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第二十三話
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「喧嘩を買うのはいいけど、遙香はどうするの?」
咲良が純麗に声をかけた。遙香は眠り続けているし、このままにしておく訳にはいかない。
「そうだね。どうするの、純麗お姉ちゃん?」
朱音も当然何か策があるはずだと咲良に同調した。
が。
「うん。どうしたらいいんだろうね?」
「「は?」」
咲良と朱音は思わず真顔で口を開けた。
「いやさ、遙香を助けることは考えてたんだって。でも、そのあとのことまでは……ねぇ?」
咲良と朱音は徐々に顔を青ざめさせていく。
「言っちゃうと考えてなかったよね」
純麗のカミングアウトに二人は思いきり動揺した。
「ど……どどどどどどどどうしよう朱音!」
「お、落ち着いて咲良! 純麗お姉ちゃんに相談しよう!」
「落ち着くのは朱音だよ! そのお姉ちゃんが役に立たないんだって!」
テンパる二人を見て、当の本人である純麗は状況も忘れてにへらぁと和んでいる。
「よし、二人で家に運ぼう!」
そう提案する朱音だったが、運ぶ際に集まる周囲の視線や、運んだあとの遙香の両親への対応などもろもろのことが抜け落ちている。
さすがに止めようと純麗が声をかけようとするが、それより前に事態は動いた。
ガチャ。
玄関が開く音がしたのだ。
咲良と朱音はゆっくりと顔を見合わせる。
「……遙香をシンクの下へ」
遙香の容態が安定していることをいいことに、咲良は非情な決断をした。
遙香を担ぎ上げる二人。しかし、棚へ押し込もうとしたまさにそのとき。
ガララ。
リビングの引き戸が開いた。
「「…………」」
「…………」
父親と目が合った。
(まずい!)
絶体絶命のピンチ。咲良はそう思った。
しかし、父親はそちらを一瞥しただけで、純麗に向き直った。
「テルカ様」
それは、父親とはまるで別人のような無機質な声だった。
「その感じ……今さら何をしにきた」
純麗の言葉を聞いて朱音が反応する。
「もしかして、テルカ派の?」
「うん。勢力が小さい上に一番の腰抜け集団だよ」
その声はどこか冷ややかだった。
「お父さんの体を勝手に借りるな。事態を静観し続けるだけしか能のないお前たちが何の用だ」
再度問いただす純麗。
彼は口を開いた。
「人間の体を借りることに理由はいらないと思いますが。それより、オレグとシン派が手を組みました」
「その情報は知ってる」
「その集団が、まもなくここを取り囲もうとしているのです」
「……何だって!?」
純麗は驚いたように見えたが、間髪入れずに笑みを浮かべた。
「とでも言うと思った? 丁度いい。借りは返させてもらうよ」
「とても、純麗様の敵う相手ではないと思いますが。早急な領域外への脱出を」
「お前はバカか? 妹たちと親友を置いてノコノコ帰れと? 帰ったとしても身の保証はないというのに?」
「理解しかねます。純麗様一人であれば如何様にもできます。他の者など捨て置けば良いでしょう」
「だからバカだって言ってるんだ」
純麗は呆れたように頭をかくと、次いで咲良と朱音に向き直った。
「ちょっと暴れてくるよ。隙を見て遙香を連れて逃げて。最悪、遙香を置いていってもいい。私が何とかするから」
「お姉ちゃん……」
咲良はそう呟くことしかできなかったが、朱音は違った。
「長く、生きたからね。そろそろ潮時かもしれない。……いいよ。隙を見て二人を逃がすから」
それを聞いて純麗は笑った。
「バーカ。朱音も逃げるんだよ」
そう言い残し、彼女は家を出て行った。
「さーて、いっちょやりますか!」
純麗は家の外で気合いを入れた。
「私憧れてたんだよね、こういう熱い展開」
テルカとしての彼女には考えられない人間的なセリフ。
「……ところで」
純麗は振り返らずに聞く。
「それ、お父さんの体だからとっとと家に帰って怯えててくれないかな?」
「この肉体はどうでもいいですが、そのつもりです。でも、プロテクトだけはかけていきます」
「はいはい」
純麗は彼の真意を理解することはできなかった。なぜ、腰抜けのくせに劣勢のテルカについたのか。なぜ、今頃になって出てきたのか。
「ご武運を」
しかし、そんなことを考えている暇などなかった。
「来た来た……って多いな!」
見えるだけでも三十人以上はいる。
「私にブーストが使えれば良かったんだけど。ま、ないものはしょうがない。拳で語るのも悪くない。……ありがとね」
河合あんず。純麗は、己が奪ったために今は亡き彼女。その身体能力に感謝した。
「来い!」
その声を合図にしたかのように、敵は襲いかかってきた。
咲良が純麗に声をかけた。遙香は眠り続けているし、このままにしておく訳にはいかない。
「そうだね。どうするの、純麗お姉ちゃん?」
朱音も当然何か策があるはずだと咲良に同調した。
が。
「うん。どうしたらいいんだろうね?」
「「は?」」
咲良と朱音は思わず真顔で口を開けた。
「いやさ、遙香を助けることは考えてたんだって。でも、そのあとのことまでは……ねぇ?」
咲良と朱音は徐々に顔を青ざめさせていく。
「言っちゃうと考えてなかったよね」
純麗のカミングアウトに二人は思いきり動揺した。
「ど……どどどどどどどどうしよう朱音!」
「お、落ち着いて咲良! 純麗お姉ちゃんに相談しよう!」
「落ち着くのは朱音だよ! そのお姉ちゃんが役に立たないんだって!」
テンパる二人を見て、当の本人である純麗は状況も忘れてにへらぁと和んでいる。
「よし、二人で家に運ぼう!」
そう提案する朱音だったが、運ぶ際に集まる周囲の視線や、運んだあとの遙香の両親への対応などもろもろのことが抜け落ちている。
さすがに止めようと純麗が声をかけようとするが、それより前に事態は動いた。
ガチャ。
玄関が開く音がしたのだ。
咲良と朱音はゆっくりと顔を見合わせる。
「……遙香をシンクの下へ」
遙香の容態が安定していることをいいことに、咲良は非情な決断をした。
遙香を担ぎ上げる二人。しかし、棚へ押し込もうとしたまさにそのとき。
ガララ。
リビングの引き戸が開いた。
「「…………」」
「…………」
父親と目が合った。
(まずい!)
絶体絶命のピンチ。咲良はそう思った。
しかし、父親はそちらを一瞥しただけで、純麗に向き直った。
「テルカ様」
それは、父親とはまるで別人のような無機質な声だった。
「その感じ……今さら何をしにきた」
純麗の言葉を聞いて朱音が反応する。
「もしかして、テルカ派の?」
「うん。勢力が小さい上に一番の腰抜け集団だよ」
その声はどこか冷ややかだった。
「お父さんの体を勝手に借りるな。事態を静観し続けるだけしか能のないお前たちが何の用だ」
再度問いただす純麗。
彼は口を開いた。
「人間の体を借りることに理由はいらないと思いますが。それより、オレグとシン派が手を組みました」
「その情報は知ってる」
「その集団が、まもなくここを取り囲もうとしているのです」
「……何だって!?」
純麗は驚いたように見えたが、間髪入れずに笑みを浮かべた。
「とでも言うと思った? 丁度いい。借りは返させてもらうよ」
「とても、純麗様の敵う相手ではないと思いますが。早急な領域外への脱出を」
「お前はバカか? 妹たちと親友を置いてノコノコ帰れと? 帰ったとしても身の保証はないというのに?」
「理解しかねます。純麗様一人であれば如何様にもできます。他の者など捨て置けば良いでしょう」
「だからバカだって言ってるんだ」
純麗は呆れたように頭をかくと、次いで咲良と朱音に向き直った。
「ちょっと暴れてくるよ。隙を見て遙香を連れて逃げて。最悪、遙香を置いていってもいい。私が何とかするから」
「お姉ちゃん……」
咲良はそう呟くことしかできなかったが、朱音は違った。
「長く、生きたからね。そろそろ潮時かもしれない。……いいよ。隙を見て二人を逃がすから」
それを聞いて純麗は笑った。
「バーカ。朱音も逃げるんだよ」
そう言い残し、彼女は家を出て行った。
「さーて、いっちょやりますか!」
純麗は家の外で気合いを入れた。
「私憧れてたんだよね、こういう熱い展開」
テルカとしての彼女には考えられない人間的なセリフ。
「……ところで」
純麗は振り返らずに聞く。
「それ、お父さんの体だからとっとと家に帰って怯えててくれないかな?」
「この肉体はどうでもいいですが、そのつもりです。でも、プロテクトだけはかけていきます」
「はいはい」
純麗は彼の真意を理解することはできなかった。なぜ、腰抜けのくせに劣勢のテルカについたのか。なぜ、今頃になって出てきたのか。
「ご武運を」
しかし、そんなことを考えている暇などなかった。
「来た来た……って多いな!」
見えるだけでも三十人以上はいる。
「私にブーストが使えれば良かったんだけど。ま、ないものはしょうがない。拳で語るのも悪くない。……ありがとね」
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「来い!」
その声を合図にしたかのように、敵は襲いかかってきた。
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