はごねる仁を拉致する様な形で、引きずるよう連れて行った。
『仕事だからしょうがないよね...』
残念な気持ちは勿論あったが、仁の立場を考えると我が儘は言えないと由花は諦めて、着替えて拭き掃除を始めた所だった。

「由!早く出掛けるぞ!」
そんな仁がもう帰って来て由花を急かしている。
「え?出掛けるって大丈夫なの?」
「だいたいあのくらいの事は俺が行かなくてもなんとかなるんだ。由、祭りに行こう!」
「.....」
由花は開いた口が塞がらない。
「祭りに行きたいって言ってただろ?行こう!」
「掃除が...」
「そんなの何時だって出来るじゃないか!早く準備して!」
強引な仁に由花は大丈夫なのだろうか...と心配になる。でもお祭りも見たくて立ち上がった。
「仁様!!」
「あー!もう見つかった...」
『もう見つかったって...』由花はやっぱり...と仁を呆れて見ていた。

門から家老の壮太郎が入って来た。
「仁様、まだ具体的な事が決まっておりません」
「城の蔵から全て出せって言ったじゃないか...」
「蔵から全て出したら国庫はどうなるんですか!」
「どうもこうも...新しい作物と入れ替えれば良いじゃないか。今年は豊作なんだ。そっちからの上納があれば賄えるだろう?」
何か言ってる事が無茶苦茶過ぎる...。

「仁さん、私、お祭り行かない」
「え?由...なんで?」
「仁さんにちゃんとお仕事しましたってお墨付きが出るまで行かない」
「祭り終わっちゃうぞ」
「じゃあ一人で行く」
「なんで?由は1人でーーー」「じゃあ、待ってるから仕事をちゃんと終わらせて来て!」
「...」
「仁さんと行きたいから終わらせて来て。用意して待ってるから」
仁はなんと言って良いか解らなかった。風来の領は勿論大事だが、由花の事も大事だから。仁は暫し考えた後 壮太郎を見て
「解った...直ぐに終わらせて帰って来る」
そう言って門から出て行った。



結局仁が戻って来たのはとっぷり日が暮れた夜中近くだった。
「由...」
帰って来るなり子供の様に甘えて抱き着いて来た仁は、申し訳無さそうに眉毛を下げていた。
「仁さんおかえり。疲れたでしょ、明日も忙しいの?」
仁は黙って首を横に振る。
「明日、お祭りに連れて行ってね」
「今日行かなかったら意味無い.....」
仁が小さな声で訴える。
「意味があるのか無いのかは行かないと解らないよ?」
「.....」
「今日来て良かった~って思うかもしれないよ?」
「.....」
「仁さんありがとうって物凄~く感謝すると思う」
「.....」
由花はそう言いながら仁の頭を撫でた。
「明日は素敵な事がありそうな気がするな~。あー、早く寝て明日に備えなきゃ!この間買って貰った小袖の着物を着ようかな。楽しみ~」
由花の態とらしいとも言えるはしゃぎ様に仁も口角が上がった。
「明日、お土産沢山買おう」
そう言って顔を上げれば
「うん。何買って貰おうかな~、すっごく高い物買ってもらおうかな~」
「アハハ。何でも買ってやるぞ」
「うわっ、何にしよう。楽しみ~」
そんな事を言いながら2人は休んだ。


次の日、由花と仁は連れ立って出掛けた。
お祭りの最後の日と言う事だったが出店はズラリと並んでいた。
「わぁ、お祭りって感じがする~」
由花はワクワクする気持ちが抑えられず、思わず走り出そうとしてしまう
「由。走らなくて良いから、ゆっくり見て回ろう」
そう仁に止められて、ペロリっと舌を出す由花だった。

屋台を見て回りながら、団子を食べたり、的当てを2人で真剣勝負したりして楽しんでいると ふと小物屋が目に入って由花は立ち止まる。
「何か気になる物があったか?」
「仁さん、見てもいい?」
女の子はいつでも小物が大好き。
仁は「良いよ~」と言いながら付き合ってくれた。
色とりどりの巾着袋や、かんざし、櫛に手鏡。どれも可愛くて見とれてしまう。
「何か良いのがあった?」
「うーん...待って~」
そう言いながら隅々まで物色していると、隅の籠の中にガラス細工の小物が入っているのを見つけた。
「うわぁ、可愛い」
そう言って手に取ったのは紫色の少し地味な感じのする小さい勾玉だった。
「仁さん、これが欲しい」
そう言って仁に手渡そうと差し出す。
「由、もうちょっと派手な色の物が良いんじゃないか?」
「ううん。これが良い」
差し出された物を受け取って良く見てみると、そこには『安産』の文字。
「あぁそうだね...これが良いね」
仁の顔は笑顔で嬉しそうだ。
「やっぱり、今日来て良かった~」
由花も嬉しそうに笑った。

秋の心地よい風が吹く。

2人は見つめ合った後、由花はお腹をさすった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

初体験の話

東雲
恋愛
筋金入りの年上好きな私の 誰にも言えない17歳の初体験の話。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

密会~合コン相手はドS社長~

日下奈緒
恋愛
デザイナーとして働く冬佳は、社長である綾斗にこっぴどくしばかれる毎日。そんな中、合コンに行った冬佳の前の席に座ったのは、誰でもない綾斗。誰かどうにかして。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

処理中です...