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第九糞
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春。
暖かな陽気に、様々な植物が芽吹き出す。
通学路を行く一人の男子生徒の足取りも軽かった。
なぜなら、今日は新学期。
そして。
(新クラスの発表日!)
男子生徒、池谷和人は軽くスキップをしながら登校する。
クラスが変われば、周囲からの視線も大分ましになるはずだ。
気分がハイな和人は同じクラスだった大石聡美に声をかけちゃったりもする。
「よう! いい朝だね。今日もかわいいよ、聡美」
「か、かわっ……キモッ!」
一瞬面食らった聡美も和人のスキップにどん引きする。
そしてそのまま掲示板へ向かう和人。
(?)
そこで、彼は疑問に思った。掲示板にはA4の紙が一枚しか貼られていない。
とにかく、それを読んでみることにした。
「ふむふむ……『今年度は二年生のクラス分けを行いません』……またまた御冗談を」
二年からは文系・理系選択があり、それによって確実にクラスが分けられる。それは常識だ。クラス分けがないなんてあり得ない。
「なになに……『今年度から運営方針が変わりました。授業単位で教室を分け、同じ授業やそれ以外の活動では一年生の時と同じクラスで活動してもらいます』……何、だと!?」
和人は地に膝をつけて絶望した。
(二年生になれば……二年生になれば……そう思ってこの一年堪えてきたのに! おしまいだ……何もかもおしまいだ……)
「あんたそこで何やってんの?」
聡美が不審がって声をかける。
「体調でもわる……うわキモッ! 何か泣いてるし……ん? 掲示板?」
下を向いたまま無言で指さす和人。
「『今年度は二年生のクラス分けを行いません』……何、だと!?」
聡美は和人と同じようにその隣で膝をついた。
和人は知らないが、去年、彼の脱糞事件(正確には冤罪)によって、一年三組は「うんこクラス」と密かに呼ばれていたのだ。
「終わった……終わった……うんこクラス……はは……うんこクラス……」
と、そこへもう一人。
「お前らそこで何してんの?」
小川泰平である。
「体調でもわる……うわっ、何泣いてんの」
和人と聡美は無言で掲示板を指さす。
「掲示板がどうかしたのか? ……『今年度は二年生のクラス分けを行いません』……何、だと!?」
泰平は膝からくずおれた。花火大会で岩崎にふられた彼は、二年生から心機一転、リア充を目指そうと野望を持っていた。
「俺の……リア充……俺の……リア充生活が……」
この日、掲示板の前では三人の屍が生まれた。
「ねぇ、ちょっとそこ邪魔なんだけど」
非難の声も、今の彼らには聞こえなかった。
始業式が終わったあと、和人たちは新しい教室にいた。
掲示板で佐藤に「また一緒だね!」と微笑まれた和人は息を吹き返していた。
ポジティブに生きていこうと決めたのだ。
(教室に入る前に楠さんに睨まれた気がするけど、俺、何かしたかな)
楠とは和人が入学当初思いを寄せていた人物だが、脱糞事件によって可能性が消滅した。
(まあいいか)
今の和人はポジティブマンだ。大抵のことでは傷つかない。
「うわ~またストゥールと一緒かよ」
「さいあく~」
今の彼はポジティブマンだ。大抵のことでは傷つかない。
担任が教室に入ってくる。どうやら、担任も据え置きらしい。
「え~出席をとります。まず……池谷君」
「はい」
「ちゃんと食物繊維、取ってるかね?」
今の彼はポジティブマンだ。大抵のことでは傷つかない。
ホームルームが終わると休み時間になった。
「俺、ストゥール行ってくるわ」
「お、マジ? 俺もストゥール行っちゃおうっと」
今の彼はポジティブマンだ。大抵のことでは傷つかない。
昼休み。
和人は泣きながら便所飯を食らっていた。
「ちくしょう…ちくしょう……!」
涙で前が見えにくく、弁当のおかずも上手く掴めない。
そんなとき。
「ブリリリリリリリリリリリリリリリリィッ!!」
豪快な脱糞音が隣の個室から聞こえてきた。
(バカな! 入ってくるときに誰もいないことは確認したはずだ! いや、それよりも……)
「ブリリリッ、ブリッ、ブリッ、ブリィッ!」
(豪快な上にリズミカル……何て感動的な脱糞音なんだ! こんな音、聞いたことがない! まるで何かを訴えかけてくるような……いやまて、これは確実に何かを伝えようとしている!)
「ブリブリ」
(聞こえた! 今のは「ブリブリ」だ! こいつ、隣に俺がいることを知っている!?)
「ブリブリリ」
(今のは「ブリブリリ」だ!)
「ブリリ、ブリッ」
(「ブリリ、ブリッ」……何て力強い励まし…… 下を向いていた自分が恥ずかしい…………ああ、分かったよ! 俺は前を向く!)
和人の目頭が熱くなる。
(こんな素晴らしい励ましをもらったんだ、俺も答えなければいけない!)
和人は弁当を脇に置き、尻を出した。
「ブリブリリ、ブリ、ブリブリッ」
そして、脱糞奏者は軽快でパワフルな応援歌と共に、その場をあとにした。
「ブリ、ブリ、ブリリリリリリッ、ブリリリリリリリリリリィッ!」
教室に戻った池谷の顔はとても晴れやかでツヤツヤしていた。
「うっわ、ストゥール笑ってるよ」
「ホントだきっも」
今の彼はポジティブマンだ。大抵のことでは傷つかない。
暖かな陽気に、様々な植物が芽吹き出す。
通学路を行く一人の男子生徒の足取りも軽かった。
なぜなら、今日は新学期。
そして。
(新クラスの発表日!)
男子生徒、池谷和人は軽くスキップをしながら登校する。
クラスが変われば、周囲からの視線も大分ましになるはずだ。
気分がハイな和人は同じクラスだった大石聡美に声をかけちゃったりもする。
「よう! いい朝だね。今日もかわいいよ、聡美」
「か、かわっ……キモッ!」
一瞬面食らった聡美も和人のスキップにどん引きする。
そしてそのまま掲示板へ向かう和人。
(?)
そこで、彼は疑問に思った。掲示板にはA4の紙が一枚しか貼られていない。
とにかく、それを読んでみることにした。
「ふむふむ……『今年度は二年生のクラス分けを行いません』……またまた御冗談を」
二年からは文系・理系選択があり、それによって確実にクラスが分けられる。それは常識だ。クラス分けがないなんてあり得ない。
「なになに……『今年度から運営方針が変わりました。授業単位で教室を分け、同じ授業やそれ以外の活動では一年生の時と同じクラスで活動してもらいます』……何、だと!?」
和人は地に膝をつけて絶望した。
(二年生になれば……二年生になれば……そう思ってこの一年堪えてきたのに! おしまいだ……何もかもおしまいだ……)
「あんたそこで何やってんの?」
聡美が不審がって声をかける。
「体調でもわる……うわキモッ! 何か泣いてるし……ん? 掲示板?」
下を向いたまま無言で指さす和人。
「『今年度は二年生のクラス分けを行いません』……何、だと!?」
聡美は和人と同じようにその隣で膝をついた。
和人は知らないが、去年、彼の脱糞事件(正確には冤罪)によって、一年三組は「うんこクラス」と密かに呼ばれていたのだ。
「終わった……終わった……うんこクラス……はは……うんこクラス……」
と、そこへもう一人。
「お前らそこで何してんの?」
小川泰平である。
「体調でもわる……うわっ、何泣いてんの」
和人と聡美は無言で掲示板を指さす。
「掲示板がどうかしたのか? ……『今年度は二年生のクラス分けを行いません』……何、だと!?」
泰平は膝からくずおれた。花火大会で岩崎にふられた彼は、二年生から心機一転、リア充を目指そうと野望を持っていた。
「俺の……リア充……俺の……リア充生活が……」
この日、掲示板の前では三人の屍が生まれた。
「ねぇ、ちょっとそこ邪魔なんだけど」
非難の声も、今の彼らには聞こえなかった。
始業式が終わったあと、和人たちは新しい教室にいた。
掲示板で佐藤に「また一緒だね!」と微笑まれた和人は息を吹き返していた。
ポジティブに生きていこうと決めたのだ。
(教室に入る前に楠さんに睨まれた気がするけど、俺、何かしたかな)
楠とは和人が入学当初思いを寄せていた人物だが、脱糞事件によって可能性が消滅した。
(まあいいか)
今の和人はポジティブマンだ。大抵のことでは傷つかない。
「うわ~またストゥールと一緒かよ」
「さいあく~」
今の彼はポジティブマンだ。大抵のことでは傷つかない。
担任が教室に入ってくる。どうやら、担任も据え置きらしい。
「え~出席をとります。まず……池谷君」
「はい」
「ちゃんと食物繊維、取ってるかね?」
今の彼はポジティブマンだ。大抵のことでは傷つかない。
ホームルームが終わると休み時間になった。
「俺、ストゥール行ってくるわ」
「お、マジ? 俺もストゥール行っちゃおうっと」
今の彼はポジティブマンだ。大抵のことでは傷つかない。
昼休み。
和人は泣きながら便所飯を食らっていた。
「ちくしょう…ちくしょう……!」
涙で前が見えにくく、弁当のおかずも上手く掴めない。
そんなとき。
「ブリリリリリリリリリリリリリリリリィッ!!」
豪快な脱糞音が隣の個室から聞こえてきた。
(バカな! 入ってくるときに誰もいないことは確認したはずだ! いや、それよりも……)
「ブリリリッ、ブリッ、ブリッ、ブリィッ!」
(豪快な上にリズミカル……何て感動的な脱糞音なんだ! こんな音、聞いたことがない! まるで何かを訴えかけてくるような……いやまて、これは確実に何かを伝えようとしている!)
「ブリブリ」
(聞こえた! 今のは「ブリブリ」だ! こいつ、隣に俺がいることを知っている!?)
「ブリブリリ」
(今のは「ブリブリリ」だ!)
「ブリリ、ブリッ」
(「ブリリ、ブリッ」……何て力強い励まし…… 下を向いていた自分が恥ずかしい…………ああ、分かったよ! 俺は前を向く!)
和人の目頭が熱くなる。
(こんな素晴らしい励ましをもらったんだ、俺も答えなければいけない!)
和人は弁当を脇に置き、尻を出した。
「ブリブリリ、ブリ、ブリブリッ」
そして、脱糞奏者は軽快でパワフルな応援歌と共に、その場をあとにした。
「ブリ、ブリ、ブリリリリリリッ、ブリリリリリリリリリリィッ!」
教室に戻った池谷の顔はとても晴れやかでツヤツヤしていた。
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