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第四糞
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今日は一学期終業式だ。これから長い夏休みがやってくる。
浮かれた生徒たちはだいたいこの日に集まって学期の打ち上げを行う。
しかし、部活動をやっている者たちにそんなことは関係ない。つまり、打ち上げを行うのはどんな者たちか。
パリピである。
この一年三組の教室でも調子こいたやつらが仲間を募っている。
「いいんちょー、今日カラオケいかねー?」
「いえ、これからお花の稽古があるので」
委員長も誘われたみたいだが、眼鏡をクイッと上げて拒絶し、スタスタと帰っていった。
(さすがだぜ、委員長。濡れ衣を着せられたことは忘れないが、あんたのそういうところは感心する)
そう思ったのは池谷和人、通称ストゥール池谷である。和人は部活に入っていないが、もちろん直帰組だ。中学生のときは打ち上げを企画していたこともあったが、ストゥールを冠した和人に声をかける者などいない。
と、そこへ近づいてくる者がいた。
「なーストゥール、俺ら今からカラオケ行くんだけどこねー?」
藤田である。彼はパリピ筆頭で髪を金色に染めている。ズボンはだらしなく下がり、ポケットに手を突っ込んでいた。因みに彼の大便は軟便気味だ。
(なぜ、俺に声を?)
訝しんで彼の後ろを見ると、パリピ共がクスクスと笑っている。
(そういうことか)
彼らは和人をからかいのネタとして招待しようというのだ。
「いやーストゥール呼んだら面白そうだと思ってさー」
(こんなやつらに付き合う義理はないが……)
和人は席に座りながら両手を組んで重々しく告げる。
「いいだろう。しかし、打ち上げ奉行と呼ばれたこの俺に声をかけたからには、本気でついてきてもらう。途中離脱はなしだ」
突然キャラクターを変えてきた和人に藤田は困惑しながら了承した。
「お、おう……よくわからんがそんな感じで」
「フリータイムソフトドリンク付き五人分、開幕唐揚げで」
「は、はい……では五名様フリータイムソフトドリンク付きで、パーティー用唐揚げを最初にお持ちすればいいですね」
「はい、それでお願いします」
受付と注文を同時に済ませたあと、デンモクを部屋に運びながら、和人は指示出しをした。
「藤田、お前と山本はドリンク係だ」
「お、おう分かった」
山本とは茶髪のパリピ(♀)で、四月に藤田に告白されたが断ったらしい。趣味は裁縫だ。今も鞄には手作りの人形がぶら下がっている。彼女の大便はやや軟便気味だ。
指定された部屋に入ると、和人はそのまま一曲入れる。
「竹内、木村。俺が歌い上げるまでに一曲ずつ入れておくように」
「わ、分かった」
竹内と木村。両方ともパリピのくせに髪を染める勇気がない。エアパリピだ。二人共特徴が薄いため、判別しずらいが、見分け方は少し軟便気味の方が竹内、それなりに軟便気味の方が木村である。
和人が歌い上げると、藤田と山本がドリンクを持ってくる。
「……おい」
「な、何だよ! ドリンクは持ってきたじゃねえか!」
和人は頭を横に振り、盛大にため息をつく。
「誰がこんなものを持ってこいと言った。メロンソーダ? カラオケに? 藤田。あんたは痔持ちだったら尻から炭酸を飲むのか? カラオケ中に炭酸を飲むっていうことはそれと同じことだ! それにウーロン茶? 山本。お前は尿も出ないくらいにノドが渇いたときに死海に浸かるのか? やり直しだ! ……それは置いていけ。飲み物は粗末にするもんじゃない」
そうこうしているうちに唐揚げを出しに店員がやってくる。
「おい、竹内。貴様なぜ今マイクを置いた」
「い、いやだってほら店員さんいるし……」
和人は憤慨した。
「お前が今歌わないことでどうなった。明らかに気まずくなっただろ! いいか? こういうときだからこそノリノリで歌うんだ! そうすれば場の空気が保たれるんだよ!」
和人の説教が続く中、木村が寂しく一人で一曲歌い終えると、藤田と山本が帰ってきた。
「藤田と山本」
「な、何だよ! まだ何かあるのかよ!」
「二人用のデュエットを選択しておいた」
山本が画面を見ると、演歌らしきデュエット曲が入れられていた。
「ちょっと! 演歌なんて歌えないんですけど!」
和人は静かに言う。
「打ち上げとしてのカラオケは時に非情。ハプニングに対応しなければならないこともある。心で歌うんだ」
「…………」
二人はもうヤケクソで演歌を歌い始めた。
曲が進むにつれて、和人が謎の涙を流し始める。
(素晴らしい……素晴らしい……音程もリズムも無視した歌唱、こいつらなら打ち上げで世界をとれるぞ!)
二人が汗を流しながら熱唱すると、和人は盛大な拍手を送った。
「感動した! 二人にはこれから世界を狙ってもらう」
和人の特別訓練が始まった。
そして、藤田と山本が十五曲を歌い上げたとき、山本が息を切らせながら手を上げた。
「ハァハァ……ちょっと、トイレ……」
「山本、次の曲だ」
「え、いやだからトイレって」
「ほら、始まったぞ! 悠長に構えるな!」
「ええ……」
藤田は歌を歌いながら山本を見た。
(あの我慢の仕方は……)
驚愕した。
(小便じゃない! これは大きい方だっ。まさか……山本はこのまま脱糞させられてしまうんじゃないのか!?)
しかし、問題はそれだけじゃない。
(くっ……腸が悲鳴を上げてやがる!)
なんと、藤田はもう三曲も前から大便を我慢していたのだ。
二人は苦しい表情で歌を歌う。と、そこで完全に置いてけぼりの竹内と木村が用を足しにこっそりと部屋を出ようとした。もちろん大きい方である。
「貴様ら、何をしようとしている?」
「ちょっと、トイ――」
「ばかやろおおおおおおおおお!!」
竹内に向かって空の灰皿が飛んできた。
「お前は! お前はあああ!」
和人は絶叫する。
「あの二人が厳しい表情をしながらも己の限界を超えようとしている姿に感動しないのかあああ!!」
「それを……それを途中で抜けようとするなど、それでも貴様ら人間かああああ!!」
和人のあまりの剣幕に大便をしたいだけだった竹内と木村は、行くに行けなくなってしまった。
場は、完全に和人が支配していた。
いや、肛門を支配していたと言っても過言ではないだろう。
和人以外の四人は思った。
これは「離脱を許さない打ち上げ奉行」ではない。
「脱糞を許さない大便奉行」だと。
「ブリ……ブリブリブリブリブリィ!!」
一番最初にもらしたのは誰だったか。
一人の限界を皮切りに、カラオケという密室空間で、脱糞四重奏が響き渡った。
因みに唯一女性の山本は泣きながら帰宅したという。
ノーパンで。
浮かれた生徒たちはだいたいこの日に集まって学期の打ち上げを行う。
しかし、部活動をやっている者たちにそんなことは関係ない。つまり、打ち上げを行うのはどんな者たちか。
パリピである。
この一年三組の教室でも調子こいたやつらが仲間を募っている。
「いいんちょー、今日カラオケいかねー?」
「いえ、これからお花の稽古があるので」
委員長も誘われたみたいだが、眼鏡をクイッと上げて拒絶し、スタスタと帰っていった。
(さすがだぜ、委員長。濡れ衣を着せられたことは忘れないが、あんたのそういうところは感心する)
そう思ったのは池谷和人、通称ストゥール池谷である。和人は部活に入っていないが、もちろん直帰組だ。中学生のときは打ち上げを企画していたこともあったが、ストゥールを冠した和人に声をかける者などいない。
と、そこへ近づいてくる者がいた。
「なーストゥール、俺ら今からカラオケ行くんだけどこねー?」
藤田である。彼はパリピ筆頭で髪を金色に染めている。ズボンはだらしなく下がり、ポケットに手を突っ込んでいた。因みに彼の大便は軟便気味だ。
(なぜ、俺に声を?)
訝しんで彼の後ろを見ると、パリピ共がクスクスと笑っている。
(そういうことか)
彼らは和人をからかいのネタとして招待しようというのだ。
「いやーストゥール呼んだら面白そうだと思ってさー」
(こんなやつらに付き合う義理はないが……)
和人は席に座りながら両手を組んで重々しく告げる。
「いいだろう。しかし、打ち上げ奉行と呼ばれたこの俺に声をかけたからには、本気でついてきてもらう。途中離脱はなしだ」
突然キャラクターを変えてきた和人に藤田は困惑しながら了承した。
「お、おう……よくわからんがそんな感じで」
「フリータイムソフトドリンク付き五人分、開幕唐揚げで」
「は、はい……では五名様フリータイムソフトドリンク付きで、パーティー用唐揚げを最初にお持ちすればいいですね」
「はい、それでお願いします」
受付と注文を同時に済ませたあと、デンモクを部屋に運びながら、和人は指示出しをした。
「藤田、お前と山本はドリンク係だ」
「お、おう分かった」
山本とは茶髪のパリピ(♀)で、四月に藤田に告白されたが断ったらしい。趣味は裁縫だ。今も鞄には手作りの人形がぶら下がっている。彼女の大便はやや軟便気味だ。
指定された部屋に入ると、和人はそのまま一曲入れる。
「竹内、木村。俺が歌い上げるまでに一曲ずつ入れておくように」
「わ、分かった」
竹内と木村。両方ともパリピのくせに髪を染める勇気がない。エアパリピだ。二人共特徴が薄いため、判別しずらいが、見分け方は少し軟便気味の方が竹内、それなりに軟便気味の方が木村である。
和人が歌い上げると、藤田と山本がドリンクを持ってくる。
「……おい」
「な、何だよ! ドリンクは持ってきたじゃねえか!」
和人は頭を横に振り、盛大にため息をつく。
「誰がこんなものを持ってこいと言った。メロンソーダ? カラオケに? 藤田。あんたは痔持ちだったら尻から炭酸を飲むのか? カラオケ中に炭酸を飲むっていうことはそれと同じことだ! それにウーロン茶? 山本。お前は尿も出ないくらいにノドが渇いたときに死海に浸かるのか? やり直しだ! ……それは置いていけ。飲み物は粗末にするもんじゃない」
そうこうしているうちに唐揚げを出しに店員がやってくる。
「おい、竹内。貴様なぜ今マイクを置いた」
「い、いやだってほら店員さんいるし……」
和人は憤慨した。
「お前が今歌わないことでどうなった。明らかに気まずくなっただろ! いいか? こういうときだからこそノリノリで歌うんだ! そうすれば場の空気が保たれるんだよ!」
和人の説教が続く中、木村が寂しく一人で一曲歌い終えると、藤田と山本が帰ってきた。
「藤田と山本」
「な、何だよ! まだ何かあるのかよ!」
「二人用のデュエットを選択しておいた」
山本が画面を見ると、演歌らしきデュエット曲が入れられていた。
「ちょっと! 演歌なんて歌えないんですけど!」
和人は静かに言う。
「打ち上げとしてのカラオケは時に非情。ハプニングに対応しなければならないこともある。心で歌うんだ」
「…………」
二人はもうヤケクソで演歌を歌い始めた。
曲が進むにつれて、和人が謎の涙を流し始める。
(素晴らしい……素晴らしい……音程もリズムも無視した歌唱、こいつらなら打ち上げで世界をとれるぞ!)
二人が汗を流しながら熱唱すると、和人は盛大な拍手を送った。
「感動した! 二人にはこれから世界を狙ってもらう」
和人の特別訓練が始まった。
そして、藤田と山本が十五曲を歌い上げたとき、山本が息を切らせながら手を上げた。
「ハァハァ……ちょっと、トイレ……」
「山本、次の曲だ」
「え、いやだからトイレって」
「ほら、始まったぞ! 悠長に構えるな!」
「ええ……」
藤田は歌を歌いながら山本を見た。
(あの我慢の仕方は……)
驚愕した。
(小便じゃない! これは大きい方だっ。まさか……山本はこのまま脱糞させられてしまうんじゃないのか!?)
しかし、問題はそれだけじゃない。
(くっ……腸が悲鳴を上げてやがる!)
なんと、藤田はもう三曲も前から大便を我慢していたのだ。
二人は苦しい表情で歌を歌う。と、そこで完全に置いてけぼりの竹内と木村が用を足しにこっそりと部屋を出ようとした。もちろん大きい方である。
「貴様ら、何をしようとしている?」
「ちょっと、トイ――」
「ばかやろおおおおおおおおお!!」
竹内に向かって空の灰皿が飛んできた。
「お前は! お前はあああ!」
和人は絶叫する。
「あの二人が厳しい表情をしながらも己の限界を超えようとしている姿に感動しないのかあああ!!」
「それを……それを途中で抜けようとするなど、それでも貴様ら人間かああああ!!」
和人のあまりの剣幕に大便をしたいだけだった竹内と木村は、行くに行けなくなってしまった。
場は、完全に和人が支配していた。
いや、肛門を支配していたと言っても過言ではないだろう。
和人以外の四人は思った。
これは「離脱を許さない打ち上げ奉行」ではない。
「脱糞を許さない大便奉行」だと。
「ブリ……ブリブリブリブリブリィ!!」
一番最初にもらしたのは誰だったか。
一人の限界を皮切りに、カラオケという密室空間で、脱糞四重奏が響き渡った。
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