新月のかぐや

水戸けい

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「色事にも情緒にも欠けている弟だが、よろしく頼む」

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「奥手だからと、父上と共に気をもんでいたが、地上の月を射止めるとは」

 私の手を取り、指先に唇を寄せて

「観月の宴の後、妙にはしゃぐ気色を続かせる風雅を解さぬ弟に、よもやと思っていたが――極上の姫君が相手では、恋心が生まれてしまうのも納得がいく。どのようにして出会い、どのようにして想いを重ねてきたのかを、是非に教えてもらいたいものだ」

「兄上。……では」

「では、も何も。これほど見事に姫の望みを叶えたのだから、否やなど言えるはずが無いだろう。新月のかぐや姫が我が義妹となるとは、面白い。これから、よろしく頼むとしよう」

 さっと両腕を開いた近盛様が

「我が弟が、見事に月のしずくを姫に届けた。これほどめでたいことは無い。今宵はお集まりの皆々様へ、武藤家より祝いの酒を振る舞わせていただこう!」

 高らかに言えば、どっと歓声が上がり武者たちが酒を運び入れて振る舞い始めた。それは別邸の塀の向こうにいる里の者などにも配られる。それだけでなく、商人たちの運んできた品々を全て買い上げ、それすらも皆に与えようと近盛様は楽しげに言った。あまりのことに驚いていると

「姫様」

 おろつく萩の声が聞こえ、振り向けば美麗な衣装をまとった男女が、絵巻を縫い込んだ几帳を運び入れ、畳の席を作り宴の膳を整えていくのが見えた。

「このまま、祝言をあげてしまえばいいと思ったのだが」

 不満だろうかと近盛様に問われて、首を振る。誰にはばかることなく近貞と添うために行ったことではあるけれど、これほど全面的に祝福されるとは思ってもみなかった。

「色事にも情緒にも欠けている弟だが、よろしく頼む」

「はい!」

 弾む心を抑えきれず、そのままを声に出して近貞を見上げる。満面の笑みを浮かべた近貞は私を抱き上げ、用意をされた畳の座へと駆け上った。

「これからは、誰にはばかることも無く顔を合わせ、手を取り、様々な事を話し、過ごしていける」

「私の弓の腕を見せることも、ね」

「ああ。是非に、見たいな」

「はいはい。それじゃ、固めの盃をどうぞ」

 久嗣が現れ、緋漆ひうるしの盃を渡される。なみなみと注がれた酒に、満月が映りこんだ。
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