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私はそれが近貞じゃないことを知っている。
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次の瞬間、天地がひっくり返ったような気がして目を閉じた。背中に褥の感触と、たくましい腕がある。耳に柔らかなものが触れて
「俺様は、近貞様の陰なんだよ」
低い声が差しこまれた。
「だから、近貞様の腕だと思っていればいい」
しゅるしゅると衣擦れの音がして、開こうとした目の上に何かが被せられた。頭の後ろで縛られて、帯か何かだろうとわかる。肌の上を布が滑り、代わりにあたたかなものが触れてきて
「ぁ…………」
素肌に、手を乗せられているのだと分かった。
「久嗣……?」
「今は、近貞様だと思って――」
唇に、指をあてられた。近貞だと思ってと言われたって
「かぐや殿」
びく、と背筋が跳ねる。それは、まぎれも無い近貞の声だった。
「……なん、で」
「かぐや殿」
手のひらが肌の上を滑っていく。耳に注ぎ込まれる声は、まぎれもなく近貞のものなのに、私はそれが近貞じゃないことを知っている。
「……かぐや殿」
「――いや」
小さくつぶやけば、胸を探っていた手が止まった。抱き上げられ、目隠しを外されて見えたものは、まっすぐな久嗣のまなざしだった。
「――ッ」
月光に照らされたそれが、あまりにも澄んでいて息をのむ。澄みすぎて、何も映していない水鏡のような久嗣の目の中に、私がいる。
「かぐやちゃん」
声は、久嗣のものに戻っていた。
「近貞様と、添いたいと思う?」
目を見つめたまま頷くと、本心かどうかを探るように私の目の奥を観察した久嗣が、目尻を和らげた。
「じゃあ、行こうか」
抱き上げられ、首にしがみついた。何処になんて、聞かない。だって、近貞の所に決まっているんだもの。
「俺様は、近貞様の陰なんだよ」
低い声が差しこまれた。
「だから、近貞様の腕だと思っていればいい」
しゅるしゅると衣擦れの音がして、開こうとした目の上に何かが被せられた。頭の後ろで縛られて、帯か何かだろうとわかる。肌の上を布が滑り、代わりにあたたかなものが触れてきて
「ぁ…………」
素肌に、手を乗せられているのだと分かった。
「久嗣……?」
「今は、近貞様だと思って――」
唇に、指をあてられた。近貞だと思ってと言われたって
「かぐや殿」
びく、と背筋が跳ねる。それは、まぎれも無い近貞の声だった。
「……なん、で」
「かぐや殿」
手のひらが肌の上を滑っていく。耳に注ぎ込まれる声は、まぎれもなく近貞のものなのに、私はそれが近貞じゃないことを知っている。
「……かぐや殿」
「――いや」
小さくつぶやけば、胸を探っていた手が止まった。抱き上げられ、目隠しを外されて見えたものは、まっすぐな久嗣のまなざしだった。
「――ッ」
月光に照らされたそれが、あまりにも澄んでいて息をのむ。澄みすぎて、何も映していない水鏡のような久嗣の目の中に、私がいる。
「かぐやちゃん」
声は、久嗣のものに戻っていた。
「近貞様と、添いたいと思う?」
目を見つめたまま頷くと、本心かどうかを探るように私の目の奥を観察した久嗣が、目尻を和らげた。
「じゃあ、行こうか」
抱き上げられ、首にしがみついた。何処になんて、聞かない。だって、近貞の所に決まっているんだもの。
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