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王子は美青年の諍いを享受する1

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 水崎楓として生きた17年は、とても平坦で。

 これといった波風も立たない人生だった。


(だってのに)


「なんでそんな大事なことを、忘れられるかねぇ」

「アルデバラン。 いかに貴公がカノープス王子の幼馴染とはいえ、口の利き方を慎まれよ」

「人前じゃねぇんだし、別にいーだろ」

「私たちがいる」

「うるっせぇなぁ。 一体どこの小姑だよ」

「何?」


(…おー)


 イケメンが、自分を巡って言い争いをしている姿というのは圧巻である。


 長い黒髪に、紺碧の瞳を吊り上げているのがカノープス付きの従者でありノーガイヤ伯爵家の長男・エンケラドゥス、

 くすんだ灰色の銀髪に、琥珀色の瞳を有し、挑発的な表情をして剣を佩いているのが、騎士・アルデバラン。


 騎士であるアルデバランもそうだが、その心得もあるエンケラドゥスもしっかりとした体躯に見合った背丈を有しており、意見を戦わせて睨み合う姿は、側に控えている使用人たちを威圧し、自ずと黙らせてしまうほどの迫力があった。


「カノープスさま」


 美丈夫二人が睨み合う姿に感嘆し、一人がけの豪奢なソファーに座りその様を眺めていたカノープスの左隣に控えていた執事に小声で呼びかけられてはっと我に返りその顔を見上げると、そんなカノープスの前でふりふり、と首を振る老齢の執事が言わんとすることを汲み取ったカノープスは、シャンデリアの真下で睨み合っている二人に向け、声をかけた。


「エンス、アディー」

「っ、はっ」

「ンだよ?」

「仲良くしろとは言わないけれど、いつもこう言い争われては、話にならないだろう?」

「!」


(この二人は)


 カノープスの『事情』に通じているせいか、顔を合わせればいつも口ゲンカをする仲なのだが。


 だからといって犬猿の仲、というほど険悪な状態ではなく、ケンカの原因はいつもカノープスを巡ってのことだった。



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