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気がついたら、上司と…4
しおりを挟む「…どうした?」
「いえ…一緒に仕事をさせていただくようになってから、初めて課長のプライベートを聞いたな、って思って」
圧力鍋の蓋を閉め、IHコンロの前から快斗が立っている流し台の方へ寄ってきた斎藤は、凝視している快斗を見ないまま笑みを零した。
「そうだな。 こんな話ができる同僚はみんな出世してしまったし、かといってカイトのような若い連中に話して聞かせたら将来に不安を感じさせるかもしれないと思って、話したことなんか、なかったからなぁ」
「将来に不安って…別にイマドキ、離婚なんて珍しいことじゃないじゃないですか」
「…そうかな」
「ですって! だって、どっちかっていうとオレたち、課長の謎なプライベートが知りたいし、もっと深い話だってしたいと思ってるんですよ?」
…さっき斎藤は、自虐的に自分と同期に当たる人間が皆出世してしまったという発言をしたが、斎藤が長年『課長』の肩書きを拝しているのは、不出来だからという理由からではない。
ヘッドハンティングされ会社に入った時、社長からは一つの部を任せたいという、内示があったと聞いている。
しかし斎藤は、
『現場で戦う皆の顔が見える場所で、一緒に仕事がしたい』
という理由から、部長クラスでのスタートを断っていた。
しかしハントした手前、肩書きもないままでは格好がつかないという会社側からの要望で、仕方なく『課長』というその肩書きを、受け入れざるを得なかった…という経緯が、斎藤にはあった。
それは今現在も斎藤のモットーとして残されていて、長く課長という肩書きに、自ら望み収まっているのだった。
『仕事の出来る奴は、遠慮なく俺の頭を踏み越えて行ってくれ』
…そう言って、年下の部下たちを巣立たせる斎藤の背中に――憧れない男など、いなかった。
「…その深い話、っていうのに、離婚のことが含まれていたりするのかな?」
「! まさかっ! あ、でも課長に話したいというお気持ちがあるんでしたら、ちょっと聞いてみたい気もしますけど」
(田中さんのこともあるし)
斎藤よりは人生の経験値が少ない快斗としては、斎藤から学ばなければならないことは、仕事以外にもたくさんある。
話してくれるのなら何だって聞きたい、という気持ちを込めた瞳で斎藤を見つめ、口を開いた。
「何でも構いません、聞かせてください」
「何でも、ねぇ…」
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