スパダリかそれとも悪魔か

まめ太郎

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 23時になり、俺の上りの時間になった。俺は厨房にもう一度謝りに行き、みっちゃんにも迷惑をかけてしまった謝罪をした。
 俺はあれからもオーダーを聞き間違えたり、グラスを割ってしまったりしていたのだ。

「今日は本当にご迷惑かけました。」
 俺の言葉にみっちゃんが笑顔で手を振る。
「いいって。私の初日なんてもっとひどかったんだから。今日は疲れたと思うからゆっくり休んでね。」
 俺はみっちゃんの言葉に胸が詰まって、無言で頭を下げた。

 着替えを終えて、店から出ようとすると、雨が降り出していた。
 ひさしから手を差し出すと、大粒の雫であっという間に手がびしょ濡れになった。
 傘も持っていないし、走るしかない。
 俺の気持ちはさらに下降して、もう泣きだしたくなった。

 ふとこちらに近づいてくる人影に気付き、俺は驚いてそちらに駆け寄った。
「怜雄。どうしたんだよ。こんなところで。」
 大きめの傘を差した怜雄が、濡れないように俺の肩を引き寄せる。
「迎えに来た。」
 俺は怜雄の気遣いが嬉しくて微笑んだ。
「ありがとう。」

 怜雄は俺の肩を抱いたまま、歩きはじめる。
「で、どうだった?初日は。」
 怜雄の問いかけに俺は眉を下げ答えた。
「うん。失敗ばっかり。オーダー聞き間違えるわ、料理は落とすわ。」
「最初は誰だってそんなもんだろう。腹は減ってないか?」
「すごい忙しくてまかない半分くらいしか食べられなかったからちょっと減ってる。」
「プレシャスワンでお前の好きなオレンジチョコのムース買ってあるぞ。」
 怜雄の言葉に俺は目を丸くした。
「えっ、あそこのケーキ屋二駅も先じゃん。なんで?」
「いや、お前が食べたいかなと思って。時間あったし。」
 俺は胸がきゅうとなって、怜雄の腰に抱きついた。
「おい、人前でいちゃいちゃするのはダメなんじゃないのか。」
「今日はいいの。どうせこんな雨の中、誰も見てないって。怜雄、疲れたから甘いものすげえ嬉しい。ありがとっ。」
 俺を呆れたような目で見ながら、怜雄は俺のしたいようにさせてくれた。
 こんな短時間で、俺の気持ちを180度変えてしまう怜雄は、本当にすごいと思った。

 そんな俺たちを見ていた二つの瞳があることに、この時の俺は全く気付かなかった。
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