哀しい愛

まめ太郎

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 学年が上がり、ついに受験本番となった。
 俺はそれなりに名の知れた私大を、正臣は超難関国立大を志望校としていたから、今までのように毎日会うのは不可能だった。
 週一回、放課後のわずかな時間でも会えればいい方で、マットの上で話している最中に正臣が勉強疲れで、寝てしまったこともあった。
 夏本番になると、用具室は蒸し風呂状態になった。
 もうここで会うのは厳しいかもなと思いながら、マットに座ると、正臣が奥に隠してあったビニール袋から、紙皿とラッピングされた長方形のパウンドケーキを取り出した。
「誕生日だろ?」
 目を丸くする俺の前で、てきぱきと正臣が準備する。
「覚えててくれたんだ」
「当たり前だ」
 苦笑する正臣に俺も微笑み返した。
「本当はホールの生ケーキ買いたかったんだけど、さすがに腐るかと思ってさ。ごめんな。貴雄は俺のためにご馳走用意してくれたのに、俺はこんなことしかできなくて」
「そんな、これだって十分すぎるくらいだよ。勉強大変なのに、俺のためにケーキ、用意してくれてありがとう」
「お前だって勉強は大変だろ?今日は遅くなっても平気なのか?」
「うん、久々に正臣と二人っきりで会えると思ったから、図書室閉まった後、友達の家で勉強してくるって伝えてある」
 はにかんで俺が言うと、正臣が良い子だというように俺の髪の毛をくしゃりと混ぜた。
「正臣こそ平気?模試近いよね?」
「たまには息抜きも必要だからな。今日だけは受験のこと忘れようぜ」
 正臣の言葉に俺は笑顔で頷いた。
 パウンドケーキの上に18の形をした蝋燭を正臣がたてる。
「貴雄が俺より年上だってのが信じらんねえ」
「お兄ちゃんって呼んでもいいよ」
 ふざけてそう言うと、軽く頭を小突かれた。
 ライターで火を点け、正臣が微笑む。
「さあ、貴雄。願い事するんだろ?」
「うん」
 俺は目を閉じ、頭の中で「ずっと、ずっとずっと正臣といられますように」と願った。
 目をあけ、蝋燭を吹き消した。
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