あの日、私は姉に殺された

和スレ 亜依

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第二十六話

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(……痛っ)
 意識を失ったはずの遙香を、突然床に落とされたような痛みが襲った。
(……何なの?)
 次いで、話し声が聞こえた。
「朱音……? どうしたの?」
「咲良、ごめん。純麗を助けてくる」
「え? 凛ちゃん?」
「うん。もう少しだけ遙香を守ってて」
「待って……!」
 そして静かになったと思ったらまた声が聞こえてきた。
「やったー! ボッチの咲良ちゃんみっけー!」
「そんな……!」
「今のうちに殺しちゃおーっと!」
「遙香! 起きて遙香!」
(……咲良?)
「遙香! ねぇ遙香!」
(…………痛……い?)
「ねぇ、遙香!」
 頬を往復する衝撃。
 意識が覚醒していく。
 感じる痛み。
「……痛……イタタタタタタタタタ! イタイ! 痛いって!」
 あまりの痛さに飛び起きる遙香。
「……ってあれ? 私生きてるの?」
「良かった……!」
 遙香は腫れ上がる頬を抑えながら周囲を見渡す。
「……良かったって…………この状況のどこが?」
 場所はリビング。遙香と咲良を十人ほどが取り囲んでいた。その中心には純粋な笑みを向ける大村。
 意識を取り戻した途端に放り込まれた状況。瀕死の怪我を負っていたとか、それが綺麗さっぱりなくなっているとか、そんなことはどうでもよくなっていた。
 そして、頬の痛みが遙香を冷静にさせる。
「いくらバカな私でも分かるよ。これはどうみてもピンチだって」
「どうしよう遙香!」
「純麗はいないの?」
「外で凛ちゃんと一緒に戦ってる!」
「……終わった」
 遙香がそう呟いたところで、偽大村が面倒くさそうに言う。
「うーん……起きちゃったか。ま、両方殺しちゃえば問題ないよね」
 偽大村が指示を出すと、周りの人間がそれぞれ得物を手に襲いかかってきた。
(……ううん、ここで終われない)
 ここで諦めたら、全てが終わりだ。皆が笑って過ごす明日は来なくなる。
(それだけは私でも分かる!)
 遙香に武術の心得はない。それでも何かを変えられると信じて、振り下ろされるなたを止めようと手を伸ばす。
 スローモーションにも見えたその光景。
 そして。
「……………………え?」
 咲良は何が起きたのか分からなくてほうけた。
 でも、目に見えているものは分かる。
「……遙香、それ育ててるの?」
「………………」
 遙香の袖の下から伸びた緑色のツタが、敵の鉈を絡め取っていた。


 その頃、屋外では純麗と凛が戦いを続けていた。敵を統率していた男が体を入れ替えたのか、それとも別の者が加勢しているのか。
「まだ来るのか……!」
 純麗の顔には疲労の色が濃い。朱音に回復させてもらったと言っても、凛とは違い生身の体なのだ。
「純麗、あとどのくらい倒せばいい?」
 複数人を足蹴にしながら凛は聞く。といっても最初の男以外、大きなダメージは避けている。これくらいなら全てが終わったときに朱音がまとめてどうにかしてくれるだろうと、凛はそう考えていた。
「さぁ? そんなの……向こうに聞いてよ!」
 純麗もこぼれた敵を一人ずつ倒していく。
「聞く相手がいない」
 凛の言う通り、誰も彼もが虚ろな表情をしていて、とても何かを聞ける状態ではない。
「純麗、何で誰も異変に気づかないの?」
 この凛の疑問も的を射ている。これだけ騒いでいれば周辺の住民が野次馬として出てくるはずだ。
「それ、は! 今戦ってる人たちがご近所さんだからだ……よ!」
「お母さんは帰ってこないの?」
「知りたい?」
「うん」
「今、凛が蹴り飛ばしたのが私たちのお母さんです」
「………………」
 凛は無言になった。
 そして、ボソッと言う。
「…………ごめん」
 純麗は笑う。
「いいよ。こんな状況だし誰かれ構ってる暇はないし。朱音があとでみんなまとめて治療してくれるでしょ」
 凛も純麗も朱音任せだった。
『後始末を全部私に押しつける気じゃないよね……?』
(少しくらいは手伝う)
『……お願い』
 朱音はあまり期待しないようにすることにした。
 だが、そんな未来の話も目の前の危機を脱しなければ全てが無に帰す。
(とりあえず、頑張る)
 凛が気合いを入れ直したところで、純麗が見つけた。
「凛! 2ブロック先の家の屋根! そいつが本体!」
 見ると、明らかに他とは違う、攻撃に参加していない女がいた。
「分かった」
 凛は急加速して近づき、大きく跳躍した。
 トン。
 凛が屋根に着地をすると、女に向き直った。
「これで……終わり!」
 女を蹴り飛ばして気絶させると、凛は周囲を素早く確認した。
 そして、驚く。
「まだ、終わってない?」
 操られている者たちは相変わらず虚ろな表情で立っており、純麗は戦いを継続している。
『凛! そいつ攻撃される寸前に逃げちゃった!』
(どこに?)
『分からない! とりあえず純麗の援護をして!』
 純麗は一人になったところを取り囲まれていた。
(分かった)
 凛は屋根を飛び降り、駆ける。
 純麗のそばに戻ると、彼女に加勢した。
「ごめん、逃げられたみたい」
「いいよ、また捜そう!」
「うん」
 二人は取り囲んでいる敵を排除していく。
 半分ほどを倒したところで。
「純麗!」
 倒したはずの敵が純麗の足首を掴んでいた。
「ごめん! 倒し切れてなかった!」
 凛が謝りつつ、その敵を引きはがそうとする。
 だが。
「凛! 違う!」
「へ?」
 今度は凛が足を掴まれた。
「どうして? 倒したはずなのに……」
 凛は疑問に思いつつも振り払おうとする。しかし、足に絡みつく敵の腕は離れない。
「え、何で……?」
 ブーストを使っている凛にとって、力で押さえ込まれているという現状は異常だった。
「やられた……こいつらなりふり構ってない……」
 純麗は渋い顔をした。
「どういうこと?」
「ウイルスだよ。こいつら自分の体に使ってリミッター外してる」
 見れば、起き上がった敵は人間とは思えない異様な笑みを浮かべていた。
「いひ……いひひ………ひ」
 その口からは喉から絞り出すような機械的な音が漏れていた。
 凛は彼らを見下ろして顔を引きつらせた。
「気持ち……悪い……」
 一方、純麗は落ち着いていた。
(こいつらはすぐにシステムに見つかって元に戻るはず)
「純麗、どうしよう。離れない」
「大丈夫、すぐに戻るはずだから」
 だが。
『そんな……この人たち……』
 朱音は異変に気がついた。
(どうしたの、朱音?)
『ウイルスなんかじゃない……全員、私たちと同じ……』
(それって?)
『この人たちはみんな外から来た人たち……正常だから監視システムは反応しない…………倒さないとダメ!』
 凛に朱音の言葉のほとんどの意味は分からない。それでも、純麗に伝えなければいけないということは分かった。
「純麗、この人たち朱音や純麗たちと同じ所から来たって」
「!? まさか……! でもだとしたら……まずい!」
 監視システムに引っかからないということは自力で引き剥がさなければならないということだ。しかし、ブーストを使っているのか何なのか、その力は強い。
「このままじゃ……」
 さらに複数の倒れた者たちが凶器を持って近づいてくる。
「…………っ」
 焦る純麗。凛も必死で脱出しようとするが、びくともしない。
(何か……何か方法は……!? そうだ、あんまりやりたくないけど誰かと入れ替わるのは!?…………ダメだ……近くに人間はいない……!)
 絶体絶命の中、ギラリと光る刃物が純麗に迫っていた。
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