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第二十二話
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「始めに言っておくけど、咲良の質問には答えないからね」
純麗は説明をする前に、そう言って咲良を突き放した。
「はいはい」
咲良は純麗と朱音から疎外感を感じなくはなかったが、彼女らの存在に関してそれほど固執をしてはいない。咲良が純麗に殺された理由がすでに解決済みだということも大きい。
咲良を置いといて、純麗と朱音は話をし始める。
「遙香は『大村君が無事ならそれでいい』って言ってた。おそらく、うちのクラスの大村の体を乗っ取って「こいつの命を助けて欲しければ咲良を殺せ」とでも言われたんだと思う」
「話としては簡単だけど、そんなことあの人たちがするとは思えないんだけど」
「だろうね。そんな回りくどいこと、オレグの奴らはやらない」
「じゃあどうして……」
「シン派の連中だろう」
その言葉を聞いて、朱音は驚きと共に苦い表情を浮かべた。
「シン派……でもどうして? 根拠は?」
「理由は……」
純麗は咲良をチラッと見た。彼女はブランケットを遙香にかけている途中だった。
「……詳しいことは分からないけど、混ざったからじゃないかな。今までと違うのはたぶんそこだけだよ。それから、根拠は簡単。私を一ヶ月前に襲ったのは彼らだったから」
一ヶ月前。純麗が意識不明の重体になった事件だ。
「そうだったんだ……」
「うん。で、それも偶然には出来過ぎてた。その日、咲良も学校でオレグに襲われたでしょ?」
「狙ったってこと?」
「もっと言うと、オレグをそそのかしたのかもしれない」
「じゃあ……私たちは今、両方同時に敵に回してるの?」
朱音は不安げな顔になる。
「そういうことになるね」
「…………」
「兎にも角にも、遙香は咲良を狙った訳だけど……まぁ、本気じゃなかっただろうね」
「どういうこと?」
「わざわざ人通りの多いところで前口上、目立つようなジェスチャー、加えて最後は自分を刺そうとした」
「…………」
「『男を取る』って言ってたけど、あれは嘘だな。両方助けたくて、でもどうにもならなくて、誰かに止めてもらいたくてああするしかなかったんだろうね。最後は自分が死ぬことで咲良と大村を救おうとしたんでしょ」
(遙香……)
咲良は話を聞きながらソファで眠る親友を見つめた。彼女が誰かを犠牲にする道を選ぶ訳がない。
「あのままじゃ、確実に自害してただろうね。でも私は、最後の最後に、しかも致命傷をぎりぎり避けるくらいの深手を負わせることでしか救えなかった」
純麗は悔しそうに言う。
「そうしないと、両方を救いたいっていう遙香の思いが無駄になるから」
「ごめんね、私も行ければ良かったんだけど……」
「いいよ。その体は朱音のものだけじゃないだろう?」
純麗の言う通り、朱音はなるべく凛を危険にはさらしたくなかった。咲良に近づいたり、咲良を守ったときだって、決めたのは凛だ。
一年以上前に起こった事件。当時、朱音は凛に状況を説明するために、咲良や純麗のことを話した。話すうちに凛は咲良に興味を持ち、「きっと寂しい思いをしてる」だろうから彼女を救いたいと言い出した。
「それに、その場にいたとして、朱音が私と同じ選択をするとは保証できない」
「……そう、かもね」
(私なら……)
自分ならどうしただろうか。悲痛な思いの遙香を最後一歩手前まで見ていることが出来ただろうか。彼女の思いを無視して、すぐに飛び込んでいたかもしれない。それが、良いことか悪いことかは分からないが、遙香の気持ちは救われなかっただろう。
「ま、終わったことはしょうがない。これからどうする?」
「どうするって?」
「私は売られた喧嘩は買う」
「買ってどうするの? 私たちだけじゃ何もできないよ」
「買うのは私だけだよ」
「何言ってるの? お姉ちゃんだけじゃ―」
「それで、みんな助かるの?」
「それは……」
「どっちを選んでも厳しい状況なら、行動する方を選ぶよ」
「……テルカらしいね」
(この世界に飛び込むって言ったのもテルカだったな……)
もう、あまり呼ぶこともなくなった名前を、朱音は思い出す。
純麗は説明をする前に、そう言って咲良を突き放した。
「はいはい」
咲良は純麗と朱音から疎外感を感じなくはなかったが、彼女らの存在に関してそれほど固執をしてはいない。咲良が純麗に殺された理由がすでに解決済みだということも大きい。
咲良を置いといて、純麗と朱音は話をし始める。
「遙香は『大村君が無事ならそれでいい』って言ってた。おそらく、うちのクラスの大村の体を乗っ取って「こいつの命を助けて欲しければ咲良を殺せ」とでも言われたんだと思う」
「話としては簡単だけど、そんなことあの人たちがするとは思えないんだけど」
「だろうね。そんな回りくどいこと、オレグの奴らはやらない」
「じゃあどうして……」
「シン派の連中だろう」
その言葉を聞いて、朱音は驚きと共に苦い表情を浮かべた。
「シン派……でもどうして? 根拠は?」
「理由は……」
純麗は咲良をチラッと見た。彼女はブランケットを遙香にかけている途中だった。
「……詳しいことは分からないけど、混ざったからじゃないかな。今までと違うのはたぶんそこだけだよ。それから、根拠は簡単。私を一ヶ月前に襲ったのは彼らだったから」
一ヶ月前。純麗が意識不明の重体になった事件だ。
「そうだったんだ……」
「うん。で、それも偶然には出来過ぎてた。その日、咲良も学校でオレグに襲われたでしょ?」
「狙ったってこと?」
「もっと言うと、オレグをそそのかしたのかもしれない」
「じゃあ……私たちは今、両方同時に敵に回してるの?」
朱音は不安げな顔になる。
「そういうことになるね」
「…………」
「兎にも角にも、遙香は咲良を狙った訳だけど……まぁ、本気じゃなかっただろうね」
「どういうこと?」
「わざわざ人通りの多いところで前口上、目立つようなジェスチャー、加えて最後は自分を刺そうとした」
「…………」
「『男を取る』って言ってたけど、あれは嘘だな。両方助けたくて、でもどうにもならなくて、誰かに止めてもらいたくてああするしかなかったんだろうね。最後は自分が死ぬことで咲良と大村を救おうとしたんでしょ」
(遙香……)
咲良は話を聞きながらソファで眠る親友を見つめた。彼女が誰かを犠牲にする道を選ぶ訳がない。
「あのままじゃ、確実に自害してただろうね。でも私は、最後の最後に、しかも致命傷をぎりぎり避けるくらいの深手を負わせることでしか救えなかった」
純麗は悔しそうに言う。
「そうしないと、両方を救いたいっていう遙香の思いが無駄になるから」
「ごめんね、私も行ければ良かったんだけど……」
「いいよ。その体は朱音のものだけじゃないだろう?」
純麗の言う通り、朱音はなるべく凛を危険にはさらしたくなかった。咲良に近づいたり、咲良を守ったときだって、決めたのは凛だ。
一年以上前に起こった事件。当時、朱音は凛に状況を説明するために、咲良や純麗のことを話した。話すうちに凛は咲良に興味を持ち、「きっと寂しい思いをしてる」だろうから彼女を救いたいと言い出した。
「それに、その場にいたとして、朱音が私と同じ選択をするとは保証できない」
「……そう、かもね」
(私なら……)
自分ならどうしただろうか。悲痛な思いの遙香を最後一歩手前まで見ていることが出来ただろうか。彼女の思いを無視して、すぐに飛び込んでいたかもしれない。それが、良いことか悪いことかは分からないが、遙香の気持ちは救われなかっただろう。
「ま、終わったことはしょうがない。これからどうする?」
「どうするって?」
「私は売られた喧嘩は買う」
「買ってどうするの? 私たちだけじゃ何もできないよ」
「買うのは私だけだよ」
「何言ってるの? お姉ちゃんだけじゃ―」
「それで、みんな助かるの?」
「それは……」
「どっちを選んでも厳しい状況なら、行動する方を選ぶよ」
「……テルカらしいね」
(この世界に飛び込むって言ったのもテルカだったな……)
もう、あまり呼ぶこともなくなった名前を、朱音は思い出す。
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