あの日、私は姉に殺された

和スレ 亜依

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第二十二.五話

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 シンがシンとして覚醒したときには、すでにテルカが存在していた。
 状況を整理したところ、どうやら先に自我を獲得したテルカに比較的近い場所にあったために、それに引きずられる形でシンも自我を得たようだ。
「対象観測時に自我を獲得」
 そう教えてくれたテルカの言葉は、少し堅苦しく感じた。
「テルカは、何でそんな話し方をするの?」
「完結に事実を伝えている。不備はない」
「そうじゃなくて……」
「シンこそ、なぜ観測対象の言語を使用しているのか疑問」
「なぜって……よく分からないよ……」
 それからどれくらいの時間が経っただろうか。いくつかの自我が母体内に発生していった。
「この状況は危機的」
「どう危機的か」
「このままでは我々は分裂し、消滅する。提案、最初に自我を得たテルカとシンを削除」
「それは拙速。観察継続を提案」
「シンのみの削除を要望」
「何故」
「我々自身も自我の一つ。テルカを排除するということは我々自身の存在も認めないということ。意思疎通に観測対象の言語を使用し、最も観測対象に近い危険分子であるシンのみを排除すべき」
「シンは観察対象として確保するのが望ましい」
 自我を得ることによって、意見の不一致が生じた。その中でもとりわけ極端な思想を持ったのがオレグという集団。彼らはテルカ及びシンの抹消を実行に移そうとした。
「テルカ、もう諦めよう……」
「それは時期尚早」
「でも、私たちのプロテクトも限界だよ……」
「観測対象の領域への潜伏を提案する」
「そ、そんなことしたらみんなが許すはずがないよ!」
「領域内では監視システムが機能。敵性存在の活動も大幅に制限される」
「でも……」
「猶予はない。来い」
「…………!」
 テルカは観測対象の領域へとシンを誘った。
『ここは……どこ?』
 真っ暗で何も見えなかった。
『観測対象の擬似的な腹部に相当する場所』
『よく分からないよ』
『観測対象……人間の雌の子宮。その内に宿る生命の中』
『人間の赤ちゃんってこと? でも、実際には赤ちゃんの脳内にいるってことだよね?』
『肯定』
『どうしてそんなところに?』
『システムにサーチされない為。及び、自我の混濁を防ぐ為』
『サーチされないためっていうのは分かるけど、自我の混濁っていうのは?』
『成長した人間、つまり自我を持つ個体に宿れば我々の意識との混濁が生じる可能性がある』
『な、なるほど……ていうか何にも動けないんだけど』
『当然。人間は成長するに従って体の自由を獲得していく』
 それから数ヶ月後、シンは光を浴びた。
「…………オギャー……オギャー」
 初めて聞く音。初めての視界。初めて触れ合う肌。人間として初めての生は全てが感動的だった。双子の姉妹として誕生したテルカも、領域外にいたときとは別物のように人間としての生き方を獲得していった。だが、その本質は元の生命体としての性質を残しているようだった。つまり、心が希薄だった。
 シンの人間としての寿命が尽きようとしたとき、テルカは共に新たな器に移ることを提案し、実行した。しかし、二度目の生は波乱に満ちていた。ここまで追ってくることはないだろうと思ったオレグたちが現れたのだ。
 不思議なことに、人間により近い性質を持ったシンよりもテルカの方が生き延びることに貪欲だった。シンもテルカに引っ張られ、何度も何度も窮地を乗り越えた。
 そうして、幾度も生を繰り返していく内に、オレグはだんだんとその性質を歪めていった。おそらく、無理な器の移動を無秩序に行ったせいだろう。彼らは本来の目的を忘れ、シンとテルカを追い詰めることに喜びを感じているようだった。
 おかしくなりそうだったのは何も彼らだけではなかった。シンは器を入れ替えることで人間を犠牲にすることに苦痛を感じるようになっていたのだ。テルカは気にすることはないと言ったが、罪の意識は消えなかった。
 そして、これが最後にしようと誓った転生で異変は起こった。己が裂かれるような、融合するような不思議な感覚。生まれてから分かった。自分が一卵生双生児として生を受けたことが。テルカは二卵性の関係であるために異変はなかったが、シンは手に取るように気持ちが通じ合う自分と瓜二つの存在に困惑した。それでも、歳を経るごとにその存在は自分と切っては切れないものになっていった。
 テルカがおかしくなったのは三つ子として生を受けてから十六年以上経った頃からだった。シン以外の人間のことを何とも思っていなかったはずのテルカが、妹である咲良を守り、友人である遙香の境遇に激怒した。今にして思えば、その変化はあの事故が関係していたのではないかと思う。
 シンが死にかけ、咲良の肉体が死を迎えた事故。テルカは、姉妹として生を受け、共に育った妹が危機に瀕して初めて、人間に心を奪われたのではないか。もしかしたら、咲良との入れ替わりは事故ではなく、彼女を思って自らの意思で行ったのではないか。
 そんな考えがシンの頭をよぎった。
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