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春、枝垂れ桜は今年も満開だった。
仁は桜の木に触れて、由花が何処かの枝垂れ桜の前に居て話し掛けてくれている様な気がして切なくなった。
産土からは連絡がまだ来ないが、美咲にもその事をちゃんと話して置きたいと思った。
「美咲...」
「どうしたの?お父様」
「美咲にちゃんと話しておこうと思って...」
「お母様の話?」
美咲は利口だった。良く喋るが良く気も効く。
「そうだ。産土の鷹亮から書簡が届いたら、父は母を探しに行こうと思っている」
「お母様を探しに行けるの?」
「そうだ。鷹亮が、今そうなる様に頑張ってくれている。
「おう様って凄いね」
そう言って美咲は笑った。
「美咲は、父が母を見つけるまで1人で待てるか?」
「うーん...」
「美咲は母に会いたくないか?」
「慎之介様は遊びに来てくれる?」
「.....ゴホン。う...うん。頼んでおこう」
「それなら我慢する」
仁は複雑な心境であったがとりあえず、笑顔でその場を凌いだ。
「美咲、いい子だ」
そう言うと美咲の頭をグリグリと撫でた。
桜の花も散り、梅雨の季節になっても産土からは連絡が無かったが、風の噂で志帆が大変な事になっていると聞いた仁は、1度御見舞がてら産土を訪ねて見ようと思った。
産土では、志帆が時折手がつけられなくなる程暴れて困っていた。
薬の後遺症だった。
鷹亮は自分の責任だと腹を括り、献身的に介護していたが 流石に落ち込んでいた。
そして、正気に戻ると全てを忘れているから質が悪かった...。
最初は「空也を呼べ!!」と言って暴れる志帆になす術もなく、余りに酷い時は括りつけて喚き散らす志帆を見ているしか出来なかったのだが、ある日、偶然に飲ませてみた眠り薬の薬草が比較的に良い結果を持たらした。眠る事によって脳が休息を取るのか、志帆が何時もよりも落ち着いていたのだ。
それからどんどんと鷹亮の作業は進んで行った。
そして10月。
各領主の元に産土から招集がかかった。
「大変遅くなりましたが、ようやく出来上がりました」
「おぉ...」
一同からため息のの様な感嘆な声が上がった。
「これで、仁、ようやく人間界に行けますね」
「ありがとうございます」
「ただ...」
仁がゴクリと唾を飲んだ。
「ただ、1回に渡れる期間が2週間程度です。そして、それは、渡られる方と人間の強い結び付きが無いと成功しません。余程の理由がない限り子供の産まれた時等になるでしょうが...」
「結び付きがない場合は...?」
「無い場合は人間が望んでないと言う事です。今回、火炎の件で学びました。私達鬼はどうしても執着心が人間に比べると強い傾向にあります。攫って連れて来る事も可能になってしまうと 本末転倒ですからね」
一同はまた「なるほど...」と頷いた。
「向こうが来る気であれば必ず出逢えます。仁、もしもの時は諦めて帰って来てくださいね」
仁は頷いた。頷くしかなかった...。
「そしてもう一つ。仁にはこれの実験台になって貰いたいのです」
「実験台?」
「確かに コチラの世界とアチラの世界は結び付けました。でも確かな証拠がありません。仁で試してみたいのですが...良いですか?」
「解りました...」
その場で4長の印を貰うと
「では渡る月日を慎重に考えて またココに来ます」
そう言って仁は風来に帰って行った。
仁は自宅に帰り 外を眺めていた。
由花との思い出を考えたが、考えれば考える程 目の前にそびえ立つ枝垂れ桜しか思いつかなかった。
『仁さん、毎年見に来たいね...』
『仁...子供に毎年桜を見せてね』
美咲が小さい頃に「かかたー」と呼んだ桜の木。
あの桜の木の向こう側に由花が居るだろうか...。
不安でいっぱいの仁であった。
季節は紅葉の綺麗な秋だった。
後5ヵ月...。待ちきれない思いで仁は桜の木を見つめた。
仁は桜の木に触れて、由花が何処かの枝垂れ桜の前に居て話し掛けてくれている様な気がして切なくなった。
産土からは連絡がまだ来ないが、美咲にもその事をちゃんと話して置きたいと思った。
「美咲...」
「どうしたの?お父様」
「美咲にちゃんと話しておこうと思って...」
「お母様の話?」
美咲は利口だった。良く喋るが良く気も効く。
「そうだ。産土の鷹亮から書簡が届いたら、父は母を探しに行こうと思っている」
「お母様を探しに行けるの?」
「そうだ。鷹亮が、今そうなる様に頑張ってくれている。
「おう様って凄いね」
そう言って美咲は笑った。
「美咲は、父が母を見つけるまで1人で待てるか?」
「うーん...」
「美咲は母に会いたくないか?」
「慎之介様は遊びに来てくれる?」
「.....ゴホン。う...うん。頼んでおこう」
「それなら我慢する」
仁は複雑な心境であったがとりあえず、笑顔でその場を凌いだ。
「美咲、いい子だ」
そう言うと美咲の頭をグリグリと撫でた。
桜の花も散り、梅雨の季節になっても産土からは連絡が無かったが、風の噂で志帆が大変な事になっていると聞いた仁は、1度御見舞がてら産土を訪ねて見ようと思った。
産土では、志帆が時折手がつけられなくなる程暴れて困っていた。
薬の後遺症だった。
鷹亮は自分の責任だと腹を括り、献身的に介護していたが 流石に落ち込んでいた。
そして、正気に戻ると全てを忘れているから質が悪かった...。
最初は「空也を呼べ!!」と言って暴れる志帆になす術もなく、余りに酷い時は括りつけて喚き散らす志帆を見ているしか出来なかったのだが、ある日、偶然に飲ませてみた眠り薬の薬草が比較的に良い結果を持たらした。眠る事によって脳が休息を取るのか、志帆が何時もよりも落ち着いていたのだ。
それからどんどんと鷹亮の作業は進んで行った。
そして10月。
各領主の元に産土から招集がかかった。
「大変遅くなりましたが、ようやく出来上がりました」
「おぉ...」
一同からため息のの様な感嘆な声が上がった。
「これで、仁、ようやく人間界に行けますね」
「ありがとうございます」
「ただ...」
仁がゴクリと唾を飲んだ。
「ただ、1回に渡れる期間が2週間程度です。そして、それは、渡られる方と人間の強い結び付きが無いと成功しません。余程の理由がない限り子供の産まれた時等になるでしょうが...」
「結び付きがない場合は...?」
「無い場合は人間が望んでないと言う事です。今回、火炎の件で学びました。私達鬼はどうしても執着心が人間に比べると強い傾向にあります。攫って連れて来る事も可能になってしまうと 本末転倒ですからね」
一同はまた「なるほど...」と頷いた。
「向こうが来る気であれば必ず出逢えます。仁、もしもの時は諦めて帰って来てくださいね」
仁は頷いた。頷くしかなかった...。
「そしてもう一つ。仁にはこれの実験台になって貰いたいのです」
「実験台?」
「確かに コチラの世界とアチラの世界は結び付けました。でも確かな証拠がありません。仁で試してみたいのですが...良いですか?」
「解りました...」
その場で4長の印を貰うと
「では渡る月日を慎重に考えて またココに来ます」
そう言って仁は風来に帰って行った。
仁は自宅に帰り 外を眺めていた。
由花との思い出を考えたが、考えれば考える程 目の前にそびえ立つ枝垂れ桜しか思いつかなかった。
『仁さん、毎年見に来たいね...』
『仁...子供に毎年桜を見せてね』
美咲が小さい頃に「かかたー」と呼んだ桜の木。
あの桜の木の向こう側に由花が居るだろうか...。
不安でいっぱいの仁であった。
季節は紅葉の綺麗な秋だった。
後5ヵ月...。待ちきれない思いで仁は桜の木を見つめた。
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