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気がついたら、上司と…3
しおりを挟む「あの…課長?」
「うん?」
「なに、を…?」
「時間も時間だし、腹減ってるんじゃないかと思ってな。 何か、食うだろう?」
ネクタイこそ寛げてはいるが、外していないその先を胸ポケットに押し込んだ斎藤は、水道水で手を洗いながら包丁を握り、人参へ刃を立てた。
「や…そういうことは、オレがします!」
夜遅くまで仕事に励んだ快斗を気遣い、調理をしようとする斎藤に習い胸ポケットへネクタイを押し込むと、小走りにその傍へ寄り、手を洗う。
「そうは言うが…ここの家長は、俺だぞ?」
「うっ…そう、ですけど」
上司に小間使いのような真似をさせられない、と駆け寄った快斗だったが、斎藤に尤もなことを言われてしまい、言葉に詰まる。
しかしここで引く訳には行かない、と立ち尽くしていると、斎藤はくすっと小さな笑い声を零した。
「大したものもないが…じゃあ、手伝って貰おうかな」
「! ハイ!」
「ジャガイモを剥いてくれないか」
「次はこれを」と、仕事の時と同様に次々と指示をくれる斎藤に従い手を動かしていると、あっという間に調理が済み、あとは味を整え盛り付けるだけとなった。
(こんな時まで『課長』なんだ)
――仕事の時も、その流れが滞らないよう、スムーズな指示をくれる斎藤。
普段も段取り上手なんだ、と思うと笑えてきて、思わず笑顔になってしまう。
「何、一人で笑ってるの」
「いえ、すみません…課長があんまり、会社にいる時と変わらないから、つい」
「…ああ」
野菜たっぷりのポトフに塩を入れ、味を整えていた斎藤の顔色が、快斗の言葉で色を無くす。
あれ、なんかマズイこと言ったか、と思いつつ斎藤の顔色を窺っていると、
「強いていうなら、それかな」
と言う声に、思わず片眉が上がってしまう。
「はい?」
「俺の離婚の原因。 一緒にいると、仕事の延長みたいで嫌だと言われたことがある」
その言葉で、快斗は思い出す。
(今の会社へヘッドハンティングされる前に勤めていた会社で、一緒に働いていた人と結婚してたって、聞いたことがあったな)
それを誰から聞いたのかは、もう覚えていない。
けれど、今の斎藤の一言でそれが事実だと知った快斗は、その横顔をじいっと見つめてしまう。
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