花にひとひら、迷い虫

カモノハシ

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22.

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「旅の中継地点……」
「でもそんなの、どこからどこに行くかによっても違うじゃん。普通に考えるんじゃないんだよね、きっと。この学校でってなると、さっき律が言ってたことが関係あるのかな?」
 アサギマダラの集まる学園の中庭。
 律は、アサギマダラは渡りをする蝶だと言っていた。「渡り」を「旅」だと考えれば、場所は自ずと明らかになる。
「……や、違うと思う」
 だが、意外なことに、律が異を唱えた。硬い表情をして、首を横に振っている。
「え? でもさ――」
「だって、あそこはずっと僕が管理してた。変なものなんて、どこにもなかった」
「でも……、だったら、律はどこか当てがあるの?」
「それは……今から考える」
「ふうん?」
 なんだか律らしくない。様子をうかがっていると、彼はなにやら動揺しているようだった。もしかしたら、花音が言ったことはそう的外れではないのではないか。花音は律の手をぎゅっと握った。
「え、ちょ……?」
「まあ、ともかく行ってみよう! ここの探索は終わったんだし、次、次!」
「花音……!?」
 律の手を引いてまた生物準備室に舞い戻る。サンダルに履き替えるのももどかしく、勢いよく中庭に出た。そうして、早速探索にかかる。
「だ……だから、ないってば」
 律は裏口から動かない。だが、口調はどこか弱々しい。
「ないかもしれないけど、あるかもしれないじゃん。ほら、自分じゃ気づかなかったことでも、他の人が見るとわかったりすることもあるでしょ?」
 花音は花壇に近づき、白い花を端から確認していく。よく見ると、少しピンクがかっている花もある。土に差された園芸用ラベルには、ヒヨドリバナとフジバカマという名前があったので、二種類の花が混ざっているのだろう。
 律はしばらくしぶっていたが、やがて用具入れの方を探し始めた。花音は引き続き、葉や枝をかき分け、地面を探す。
「あ、これじゃない? 律!」
「――えっ」
 律が慌てて駆けつけてきて、花音が指さす方を凝視した。地面から5センチほどの高さに「ののはらい」と手描きで書かれたラベルが差してある。
 内側寄りの、花をかき分けないと見えない場所だ。だが、花の植え替えをしていた律なら当然認識していたに違いない。
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