ひとりよがりなFalse Face

水戸けい

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「っ、なんで名前を知って――」

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「えだの、はるひこ」

 一音ずつ確かめるように恭平が口にすれば、電話口から忍び笑いが漏れてきた。

「そう。よろしく、でいいのか?」

「知らねぇよ」

 クックと耳障りな笑いに、怒りが込み上げてくる。

「なんで、譲の電話に出てんだよ」

「なんでだろうなぁ」

 ニヤニヤとはぐらかす相手は、譲とどういう間柄なのか。ただの同級生が、譲の電話に勝手に出るはずはない。

「譲は、どこにいる」

「どこでもいいだろ。ああ、期間限定の恋人だから気にしてるのか。そういう台詞も演技? いままで付き合った女の真似をしてみてるとか。――アンタの付き合って来た女は、嫉妬深いんだな。まあ、とっかえひっかえ女を替えるって話を聞くし。アンタの彼女になる奴は、気が気じゃないんだろうな」

 かわいそうに、と聞こえた声は嘲りに満ちていて、恭平の神経を逆撫でた。

「関係ないだろ」

「疑似の期間限定でも、アンタが譲の恋人っていうのが、俺としては面白くない」

「どういうことだ」

 急に笑みを引っ込めた春彦の、鋭く尖った声に恭平の声が硬くなる。

「そのまんまだよ。とにかく、譲は今日、本田薫ちゃんとはデートしないから。待ってても無駄だからな。相模原恭平」

「っ、なんで名前を知って――」

 言い終わる前に通話を切られ、恭平は言葉を止めた。自分に向けられる視線に気づき、顔を上げれば通行人らがサッと顔をそむけた。そこで、恭平は自分が女装をしていたのだと思い出す。

 くそっ。なんなんだ、アイツは。

 この場に留まるのは居心地が悪く、恭平は足早に移動してショッピングモール外側にある、コーヒーショップへ入った。

 カウンター席に座り、先ほどの電話の声を思い出し腹を立てながら、わずかに残った冷静な部分で考える。

 枝野晴彦と名乗ったアイツは、誰だ。譲の同級生だと言っていたが、俺はそんな名前を聞いたことが無い。

 怒りに任せて胸中で吐き捨てた言葉の上に、凍えた不安が突き刺さる。

 俺は、うぬぼれているんだろうか。

 スマホを眺めながら、恭平はコーヒーを啜った。

 もう一度かければ、あの晴彦という男が出るのだろうか。譲が出るのだろうか。
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