枝垂れ桜Ⅱ

あくび

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志帆は気だるげに窓から外を見ていた。
鬼の国に来て早5年...幾つもの発情期を過ぎ、自分の上を通り過ぎて行った鬼は数え切れなかった。
此処には何人もの人間の女が住んで居たが 皆女の子を産み落とし帰って行き、今は5人の女性が残っていた。
『自分だけが取り残されて主になってしまいそうだ...』
志帆は外を眺めながらそう思っていた。

ここ『産土』の鬼達は異様だった。
発情期になると人の形をしている者はいない。
一つ目、三つ目、五つ目、身体の色も赤や黄色や青に緑に黒...。獣になる鬼もいた。
初めて見た時は悲鳴を上げた。
しかし、産土の鬼はそんな異様な姿と裏腹にとても気が優しい。そこが唯一の救いだった。発情期であっても、嫌がる女に無体な事はしない。


鬼族の慢性的な女不足を解消する為に、人間の世界から女を召喚させ始めたのは産土の技師だった。ただ誤算だったのは各族領に人間の女が召喚され始めてしまった事だ。
ここ産土では人間は丁重にもてなされる。
貴重な鬼女を産んで貰わないといけないからだ。
特に火炎と言う火の国では人間に対する扱いが酷く、見つかれば売買されたり、丸薬を飲まされて薬漬けにされたりとやりたい放題が目立つ。
丸薬もこの産土で産まれた。
処女の痛みや、鬼の規格外の逸物を受け入れる為に開発された物だったが これは常習性が強く、取り扱いに注意しなければ困った事になる。
どの世界にも快楽に溺れる人種はいつでも居て、それを商いにするどうしようもない人種は居る様だ。


今、産土の長の悩みは、召喚した人間が子を産んだら元の世界に帰ってしまう点だ。
当初、産土のみで行われるはずだった召喚は、産土の民の姿が 人間には受け入れられないだろうと考えた結果だった。
試しに召喚された人間の女も、子を産んだ後に「こんな子はいらない!」と言った事から出来たシステムだった。
しかし、近年。産土を含めた他の地域でも鬼と人間との間に『所帯を持ちたい』と言う気持ちが生まれ始めて、先頃、風来の頭領からもどうにかならないものか...と再三 書簡が届いている。

人間は鬼にとても人気があった。
鬼女はボンキュボンでスタイルが良く、血が濃いければ濃い程色気も増す。
しかし高慢で自尊心が高く扱い辛いのと、皮膚が硬くゴワゴワしていた。
それに対し、ひ弱で柔らかく 鬼を見て怯える人間は庇護欲をそそり、抱けば順応で包み込まれる感覚がとても人気があったのだ。

産土の頭領の鷹亮(おうすけ)は頭を抱えた。
『子を産んだら帰る...と言う部分を、子を産んだら帰るかどうか選択するという事に変更するか...』
まだ幼子が多いが鬼女も増えて来た。
『ここらで定着させるのも良いかの...』
そう思いながら鷹亮は立ち上がった。


「志帆」
そう言いながら待合茶屋の襖をガラリっと開けたのは鷹亮だった。
「おう様...」
いきなり来た来客にびっくりしている志帆は着崩れている着物を恥ずかしがりながら直した。
「そのままで良いぞ。お前にちっと話があってな」
そういった後使用人に「酒を頼む」と言った。
「どうしたんですか?」
「あぁ...うん。志帆、お前はこっちに来て何年になる?」
「5年程ですかね...」
「5年か、向こうの世界に戻りたくはないか?」
志帆の目が見開いた。
「戻っても...」
「戻っても?」
「今更戻っても...帰る場所があるんですかね?」
「あるぞ。戻れば来た時と同じだ。何も変わらん」
志帆は困惑した。

村上志帆は一部上場企業に務める男性と結婚していた。
お見合いで結婚を決めた志帆はそれなりに満足していた。
地味で目立たず何の取り柄もない志帆は、学生の頃から真面目で男性と付き合った経験は無く、婚約者の彼が初めての男性だった。

真面目な彼は優しかったが、sexは今思えば下手だった。
あの頃はそれが当たり前だったのだが、キスをして、少し胸を触って、志帆の大事な部分を触ったら入れる。腰を振って発射したら背を向けて寝る彼が好きかと言われれば「安定してるから...」としか言えない自分がいる。

勿論、結婚はsexだけでは無い。それは解っているが、こちらの世界に来て、産土の男性に優しくされてチヤホヤされて、甘い言葉を囁かれ、魂が抜ける程の甘美なsexを知ってしまってからは あまり戻りたいとは思わなくなっていた。
『このままが良い...』
と言う思いと、このままで良いのだろうか...と言う気持ちが天秤に乗って揺れている。

「今度、各領の族長が集まるのだ。この宿に居る5名で接待して貰いたいがどうだろうか?どれも長だけあって良い男ばかりだぞ。産土の男しか知らんだろ?楽しみにしていろ」
志帆は鷹亮の前に運ばれたお酒をお酌しながら頷いた。

鬼の国は5ヶ国で成り立っていた。
火炎、風来、産土、水府、龍神

産土はあまり戦を好まず、どちらかと言うと隠密派なので各国に雇われている者が多く重宝されるが、火炎が1番気が荒く、火炎と水府は非常に仲が悪い。
水府は龍神と仲が良く、火炎は風来と同盟を組んでいる。
2番手で気が荒いのが龍神、ついで水府、風来、産土と続く。

今回は争いごとを避ける為に敢えて発情期を前に招集した。
何か起こっても発情期で誤魔化そうという作戦だ。特に火炎は発情期になればその事しか眼中に無くなる。

『それで行こう』

鷹亮の頭の中では大体の事が組み上がっていた。
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