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アルトの天才。
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微かに音が聴こえた。
流れるように美しくて、
いつか消そうなほど儚くて、
とても柔らかくて、優しくて。
「すごい…」
私が聴いた中でのアルトを吹く人の音には
無い音だった。
確かに私が渡した譜面のはず。
「凄いだろ、彼。」
振り返ると、野村先生だ。
「…はい。
どんなに凄いプロの方でも…
こんな音は出せないと思います。」
「…ソロコンテスト全国大会小学生の部
3年連続優勝。
彼が居た武仲音大附属は国内でも
トップクラスのブラスバンド部の実力を誇る。
そこで最年少で夏のコンクールソロを吹いた
実力者だ。
敢えてさっき彼は言ってなかったが、
君には伝えておく。
彼の父は、霧咲 宗輔だ。
勿論、君も知っているだろう?」
「…え。」
霧咲 宗輔と言えば。
あのジャズの名門、
バーグリー音楽大学を首席で卒業した、
世界的に有名なサクソフォンプレイヤー。
「何で、そんな人の息子さんがここに…」
「君のお父さんが
私の旧友なのは君も理解してるよな?」
「あ、はい。」
そう、先生と私の父は大学時代、
トランペットとサックスで一緒に
スイングをやっていた。
「数ヶ月前に電話がかかって来たんだ。
ブラスバンドに入れて欲しい子が居るって。」
「私の父からですか?」
「あぁ。
彼の父は君のお父さんと
古き友人だったみたいでね。
で、1回彼が所属していた楽団の
定期演奏会を観に行った。
凄かったよ。
なんでうちのバンドなんだろうって
思ったんだけど、すぐに分かった。」
そう言うと、
私の目を真っ直ぐ見る。
「君と吹いて欲しかったからだ。」
「え。」
私は目を見開いた。
1つのことが頭の中をよぎる。
「…待って下さい、なら、私の為に
あの子は武仲音大附属を辞めたんですか?
あんなに将来有望な子を?」
「いや、違う。
単に彼のお父さんが
ドイツに2年行くことになったんだ。
だから、彼のお父さんは
君のお父さんに相談していた。
息子はどうしようって。
フィンランドの方に預けるのも
ありだったらしいけど、
日本の方が本人の負担も少ないからね。
そしたら、君のお父さんは、」
そこで先生の話が途切れる。
「…あれ、まさか聞いてない?」
「え、何をですか?」
そう、私は目を丸くする。
そこまでの話を聞いても、
私は何のことかさっぱりだ。
そう思って、先生の目を見ると、
困惑と呆れの色が混ざった、
複雑な色をしていた。
そして、ため息を吐くと、
苦笑いを浮かべながら、
先生は確かにこう言った。
「君の家に、彼が2年住むって話。」
「え。
…えぇぇ!?」
その声は、
遠くまで遠くまで響き渡った。
流れるように美しくて、
いつか消そうなほど儚くて、
とても柔らかくて、優しくて。
「すごい…」
私が聴いた中でのアルトを吹く人の音には
無い音だった。
確かに私が渡した譜面のはず。
「凄いだろ、彼。」
振り返ると、野村先生だ。
「…はい。
どんなに凄いプロの方でも…
こんな音は出せないと思います。」
「…ソロコンテスト全国大会小学生の部
3年連続優勝。
彼が居た武仲音大附属は国内でも
トップクラスのブラスバンド部の実力を誇る。
そこで最年少で夏のコンクールソロを吹いた
実力者だ。
敢えてさっき彼は言ってなかったが、
君には伝えておく。
彼の父は、霧咲 宗輔だ。
勿論、君も知っているだろう?」
「…え。」
霧咲 宗輔と言えば。
あのジャズの名門、
バーグリー音楽大学を首席で卒業した、
世界的に有名なサクソフォンプレイヤー。
「何で、そんな人の息子さんがここに…」
「君のお父さんが
私の旧友なのは君も理解してるよな?」
「あ、はい。」
そう、先生と私の父は大学時代、
トランペットとサックスで一緒に
スイングをやっていた。
「数ヶ月前に電話がかかって来たんだ。
ブラスバンドに入れて欲しい子が居るって。」
「私の父からですか?」
「あぁ。
彼の父は君のお父さんと
古き友人だったみたいでね。
で、1回彼が所属していた楽団の
定期演奏会を観に行った。
凄かったよ。
なんでうちのバンドなんだろうって
思ったんだけど、すぐに分かった。」
そう言うと、
私の目を真っ直ぐ見る。
「君と吹いて欲しかったからだ。」
「え。」
私は目を見開いた。
1つのことが頭の中をよぎる。
「…待って下さい、なら、私の為に
あの子は武仲音大附属を辞めたんですか?
あんなに将来有望な子を?」
「いや、違う。
単に彼のお父さんが
ドイツに2年行くことになったんだ。
だから、彼のお父さんは
君のお父さんに相談していた。
息子はどうしようって。
フィンランドの方に預けるのも
ありだったらしいけど、
日本の方が本人の負担も少ないからね。
そしたら、君のお父さんは、」
そこで先生の話が途切れる。
「…あれ、まさか聞いてない?」
「え、何をですか?」
そう、私は目を丸くする。
そこまでの話を聞いても、
私は何のことかさっぱりだ。
そう思って、先生の目を見ると、
困惑と呆れの色が混ざった、
複雑な色をしていた。
そして、ため息を吐くと、
苦笑いを浮かべながら、
先生は確かにこう言った。
「君の家に、彼が2年住むって話。」
「え。
…えぇぇ!?」
その声は、
遠くまで遠くまで響き渡った。
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