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第二十五.五話
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「飯田咲良さんを殺してくれないかな」
大村は爽やかな笑顔でそう言った。
「え?」
遙香はその言葉が信じられなくて聞き返した。なぜ、彼は咲良のことを知っているのか。世間的には咲良は死んだことになっているはず。
「あ、そうだよね。見返りが欲しいよね」
遙香の疑問を察することなく、大村は勝手に解釈した。
「じゃあ、お願い聞いてくれたら、この体好きにしていいよ」
大村は自らの体を指さす。
(違う……これは大村くんじゃない)
これまでの咲良たちとの経験から、遙香は早い段階で彼の中身が大村じゃないことに気がついた。
「……それでも嫌だって言ったらどうするの?」
偽大村は驚いた顔をする。
「え、嫌なの? この体のこと好きじゃないの?」
遙香は吐き気がした。
(大村くんはそんなこと言わない)
「私が好きなのはあなたの入っている大村くんじゃない」
「そうなの? 動物って体が全てなんじゃないの? うーん、データと違うなぁ」
その口調は年端のいかない少年のようであった。
「しょうがない、こっちは諦めるか」
「一つ、聞かせて」
「うん? いいけど何?」
「大村くんは、無事なの?」
「それってこいつの中身ってことだよね? ちょっと体借りてるだけだから消えてはないよ。あ、そうだ」
偽大村はまた爽やかな、純粋無垢な笑顔を浮かべた。
「協力してくれなかったらこいつの体乗っ取っちゃおっかな。あ、乗っ取るってのは、こいつの意識消しちゃうってことだからね」
「やめて……!」
「ん? だからお願い聞いてくれればそんなことしないよ?」
純粋過ぎて、どこまでも話が噛み合わない。
「咲良も、大村くんも失うのはいや!」
偽大村は心底嫌そうな顔をする。
「えー、それは我が儘だよー。いいじゃん。人間の雌って自分の利益のためなら簡単に裏切るんでしょ? データではそうだって記録されてるよ」
(……確かにそうかもしれない)
遙香は十六年間女という枠組みで生きてきた。だから、人間の女というものが時にどれだけ浅ましくなれるかを知っている。
(でも……)
「早く決めてよー。じゃないとこうしちゃうよ」
偽大村は自らの腕を持っていたハサミで切りつけた。
「何てことを……」
「痛い! あはっ、これが痛いってことか!」
無邪気に笑うその様子は人間としては狂っていた。
「まだー? もういっちょ!」
今度は反対側の腕を切りつけた。遙香はその暴挙を止めようと手を伸ばす。
「だーめ!」
偽大村はそれをかわすと距離をとり、自分の喉にハサミを押し当てた。
「近づいたら殺しちゃうよ」
(…………!)
「はーやーくー」
遙香は唇を噛んだ。
「こいつ死んじゃうよ?」
(もう……)
腹をくくるしかない。
「分かったよ……だけど、少し時間がほしい」
「うーん……。ま、いっか。でもあんまり長いとこいつの意識消しちゃうからね!」
そう言って偽大村は去って行く。
(彼の言うとおり女は利己的かもしれない。……私もたぶん……そう。……でも、私が欲しいのはみんなの幸せ全部なんだよ)
しかし、遙香が作戦を実行に移すまでには少しだけ時間がかかった。
(どこかで、私も笑っていたいって思ってたのかも)
だが、それももう終わりだ。決心をした遙香は言う。
「咲良、死んで!」
(自分は、バカだからこんなことしかできない)
それからのことはあっという間だった。
気がついたら、純麗に刺されていた。
(純麗は容赦ないなぁ)
急速に薄れていく意識。
(まぁでもこれも悪くないか……そんな純麗も好きだし)
大村は爽やかな笑顔でそう言った。
「え?」
遙香はその言葉が信じられなくて聞き返した。なぜ、彼は咲良のことを知っているのか。世間的には咲良は死んだことになっているはず。
「あ、そうだよね。見返りが欲しいよね」
遙香の疑問を察することなく、大村は勝手に解釈した。
「じゃあ、お願い聞いてくれたら、この体好きにしていいよ」
大村は自らの体を指さす。
(違う……これは大村くんじゃない)
これまでの咲良たちとの経験から、遙香は早い段階で彼の中身が大村じゃないことに気がついた。
「……それでも嫌だって言ったらどうするの?」
偽大村は驚いた顔をする。
「え、嫌なの? この体のこと好きじゃないの?」
遙香は吐き気がした。
(大村くんはそんなこと言わない)
「私が好きなのはあなたの入っている大村くんじゃない」
「そうなの? 動物って体が全てなんじゃないの? うーん、データと違うなぁ」
その口調は年端のいかない少年のようであった。
「しょうがない、こっちは諦めるか」
「一つ、聞かせて」
「うん? いいけど何?」
「大村くんは、無事なの?」
「それってこいつの中身ってことだよね? ちょっと体借りてるだけだから消えてはないよ。あ、そうだ」
偽大村はまた爽やかな、純粋無垢な笑顔を浮かべた。
「協力してくれなかったらこいつの体乗っ取っちゃおっかな。あ、乗っ取るってのは、こいつの意識消しちゃうってことだからね」
「やめて……!」
「ん? だからお願い聞いてくれればそんなことしないよ?」
純粋過ぎて、どこまでも話が噛み合わない。
「咲良も、大村くんも失うのはいや!」
偽大村は心底嫌そうな顔をする。
「えー、それは我が儘だよー。いいじゃん。人間の雌って自分の利益のためなら簡単に裏切るんでしょ? データではそうだって記録されてるよ」
(……確かにそうかもしれない)
遙香は十六年間女という枠組みで生きてきた。だから、人間の女というものが時にどれだけ浅ましくなれるかを知っている。
(でも……)
「早く決めてよー。じゃないとこうしちゃうよ」
偽大村は自らの腕を持っていたハサミで切りつけた。
「何てことを……」
「痛い! あはっ、これが痛いってことか!」
無邪気に笑うその様子は人間としては狂っていた。
「まだー? もういっちょ!」
今度は反対側の腕を切りつけた。遙香はその暴挙を止めようと手を伸ばす。
「だーめ!」
偽大村はそれをかわすと距離をとり、自分の喉にハサミを押し当てた。
「近づいたら殺しちゃうよ」
(…………!)
「はーやーくー」
遙香は唇を噛んだ。
「こいつ死んじゃうよ?」
(もう……)
腹をくくるしかない。
「分かったよ……だけど、少し時間がほしい」
「うーん……。ま、いっか。でもあんまり長いとこいつの意識消しちゃうからね!」
そう言って偽大村は去って行く。
(彼の言うとおり女は利己的かもしれない。……私もたぶん……そう。……でも、私が欲しいのはみんなの幸せ全部なんだよ)
しかし、遙香が作戦を実行に移すまでには少しだけ時間がかかった。
(どこかで、私も笑っていたいって思ってたのかも)
だが、それももう終わりだ。決心をした遙香は言う。
「咲良、死んで!」
(自分は、バカだからこんなことしかできない)
それからのことはあっという間だった。
気がついたら、純麗に刺されていた。
(純麗は容赦ないなぁ)
急速に薄れていく意識。
(まぁでもこれも悪くないか……そんな純麗も好きだし)
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