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第二十四話
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目立つ力は相手も使えない。だから、ある程度はいけると踏んでいた。
「まず……一人!」
純麗が上段の正拳突きで一人を戦いから退場させる。それを見ていた後続が続けざまに襲いかかる。
「そういうの、バカの一つ覚えって言うんだよ!」
小柄な女を掌底で突き飛ばすと、三人目が振りかぶった拳を身を低くしてかわし、そのままの体制で横蹴りを叩き込む。足を蹴られた男は体勢を崩して倒れた。その男の胸に、純麗は拳を突き落とす。
(死んではいないでしょ)
所詮、少女の攻撃だ。それで大の男が命を落とすことなどあり得ない。
純麗が次の攻撃に備えようと顔を上げると、手に刃物を持った者たちが走ってきていた。
「凶器を持ってもそれじゃ同じだよ!」
すぐに迎撃態勢を整えようとしたとき、肌に嫌なひりつきを感じた。
「くっ……乗っ取るつもり?」
純麗は眉間にしわを寄せた。しかし、相手の目論見は功を奏さない。
(腰抜けのプロテクトが役に立ってるってことか……あいつにも一応感謝しとこうかな)
そんなことを考えながら敵の凶器をかわしつつ攻撃を加えていく。
相手の攻撃は単調だ。しかし、純麗は早くも己の限界を感じ始める。
「……はぁ……はぁ……人間の体って不便だな……」
息が上がる。それでも、少女一人でこの数を相手にしていることを思えば善戦していると言える。むしろ、上手くいき過ぎている。
(全部……中身はなしか)
おそらく、今相手にしている者たちは操られているだけに過ぎない。敵の狙いはジワジワと純麗の体力を削ぐことだろう。
(シン派の入れ知恵か……!)
そうこうしているうちに複数の敵に取り囲まれた。
段々と、その拳には力が入らなくなる。
「司令塔は……どこだ!」
苛立ちと共に叫ぶが、目の前の敵はただ攻撃を加えてくるだけで反応はない。
やっとの思いでその集団を突破したところで。
「そろそろ……かねぇ」
値踏みするような耳障りな声。
悪寒がしてそちらを振り向くと。
ニヤァ。
何度見たか分からない悪趣味な笑い。
「やっと……お出ましか!」
大柄な男を前に純麗の目がギラつく。
「殺して……やる!」
彼の中にすでに元の人格は入っていないだろう。そんな器用な奴らではない。
「できるのかねぇ……そんな様子で」
純麗の肩は上がり、瞳孔は開きかけていた。
「やって……やるさ! この後ろには捨てられないものがあるんでねっ!!」
駆け出す純麗。
その手があと一歩で男に届く、そのときに。
「…………あ、れ?」
足が、動かなくなった。そのまま、アスファルトに崩れる純麗。
「これは……ウイルス?」
己の足を見下ろすと、小さなノイズが走っていることに気がついた。
「アハァ、あいつの言ってた通りだぁ」
男が口の端をつり上げる。
「くそっ、そんなことしたらシステムに見つかるはずじゃないのか!?」
「もっとマシなプロテクトをかけとくんだったなぁ」
男に言われて、自分にかけられているはずのプロテクトを確認する。
「そんな……乗っ取られてる!?」
自分を守るはずのプロテクト。そのプログラムが割り込まれ、内部の情報を遮断するフィールドに変更されていたのだ。
「いつ……!?」
プログラムを変更するには直接的な干渉が必要だ。いったい、いつどこで接触されたのか。そう思って辺りを見回すと、純麗は自分の体にある物を見つけた。
「針……?」
腕からの少量の出血。そこに小さな針が刺さっていた。その針の上部からは溶けるように文字が流れ出ている。
(奴らのうちの誰かか!)
戦いの最中に仕込まれたのだろう。
「やっとこれであんたの体をじっくり痛めつけられる訳だよなぁ」
男が純麗の胸ぐらを掴む。
「くそっ!」
男はこれ見よがしに顔を近づけた。その顔は狂喜に満ちていた。
「その汚い手をどけろ!」
体が動かない。だから、声だけで威嚇する。
「せっかくこうして捕まえられたのに離す訳……ないだろ!」
ドカ。
「……う」
男の膝が純麗の腹にめり込んだ。
「どれくらい持つかなぁ……早く死んじゃうのは勿体ない……な!」
今度は男の拳が顔面を捉えた。純麗は先ほどの腹への膝蹴りでうめき声を上げることさえできない。唇からは血が流れた。
しかし、彼女の心は男の攻撃を受ける度に静かになっていった。
(……やっぱり、人間の体は不便だな)
ドス。
(痛いな……あの頃は痛みなんて知らなかった)
ガッ。
(あーあ、やっぱり無茶だったかなぁ)
ゴッ。
(……みんな逃げられたかなぁ)
視界が狭まっていく。
「…………遙香……咲良…………シン……」
小さく、残してきた者たちの名を呼ぶ。
(暗い……)
「何だ? もう終わりか? つまらないなぁ…………ま、あと二人残ってるか」
興味を失ったかのように純麗の首を絞め始める男。
「じゃあな」
男はさらに力を込めた。
「……その手を……離せ」
「あ?」
男が不審な声に振り向こうとしたとき。
ドッ。
その体は宙を舞った。
「まず……一人!」
純麗が上段の正拳突きで一人を戦いから退場させる。それを見ていた後続が続けざまに襲いかかる。
「そういうの、バカの一つ覚えって言うんだよ!」
小柄な女を掌底で突き飛ばすと、三人目が振りかぶった拳を身を低くしてかわし、そのままの体制で横蹴りを叩き込む。足を蹴られた男は体勢を崩して倒れた。その男の胸に、純麗は拳を突き落とす。
(死んではいないでしょ)
所詮、少女の攻撃だ。それで大の男が命を落とすことなどあり得ない。
純麗が次の攻撃に備えようと顔を上げると、手に刃物を持った者たちが走ってきていた。
「凶器を持ってもそれじゃ同じだよ!」
すぐに迎撃態勢を整えようとしたとき、肌に嫌なひりつきを感じた。
「くっ……乗っ取るつもり?」
純麗は眉間にしわを寄せた。しかし、相手の目論見は功を奏さない。
(腰抜けのプロテクトが役に立ってるってことか……あいつにも一応感謝しとこうかな)
そんなことを考えながら敵の凶器をかわしつつ攻撃を加えていく。
相手の攻撃は単調だ。しかし、純麗は早くも己の限界を感じ始める。
「……はぁ……はぁ……人間の体って不便だな……」
息が上がる。それでも、少女一人でこの数を相手にしていることを思えば善戦していると言える。むしろ、上手くいき過ぎている。
(全部……中身はなしか)
おそらく、今相手にしている者たちは操られているだけに過ぎない。敵の狙いはジワジワと純麗の体力を削ぐことだろう。
(シン派の入れ知恵か……!)
そうこうしているうちに複数の敵に取り囲まれた。
段々と、その拳には力が入らなくなる。
「司令塔は……どこだ!」
苛立ちと共に叫ぶが、目の前の敵はただ攻撃を加えてくるだけで反応はない。
やっとの思いでその集団を突破したところで。
「そろそろ……かねぇ」
値踏みするような耳障りな声。
悪寒がしてそちらを振り向くと。
ニヤァ。
何度見たか分からない悪趣味な笑い。
「やっと……お出ましか!」
大柄な男を前に純麗の目がギラつく。
「殺して……やる!」
彼の中にすでに元の人格は入っていないだろう。そんな器用な奴らではない。
「できるのかねぇ……そんな様子で」
純麗の肩は上がり、瞳孔は開きかけていた。
「やって……やるさ! この後ろには捨てられないものがあるんでねっ!!」
駆け出す純麗。
その手があと一歩で男に届く、そのときに。
「…………あ、れ?」
足が、動かなくなった。そのまま、アスファルトに崩れる純麗。
「これは……ウイルス?」
己の足を見下ろすと、小さなノイズが走っていることに気がついた。
「アハァ、あいつの言ってた通りだぁ」
男が口の端をつり上げる。
「くそっ、そんなことしたらシステムに見つかるはずじゃないのか!?」
「もっとマシなプロテクトをかけとくんだったなぁ」
男に言われて、自分にかけられているはずのプロテクトを確認する。
「そんな……乗っ取られてる!?」
自分を守るはずのプロテクト。そのプログラムが割り込まれ、内部の情報を遮断するフィールドに変更されていたのだ。
「いつ……!?」
プログラムを変更するには直接的な干渉が必要だ。いったい、いつどこで接触されたのか。そう思って辺りを見回すと、純麗は自分の体にある物を見つけた。
「針……?」
腕からの少量の出血。そこに小さな針が刺さっていた。その針の上部からは溶けるように文字が流れ出ている。
(奴らのうちの誰かか!)
戦いの最中に仕込まれたのだろう。
「やっとこれであんたの体をじっくり痛めつけられる訳だよなぁ」
男が純麗の胸ぐらを掴む。
「くそっ!」
男はこれ見よがしに顔を近づけた。その顔は狂喜に満ちていた。
「その汚い手をどけろ!」
体が動かない。だから、声だけで威嚇する。
「せっかくこうして捕まえられたのに離す訳……ないだろ!」
ドカ。
「……う」
男の膝が純麗の腹にめり込んだ。
「どれくらい持つかなぁ……早く死んじゃうのは勿体ない……な!」
今度は男の拳が顔面を捉えた。純麗は先ほどの腹への膝蹴りでうめき声を上げることさえできない。唇からは血が流れた。
しかし、彼女の心は男の攻撃を受ける度に静かになっていった。
(……やっぱり、人間の体は不便だな)
ドス。
(痛いな……あの頃は痛みなんて知らなかった)
ガッ。
(あーあ、やっぱり無茶だったかなぁ)
ゴッ。
(……みんな逃げられたかなぁ)
視界が狭まっていく。
「…………遙香……咲良…………シン……」
小さく、残してきた者たちの名を呼ぶ。
(暗い……)
「何だ? もう終わりか? つまらないなぁ…………ま、あと二人残ってるか」
興味を失ったかのように純麗の首を絞め始める男。
「じゃあな」
男はさらに力を込めた。
「……その手を……離せ」
「あ?」
男が不審な声に振り向こうとしたとき。
ドッ。
その体は宙を舞った。
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