哀しい愛

まめ太郎

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「ここ、どうしたんだよ?」
 いつもの倉庫で俺の二の腕を掴み、こめかみに触れながら小糸が言う。
 そこには真っ白なガーゼが貼られていた。
「なんでもない。ちょっと転んで」
 曖昧な笑みを浮かべながら、俺は小糸の手を避けた。
 本当は昨日、父親がテーブルに叩きつけたグラスが割れ、破片が俺のこめかみを傷つけた。父親の手も血だらけになったが、縫うほどの怪我ではなく、本人は直ぐに眠ってしまった。
「そういえば小糸、もうすぐ誕生日だろ?なにか欲しい物ない?」
 話題を変えたくて明るく問うと、小糸はあからさまに不機嫌な表情となった。
「欲しい物ってプレゼントくれるってこと?」
「うん」
 小糸は口の端を歪め息を吐くと、マットに座った。
 俺も隣に座る。
 俺は何が小糸の機嫌を損ねたか、全く分からなかった。
「プレゼントってそれお前が稼いだ金で買うわけじゃないだろ?」
 そう言われて俺は言葉に詰まる。
「お前の親の金で何か買って貰ったとしても嬉しくない。そんなことされるなら、何も貰わない方がマシ」
 小糸の言いたいことが分かり、俺は眉を寄せた。
 小糸が金銭的に借りを作りたくない主義だということは知っていた。
 例えばノートを貸してくれた礼だと俺が80円の紙パックのジュースを渡そうとすると、小糸は絶対にそれを拒む。
「そういうの嫌なんだ。金持ちから施しをもらうみたいで」
 俺は小糸の言葉が理解できなかった。
 ノートを写させてもらった礼にジュースを奢るなんてこと、今までのクラスメイトとは当たり前にしてきた。それを施しだと感じるのはおかしいとさえ思った。
 しかし小糸に嫌われたくない俺は、今まで言い返すことはしなかった。
「でも、でもさ。付き合って初めての誕生日なんだよ?学校も冬休みだし。せめて一緒に過ごしたい」
 いつもは小糸の言うことには逆らわない俺だが、誕生日のことだけは別だった。
 休日も小糸は家の手伝いで忙しいと言い、俺達はデートらしいことを今まで一度もしたことがなかった。
 せめて誕生日くらいは長い時間一緒にいたかった。
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