上 下
22 / 98
【告白】

7.

しおりを挟む
 ホスセリの言葉に、トヨホギは静かに目を見開いた。

「つまり、そなたの配下でもあるということだ。トヨホギは我の妻。エミナの女王なのだから」

「いままでのように過ごしてはいけないと――?」

 こぼれ落ちそうなほど目を大きくしているトヨホギの頬に、ホスセリは手のひらを添えた。

「薄々は、わかっていたはずだよ」

 トヨホギは視線を落とした。ホスセリの腕が、ふわりとトヨホギを包む。

「段階を踏んで、そういう関係に慣れていけたらよかった。……すまない」

 トヨホギは首を振り、ホスセリの上衣を握った。

「ホスセリのせいじゃないわ。すべては戦が悪いのよ。戦が、時間も人も奪ったんだわ」

 言いながら、そのとおりだとトヨホギは思った。戦さえなければ、ホスセリはこんなに急いで国王にならずにすんだ。すこしずつ父親から国王としての権限を譲り受け、シキタカとの立ち位置も納得のいく形に変化させていけた。

(私も、そうして気持ちを切り替えていけたはず)

 帰還してすぐにホスセリを王とするため、トヨホギは婚礼の宴も経ずに男女の営みをしなければならなくなった。

 それに不満はない。

 子どものころからホスセリの妻になるのだと思い続けていたから、とうとうその日が来たのだと思っただけだ。しかしそれが、周囲との――シキタカとの関係の変化に直結するとは考えてもみなかった。

(思慮や認識が足りなかったのね)

 シキタカはホスセリの弟だから、いままでどおりに過ごせるものと疑ってもみなかった。侍女からの扱いは、それまでも次期国王の妻として接されていたので違和感はない。民との関係もきっと、そう変わりはしないだろう。

(シキタカと、気安く言葉を交わせなくなるのかしら)

「すまない、トヨホギ」

 ホスセリは気落ちして見えるトヨホギの、ちいさな肩に謝罪の言葉をかけた。

「だが、これは大切なけじめなんだ」

「けじめ?」

 トヨホギが顔を上げる。

「我も、変わらず三人で過ごしていたいと思う。だが、先の戦の原因を考えると……」

 言葉を切ったホスセリが、やるせなく首を振った。

「ホスセリ」

 トヨホギはホスセリの頬に手を添えた。

 先の戦は、大君のふたりの皇子が次の大君の座を奪い合ったのが原因だった。どちらの皇子も互いにゆずらず、それぞれの皇子を支持する者等が争いをはじめ、それが大きく膨れ上がり、都から離れたエミナの男たちも行かねばならぬほどの戦となった。

「シキタカは、そんな人じゃないわ」
しおりを挟む

処理中です...