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【苦悩】

16.

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 羞恥に体を硬くして顔をそらしたトヨホギの耳朶に、ホスセリの唇が触れる。耳に舌を差し込まれて、トヨホギはそんなところまでもが快感を生み出すのかと驚いた。

「ふぁ、あっ、あ……っ」

「トヨホギ……、ああ」

 切なくかすれたホスセリの熱っぽい息に、トヨホギの肌がわなないた。ホスセリの指は秘処を広げて、円を描くように媚肉を刺激する。

「ひっ、あぁあ……、あっ」

 トヨホギの奥から、さらなる蜜が湧いてくる。ホスセリはそれを掻き出すように指を動かした。淫靡な水音が室内に響く。

「ふっ、んぁ、あっ、……それ、あ、ああ」

「こんなに濡れて。気持ちがいいのだね」

「んっ、言わないで……、ああっ」

 シキタカはそんな言葉を、濡れた音をどんな気持ちで聞いているのだろう。

 ふっとよぎった考えが、トヨホギの官能を強くした。

「ふぁあっ、あ、あっ、ああ」

 肉花がホスセリの指にすがった。それをほどくように、ホスセリは指を動かす。たっぷりと濡れたトヨホギの内壁は淫らに熟れて、指では届かぬ奥が慰めてほしいと訴えた。

「ふっ、ぁん、う……っ、うう」

 あふれた蜜が尻を伝って敷布を濡らす。準備はできたと、ホスセリはトヨホギの唇を唇で抑えて身を起こした。座位になったふたりを確認したシキタカが忍び入り、トヨホギの背後から寝台に上った。

「ふっ、ん、んんっ、んぅ」

 知られてしまってはいるが、あくまでもシキタカはホスセリの化身として行動すると決めている。その意思を尊重するとともに、己の嫉妬をなだめるために、彼女にシキタカの姿を見せてはいけないと、ホスセリはしっかりとトヨホギの頭を手のひらで包み、唇をむさぼり続けた。

「ふ、ぅん……、んっ、ん」

 腰に回ったホスセリの腕が強すぎて、身じろぎすらもできなくなったトヨホギは、シキタカが現れるのだと気づいた。

「ふっ、んぅ」

 彼の姿を見てはいけない。あくまでもシキタカはホスセリの化身として、自分と身をつなげるのだから。

 そう思ったトヨホギの奥は熱くほとびて、あふれた蜜が太ももを伝った。これほどまでに濡れている自分は、シキタカにどう見えているのだろう。

(私はホスセリの妻よ)

 シキタカの妻ではないと自分に言い聞かせつつ、トヨホギはホスセリの首にすがりつき、口吸いに集中しようとした。

(やはりトヨホギは、兄者でなくばダメなんだ)

 ホスセリに全身をゆだねるようにすがりつくトヨホギを見て、シキタカの胸は切り裂かれたように痛んだ。

(私情を挟むな。俺は兄者の化身なんだから)
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