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第二十七話
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「あれ? どうやってるの、それ」
偽大村が困惑顔で見守る中、遙香が孤軍奮闘していた。
「てい!」
遙香の声に合わせて、袖から伸びるツタが敵の凶器を巻き上げたり攻撃を阻止したりしている。
「ほい!」
偽大村は腕を組む。
「こっちの行動プログラムを書き換えてる? ……それとも、何らかの力場を形成してる? ……ううん、どっちもただの人間にできることじゃないよね? 例えできたとしても監視システムに引っかかるはずだし……」
彼の視点は定まっておらず、空間を調べるように見回している。
その中で完全に置いてけぼりの咲良は質問をする。
「遙香、結局それ何なの?」
「うーん……ツタ? それ!」
「いや、それは分かるんだけど」
「巻きひげと吸盤があるからナツヅタかも。紅葉すると綺麗なんだよね……はい!」
「いや、種類を聞いてるんじゃなくて……」
「分かってるよ。何でそんなものが袖から出てくるんだってことでしょ? でもそんなの私にも分かんないし、とりあえず使えるから使ってるだけだよ」
「…………」
咲良はよくもまぁよく分からないものをあっさり使う気になるものだとため息をついた。
「ま、今考えても仕方ないし……終わってから考えればいいんじゃない?」
「確かにそうかもしれないけど……」
遙香の言うことには一理あるものの、何だか納得いかないものを感じる咲良。
二人の会話を何となく聞いていた偽大村が興味を示す。
「ツタ? ツタって植物のツタ?」
「そうだけど、それが?」
遙香が馬鹿正直に答えると、偽大村は変なことを言った。
「……どこにあるの?」
「え? ほら、私の袖から出てその辺の人たちを押さえ込んでるけど」
偽大村はさらにおかしなことを言う。
「そんなもの、見えないよ?」
「どゆこと?」
遙香は咲良を振り返る。
「私に聞かれても…………でも、たぶんだけど。私たちは人間で、あの人は違う存在だから……その差が原因で見えないのかも」
咲良は自分で言っていて何を言っているのか分からない。それでも、それぐらいしか思いつかなかった。
「うーん……。よく分かんないけど、このままやっちゃって大丈夫ってことだよね?」
非常に遙香らしい結論である。
遙香がそのまま周囲の敵を絡め取って戦闘不能に追い込むと、そのまま偽大村にツタを向ける。
「これで終わりっと」
ツタが偽大村を拘束する。だが、顎に手を当てた彼は動じる様子はない。
遙香は顔をしかめる。
「いい加減、大村くんから離れてくれない?」
「ん? 大村? ああ、忘れてた」
そこで偽大村は何とも、本当に何ともないことのように言った。
「この人間の体はとっくに乗っ取っちゃってるよ」
「え?」
遙香は、その言葉の意味を租借しきれなかった。
「当たり前でしょ。君はボクのお願い聞いてくれなかったじゃん」
「……遙香!」
咲良は咄嗟に遙香の手を握ろうとした。
(これ以上は聞かせちゃいけない!)
しかし、遙香は咲良をツタで拘束し、偽大村に近寄る。そして、彼は決定的な一言を告げる。
「もう、この人間の意識は消えてなくなっちゃってるよ」
「遙香!」
咲良の場所から遙香の顔は見えない。
遙香は無言で偽大村のそばまで歩くと、聞いた。
「大村くんを消すことで君に何か利益があったりする?」
その声から、感情は全く読み取れない。
(遙香……)
咲良には、彼女の気持ちをただ想像することしかできなかった。
「ないよ? でも、約束は約束でしょ? 守らなきゃいけないよね?」
「…………そうだね」
その声はとても静かだった。
少しだけ時間を置いて、遙香は言った。
「……ごめんね。あとで色々教えてあげるからしばらくそうしてて」
遙香はそう言うと、彼の体をツタで覆った。
「遙香!」
咲良が再度遙香の名を叫ぶと、彼女は咲良の拘束を解いて振り返った。
「…………!」
遙香の顔を見た瞬間、咲良は目を見開き、そしてすぐに抱きついた。
「……あはは……どうしたの、咲良?」
照れ笑いを浮かべる遙香。しかし、その目からは涙が流れていた。
「ごめんっ」
「何で咲良が謝るのさ」
「だって、私……役立たずで、何にもできなくて……」
咲良の目からも涙がこぼれ落ちる。泣いたのはいつぶりだろうか。
「そんなことないよ。咲良がいてくれなかったら、たぶん私はこうやって立っていられなかっただろうし。それに、咲良を見てると、きっとすごいことができるんじゃないかって、何となくそう思ってる。……天然だからかな?」
「て、天然?」
「ねぇ、咲良。この子は何なんだと思う?」
「え?」
遙香はツタの塊を見つめる。
「この子はね、たぶん子供なんだよ。何が正しくて何が悪くて、何をすればいいのかを本当の意味で判断することができない」
「…………」
「だから、全部終わったら色んなこと教えてあげようと思うんだよね」
咲良はそれを聞いて泣きながら笑った。
「遙香らしいね」
思えば、咲良も遙香のそのお節介で救われてきた。
「それって褒めてくれてる?」
「……ううん。バカってこと」
「ひどっ!」
「ふふ」
落ち着いたところで、遙香が思い出す。
「あ、こんなことしてる場合じゃないよ! 純麗たちを助けに行かないとっ」
咲良は涙を拭く。
「そうだね、今も頑張ってくれてるだろうし」
偽大村が困惑顔で見守る中、遙香が孤軍奮闘していた。
「てい!」
遙香の声に合わせて、袖から伸びるツタが敵の凶器を巻き上げたり攻撃を阻止したりしている。
「ほい!」
偽大村は腕を組む。
「こっちの行動プログラムを書き換えてる? ……それとも、何らかの力場を形成してる? ……ううん、どっちもただの人間にできることじゃないよね? 例えできたとしても監視システムに引っかかるはずだし……」
彼の視点は定まっておらず、空間を調べるように見回している。
その中で完全に置いてけぼりの咲良は質問をする。
「遙香、結局それ何なの?」
「うーん……ツタ? それ!」
「いや、それは分かるんだけど」
「巻きひげと吸盤があるからナツヅタかも。紅葉すると綺麗なんだよね……はい!」
「いや、種類を聞いてるんじゃなくて……」
「分かってるよ。何でそんなものが袖から出てくるんだってことでしょ? でもそんなの私にも分かんないし、とりあえず使えるから使ってるだけだよ」
「…………」
咲良はよくもまぁよく分からないものをあっさり使う気になるものだとため息をついた。
「ま、今考えても仕方ないし……終わってから考えればいいんじゃない?」
「確かにそうかもしれないけど……」
遙香の言うことには一理あるものの、何だか納得いかないものを感じる咲良。
二人の会話を何となく聞いていた偽大村が興味を示す。
「ツタ? ツタって植物のツタ?」
「そうだけど、それが?」
遙香が馬鹿正直に答えると、偽大村は変なことを言った。
「……どこにあるの?」
「え? ほら、私の袖から出てその辺の人たちを押さえ込んでるけど」
偽大村はさらにおかしなことを言う。
「そんなもの、見えないよ?」
「どゆこと?」
遙香は咲良を振り返る。
「私に聞かれても…………でも、たぶんだけど。私たちは人間で、あの人は違う存在だから……その差が原因で見えないのかも」
咲良は自分で言っていて何を言っているのか分からない。それでも、それぐらいしか思いつかなかった。
「うーん……。よく分かんないけど、このままやっちゃって大丈夫ってことだよね?」
非常に遙香らしい結論である。
遙香がそのまま周囲の敵を絡め取って戦闘不能に追い込むと、そのまま偽大村にツタを向ける。
「これで終わりっと」
ツタが偽大村を拘束する。だが、顎に手を当てた彼は動じる様子はない。
遙香は顔をしかめる。
「いい加減、大村くんから離れてくれない?」
「ん? 大村? ああ、忘れてた」
そこで偽大村は何とも、本当に何ともないことのように言った。
「この人間の体はとっくに乗っ取っちゃってるよ」
「え?」
遙香は、その言葉の意味を租借しきれなかった。
「当たり前でしょ。君はボクのお願い聞いてくれなかったじゃん」
「……遙香!」
咲良は咄嗟に遙香の手を握ろうとした。
(これ以上は聞かせちゃいけない!)
しかし、遙香は咲良をツタで拘束し、偽大村に近寄る。そして、彼は決定的な一言を告げる。
「もう、この人間の意識は消えてなくなっちゃってるよ」
「遙香!」
咲良の場所から遙香の顔は見えない。
遙香は無言で偽大村のそばまで歩くと、聞いた。
「大村くんを消すことで君に何か利益があったりする?」
その声から、感情は全く読み取れない。
(遙香……)
咲良には、彼女の気持ちをただ想像することしかできなかった。
「ないよ? でも、約束は約束でしょ? 守らなきゃいけないよね?」
「…………そうだね」
その声はとても静かだった。
少しだけ時間を置いて、遙香は言った。
「……ごめんね。あとで色々教えてあげるからしばらくそうしてて」
遙香はそう言うと、彼の体をツタで覆った。
「遙香!」
咲良が再度遙香の名を叫ぶと、彼女は咲良の拘束を解いて振り返った。
「…………!」
遙香の顔を見た瞬間、咲良は目を見開き、そしてすぐに抱きついた。
「……あはは……どうしたの、咲良?」
照れ笑いを浮かべる遙香。しかし、その目からは涙が流れていた。
「ごめんっ」
「何で咲良が謝るのさ」
「だって、私……役立たずで、何にもできなくて……」
咲良の目からも涙がこぼれ落ちる。泣いたのはいつぶりだろうか。
「そんなことないよ。咲良がいてくれなかったら、たぶん私はこうやって立っていられなかっただろうし。それに、咲良を見てると、きっとすごいことができるんじゃないかって、何となくそう思ってる。……天然だからかな?」
「て、天然?」
「ねぇ、咲良。この子は何なんだと思う?」
「え?」
遙香はツタの塊を見つめる。
「この子はね、たぶん子供なんだよ。何が正しくて何が悪くて、何をすればいいのかを本当の意味で判断することができない」
「…………」
「だから、全部終わったら色んなこと教えてあげようと思うんだよね」
咲良はそれを聞いて泣きながら笑った。
「遙香らしいね」
思えば、咲良も遙香のそのお節介で救われてきた。
「それって褒めてくれてる?」
「……ううん。バカってこと」
「ひどっ!」
「ふふ」
落ち着いたところで、遙香が思い出す。
「あ、こんなことしてる場合じゃないよ! 純麗たちを助けに行かないとっ」
咲良は涙を拭く。
「そうだね、今も頑張ってくれてるだろうし」
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