クロスオーバー・ラブ

黒崎由希

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気がついたら、上司と…10

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「…課長?」

 勢いを無くしたモノをそのままに、腰をシンクに預けぼんやりとしている斎藤に声をかけると、床に落ちている体液を拭き取ろうとしていた快斗の顔を、一瞬視界に捉えた。

「…」


 しかし斎藤は何も言わずに、目を逸らしてしまう。


(…あ~…)


 勢いに任せてしたはいいが、それがなくなったこれから先、どうしたらいいのかが分からない、といった所なのだろう。


 確かに、我に返って冷静に考えてみればこれほどあり得ないことなど、そうないだろう。


 しかけたのは斎藤だが、まさかそれに快斗が乗り、一緒にするとは思いもしなかったという気持ちが斎藤にはあるんじゃないか、と床を拭く手を止めて考えた快斗は、その罪悪感の片棒を担ぐため、穏やかな口調で話し始めた。

「まぁ、こんなこと、よくある話ですよ。…って言っても、こんな年になってまでするとは思ってませんでしたけど」

 床に視線を戻し、落ち込んでいる様子の斎藤になるだけ不快な思いをさせないように心がけつつ、快斗は話を続けた。

「それでもしたってことは、オレも課長も、たまってた証拠ですよ。 だから…大丈夫、よくあることですって」


 大まかではあるが、零したものを拭き終わり、立ち上がる。


 が、それでも斎藤は微動だにせず顔を背けているのを見た快斗は、思わずため息を吐いた。


(マジかよ)


 これだけ言っても浮上できないのか、と思った快斗は、キッチンの片隅にあったゴミ箱にティッシュを捨てると、斎藤に背中を向けたまま、少し考え込む。


 …確かにこんなこと、学生時代にだって経験したことなどない。


 『よくあること』などと言って誤魔化そうとしたが、快斗が中学生・高校生の時にしたことがあるのは、


『エロビを見てたら盛りました』


 という、同級生たちと同じ部屋で、オナニーした過去があるだけだった。

 だから、コスッてよくなったからといって、イチモツを一緒に擦り合うなんてことは、本当は『よくあること』なんかじゃないことなど、快斗も十分分かっていた。


 だけどそうでも言わなければ斎藤の気持ちが浮上しないのではないかと思ってのことだったのに、それでも斎藤は、何のリアクションも示してくれないままだ。


 …話す言葉に、実がないと見抜かれているからだろうか?


(それじゃあ)


 嘘のない、本当の本当を話すしかないか、と考えた快斗は、斎藤の方を向くとゆったりと笑み、ライトな口調を装いつつ――『軽い』と言い切るには程遠い言葉を、何気なく…放った。



.
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