とろけろ甲鉄

水戸けい

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パートナーになれば、時哉に存在を認識されるどころか、ずっと僕を思ってもらえる。

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 * * *

 プリンアラモードにチョコレートケーキ。あとミックスジュースと砂糖を三杯入れたカフェオレ。ついでにいつものカスタード入りメロンパンを前に、手を合わせる。

「いただきます」

「今日はまた、すごい量だね」

 顔を上げれば、紅茶とチーズケーキをトレイに載せた優弥がいた。

「ちょっと、頭がパンクしそうで」

「へえ。昴でも、そんな事があるんだね」

「僕は別に、甲鉄で出来ているわけじゃないから」

 優弥と斗真に教えられた、あだ名なのか、ふたつ名なのかよくわからない謎の呼称を口にすれば、バツが悪そうな顔をされた。

「周囲は勝手なイメージで色々と言うものだからね。かくいう僕も、王子だなんて呼ばれているけれど、ちっともそんな事はない」

 興味を引かれて視線を向ければ、上品な笑みを向けられた。

「周囲の期待通りに振る舞っているだけなんだよ。イメージ通りになろうと努力をしているんだ。おかげで、肩が凝ってしかたがないよ」

 わざとらしく肩を回されて、ふふっと笑いが漏れてしまった。

「変な色眼鏡で僕を見ない、という点と、最高の実力を持っているという点で、昴は理想のパートナー候補なんだけどなぁ」

 頬杖をついて上目遣いをしてくる優弥に苦笑を浮かべて、生クリームとプリンをすくった。

「あ、そうだ。優弥はパートナーについて、どう考えている?」

「パートナーについて? そうだなぁ。単純に、相棒と言っても色々なパターンがあるからね。戦友? うーん、少し違うな。苦楽を共にする相手、という言い方も何か違う気がするし」

「ある人が、人生のパートナーでもあるって言っていたんだ」

「なるほどね。それは、あると思うな。ほかのスポーツでも、たとえばフィギュアスケートとか、ペアの相手が恋人や夫婦という場合も少なくないらしいし、この分野でも、そうだよね」

「そう、なんだ?」

「昴は、選手の人間性とかに興味はないのかな? どんな人なのか、気になった事はない?」

「あまり、無いかな」

「そっか。そういうのを気にしすぎるから、サポーターはいらないって言っているんだと思っていたよ」

「どうして?」

「強いこだわりがあるから、簡単に相手を受け入れないっていうか、野性の獣みたいに警戒を解かないと言えばいいのかな? パートナーに対して、思い入れが強いから、ずっとひとりでプレイをしているんだと思ってた」

 そんな事はないと首を振れば、また「そっか」と言われた。

「気分を悪くしたら、ごめんね。身寄りがないから、生活費を稼ぐためにプレイしているって聞いて。だから余計に、パートナーに対して厳しい基準を持っているんだって想像していたんだ。家族みたいなものに、夢を持っているというか、絶望しているというか」

 夢と絶望なんて、相反するものなのに、同列に語るなんて不思議なヤツだ。だけど、なんとなく理解はできた。

「そこまで深く考えてはいないんだ。ただ、認められたい相手がいて、その人と対戦したい。その時に、僕以外の誰にも介入されたくないんだ。僕だけで対峙したい。他の誰も意識されたくないんだよ。僕と向き合っている間は」

 プリンを崩しながら語れば、温かなまなざしを向けられた。

「大好きなんだね、その人が」

 瞬時に顔が赤くなった。首筋まで熱くなって、ごまかせないと悟ったから、素直にうなずく。

「だから、パートナーはいらない」

「ふうん? だけど、その人はパートナーがいるんだよね。だったら、いくら昴がひとりで挑んでも、相手はパートナーを見ているよ」

 言葉に詰まって、カフェオレを飲んだ。時哉にパートナーはいない。時哉は僕を求めてくれている。その気持ちが変わらなければ、時哉はひとりだ。だけど、今のままだと対戦できない。時哉がプレイヤーに戻ってくれたら、戦えるのに。

「昴は、その人とパートナーになりたいとは思わないの? そうしたら、昴の望みは叶えられるよ。相手は昴だけを見て、昴の事を一番に考えてくれる。そうでしょう?」

 優弥の言う通り、パートナーになれば、時哉に存在を認識されるどころか、ずっと僕を思ってもらえる。だけど、そんなこと、言われるまで考えもしなかった。

「思った事は、無いな。ずっと、対戦する夢を見続けてきたから」

「そっか。だけど、対戦するならパートナーは必須だからね。酷な事を言うけれど、昴の望みは、永遠に叶わないよ」

 キュッと唇を引き結んだ。スプーンを握る手に、自然と力が入ってしまう。

「それに、昴もパートナーを選ばないと、その人と対戦できないよ。まさか、非公式戦を挑む気じゃないよね?」

「非公式でも、戦えるならかまわない」

「もしそれが叶ったとしても、やっぱり相手はパートナーを連れているだろうから、昴の望み通りにはならないって、ちゃんと認識しておいた方がいい」

「うん」

 ずっしりと大きな石が、腹に落ちたような気分になった。プリンを口に含む。なぜか甘味を感じられない。パクパクと口に放り込んでも、味がしなかった。気の毒そうな優弥の視線に、肌がヒリヒリする。

 どうやったら、時哉ひとりと対戦ができるんだろう。時哉に僕を見てもらいたい。僕だけを認識してほしい。時哉の世界を僕で染めたい。そして僕も、時哉でいっぱいになりたい。時哉に存在を認められたい。受け入れられたい。何年も、ずっとそれだけを願ってきた。時哉との時間を誰にも邪魔されたくない。だけど、それは優弥の言う通りに不可能だ。時哉がプレイヤーに戻って、単体で僕と対戦をすると言ってくれない限りは。

 プリンアラモードを食べ終えてメロンパンの袋を破ったら、ハッと思いついた。

「できるかもしれない」

「ん?」

「僕の願いは、叶うかもしれない」

「どういうこと?」

「非公式なら、パートナーがいなくても対戦できる」

「それは、そうだけど。でも、相手はパートナーがいるんだろう?」

「いないんだ。だから、僕と時哉だけの対戦は可能だ」

「へぇ?」

 ニヤリとされて、我に返った。

「対戦したいって言っていたのは、単に首席同士のライバル意識だと思っていたけど、そこまで強い想いがあったんだね。だったら、やっぱり、時哉とパートナーになってしまえばいんじゃないかな? 時哉は昴と組みたがってる。昴の望んでいる、誰にも介入されない関係が築けるよ」

「でも、そうなったら僕の長年の夢は果たせない。僕は時哉と戦いたくて、この世界に入ったんだから」

「そっかぁ」

 うーんと優弥がうなる。こんなふうに同年代の人間と会話をするのは、初めてかもしれないなと、ふと気がついた。

「なんだか、不思議だな」

「何が?」

「優弥には、自然と言葉が出てくる」

「光栄だね。それってつまり、僕とは友達になれそうだって事でいいのかな?」

 かわいらしく小首をかしげられた。恥ずかしくなって顔を逸らすと、クスクスと笑われた。

「甲鉄に囲まれている心を、開けてもらえたって自慢してもいい?」

「別に、心を甲鉄で包んでなんてない」

「周囲は、そう思っているんだよ。じゃあ、僕が昴の友達第一号って事で、いいのかな?」

 照れくさすぎて、まともに優弥を見られない。

「まあ、いいけど……別に」

 友達の存在なんて、意識してこなかった。時哉に近づく事だけ考えて生きてきたから、いなくても気にしなかった。だけど、優弥なら悪くないかもしれない。

「ありがとう、昴。僕と友達になってくれて」

「ん」

 お礼を言われる理由はわからないけど、受け止めておく。どうにもできない照れくささをごまかしたくて、乱暴にメロンパンにかじりついた。

「ところで、さっき言っていた、昴と時哉だけの対戦が可能って、どういう意味? 時哉にプレイヤーに戻ってほしいって頼むのかな?」

 首を振って、カフェオレで口の中にあるものを飲み下す。

「サポーターのままでも、対戦できるんだ。ああでも、対戦って呼ぶのは、ちょっと違うかな」

「どういう事?」

 ちょっと前に、斗真にされた提案を説明すれば、なるほどと納得された。斗真ができたんだから、時哉にできないはずはない。

「本当は、プレイヤーとして対戦したいんだけど」

 時哉があくまでサポーターである事にこだわっているのなら、シューティング形式で場面を構築してもらって、僕がそれに挑むという形を取るしかない。

「受けてもらえるといいね」

 笑顔を深めた優弥に、強くうなずく。僕の夢。ずっと追い求めていた望みを手に入れるために、絶対に受け入れられたい。

「そういうことなら、アドバイスがあるんだけど」

「え?」

 キラッと鋭く目を光らせた優弥に耳打ちされた内容に、体中が熱くなる。

「これなら互いに納得ができるし、絶対に受けてもらえると思うよ」

 自信に満ちた優弥の笑みに、心をモジモジさせながら「うん」と答える。僕の望みと、時哉の望みをぶつければ、きっと誘いに乗ってもらえる。優弥の案は、時哉の気持ちが本物だったら、どちらにとっても魅力的な内容だった。

(時哉が本気で、僕を人生のパートナーにしたいと望んでくれているのなら)

 きっと申し出を受けてくれる。期待と不安を胸に、メロンパンをたいらげて、チョコレートケーキに取り掛かった。
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