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プロローグ

第4話 プロローグ その4 話すつもりはなかったのに

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あれから1時間ぐらいの時間が過ぎた。会話が苦手な冬馬にとって、
これだけ話をしていた事は今までなかった。

夏子とは、些細な事から趣味の話、
昔見たアニメや夢中になってやったゲームの話等、色々な話をした。
流石に昔のロックの事はわからなかっただろうが、
それでも嫌がらずに聞いてもらえたのは嬉しかった。
ジミヘンが歯でギターを弾いたりした話をしたら
「ありえない」って笑っていたのが印象的だった。

誰から見ても美人な夏子と普通におしゃべり出来る事は、
冬馬自身にとっても嬉しく感じた。

まぁ酒の力もあるだろうけど。冬馬は程々酔いが回っており、
その分普段よりも饒舌になっていると思う。

一方の夏子はピッチャーを空にしてしまい、
今度はジョッキで酎ハイを注文していた。
流石に飲み過ぎだろうと、冬馬は心配していた。



「おいおい、そろそろ飲み過ぎだぞ。やめておきなさい。」

「でぇじょうぶよ~。もっとのむのぉ~」

…全然大丈夫じゃないように感じた。


「お酒はこれでお終い。何か食べれるもの探してくるよ。」

冬馬が席を立とうとすると、夏子が袖口を摘まんで冬馬を引き留めた。

「そばにいて。離れないでほしいの。」

夏子はドキッとするような台詞で話しかけた。仕方なく冬馬は席に座った。



「何となくなんだけど…。」

座った冬馬が口を開いた。

「思い出したくない事でも思い出した?」

酔っぱらってぽーっとしていた夏子が一気にシャキンとなった。

「何でわかるの?」

「いや、確信はないけど何となくね。」

普段は人を観察することのない冬馬だが、この時は何故か違和感を感じ取った。

本当に何となくだが。

「高校の時の話なんだけどね…。」

夏子は淡々と話し始めた。





「高校の時はね、仲間内で遊びに行ったり、カラオケに行ったり、
結構誘いがあったの。男の子とも付き合ったりもした事もあった。
でもね、みんな自分の体を目当てにしている感じで。
結局、長続きしなかったのよね。」

冬馬はじっと聞いて頷いていた。

「それで2人目の男の子と仲良くなったあたりからかな、
誘いがぱったり無くなったの。今考えると。
クラスのみんなから相手にされなくなった感じで。

最初は、将来の事を考えるようになって
みんなで遊ぶ事もなくなったのかなって思ったけど、
それが続くと流石におかしいと感じるよね。
自分から話しかけても、何かそっけない感じだったし。
きっと誰かが裏で動いたんだろうね。

だから卒業までの間は、自分一人で寂しかった。将来の事もどうでもよくなって、
大学進学も就職も何も考えていなかった。
先生に相談しようにも、親身にしてくれなかったから何もしなかった。」

思っていたよりもヘビーな話だった。冬馬はじっと聞いている。


「今日のこの集まりもね、今まで連絡もくれなかった昔のクラスメイトから
いきなり連絡が来たんだよ。変だなぁと思っていたけど、案の定、
足りない人数を私に押し付けて自分は知らんぷりみたいな感じだった。
のこのこ行く私も私だけど、でも冬馬くんが相手をしてくれた。嬉しかったなぁ。」

黙って聞いていた冬馬が口を開いた。



「夏子とは似たもの同士だったんだな。
波長が合うのが何となくわかった気がする。」

「え?どういう事?」

「恥ずかしいんだけど、うちの両親は離婚しているんだよね。
それも原因は父と母、両方とも浮気してたんだ…。」

今度は夏子が黙って冬馬の話に耳を傾けた。

「中学の時から、両親は幾度となく言い争いをしていた。
子供心にも嫌だと感じてた。
仲直りしてよと頼んでも、話も聞いてくれなかった。
もちろん、友達に言おうにも解決策なんて出てくるはずもなく、
いつの間にか自分は孤立していたね。

高校の頃から、早く自立して自由に暮らしたいと思って、
一人で生活する手段を勉強していたなんて滑稽だろ?」

夏子はじっと冬馬を見つめて話を聞いている。



「結局、両親は高2の時に離婚したよ。自分は母親に引き取られたけど、
浮気相手とは仲が続いていたみたいで、
自分が自立する事を喜んでいたよ。もうその頃はどうでもいいやと思っていたけど。

それで高校卒業したらすぐに家を出て一人暮らしを始めたんだ。
今までは人なんて信じられなかった。」

「…。」

「でもね、今日、夏子と話してみて、ちゃんと会話が出来たんだ。
それも楽しかった。まさか今まで話す事のなかった
こんな話までするとは思わなかったけど。」


夏子は黙ってグラスを持ってきて、ビールを並々と注いで冬馬に手渡した。


「よし、飲もう。とことん飲もう。私も付き合うから。」

「だから飲み過ぎだって…。」





結局、一次会がお開きになる頃には、夏子は完全に酔い潰れてしまっていた。

「おいおい、結局こうなるのかよ…。」

少々飽きれて、酔い潰れた夏子を見ていた。

他の連中は、一次会で帰る者も、嬉々として二次会に行く者も、
誰も介抱の手伝いをしてくれなかった。

薄情な連中め。



(タクシー呼ぶしかないかなぁ。住所聞いておけばよかった)

冬馬はタクシーを手配し、自分の住んでいるマンションへと夏子を連れて行った。

(仕方ない、ベットに寝かせておくか。頼むから吐かないでくれよ。)

冬馬は夏子をベットに寝かせて、自分はソファに横になるのだった。


◯◯◯◯◯◯

以上でプロローグ終了です。少しずつ手直ししていくつもりですので、
更新は不定期になるとは思います。
出来るだけ日が空かないようにしていきたいなと。
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