私の番の香り

まめ太郎

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 そこは広いマンションの一室だった。
「瑞樹(ミズキ)~」
 俺は抱きついてきた友人から体を離し、苦笑した。
「なに、明紀(トモキ)。もう酔ってる?」
「まさか。夜は始まったばかりだよ」
 そう言いながら明紀が俺を中央のバーカウンターに連れて行く。
「ソルティドック」
 俺のオーダーにバーテンが頷き、シェイカーを手に取った。
「結構集まってんじゃん」
 部屋を見回しながらそう言った。
 モデルのバイトをしている明紀は仕事先で業界人などが集まるパーティのお誘いをうけるらしく、一人では気まずいから一緒に参加しないかと俺を誘うことも多かった。

「今日この場所で運命の番に出会えますように」
 そう言った明紀が持っていたカクテルを一気に飲み干す。
「運命の番ねえ」
 俺はバーテンからグラスを受け取ると縁に付いている塩を舐めた。
「あのねえ。僕だってそんなもの都市伝説だって分かってるよ。でもそんなモノにも縋りたくなるじゃん。俺は瑞樹と違って就職も決まってないし、今は彼氏も彼女もいないんだから」
 明紀がバーテンにグラスを突き出し「同じ物」と愛想なく言う。
「明紀はそもそも就職活動してなかったろ?恋人だって何人も告白されているのに、全員断ってるし」
「僕メンクイだから。いくら金持ちでも不細工は無理」
 ひらひらと明紀が顔の横で手を振る。
「大体瑞樹は真面目過ぎるんだよ。僕らの大学でまともに就職する奴なんてほとんどいないじゃん」
「まあね。俺も両親に結婚しないで就職するつもりだって伝えた時、すごい残念がられたけど。せっかくあの大学に入学したのにって」
 俺は自嘲の笑みを零しながらそう言った。
 俺と明紀はオメガ専門の四年制の大学に通っていた。
 普通の大学と違って授業は料理、裁縫、礼儀作法。
 卒業後アルファの嫁として立派に振舞えるよう、4年間そんな内容をびっちり習う。
 授業の一環としてアルファやベータとの集団見合いもあるが、俺も明紀も相手を見つけることはできなかった。
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