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38 体育館で

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「………何の用?」

 心菜は非難を込めた声で立花に話しかけ、立花が額に当ててくれている冷たい物に擦りっと擦り寄った。

(………気持ちいい………………)

 ほうっと溜め息を漏らすと、彼は破顔した。破壊力抜群の笑みを目の前でされ、心菜の目はちかちかした。無駄に顔が良いと、周りに迷惑をかけるという内容を小説でよく見かけるが、心菜は実際に自分が体験することになるとは夢にも見ていなかったし、体験したくなかった。

「なあ、放課後空いてる?」
「………空いてるよ」
「みんなでっつーか、いつもの6人で南公園で打ち上げしようって話になったから誘いにきた」
「そ、」

 心菜は何故立花だけが誘いに来たのか不思議に思った。必死になって思考を回そうとするが、疲れ果てた身体に鞭を打っても、良い感じの答えは導き出されてくれない。ここまで疲れるのはいつぶりだろうか。

「俺が1人できた理由、気になる?」
「………そうね。気になるよ」

 立花はニヤリと笑った。

(あぁ、これは『秘密』で終了パターンだな)

 そこそこ付き合いが長くなってきて、心菜は彼の細かな癖に性格、考え方などをある程度理解していた。これは意地悪をする時の表情だ。

「教えてやんなーい、って言いたいとこだけど、まあ答え言うよ」
「え?」

 自分の口から呆然とした声が上がり、心菜は慌てて少しだけ疲労の抜けた指先を叱咤して、口元を塞いだ。彼の表情は、意地悪な時ではなく、真摯な時にする真っ直ぐで真面目な表情になっている。こういう時の彼を、心菜は純粋に、心の底から尊敬して、羨ましく思っている。コミュニケーション能力の高い彼は、密かな心菜の憧れだ。

「高梨に頼まれたんだ。アイツさ、必死な顔で『ここなは絶対疲れ果ててるから、見てきてあげて!!』って言ってきたんだぜ。自分じゃあ弱いところを見せてくれないからって」

 全部お見通しな幼馴染に、心菜は苦笑した。何故ここまで自分のことを理解しているのだろうかと、不思議にも思った。

「帰れるか?」
「………しばらく立てそうにないや。ちょっとだけこのままでいさせて」

 心菜は立花の言葉に、甘えるように返事をして緩慢な仕草で瞳を閉じた。疲れがたまる非効率的なことは嫌いな主義だが、たまにはこういうことも悪くはないかもしれないと、心菜はそっと微笑んだ。

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