上 下
1 / 1

チョコレートの罠?

しおりを挟む
 たくましい男がモテるなんて、幻想だ。

 高校時代、女にモテるために音楽に走るか筋トレに走るかで、だいたいの同級生が別れた時に、俺は筋トレを選んだ。襲われている女の子を守って、惚れられるなんてワンチャンが、いつか訪れるかもしれないと考えて。

 単純に、筋肉かっこいい、という思いもあったけれど。

 そして俺は、自分で言うのもなんだけど、健気に真面目に筋トレに取り組んで、引き締まった肉体を手に入れた。なかなかに、いい体つきをしていると自負している。大学ではスポーツ系のサークルから、いくつものスカウトをもらったし、褒められもした。ただし、男ばかりに。

(やっぱ顔だよな)

 それがすべてとは思わないが、やはり顔なのだ。女も男も、まずは顔で相手を選ぶ。キャアキャアとはしゃぐのならば、容姿がいいほうが男女ともにいいのはわかりきったことだ。

 目の前で紙袋から、チョコレートの包みを取り出している、高校からの同級生、萩本蓮太の顔面をながめる。

 こいつは本当に顔がいい。卵型の輪郭と、つるりとした白い肌。アーモンド形の瞳に通った鼻筋。唇は薄いが、形よく横に広がれば愛嬌のある笑顔となる。黙っていれば怜悧、会話をすれば愛らしいだなんて、前世でどんな善行を積めば、こんな顔に生まれてこられるんだ。

 対する俺、水原健一は普通だ。ものすごく普通。ブサイクでもなければ、美形でもない、やや面長の、言えば精悍で男らしいと言えなくもない輪郭。一重の目の大きさも、鼻の大きさも、口だって普通。まあ、豪快に食べる姿は気持ちがいいと言われるが、その程度だ。筋肉以外で、容姿を褒められたことは一度もない。

(ほんと、蓮太は顔がいいよなぁ)

 美人は三日で飽きると言うが、高校の三年間、そして大学に入って二年と、五年の月日が流れているが、いつ見ても「顔がいい」と再確認させられている。

「遠慮しないで、好きなのを食べて」

 美麗な顔に笑みを浮かべて、そう言った蓮太が折り畳み式の卓袱台に並べたのは、バレンタインの今日、大学の女の子たちから受け取ったチョコレートたちだ。ひとりでは食べきれないから家に来てくれと頼まれて、バレンタインにひとりで過ごすのもむなしいから誘いを受けた。

 なにより、俺が蓮太といれば、蓮太は女の子たちに囲まれる、ハッピーで超絶にうらやましいバレンタインを逃す……もとい、コイツを取り合って、女の子たちが喧嘩をすることもなくなる。

「コーヒー、淹れてくるよ」

 笑顔で立ち上がった蓮太を見送り――といっても、1Kのマンションだから、キッチンはすぐそこなんだが――ちゃぶ台の上を見る。かわいらしいパッケージからシックなもの、ネタっぽいものまで様々だ。これ全部にお返しをするのは、大変だろうな。

「お?」

 漆黒の上品な箱に、光沢のある青文字でなにやら書かれているチョコレートに手を伸ばす。これは相当に高級なものに違いない。本気の本命チョコなのだろう。蓮太をアイドル扱いしている他のチョコとは違う気配を感じて、箱を開けた。丸いチョコレートが六つ、入っている。

(高級チョコレートってのは、どんな味がするんだろう)

 これだけ気合の入ったチョコを食べるのは、蓮太には気が重いだろう。つき合うつもりもない相手からの本気すぎるチョコなんて、辛いはずだ。よし、俺が食べてやることにしよう。

 ポイと口の中に入れて噛めば、表面が割れて内側からふんわりとした芳香の液体が流れ出てきた。

(おっ……?)

 ほんのりと苦味のある液体は、ドライフルーツっぽい。香りが心地よく鼻に抜ける。

(やっぱ、高級なチョコレートなんだな)

 俺の知っているキャラメルやグミが入っているチョコレートとは、明らかに違っている。不思議な味わいと言えばいいのか。こんな体験は初めてで、もうひとつを口に放り込んだ。

「あ、それ」

 コーヒーカップを手にした蓮太が、眉を持ち上げる。

「なんだよ。遠慮すんなっつったろ?」

 唇を尖らせれば、なぜか蓮太は照れくさそうにまつ毛を伏せた。くっそ、顔がいい。顔がいいと、そういう女々しい反応をしても、絵になるんだなぁ。つうか、なんでそんな表情をしたんだろう。

 コーヒーを受け取ってすすれば、口の中に残っていたチョコレートと謎の液体の味わいがふくらんだ。蓮太が出してくれるコーヒーは、俺がいつも飲んでいる細かい粉のインスタントとは違う、ドリップとかいう、淹れるのにちょっと手間がかかる高いやつだ。

 高いチョコレートと高いコーヒーは、相性がいいんだなぁ。

 贅沢気分で、もうひとつチョコレートをつまみ、口内でコーヒーとのコラボを楽しむ。天国にも上る味わいだなんて、大げさかもしれないけれど、ほかにどう言い表せればいいのかわからないくらい、未知で豪華な味がする。

「それ、おいしい?」

「最高にうまい」

 独り占めするのはためらわれて、箱を蓮太に押しやれば、いいよと首を振られた。

「それは全部、健一が食べて」

「いいのか? うまいぞ」

「いいんだよ。健一に、食べてほしいんだ」

「そっか」

 もしかしたら蓮太には、めずらしくないものなのかもしれない。なんせ、普段からドリップコーヒーを飲む男だ。俺にいいものを食べさせたいと思ってくれているのかも。

 顔もいい上に性格もいいなんて、完璧だなぁ。

 俺はいい友達を持ったもんだ。

「じゃ、遠慮しねぇぞ」

 ひとつひとつ、じっくりとチョコレートとコーヒーの共演を味わう。なんか、かっこいい言い方があった気がするけど、忘れてしまった。

「なあ、蓮太。食いモンと飲みモンの組み合わせが最高なやつって、なんて言うんだっけ」

「ん? マリアージュのことかな」

「ああ、そうそれ。マリアージュ」

「気に入ってくれて、うれしいよ」

 目尻をとろけさせる蓮太の甘い表情に、心臓がざわめいた。顔がいいってのは、たまに心臓に悪い。

 やっぱり蓮太は、このチョコレートとコーヒーの組み合わせを知っていて、俺に食わせようと思っていたんだな。なんて友達想いなヤツだ。紙袋一杯にチョコレートをもらうとか、どんだけモテるんだって妬んだ自分が恥ずかしくなる。ありがとな、蓮太。

 最後の味わいを名残惜しんでいると、ふうっと目の奥が揺れた気がした。脳みそが空中に浮かんでいるみたいに、ふわふわとする。体がほんのり熱くて、すごく気持ちがいい。

「健一、どうだった? そのチョコレート」

「最高にうまかった」

 ヘラリと笑った自分の声は、バカみたいに浮かれていた。頭の隅でおかしいと思いながらも、心地よさに全身が包まれている。

「そっか。それ、ずうっと味わっていたいと思う?」

「ん。もっと、ずっと食っていたいなぁ」

 自分の口調が幼児じみている。わかっているのに戻せない。気持ちがゆるみまくっている。どうしたんだ、俺。

「よかった」

 目じりを下げた蓮太が、膝でにじり寄ってくる。その目が不穏な色を発していて、きょとんとした。

「蓮太?」

「僕が健一のために用意したものを、最初に選んでくれただけでも感動だったのに、ずっと味わっていたいだなんて、最高にうれしいよ」

「はぇ?」

 蓮太の声がたわんで聞こえる。なんだ、これ? つうか、蓮太が俺のために用意したって、どういうことだよ。

「僕にマリアージュって言わせるなんて、遠回しなやり方はやめろってことだよね」

 熱っぽい瞳をした蓮太の顔が、ドアップになる。間近にあっても、やっぱり顔がいいなと見惚れていると、視界一杯に蓮太が映って、唇に柔らかなものが触れた。

「ん?」

 唇の表面を、濡れたものでなぞられる。ぼんやりしていると口の中にそれが入ってきた。歯茎をくすぐられ、上あごを擦られてムズムズする。くすぐったくて口を開けば、舌を絡めとられた。

 あれ、これってもしかして、ディープキスされてんのか?

「んっ、んぅ……うっ、ふ……う、ううっ?」

 うっとりとした瞳で、蓮太は俺にキスし続ける。ぼんやりしている間に、しっかりと顔を固定されて逃れられない。というか、キスから生まれる不思議な感覚に意識がゆるんで、反応できなくなった。

「ぅ、んっ、ふ……んぅ、う」

 口では息ができなくて、鼻で呼吸をしようとすれば甘ったるい音が出た。キスが強くなって、口の中のくすぐったさが変化する。ムズムズしたものが体中に広がって、股間が疼いた。

「ふ……ぅんっ、ん……う、うう……う、ふ、ぁう……んっ、ん」

 息苦しくて、目じりに勝手に涙が滲んだ。そこでようやく、蓮太の顔が離れる。キスで濡れて血色がよくなった唇と、艶やかに光る目が妙になまめかしい。

(くそ顔がいいな)

 見惚れていると、肩を押されてゆっくりと押し倒された。

「なあ、蓮太。さっきのチョコさ、なんか入っていたんだけど」

「ああ。ウイスキーだよ。ウイスキーボンボン。知らない?」

 聞いたことはあるけど、食べたのは初めてだ。ウイスキーを味わったのも。なるほど、あれはウイスキーの味だったのか。バーのカウンターでグラスをかたむける、ハードボイルドな探偵の姿が脳裏に浮かんでニヤリとした。

「健一、好きそうだなと思って。探偵ものとか、好きだろう?」

 なるほど。俺の好みを踏まえて、買ってきてくれたってことか。けど、なんでわざわざ俺用のチョコレートを? しかも、あんな高そうなやつ。というか、ウイスキーが入っているんなら、絶対に高いよなぁ。

「なんで」

「うん?」

「女の子にもらったチョコがたくさんあるのに、なんで、あんな高そうなチョコを買ったんだよ」

「僕からのバレンタインチョコを、受け取ってもらいたかったからだよ」

 よくわからない。首をかしげると、頬にキスをされた。

「気に入ってくれて、ずっと食べたいっていってくれて、ありがとう」

 おそらく友情の証として、高級チョコをくれたのだろう。顔がいいっていうのは、それだけで嫉妬とか劣等感の八つ当たりをぶつけられる対象になるからな。気にせずにつき合っている俺に、蓮太は感謝をしていたってことか。

「ああ。けど俺、あれに見合うようなお返し、できねぇぞ」

 ホワイトデーの心配をすると、大丈夫だよと微笑を向けられる。ほんっと、いちいち顔がよくて見惚れてしまう。今日は特に、いつもよりも色っぽい気がして、視線が勝手に引き込まれる。

「心配しないで。お返しは、今、もらうから」

 熱っぽい声に背骨がゾクゾクした。首筋を撫でられて、服の上から俺の体をなぞった手が、上着の裾から中に入る。首にキスをされて、服をめくられて、素肌の鎖骨を舐められて、何か変だと眉をひそめた。

「えっと、蓮太?」

「大丈夫、怖くないよ。健一はそのまま、じっとしていて」

 トロリとした声が、たわんでいる意識に響いた。魔法にかけられたように身動きを忘れていると、乳首に濡れた感触が走った。蓮太が俺の出ない乳を吸っている。おかしくなってクスクス笑うと、乳首に舌をはわせたままで目線だけを向けられた。

「っ、う」

 息を呑むほどエロい顔に、下半身が熱くなる。視線を絡めとられて、俺の乳首をねぶる蓮太を見つめていると、ズボンの上から股間を擦られた。

「大きくなってる」

 フフッと鼻先で笑われて、一瞬で肌が熱くなった。

「や、これは……そのっ」

「恥ずかしがらなくていいよ。反応してくれて、うれしいんだ……もっと、僕を感じて? 健一」

 歌うように言った蓮太にズボンのボタンを外された。ファスナーを下ろされ、半勃ちのナニを取り出される。小動物をながめる顔で俺の股間を見つめる蓮太は、菩薩みたいだ。手の中にあるのは俺のアレじゃなくて、蓮の花なんじゃないかと思うくらい、慈愛に満ちた顔をしている。

「これが、健一の」

 うわごとみたいにつぶやいた蓮太は口を開いて、ためらうことなく手の中のナニを口に含んだ。

「うえっ……ちょ、蓮太……っ、あ」

 気持ちいい。ぬるっとして、あったかくて、ほどよい絞めつけがあって。それだけじゃなく、チロチロと先っぽとかクビレとかを舐められて、キュッと吸われて、変な声が出てしまう。

「あっ、あ……ふぁ、あっ、んぅ……あ、ああ」

 含まれているナニだけじゃなく、袋にまで刺激が広がって、意識が性欲に犯されていく。

「ぁ、はぁ……蓮太ぁ、あっ、ああ」

「かわいいよ、健一」

「んぁっ、ひ、ぁううっ」

 俺をかわいいと言うなんて、幼稚園の頃ならいざ知らず、美的センスを疑ってしまう。けれど蓮太は本気なようで、愛おしそうな顔をして、俺のアレを口に含んでしゃぶったり、見せつけるように根元から撫で上げたり、チュウチュウと袋を吸いながら先っぽを指でグリグリしたりと、ひどく楽しそうだ。

「んぁ、あっ、ああ、それ、あっ、蓮太、ぁ……は、ぁあっ、あっ、んぁ」

 自分でするのとは比べ物にならないくらい、気持ちがよすぎて腰が浮く。下着ごとズボンを下ろされて、下半身をむき出しにされた。

「はぅっ、ぁ、んぁああっ」

 太ももを開かれて、袋の裏まで舐められて、気持ちがよすぎてたまらない。

 快感に堪えようとして、膝を体に引き寄せて背中を丸める。足を大きく開くことになってしまった震える俺を、蓮太はさらにいやらしくかわいがった。

「ふぁあ、あっ、く、ぁん、蓮太ぁ、あっ、あっ」

 あふれる先走りを舐めとられ、先端だけを軽く吸われて、めまいを覚えた。切れ込みを舌先でなぞられて、根元を扱かれて、強く握られたかと思うと、もどかしいくらいに優しく撫でられて、自分の体なのに制御ができなくなっていく。

「んぁあっ、蓮太、ああ、ぁ、は、ぁあう……く、ぅんっ、あっ、ああ……あっ、ああ」

 腰のあたりに劣情がわだかまって、爆発の時を待っていた。それなのに蓮太は決定的な刺激を絶妙に避けて、解放を与えてくれない。

「ふ、ぁあうっ、蓮太ぁ、あっ、もぉ……なぁ、あっ、ああ……く、ぁあんっ、は、ああうっ」

 イキたくて腰を突き出せば、根元をギュッと握られた。ビリビリと脳天にまで電流が駆け抜ける。

「ひっ、ぃ」

「まだ、ガマンして。もっともっと、かわいい健一の姿が見たいんだ。声も、もっと聞きたい」

 息交じりの声は、心臓に悪いくらいに艶やかすぎた。プシッと先走りを吹き出す箇所が、ビクビクと脈打っている。袋の中にはマグマみたいにドロドロとした欲情が、たっぷりと溜まっている。これ以上ガマンさせられたら、破裂しそうだ。

「んぁあっ、は、蓮太ぁ、もぉ、無理ぃ……なぁ、あっ、は、ああううっ」

 涙声で訴えても、蓮太は観察をするように俺のナニをながめたり、舌先でからかったり、軽く吸ったりするばかりだ。焦らされ過ぎて、頭の中がグチャグチャになって、俺は本気で涙を流して訴えた。

「蓮太ぁ……意地悪すんなよぉ……っ、ふ、ぁあっ、もぉ、キツい……からぁ、あっ、イカせてくれよぉ」

 グズグズと鼻を鳴らして頼めば、目を丸くされた。

「ふぇ……蓮太、イキてぇよぉ……なぁ、蓮太ぁ」

「ああ。ごめんね、健一。あんまりにもかわいくて、うれしくて、じっくりと味わいたかったんだ。こんなにビクビク震わせて、先走りをダラダラこぼして、袋もパンパンにさせているんだから、辛くて当然だよね、ごめんね」

「んっ、くぅ……蓮太」

 わかってくれたのか。俺がどれほど、イキたくてたまらないかを。もう、体中が性欲でいっぱいになって、全身がソレになってしまっている気がするくらい、ヤバイ状態だってことを。

「いいよ、健一。思いっきり、イカせてあげる……だから、イク顔、見せて」

 甘く言った蓮太の口に、怒張した俺が含まれる。吸い上げながら顔を上下させる蓮太は、唇から口腔、舌まですべて使って俺を愛撫し、極上の高みへと追い立ててきた。

「っは、ぁあああっ!」

 待ち望んでいた瞬間に、全身で喜びを叫びながら震えて達する。じゅるる、と吸い上げられる感覚。筒内のものを余すところなく吐き出せた快感は、空に浮かんでいるような心地だった。

「ふ、ぁ」

 極上の虚脱感。

 かつて、これほどの充足を得られた射精があっただろうか。いや、ない。他人にされることが、これほど気持ちがいいなんて知らなかった。まあ、童貞なんだから、知らなくて当然なんだけど。蓮太は知っていたのだろうか。知っていそうだなぁ。なんせ、モテるし。

 つうか、なんで蓮太は俺のナニをしゃぶったりしたんだろう。チョコレートの返礼を今もらう、と言っていたけれど。

(まさか、ホワイトデーと精液をかけたシャレとか、言わないよなぁ)

 下品なシャレも、顔がいい蓮太が言えば、上品に聞こえるから不思議だ。というか、蓮太はそんなことを言っていない。

 おかしいな? 思考があっちこっちに飛んでしまう。初めて飲んだウイスキーのせいなのか、初体験のフェラが原因なのか。

(つうか、俺、蓮太にフェラされたのか)

 性欲と絶頂の余韻が引いていくと、実感と羞恥と疑問が湧き上がった。蓮太の真意がわからない。いくら仲が良くっても、高級チョコのお礼として、しゃぶるか? てか、奉仕されたのは俺であって、蓮太にとっては、なんの礼にもなっていない気がする。

 気だるさに身をゆだねて、ぼんやりと横たわっていると、すぐそこの台所に行った蓮太が、緑色の瓶を持って戻ってきた。視線を瓶に向ければ、はにかまれた。

「オリーブオイルだよ。準備がなかったから、これで代用するね」

 なんの代用をするんだろう。注文の多い料理店という、子どもの頃に読んだ絵本を思い出した。

「裸になって、油を塗って、唐揚げにされるのか?」

 たしかそんな話だったと言った声は、気だるさのせいで眠そうになってしまった。膝をついてフタを開けた蓮太が「唐揚げかぁ」と、楽しそうにつぶやく。

「そのくらい、熱くさせるつもりではいるけどね」

 どういうことだと眉をひそめれば、グッと太ももを持ち上げられた。尻が浮いて、そこにオリーブオイルを垂らされる。

「ひゃっ」

 冷たさに声を上げると、クスクスと笑われた。

「なんだよっ」

「かわいいなぁと思って」

「はぁ?」

 ニコニコしている蓮太は、何をしようとしているんだ? オイルマッサージってわけでもないだろうし。オイルプレイってのも、考えすぎだよな。いやでも、蓮太は俺にフェラしたんだから、あり得なくもない……のか?

「なぁ、蓮太……おまえさ、俺のナニをその、しゃぶったりして、気持ち悪くないのかよ」

 おそるおそる問うと、キョトンとされた。

「いや、だからさ」

「セックスしたいと思い続けていた相手の性器なんだから、気持ち悪いなんて思うはずないだろう?」

 常識を問われた顔で言い返されて、ほんの一瞬、俺がおかしいのかと思いかけた。

「え……っ、と……今、セックスしたいと思い続けていたって、言ったか?」

「言ったよ。ずっと健一を抱きたいと思ってた。いっぱい愛撫して、体中を舐め回して、グチャグチャのトロトロにして、僕を深く埋め込んで啼かせる妄想をしながら、いつもひとりでシていたんだ」

 夢見るような、うっとりとした表情で尻に指を這わされて、ヒッと喉奥で鋭い悲鳴を上げる。

「こうしてチョコレートを受け取ってくれて、お返しで健一を食べさせてもらえるなんて、最高のバレンタインだよ」

「は? ちょ、待っ……ぅ」

 しみじみとつぶやいた蓮太を止めようと手を伸ばしたが、一足遅かった。尻の中に指を入れられて、ヌコヌコと入り口を擦られる。

「ん、ぅ、う……蓮太ぁ」

 奇妙な感覚が湧き上がって、鳥肌が立った。目じりを興奮で赤くした蓮太は超絶に色っぽくて、勝手に心臓がドキンと跳ねた。

「ふふ。健一のココ、クパクパして指に吸い付いてくるよ。赤ちゃんがママのおっぱいに吸いついているみたいだ」

「ぁ、う……やめっ」

「恥ずかしい? 大丈夫だよ。そんなこと気にする余裕もなくなるくらい、気持ちよくしてあげるからね」

 グッと内側を押されて、目の奥に火花が散った。

「ヒッ、ぃあ……っ、そこ、ぉ」

「いいんだね? ああ、健一……もっともっと、いっぱい感じて……健一のとろけた顔が見たいんだ」

「ひぅっ、あ、そんっ、ぁ、ああっ」

 指の動きが早くなって、内側が広げられる。擦るだけじゃなくて、グッと拡張された。いつの間にか、指の数が増やされている。

「ふぁ、あっ、あ……ぅん、く、ぁ、ああっ」

 だんだん妙な気分になってきた。尻の口がヒクヒクして、中がうねる。オリーブオイルのおかげで滑る指が、無遠慮に俺の内側を探索している。

「ひっ、ぁう、あっ、そんっ、あ、グリグリ……やめっ、あ、ああ」

「もっと、じゃないの? だって健一のソレ、犬の尻尾みたいにピンと勃って、震えているよ」

 指摘されるまでもなく、自覚していた。俺のアレは元気を取り戻して、内側を擦られるたびにビクビク震えながら、先走りをにじませている。

「んぁあっ、は、蓮太……も、もぉ」

 続けられたら、本気で尻が開発されてしまう。童貞前に処女喪失だなんて、冗談じゃない。

「ああ、健一のココ、すごくいやらしい動きしてる。もうそろそろ、大丈夫かな?」

 ウキウキとした声音にゾッとした。両足を持ち上げられて、尻に蓮太の体が迫る。

「ま、まま……マジでするつもりなのか?」

 頬を引きつらせると、何かの見本みたいなキレイな笑顔を向けられた。

「愛してるよ、健一」

 甘い声でささやかれて、息が止まった。破壊力がすごすぎる。顔がいいだけじゃなく、声もいいとか反則過ぎるだろ。

 衝撃にみまわれている間に、蓮太のナニの先っぽでヒクついている尻の口をつつかれた。

「早く食べたいって言われているみたいだ。パクパク動いて、くすぐったいよ」

「なら……っが、あぅうっ」

 離れろと言いかけた声が、押し込まれた圧迫のうめきに代わった。尻の口にひかかっているのは、アレのクビレだ。先っぽを入れられただけでこれなら、全部が入ればどうなってしまうんだ? というか、俺ってばマジでヤられるのか!

「蓮太、ぁ、ぁうっ」

 先っぽを入れたり出したりされて、ひっかかったクビレに入り口をめくられる。だんだん気持ちがよくなってきて、うろたえた。

「んぁっ、蓮太、やめ……冗談」

「本気だよ、健一。ずっとずっと、こうしたかったんだ。大丈夫、ゆっくりするからね」

「ひぁううっ!」

 ゆっくりだろうが激しくだろうが、ヤられることに変わりはない。入り口ばっかり刺激していた蓮太は腰を進めて、指で押されて最高に感じた場所を熱いナニで擦り始めた。

「ひぁ、あっ、そこぉ、あっ、あ……蓮太、ぁあ、あっ、あ」

 やめろと言いたいのに、出したくもない甲高い声が出てしまう。

「ふぁうっ、く、ひぃ……ぁ、ああっ、蓮太……あ、あ」

「絡みついてくるよ……とっても熱い……もっと、奥に入らせてね」

「やっ、ぁ、ダメ……っあ、がぁううっ!」

 ゴリッと音にならない感覚が脳裏に響いて、目を見開いた。俺の中の何かが、こじあけられた感覚に仰け反る。強すぎる圧迫にあえぎながら、奥を突かれる衝撃に目を白黒させていると、股間がたぎって脈打った。

 俺、めちゃくちゃ感じまくっちまってる。

「ひぁううっ、蓮太……っ、そこ、ぁっ、ダメ、変だ……あっ、ぁ、ああっ」

 根元で孔口を広げられ、角度を変えて突き上げられて内壁をえぐられて、先端で奥をぶち抜かれるたびに、自分の声じゃないみたいな高い悲鳴が喉からあふれる。

「はひぃ、あっ、はぁあううっ、そこぉ、あっ、ああっ、ひぐっ、ぁ、おううっ」

 雄たけびに似た声に煽られるのか、蓮太の動きが激しくなって、俺は孔の快感に支配された。

「かわいいよ、健一。すごく、かわいい……色っぽくて、ああ……たまらないな」

 熱っぽい蓮太の声に鼓膜が愛撫される。涙目になりながら見上げれば、頬を上気させて目をうるませた獰猛な笑顔の蓮太がいた。

(くっそ顔がいいな!)

 もっと見たいとか思ってしまった。きっとこんな顔、ほかの誰も見たことはないんだろうなと考えたら、得意な気持ちも湧いてきた。

 俺、毒されてんのか?

「健一」

 とろけた顔でほほえまれて、キュウンと心臓が絞られた。同時に尻もキュウンと閉まって、蓮太のアレを圧迫した。狭まった内側の奥を突かれれば、深くえぐられた快楽が体中に響いて股間を刺激し、俺は鼻にかかった悲鳴を上げて、ふくらませすぎた風船みたいに弾けてしまった。

「あっ、ぁあぁああああああ――――っ!」

 最後は音にならない悲鳴になった。ビュクビュクと官能を吐き出しながら、体の奥に注がれる蓮太を味わう。薄いガラスみたいな何かが、俺の中で粉々に砕ける音がした。もう元には戻れないという実感が、解放の余韻が引いて行くのと同時にムクムクと大きくなって、意識を包む。

「は、ぁ」

 ため息をつけば、キスをされた。しあわせそうな蓮太は最高に顔がいい。内側から淡く発光しているんじゃないかってくらい、やわらかいまぶしさを感じさせる美形だ。こんなに近くで見ても極上の顔とか、ずるすぎる。

「健一」

 弾んだささやき声で俺を呼び、ほほえむ蓮太が無性にかわいくてならなくなった。俺、抱かれてほだされたのか? いや、まさかそんな。

「もっともっと、してもいいよね?」

 言いながら、蓮太が動く。出したばかりのはずなのに、内側に収まっている蓮太はちょっと硬くなっていた。ゆるゆると擦られるうちに、硬さを取り戻してく蓮太の瞳にいやらしい光が浮かんでいる。誘い顔がめちゃくちゃエロくて、股間にグッと来た。

「もっとって、どんだけする気だよ」

 股間をムズムズさせながら聞けば、乳首をひねられた。

「あっ、ん」

「健一が、トロットロのグッチャグチャになるまで……そうだなぁ。具体的に言うと、僕を見るだけで、ココが疼いてたまらなくなって、物欲しそうな顔をするくらい?」

「は? なんっ、そ……あっ、ひぅ」

 ズドンと奥をぶち抜かれて、背を反らせたら乳首を吸われた。

「んぁっ、あ、蓮太」

「乳首だけでイケるくらい、開発したいし」

「ぁううっ、ん、はぁ、あっ、あっ」

 乳首を吸われながら抽挿されて、治まりかけていた性欲が燃え上がる。

「僕の精液でお尻の中が粟立って、あふれてしまうくらいたっぷりと注いで、かき回したいなぁ」

 夢見る顔の蓮太に乳首を噛まれ、腰を打ちつけられた上に、ナニの先端を指先でいじられる。気持ちがよくて、勝手に体が揺れてしまって、これじゃあ蓮太を欲しがっているみたいじゃないか。

「ひぅうっ、ぁ、蓮太ぁ、あっ、はふぅうっ、く、ぅうんっ」

「かわいいよ、健一。最高にかわいい……ねぇ、これからずっとずっと、仲良く過ごそうね。ホワイトデーには、健一から誘われたいなぁ。ココをリボンで縛って、ヤッて寝て、起きたらヤッて、って、たっぷりと愛し合う一日を過ごしたい」

「ぁひっ、ふぁあっ、へっ、変態かよぉ」

 ナニの根元を握られて悲鳴を上げれば、ニッコリと小首をかしげられた。二十歳を過ぎた男がやって、かわいいはずのないポーズなのに、蓮太だとしっくりくるのは、コイツの顔が異様によすぎるからだろう。

(くそかわいいな!)

 腹立たしくなるくらい、かわいいと思ってしまった。

「変態だよ? 健一に対しては、僕はド変態だと思う。ずっとずっと、いやらしい妄想をし続けていたからね。したくてたまらないことが、たくさんあるんだ」

 言いながら、蓮太は女の子たちからもらったバレンタインチョコの山に手を伸ばし、飾りの赤色のリボンをほどくと、それで俺の袋とナニをしっかりと縛りつけた。

「はぅうっ、な、ぁ」

「もっともっと、いろんなことがしたいんだ。健一と……ねぇ、いいよね?」

 言いながら、蓮太は他のチョコレートの包みにあるラッピングタイを取って、俺の乳首をキュッと縛った。針金の入っているそれに圧迫されて、乳首がジンジンする。それをなだめるように舌を這わされると、たまらなく気持ちよかった。

「ふは、ぁっ、ぁううっ」

「もっともっと、イイ顔を見せて? ねぇ、健一。僕も、誰にも見せたことのない姿を、健一にだけ見せるから」

 切なさを含んだ蜜のような声と笑顔に、脳みそがクラクラした。

「チョコレートよりも甘くてとろける健一が、僕にとっては最高のバレンタインプレゼントなんだよ」

 ささやきと共に与えられたキスと悦楽に翻弄されて、意識が飛ぶまで好き放題に愛された。

 こうして俺は、人生初のセックスを、顔面偏差値が極上な、親友だと思っていた相手と経験し、恋人いない歴イコール年齢に終止符を打つことになった。

 まあ、蓮太は顔がいいし、性格もいいから悪くないかもしれない。たまに、キュンとすることもあるしな。だけど、モテるために細マッチョと呼ばれるまでに筋トレを続けた俺が抱かれる側で、誰もが振り向く美形の、かわいらしいポーズさえ違和感なくできる蓮太が抱く側ってのは、見た目的に逆じゃないか?

 まあ、めちゃくちゃ気持ちがいいから……それは、なんというか、うん……まあ、いいか。俺をいじくってる蓮太の表情、心臓にも股間にも、ズドンと来るしな。

―END―
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...