9 / 25
第九糞
しおりを挟む
春。
暖かな陽気に、様々な植物が芽吹き出す。
通学路を行く一人の男子生徒の足取りも軽かった。
なぜなら、今日は新学期。
そして。
(新クラスの発表日!)
男子生徒、池谷和人は軽くスキップをしながら登校する。
クラスが変われば、周囲からの視線も大分ましになるはずだ。
気分がハイな和人は同じクラスだった大石聡美に声をかけちゃったりもする。
「よう! いい朝だね。今日もかわいいよ、聡美」
「か、かわっ……キモッ!」
一瞬面食らった聡美も和人のスキップにどん引きする。
そしてそのまま掲示板へ向かう和人。
(?)
そこで、彼は疑問に思った。掲示板にはA4の紙が一枚しか貼られていない。
とにかく、それを読んでみることにした。
「ふむふむ……『今年度は二年生のクラス分けを行いません』……またまた御冗談を」
二年からは文系・理系選択があり、それによって確実にクラスが分けられる。それは常識だ。クラス分けがないなんてあり得ない。
「なになに……『今年度から運営方針が変わりました。授業単位で教室を分け、同じ授業やそれ以外の活動では一年生の時と同じクラスで活動してもらいます』……何、だと!?」
和人は地に膝をつけて絶望した。
(二年生になれば……二年生になれば……そう思ってこの一年堪えてきたのに! おしまいだ……何もかもおしまいだ……)
「あんたそこで何やってんの?」
聡美が不審がって声をかける。
「体調でもわる……うわキモッ! 何か泣いてるし……ん? 掲示板?」
下を向いたまま無言で指さす和人。
「『今年度は二年生のクラス分けを行いません』……何、だと!?」
聡美は和人と同じようにその隣で膝をついた。
和人は知らないが、去年、彼の脱糞事件(正確には冤罪)によって、一年三組は「うんこクラス」と密かに呼ばれていたのだ。
「終わった……終わった……うんこクラス……はは……うんこクラス……」
と、そこへもう一人。
「お前らそこで何してんの?」
小川泰平である。
「体調でもわる……うわっ、何泣いてんの」
和人と聡美は無言で掲示板を指さす。
「掲示板がどうかしたのか? ……『今年度は二年生のクラス分けを行いません』……何、だと!?」
泰平は膝からくずおれた。花火大会で岩崎にふられた彼は、二年生から心機一転、リア充を目指そうと野望を持っていた。
「俺の……リア充……俺の……リア充生活が……」
この日、掲示板の前では三人の屍が生まれた。
「ねぇ、ちょっとそこ邪魔なんだけど」
非難の声も、今の彼らには聞こえなかった。
始業式が終わったあと、和人たちは新しい教室にいた。
掲示板で佐藤に「また一緒だね!」と微笑まれた和人は息を吹き返していた。
ポジティブに生きていこうと決めたのだ。
(教室に入る前に楠さんに睨まれた気がするけど、俺、何かしたかな)
楠とは和人が入学当初思いを寄せていた人物だが、脱糞事件によって可能性が消滅した。
(まあいいか)
今の和人はポジティブマンだ。大抵のことでは傷つかない。
「うわ~またストゥールと一緒かよ」
「さいあく~」
今の彼はポジティブマンだ。大抵のことでは傷つかない。
担任が教室に入ってくる。どうやら、担任も据え置きらしい。
「え~出席をとります。まず……池谷君」
「はい」
「ちゃんと食物繊維、取ってるかね?」
今の彼はポジティブマンだ。大抵のことでは傷つかない。
ホームルームが終わると休み時間になった。
「俺、ストゥール行ってくるわ」
「お、マジ? 俺もストゥール行っちゃおうっと」
今の彼はポジティブマンだ。大抵のことでは傷つかない。
昼休み。
和人は泣きながら便所飯を食らっていた。
「ちくしょう…ちくしょう……!」
涙で前が見えにくく、弁当のおかずも上手く掴めない。
そんなとき。
「ブリリリリリリリリリリリリリリリリィッ!!」
豪快な脱糞音が隣の個室から聞こえてきた。
(バカな! 入ってくるときに誰もいないことは確認したはずだ! いや、それよりも……)
「ブリリリッ、ブリッ、ブリッ、ブリィッ!」
(豪快な上にリズミカル……何て感動的な脱糞音なんだ! こんな音、聞いたことがない! まるで何かを訴えかけてくるような……いやまて、これは確実に何かを伝えようとしている!)
「ブリブリ」
(聞こえた! 今のは「ブリブリ」だ! こいつ、隣に俺がいることを知っている!?)
「ブリブリリ」
(今のは「ブリブリリ」だ!)
「ブリリ、ブリッ」
(「ブリリ、ブリッ」……何て力強い励まし…… 下を向いていた自分が恥ずかしい…………ああ、分かったよ! 俺は前を向く!)
和人の目頭が熱くなる。
(こんな素晴らしい励ましをもらったんだ、俺も答えなければいけない!)
和人は弁当を脇に置き、尻を出した。
「ブリブリリ、ブリ、ブリブリッ」
そして、脱糞奏者は軽快でパワフルな応援歌と共に、その場をあとにした。
「ブリ、ブリ、ブリリリリリリッ、ブリリリリリリリリリリィッ!」
教室に戻った池谷の顔はとても晴れやかでツヤツヤしていた。
「うっわ、ストゥール笑ってるよ」
「ホントだきっも」
今の彼はポジティブマンだ。大抵のことでは傷つかない。
暖かな陽気に、様々な植物が芽吹き出す。
通学路を行く一人の男子生徒の足取りも軽かった。
なぜなら、今日は新学期。
そして。
(新クラスの発表日!)
男子生徒、池谷和人は軽くスキップをしながら登校する。
クラスが変われば、周囲からの視線も大分ましになるはずだ。
気分がハイな和人は同じクラスだった大石聡美に声をかけちゃったりもする。
「よう! いい朝だね。今日もかわいいよ、聡美」
「か、かわっ……キモッ!」
一瞬面食らった聡美も和人のスキップにどん引きする。
そしてそのまま掲示板へ向かう和人。
(?)
そこで、彼は疑問に思った。掲示板にはA4の紙が一枚しか貼られていない。
とにかく、それを読んでみることにした。
「ふむふむ……『今年度は二年生のクラス分けを行いません』……またまた御冗談を」
二年からは文系・理系選択があり、それによって確実にクラスが分けられる。それは常識だ。クラス分けがないなんてあり得ない。
「なになに……『今年度から運営方針が変わりました。授業単位で教室を分け、同じ授業やそれ以外の活動では一年生の時と同じクラスで活動してもらいます』……何、だと!?」
和人は地に膝をつけて絶望した。
(二年生になれば……二年生になれば……そう思ってこの一年堪えてきたのに! おしまいだ……何もかもおしまいだ……)
「あんたそこで何やってんの?」
聡美が不審がって声をかける。
「体調でもわる……うわキモッ! 何か泣いてるし……ん? 掲示板?」
下を向いたまま無言で指さす和人。
「『今年度は二年生のクラス分けを行いません』……何、だと!?」
聡美は和人と同じようにその隣で膝をついた。
和人は知らないが、去年、彼の脱糞事件(正確には冤罪)によって、一年三組は「うんこクラス」と密かに呼ばれていたのだ。
「終わった……終わった……うんこクラス……はは……うんこクラス……」
と、そこへもう一人。
「お前らそこで何してんの?」
小川泰平である。
「体調でもわる……うわっ、何泣いてんの」
和人と聡美は無言で掲示板を指さす。
「掲示板がどうかしたのか? ……『今年度は二年生のクラス分けを行いません』……何、だと!?」
泰平は膝からくずおれた。花火大会で岩崎にふられた彼は、二年生から心機一転、リア充を目指そうと野望を持っていた。
「俺の……リア充……俺の……リア充生活が……」
この日、掲示板の前では三人の屍が生まれた。
「ねぇ、ちょっとそこ邪魔なんだけど」
非難の声も、今の彼らには聞こえなかった。
始業式が終わったあと、和人たちは新しい教室にいた。
掲示板で佐藤に「また一緒だね!」と微笑まれた和人は息を吹き返していた。
ポジティブに生きていこうと決めたのだ。
(教室に入る前に楠さんに睨まれた気がするけど、俺、何かしたかな)
楠とは和人が入学当初思いを寄せていた人物だが、脱糞事件によって可能性が消滅した。
(まあいいか)
今の和人はポジティブマンだ。大抵のことでは傷つかない。
「うわ~またストゥールと一緒かよ」
「さいあく~」
今の彼はポジティブマンだ。大抵のことでは傷つかない。
担任が教室に入ってくる。どうやら、担任も据え置きらしい。
「え~出席をとります。まず……池谷君」
「はい」
「ちゃんと食物繊維、取ってるかね?」
今の彼はポジティブマンだ。大抵のことでは傷つかない。
ホームルームが終わると休み時間になった。
「俺、ストゥール行ってくるわ」
「お、マジ? 俺もストゥール行っちゃおうっと」
今の彼はポジティブマンだ。大抵のことでは傷つかない。
昼休み。
和人は泣きながら便所飯を食らっていた。
「ちくしょう…ちくしょう……!」
涙で前が見えにくく、弁当のおかずも上手く掴めない。
そんなとき。
「ブリリリリリリリリリリリリリリリリィッ!!」
豪快な脱糞音が隣の個室から聞こえてきた。
(バカな! 入ってくるときに誰もいないことは確認したはずだ! いや、それよりも……)
「ブリリリッ、ブリッ、ブリッ、ブリィッ!」
(豪快な上にリズミカル……何て感動的な脱糞音なんだ! こんな音、聞いたことがない! まるで何かを訴えかけてくるような……いやまて、これは確実に何かを伝えようとしている!)
「ブリブリ」
(聞こえた! 今のは「ブリブリ」だ! こいつ、隣に俺がいることを知っている!?)
「ブリブリリ」
(今のは「ブリブリリ」だ!)
「ブリリ、ブリッ」
(「ブリリ、ブリッ」……何て力強い励まし…… 下を向いていた自分が恥ずかしい…………ああ、分かったよ! 俺は前を向く!)
和人の目頭が熱くなる。
(こんな素晴らしい励ましをもらったんだ、俺も答えなければいけない!)
和人は弁当を脇に置き、尻を出した。
「ブリブリリ、ブリ、ブリブリッ」
そして、脱糞奏者は軽快でパワフルな応援歌と共に、その場をあとにした。
「ブリ、ブリ、ブリリリリリリッ、ブリリリリリリリリリリィッ!」
教室に戻った池谷の顔はとても晴れやかでツヤツヤしていた。
「うっわ、ストゥール笑ってるよ」
「ホントだきっも」
今の彼はポジティブマンだ。大抵のことでは傷つかない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる