大便戦争

和スレ 亜依

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第十四糞

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 吹きすさぶ雪。
 視界はほぼゼロ。
 何とか進んでいるが、どちらが前なのかも分からない。
「和人、俺もう……」
「ばかやろおおおおお! 寝るな! 寝たら死ぬぞ!」
「ごめん、私ももう限界……」
「聡美! お前まで……!」
 静岡でこんな大雪が降ると思った? 残念、北海道でした!
 という訳でここは十二月の北海道。修学旅行中である。
 しかし、なぜ、こんな大変なことになっているかというと。
「クソッ、誰だ! 班別研修で『冬の北海道の暮らしを探ろう』なんてテーマを出したやつは!」
 和人の嘆きに泰平が反応する。
「まさか、こんなに雪が降るとは……なめてたぜ、北海道……」
「泰平えええお前かあああ!」
「いや、みんな賛成したじゃん!」
「そんなことは聞いてない! 死して償ええええ!」
「普通に死にかけてるでしょ……」
 聡美が冷静なツッコミを入れた。
「あ」
「どうした、佐藤さん」
「あそこ」
 佐藤の指さす先に、小屋のようなものがあった。
「でかした! あそこに避難しよう!」

「さ、寒い……」
「まさか、マッチはあるのにストーブの燃料がないなんて……」
「薪と囲炉裏いろりもあるけどマッチじゃ着火できないだろうし……」
 四人はブルブルと震えていた。
「どうしよう、このままじゃみんな……」
 佐藤のつぶやきに、皆が押し黙った。
 だが。
「一つだけ、方法がある」
 和人だった。皆が和人の顔を見る。
「何なんだ、その方法ってのは!ここには燃やせる物なんて何もないんだぞ!?」
 泰平の疑問に和人は神妙な顔で厳かに告げた。
「人糞だ」
 そのとき、残りの三人に衝撃が走った。
「何、だと!?」
 そのまま固まる四人。
 そして。
「つまり、どういうことだってばよ」
 パチーン。
 和人が泰平の頭を張り倒した。
「いってぇな! 俺にも分かるように説明してくれよ!」
 そこで佐藤が手を上げた。
「私、聞いたことある。動物の糞からはメタンガスが発生するって」
 聡美が反応する。
「ああ、確かインドでは牛の糞を乾燥させて燃料にするんだっけ」
「うん」
「つまり、あれか? うんこしてそれを着火剤に使おうってことか? できるのか? 湿った糞で」
 和人が首を横に振る。
「分からない。だが、湿った糞でもメタンガスは発生する。試してみる価値はあるだろう」
 四人は口を閉ざした。
 沈黙ののち、重い口を開いたのは泰平だ。
「方法は決まったが、誰が脱糞するんだ? はっきり言って、このハードルは高いぞ?」
「ああ、確かにそうだ。自分の意思で脱糞するんだからな。いわば、これは公衆的かつ能動的脱糞だ」
 場は再び沈黙に支配された。
 が。
「……みんなで、しよう」
 和人がそう言った。
「「「え?」」」
 皆が聞き返すと、和人はもう一度はっきりと言った。
「みんなで、脱糞しよう」
 その発言に、泰平が諦めたように頷いた。
「……そうだな、そうすれば量も確保できるしな」
「うん、分かった」
 佐藤も同意した。
 しかし。
「私は絶対やらないからね」
 聡美が反対した。
「そんなの、あり得ないから」
「聡美」
 和人が声をかけた。
「何よ」
 和人の目は真剣そのものだ。
「この状況で、駄々をこねないでほしい」
「何が駄々よ! 女子にうんこさせるなんて普通あり得ないでしょ!」
「……ふざけるなよ」
 和人の声は怒りに震えた。
 その様子に聡美は面食らった。
「な、何よ……」
「女も男も関係ないだろ! お前は誰かを犠牲にして、それで生きていければいいのか!?」
「え、そんなに怒ること……?」
「泰平だって! 脱糞の苦しみは知ってるんだよ! 見ろ! 佐藤さんなんて便秘薬まで飲んで準備してるんだぞ!?」
 和人の剣幕に、聡美は完全に萎縮した。
「聡美がそんなに薄情なやつなんて知らなかった! もうお前は友達でも何でもない!」

 ズキ。

 聡美の胸が痛みを覚えた。
 腐れ縁でも、拒絶されることがこんなにも痛いことなんだと、聡美は初めて知った。
(私は、一年生のときのあの事件のことで、ずっと和人を拒絶してた。……痛かったのかな、和人も)
 気づけば、一筋の涙が頬を伝っていた。
「……ごめん。私が悪かった。……私も、やる」

 四人は囲炉裏を囲んで尻を向け合った。こうすれば、お互いに脱糞姿を見られなくてすむ。フォーメーション「四つ葉の脱糞クローバー」だ。
「いいか? 『1、2の3』だぞ?」
「ああ」
「うん」
「分かった」
 皆、息を吸い込む。
 そして。
「ブリリリリリリリリリィ!!」
 決意の脱糞音が轟いた。

 皆がパンツを履いたところで、和人がマッチで火を付ける。
「……やった」
「ああ、やった!」
 大便についた火は、そのまま薪へと燃え移った。
 プツン。
 そこで、聡美の何かが切れた。
 彼女は、嗚咽した。
「わ、たし……ヒック……わたし……うんこ……ヒック……しちゃった」
 和人が聡美を抱き寄せる。
「ああ、立派な脱糞だった。お前は、友達思いの優しいやつだ。俺たちは、脱糞による固い絆で結ばれた」
 その言葉で、聡美の嗚咽は号泣へと変わった。
「うわああああああああん」


 五日後、『冬の北海道遭難脱糞事件』を振り返って、和人は独り言をつぶやいた。
「しかし、水みたいな下痢糞をしたやつは誰だ? クソの役にも立たなかったぞ。いったいいつから我慢してたんだ? いや、それよりそいつはあのあと尻がクソまみれのままだったってことか?」
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