初恋のチェリーシード

水戸けい

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「客引きっつうか、客が引くんじゃねぇか」

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「それでいいかな」

 充が皆に確認すると、誰もがいいとうなずいた。

(ちょうどいい。ふたりになったら、カズと翔太のことを聞こう)

 充について二階に上がった悟は、服を脱ぎつつさっそく問いを口にした。

「なあ、充。カズと翔太って仲が悪いのか?」

「え。どうしてですか」

「いや……なんか妙な雰囲気だからよ」

 うーんとかわいらしく口をすぼめて考えながら、充は悟に仮縫いした衣装を着せる。甚平みたいだなと思っていると、ひざ丈の袴を穿かされた。

「甚平と巫女さんの服の間みてぇだな」

「和風のコンセプトカフェにしようと思ってるんです。このあたりはメイドカフェとか、そういうお店が多いから」

「なるほどな」

 しっかりと帯を締められた悟は、あちこち点検する充からの答えを待った。具合を確かめ終えた充に「もういいですよ」と言われて私服に着替えなおしていると、さっきの質問ですけどと充が言う。

「ふたりは仲良しとまではいかないまでも、仲が悪いなんてこともないですよ。いっしょにお店をしようってくらいですから」

「そうだよなぁ……じゃあ、俺の気のせいか」

 いたずらっぽい顔で充が首を振る。

「なんだよ」

「たぶん和くんは、翔くんに嫉妬してるんだと思います」

「嫉妬ぉ? なんだよ、そりゃあ」

 クスクスと肩をすくめて、充は「だって」と上目づかいになった。

「和くんと石場さんって、幼馴染の仲良しなんでしょう?」

「幼馴染っつうか……まあ、そうなるのか。よくわかんねぇけど、あいつが生まれたときから知ってるな」

 うんうんと充が首を振りながら人差し指を立てる。

「だから、親し気にする翔くんに、ちょっとだけ嫉妬しているんですよ。きっと」

「よくわからねぇなぁ」

 ふふふと頬を持ち上げて、充が「かわいいなぁ」とつぶやく。

「しっかり者の和くんにも、そういうところがあるって知られて、なんだかうれしいです」

「ふうん?」

 鼻を鳴らした悟は、次に翔太を呼んでほしいと充に言われて階段を降りた。

(カズが嫉妬、ねぇ? そういや、あいつの前で誰かにべたべた触られたことはなかったな)

 だから距離の近い翔太に嫉妬をしたのかもしれないと、納得した悟の口許がゆるむ。

(大好きなお兄ちゃんを取られるかもってところか? かわいいとこあるじゃねぇか)

 ニヤニヤしながら戻った悟は、翔太に「充が呼んでるぜ」と声をかけて和臣の横に座った。

「なに?」

「ん?」

「すごく気持ち悪い顔してる」

「気持ち悪いってなぁ、なんだ」

「なんでニヤけてるんだよ」

「まあ、いろいろあってな」

「なんだよ、それ」

 仏頂面の和臣がかわいく見えて、悟は彼の肩に腕を回すとグリグリと頭を撫でた。

「うわっ! なにするんだよ」

「いやぁ。夢を実現するためにがんばってんだなと思ったら、うれしくなっちまってよ」

「わけわかんないテンションになられても困るんだけど」

「仲いいなぁ、ふたりとも」

 ニコニコする斗真に、そうだろうと悟は笑みを深めて、和臣は「はぁ?」と不機嫌になった。

「照れるなよ、カズ。さとにぃって、昔みてぇに呼んでもいいんだぞ」

「呼ばないし。なんなんだよ、急に。変なヤツだな」

 フンッと鼻を鳴らした和臣の耳がわずかに赤い。目ざとく見つけた悟は、照れているなとニンマリしながら、テーブルに広げられたメニュー案を視界に入れた。


 タバコを灰皿に押しつけて時計に目を向けると、十時をすこし回っていた。

(あ。そういや先に行くとか言ってたな)

 よっこらしょっと立ち上がり、上着を着てマフラーを巻きながら靴に足を突っ込む。ひやり、というより、キン、と冷えた空気の薄い膜の中を悟は進んだ。

 道順はわかっているが、ひとりでキャラクターの看板やメイド服の女性たちの間を行くのは、なんとなく気恥ずかしい。自然と足早になった悟は「おーぅ」と適当なあいさつを口にしながら、店の引き戸を開けて固まった。

 ミニスカートみたいな袴姿の若い女が、いっせいに悟を見る。

「あ」

 ガラガラピシャンと戸を閉めた悟は、数歩下がって店構えと周囲を見回し、間違ってはいないと確認してから、そろそろと店の戸を開けた。

 やっぱり女性たちがいる。代わりに和臣たちの姿は見えない。

「あ、ええと」

 どうしたもんかと困っていると、肩より長い黒髪のサイドを大きなリボンでうしろにまとめた女性が、ずかずかと近寄ってきた。

「なにやってんだよ」

 その声に、悟は仰天した。

「っ?! も、もしかして……カズか?」

 目を白黒させる悟に、フンッと荒い鼻息をかけた和臣は彼の腕を引いて店内に入れた。とまどいつつ足を踏み入れた悟は、背後で戸の閉まる音を聞きながら女性たちをながめる。

「ビックリした?」

 うふふとかわいらしく前かがみで上目遣いをしてくる、セミロングの茶髪の少女が充の声で言う。

「なんの予告もなく、いきなりこれだとおどろくよな」

 気の強そうなポニーテールの女の子が斗真の声を出し、どこかの令嬢にしか思えない、ふんわり巻き髪の上品な美少女が艶然と悟に近づいた。

「僕たちだって、わからなかったんですね?」

「お、おう」

「コンセプトカフェっつったろ?」

 たじろぐ悟の背中にぶっきらぼうな和臣の声がかかった。振り向いた悟の目には、清楚な女が不機嫌になっているとしか映らない。

「ほんとに、カズなんだよな」

「俺のほかに、誰がいるんだよ」

「いやぁ……まあ、よく見りゃあカズだけどよ。なんつうか、うまく化けたもんだな」

「えへへ。そうでしょう?」

 充がうれしそうに、ぴょんっと悟の横に来た。

「そんで。なんでおまえら、女装してんだ?」

「あれっ? そこ、話してなかったんだ」

 充が和臣の前に出る。小首をかしげる充は、そのへんで歩いている女よりもずっとかわいらしい。

(カズも、にっこり笑えばヤマトナデシコとまではいかないまでも、美人の部類に入るよな)

 化粧も不自然ではないし、ショート丈の袴から伸びる脚も男のものとは思えない。いったいなにがどうなっているのか。

「まあ、言いづらいよな。女装して店をするなんてさぁ。こうして見せちまったほうが、納得してもらえそうだし」

 ぽんっと悟の腕を叩いて「なあ」と歯を見せる斗真も、なかなかに上玉だ。ネコのような瞳と揺れるポニーテールがマッチしている。

「俺たちの女装、どうよ」

 ふふんと胸を張る斗真に惚れる男はいそうだなと思いつつ、悟は「ええと」と頬を掻いた。

「そんなふうに聞いても、悟さんならやさしい言葉をかけてくれそうですよね」

 そっと肘に手を添えた翔太に、しっとりと色気を含んだ笑みを向けられた悟はドギマギした。

(男だってわかってんのに、なんかヤベェな)

「心の中で、いくら気持ち悪いって思っていても……ねぇ?」

「ああ、いや。べつに、気持ち悪いとかは思ってねぇよ」

 否定して、ああそうかと悟は気づいた。

(あれか。カズがムスッとしてんのは、否定されるかもしんねぇって不安になっているからか)

 かわいいとこあるじゃねぇかと、悟はにっこりした。

「ずいぶんと、べっぴんに化けたじゃねぇか」

 真正面からほめられて、目をまるくした和臣の頬がふわあっと赤くなる。初々しい反応に、悟はニンマリした。

「化粧とかも練習したのか? ゴテゴテしてねぇし、どっからどう見ても女にしか思えねぇな。合コンで会ったら間違いなく連絡先を聞いてるぜ」

 ガハハと笑った悟の前で、和臣がゆでだこのようになる。頭から湯気が出るのではと心配になるほど真っ赤になった和臣が、ぷいっと顔を背けた。

「おっ?」

「このあたりはメイドカフェが多いから、男の娘カフェっていうのを、しようと思ってるんだ」

 斗真の説明に、悟は目をしばたたかせた。

「おとこのこ、てなぁ、なんだ?」

「男、の、娘、と書いて、おとこのこって読むんだよ」

「つまり、女装ってこったろ」

「ざっくり言えば、まあ……そうだな」

 ふうんと悟は全員をじゅんぐりにながめた。もとが男だとは思えない。

「マジに、うまく化けたもんだなぁ」

「骨格とか、やっぱり女の子とは違うから。そういうものをごまかすためには和装もどきがいいかなって、この衣装にしたんです」

 袖を広げた充に、なるほどなぁと悟は感心する。

「このへん、メイドカフェとか魔法学園カフェとかはあるけどさ、和風ってのはなかったし。定食屋に合ってるだろ?」

 腰に手を当てる斗真に、確かになぁとうなずいた悟は「ああ、そうか」とひらめいた。

「なるほどな!」

「なにが、なるほどなんだよ」

 赤い顔のままの和臣ににらまれて、悟は自分を親指で示した。

「俺は用心棒なんだろ」

「は?」

「いや。おまえらだけじゃあ、変な客がくるかもしんねぇじゃねぇか。そんときに、俺みてぇなガタイのいいのが厨房から出てきたら、抑止力になるっつうか、からまれても撃退しやすいだろ。ああいうのはたいてい、自分よりも弱そうな相手にしか偉そうにしねぇからさ」

 そうかそうかと納得している悟に、確かにと充が感心し、そこまでは考えてなかったなと斗真が言う。

「悟さんみたいにたくましい方がお店にいたら、変な人にからまれたりはしなさそうですね」

 ふふっと上品に目を細めた翔太に二の腕を撫でられた悟は、そうだろうと得意になった。

「ミニスカみてぇなハイカラさんが働いて、用心棒として俺が厨房をあずかるってのは、おもしれぇ企画だな」

 昔の映画なんかにありそうな設定だと悟が笑うと、充が和臣の手を引いた。

「石場さんも衣装を着てくださいよ」

「おっ。ああ、俺のも作ってたんだったな」

 甚平みたいな昔の料理人っぽい恰好になるのかと、悟は充に引かれるままに二階へ上がった。あとから和臣もついてくる。

「はい」

 充に渡され、先週袖を通したものを羽織って、袴を穿いた悟はギョッとした。仮縫いで試着した時よりも裾がピラピラしているし、裾も短くなっている。

「うえっ? なんだこりゃ」

「思ったよりも裾がふわっとしなかったから、ちょっとヒダをふやしてみたんです」

「いやいや。そういうことじゃなくってよぉ……なんで俺も、ハイカラさんみてぇな恰好をするんだよ」

「なんでって、石場さんもメンバーだからですよ」

「いやいやいやいや」

 悟は頬をひきつらせて和臣を見た。和臣は腕を組んでニヤニヤしている。

「ま、まさか俺も化粧をするとか言わないよな」

 頬を引きつらせつつ、悟は後ずさる。

「俺が化粧なんてしたら、ただのバケモノだぞ」

「そういう需要もありますよ」

 悪意のない充のコメントに、悟は「うっ」とみぞおちを殴られたような声を出した。

「男らしい人が女装しているのをよろこぶ人って、一定数いるよねぇ。女の人とか、けっこう多かったりするし」

 ねぇ、と充が和臣に同意を求める。和臣はじっと悟を見た後、彼の青い顔に吹き出した。

「っ、はは! そんなにビビんなよ。悟は化粧しなくても、その恰好をしているだけで客引きになるからさ」

「客引きっつうか、客が引くんじゃねぇか」

「さっきも言いましたけど、似合わない女装が好きな人もいるんですよ」

「フォローになってねぇよ」

 和臣の笑顔と充の無垢な声に、悟の警戒が解けた。すかさず充がリボンを手にする。

「それで、石場さんはどっちにしますか?」

「は?」

「リボン、どっちがいいですか」

 充の手には黄色いリボンが二種類ある。右手にはちいさなものがふたつ、左手にはおおきなものがひとつ。

「ええ……と」

 どういうことだと悟が和臣を見ると、和臣は自分の後頭部を指した。

「みんな、リボンをつけることになっているんだよ。色はそろいで、大きさ違いを」

 そういえばと悟はふたりを見比べる。和臣はおおきなものを、充はちいさなものをふたつつけている。

「悟もつければ、間違いなく全員が男で女装をしているって言いやすいからな。たまにいるんだよ。本当に男なのか、証拠を見せろとか言うヤツがさ」

 顔をしかめた和臣に、うんうんと真面目な顔で充が同意する。

「まあ、気持ちはわからんでもないけどな」

「純粋な疑問だったらいいんですよ。そうじゃなくって、いやらしい目的とかで言ってくる人とか、すっごく気持ち悪いんです」

 ぷうっとふくれた充は愛らしく、いたずらしたくなる男もいるだろうなと悟はぼんやり考える。

「まあ、乗りかかった舟だ。化粧をしなくていいんなら、リボンぐらい」

「それじゃあ、どっちにします?」

 ふくらんでいた頬を元に戻した充に二種類のリボンを差し出され、悟は困った。

「どっちと言われてもなぁ」

 つけたことがないので、どっちを選べばいいのかわからない。助けを求めて悟を見れば、しかたがないなと表情で言われた。

「ちっさいのでいいんじゃないか。髪が短いから、大きいのはつけにくいだろ」

 自分の頭に手をやって、悟は「そうか」とつぶやいた。

「ウィッグをつけるつもりでいた?」

「いんや。そういうもんを、どうつけるのかわかんないからよ」

 手振りでしゃがむよう和臣にうながされ、悟が腰をかがめると、充は手早く頭の左右にリボンをつけた。

「髪をはさむだけだから、簡単につけられますよ」

 鏡を向けられ、首を左右に動かしてリボンのついた自分をたしかめた悟は妙な顔をした。

「まさか頭にリボンをつける日がくるとはなぁ」

 しみじみとつぶやいた悟に、クスクスと充が肩を揺らす。

「それじゃあ、俺は先に降りてるから。片づけよろしくね」

 鏡を和臣に押しつけて、充はトントンと階段を降りていった。その音に「おうっ」と返事をしながら、悟は脱いだ服をまとめる。

「なあ」

「ん?」

「なにも聞かないのか?」

「なにを聞かれてぇんだ」

 服を部屋の隅に置いて振り返った悟は、警戒をみなぎらせた和臣に首をかしげた。

「なんだよ。野良猫みてぇな顔してよ」

「野良猫ってなんだよ」

「近づいてくるのか来ねぇのかって、緊張してる野良猫そっくりだぞ。なにビビッてんだ」

「ビビることなんて、なにもないだろ」

「ない……と思うけどよ。おまえは警戒心むき出しにしてんじゃねぇか。つうことは、なんかあるんだろ。なんだよ、言ってみろ」

 そのために充は気を使って、ふたりきりにしたのではと悟は階下を意識した。

(翔太となんか、あったのかな?)

「……変だとか、思わないのかよ」

「ん?」

「だから、俺のこの恰好」

 顔をそむけながらも視線で気にする和臣に、悟はきょとんとした。

「別に。似合ってると思うけど?」

「えっ」

「なんつうの? けっこうかわいいと思うぞ。頭と耳では和臣だってわかっていても、目が信じられねぇっつってるぐらいだ」

「なんだよ、それ」

「なんだって、そのまんまだよ。どっからどう見ても女にしか見えねぇってこった」

「そういうことじゃなくて」

「どういうことだよ」

 いらだちに唇をわななかせた和臣は、もういいとそっぽを向いた。

「なんだよ。ほめてんだから、怒るこたぁないだろう? せっかく美人になってんのに台無しだぞ」

「美人とか、そういうお世辞を軽々しく言えるヤツだとは思わなかったよ」

「世辞じゃねぇよ。マジでかわいいって。つうかモロに俺の好みだから、知らずにナンパしちまいそうだ。――もしかして、俺に惚れられたくてそんな恰好してんのか?」

 カラカラ笑う悟の脇腹に、和臣のこぶしがめりこんだ。

「うおっ! 痛ぇな。なんだよ、照れ隠しか?」

「バカ言うな。こういう清楚っぽいのはウケがいいんだよ」

「なるほどなぁ」

 腕を組み、悟はあらためて和臣を観察した。恥ずかしそうに、和臣が手指を組む。

「そういやぁ、昔はよく女の恰好させられてたなぁ」

「ふたりの姉の着せ替え人形だったからな」

 うんざりする和臣に、ハハッと悟は明るく思い出を語る。

「泣きながら、俺ん家に逃げて来たことがあったな。お姫様みてぇなキラキラふわふわした服でよぉ」

「あれは……あのとき姉ちゃんたちがハマッてたアニメのキャラクターの衣装だよ。三人組だったから、俺もメンバーにされたんだ」

 下唇を突き出す和臣に、悟はそうだったそうだったと膝を打った。

「覚えてるか? このまんまじゃ女になっちまうって泣きじゃくるおまえに、そうなったら嫁にもらってやらぁって言ったんだ」

「そんな、昔のこと」

 目を伏せた和臣に、覚えてるわけねぇよなと悟は豪快に笑う。

「けど。その恰好のおまえを見てると、嫁にもらってもいいって思えるな」

「バカバカしい」

 吐き捨てた和臣の耳が赤い。

「それに、俺はあのとき反論したはずだけど」

「なんだ。覚えてたのかよ。――なんだっけ。たしか、反対に俺を嫁にするとか言ってたな」

「俺は男だから、嫁にもらわれるのは違うって思ったんだ」

「そんで俺ぁ、楽しみにしとくって答えたんだっけか。なつかしいなぁ」

 ほっこりとなつかしむ悟に、和臣がもの言いたげな目を向ける。

「お? なんだよ」

「別に。さっさと降りよう」

「ああ。あいつらに俺の感想を聞いてみねぇとな」

 ニヒヒと子どもみたいに笑った悟の背後で、和臣は真っ赤になった顔を両手でおおった。


 斗真が悟を指さしてゲラゲラ笑うと、充は「かわいいと思うけど」と首をかたむけ、翔太は口元に手を当てて好意的にほほえんだ。

「衣装もバッチリ決まったところで、会議をはじめようよ」

 充の音頭で全員が席に着き、それぞれのノートを広げる。

「そういや、店の名前は決まってんのか?」

 悟の問いに、おうっと答えた斗真がタブレットを見せる。チェリーシードとタイトルのついたカフェのブログが開かれていた。

「とりあえず、ブログを開設したんだ」

「チェリーシード……ドーテーの種ってか? 女を知らねぇヤツは、おまえらにコロッと参っちまいそうだもんな」

「そういう下品な理由、よく思いつけるな」

 しかめ面の和臣に、ニヤリとした悟は左ひざに右の足首を乗せた。

「一応女装なんだから、そういうポーズはしないでほしいんだけど」

「いちいちうるせぇな。こういうのが好きなヤツもいるかもしんないだろ? つうか、俺がしずしず女っぽくしたって、気持ち悪いって。いっそのこと、恰好だけが女で中身は完全にオッサンってほうがおもしろいじゃねぇか」
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