蒼鬼は贄の花嫁を誘い出す

黒崎

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第一夜

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 度重なる災害と飢饉に耐えかねたある村で、とうとう村の娘が山の神嫁として嫁ぐことが決まった。
 かつては蒼鬼のお膝元と謳われ、賑わいを見せたここ周囲一帯の土地も、その栄光は地に落ちた今では見る影もなく、ただ人々だけが残された。
 そんな見放された土地で、妖者の襲撃に怯えながらも人々は細々と生を営んでいた。
 しかし度重なる負債と生活苦から、身売りする者や遠い異郷の土地へ出稼ぎに行き、そのまま帰らなかった者がまた一人二人と増え、飢饉から食う物に困り果てた末に、村長は決断した。
 山の奥の社にすむ、山神様の嫁に、村の女を送り出そうと言った。
 反対した者もいたが、このままでは滅びると思った者達と村長によって決断が下された。
 そうして選ばれたのは、若くして隣村に嫁いだものの、三年孕まずに石女として戻ってきた寡婦の女であった。
 本当に良いのかと言う者もいたが、若い女がこの女しかいなかったので仕方ないと村長は言った。
 女は言った。
「これで、私の務めも果たせます」
 さて選ばれてから暫くして、神の住む社へ仕立てた衣を纏い、花嫁姿で赴くことになった女。
 
 思えば、最初から狂っていた。
 ここ百年頼りのなかった山神様とやらのお告げ。かつては富をもたらしたという記録に、希望を見いだした村。
 藁にもすがる思いで、叶うかどうかも分からない山神様に花嫁という贄を捧げる。
 もう少し詳しく調べておけば、或いは親類の元へ助けを呼べていれば、もう少し結果は違っていたかも……しかし所詮は過ぎた過去であり、詮無き事。
 
 
 
 
 
 そうして女は山神様の社の中へ歩を進める。
 神を祀る本殿へと足を踏み入れれば、
 途端、むせ返るような濃い血の香り。
 
 何かが暴れ回ったような社の荒れよう。
 あらゆる物が壊され、そこらに散らばっている異様な光景。
 そして、何かを引き摺ったような大量の血の跡。
 ふらふらと歩き続け、その血痕を呆然と眺める。
 不意に気配を感じ、ハッと顔を上げる。
 すると後ろから指す月の光で、女のものでは無い大きな影が出来ていた。
「あっ――」
「よぉく来たなぁ、花嫁殿」
 不意に声がした。
 低く艶のある、ぞくりとさせるような男の声。
「ここに来るまで、不便は無かったか?」
 
 声が、近付いてくる。
 酷く聞き覚えのある声音に、ぞくりと肌が粟立つ。
 それは紛れもない恐怖からだった。
 記憶に染み込んだ恐ろしいそれが、今己を見ているのだと理解してしまった。
 
「ふ、べんは……あ、りませんでした」
 
 喉が掠れた。
 恐怖が皮膚の下を這いずり回り、冬でもないのに鳥肌が立っているのがわかった。
 
 むせ返るような血の匂いと、湧き上がる激情に心を乱されていく。
 
「そうかそうか……遠い麓からよく来たな、花嫁殿」
 
 ――しかし花嫁殿。
 ――何やら震えているようだが。
 ――何か己が粗相でもしただろうか。嗚呼それとも、……何か、気付いちまったのか?
 
 そのままでは、一生振り向けないだろう。
 
「……あなたは、山神様、でしょうか」
 
 愚かな問いかけだと分かっている。
 それでも、尋ねなければ――ならなかった。
 有り得ない――認めたくない、認められない!
 だって、こんなの――嫌だ。
 あれが、ずっと私を見ていたのだと悟ってしまった。
 否応なく理解させられた現実に、緊張と恐怖から喉が渇いていくのを感じた。
 
「ハハッ……そうさな、花嫁殿の問に答えるのならば、……俺が山神様だ」
 私はこの声を知っている。
 恐ろしい鬼の男の声を。
 何年経っても――成人しても尚、それでも忘れられなかった恐ろしい鬼のことを。
「っ……!」
 振り返ることなんて出来なかった。
 もし見てしまえば、私はきっとその存在を認めることができないだろうから。
 
 背後から、チリチリと焼けるような視線を感じる。
 
「山神様……ふっ。そうだなぁ、俺は」
 
 こいつは山神様では無い――あの蒼鬼だ!
 女は気付いてしまった。
 私が嫁いだ先が、山神様などでは無い――かつて己が傷をつけた蒼鬼だと。
 そうして、悪臭の正体に気付いてしまう。
 この鬼が、山神様を食ったのだと。
 
 背後の鬼が気付いたからには、もう遅い。
 
 身を翻したと同時に、懐から引き抜いた護符。
 それを鬼へと投げ飛ばした。
 
 ――刹那、夜の闇を照らす程の閃光が、鬼の目を焼いた。
 
 
 
 
 一度ならず二度までも、蒼鬼はたかが人間の娘に手を焼いた事になる。
 それは、女の抵抗だった。
 女が万が一と持たされた、妖者から逃げ出すための護符。
 鬼の目を一時的に焼く程には力のあるものだったが、効果は一度きり。
 力のあるものならば、瞬き程の間で癒える程度のものでしかない
「……ああそうかい、花嫁殿は余程じゃじゃ馬らしい」
「……遊び鬼か。これはまた……愉快な女だ」
 
 
 
 女は本殿を抜けて、社からも駆け抜け、竹林を駆けた。
「まったく――花嫁殿は随分と愉しませてくれる」
 辛うじて通れそうな隙間を走り抜けた。
 走れ走れ走れ――!
 ただひたすらに走った。
 美しく飾り立てられた花嫁衣装は、見るも無惨になってから、そうそうに脱ぎ捨てた。
 身軽な絞り袴姿となって走り続けた女だったが、やがて限界が訪れる。
 
 ぜえ、ぜえと荒い息を吐いていた女の体力は底をつき。
 這うように竹林を抜けると――そこには先の見えない長い階段が待ち構えていたのだ。
 女は絶望した。
 長い階段が待ち構えていたことに?
 否。
 その階段の向こうには、見覚えのある寂れた社が見えたからだ。
 
「う、そよ……」
 
 何故。確かに私は、あの社から抜け出せた筈だった。
 ならば、おびき出されたのか?
 この社には幼い頃から何度も通い、それこそ己の庭と呼んでも良い程に慣れた場所だ。
 その周辺も、何年も訪れる中で見慣れた景色になっていた――。
 そう、どこに何があって、どこを通れば良いのかも分かっていたのに――。
 竹林を抜け出せば、そこには村があるはずだった。
 狐か狐にでも化かされたのか。
 
「あっ――」
 
 不意に脳裏をよぎった与太話。
 
 鬼は時に幻術を扱うという。
 夢か現か見分けもつかない程精巧な、そこにあると思い込んでしまえるほどの、よく出来た幻を見せる。
 それこそ、見知った人の声や、姿を真似た幻を見せ、まるで生きているかのように見せることも。
 記憶通りの振る舞いをみせ、偽物だと思いもつかないほどに。
 
 ならば、道中出会った村の人間は、偽物だったのではないか――。
 助けを呼んでくれと、村の人間だと証明する符牒も、一言一句違わず諳んじていたものだから、本物だと思っていた。
 道崩れがあると伝えられ、違う道をいけと言われたのだが――まさか、あの時に?
 そもそも、私は本当に正しい道を進んでいたのだろうか。それすらも、鬼の幻だったのでは無いか……。
 
「……嗚呼……!」

 もうこれ以上走れない……いや、もう走る気力すら無いほどに疲弊していたからだ。
 それでも逃げなければという本能から、足だけは止めずに動かしていた。
 しかしそれも限界だったようで、足がもつれて地面へと倒れ込んでしまった。
 竹林へと向いた身体は、疲れきって動けなかった。
 そんな女にかけられたのは、蒼鬼の声だった。体が引き締まり、思わず息を飲み込んだ。
 
「――ははっ。楽しかったぜ、花嫁殿」
「鬼遊びはもうお終いか?」
 
 逃げ出そうと辺りに目をやるも、寂れたこの場から逃げ出せそうな場所はなかった。
 ひゅっ、と細い息が漏れた。
 上げた女の顔を覗き込む、鬼の姿に驚いたからだ。
 
 ああ! 鬼が! 蒼鬼が! 嗤ってこちらを見ている!
 
 人ならざる金の瞳が、笑みを称えて覗き込んでいる。
 
「どうしたァ? 手弱女みてぇな声出してよォ……ああ、気付いちまったのか」

「お前の考え通りだが……わりぃなぁ。山神様とやらは俺が喰っちまった」
 
「ふは、お前のつけた傷はよーく覚えてるぜぇ……? あん時は良くもやってくれたなぁ……このアマッ!!」
 
 空気が震えるほどの咆哮に、ガタガタと体が震える。
 
「ああ……心配すんな、お前はしっかり可愛がってやる……殺しはしねぇよ」
「俺は今気分が良いんでなぁ……まっ、俺の機嫌を損ねたら……分かるよなぁ?」
 嘲笑うような笑みを浮かべた蒼鬼は、逃げ出そうとした女の腕を易々と掴んだ。
 
 
 
 
 俵のように抱えられながら、寂れた社へ。
 暴れる女をにやにやと眺めながら、寝間へと連れ込むと同時に押し倒した。
「いやぁぁっ!」
 悲鳴が上がり、外へと逃げ出そうとする女に馬乗りになり、蒼鬼が迫る。
 蒼鬼と呼んだように、鬼の男の髪は蒼い短髪――後ろ髪がやや長くまるで狼のようだった。
 額から突き出た短い四本の真っ直ぐな角は、人外者の証拠であり――瞳孔が縦に裂けた金の瞳は、捕食者を思わせた。
 自分はどうなるのだと女は訴える。
「うん? ははっ……お前も女なら分かんだろ?」
 鬼の男の顔が近付いてくる。
「口開けろよ……舌も出せ」
 女が歯を食いしばって閉じた筈の唇を、鬼の男は容易くこじ開けた。
 軽い水音が響く。
「もっと……寄越せ」
 するりと口内に入りこんだ鬼の舌は、女の弱みを探るように愛撫し続ける。
 女は何度か噛みちぎろうとさ迷わせるが、するりと抜けて翻弄されるばかり。
「……下手だな」
 せせ笑う鬼の男の態度に、湧き上がる屈辱と羞恥――怒りに飲み込まれた女は、激情に身を任せ――ここぞと言う所で、
 
 ――鬼の舌を思い切り噛んでやった。
 
「がっ、あっ、ぐ――」
 
 瞬時に鬼の男が仰け反るように口を離した。
 鬼の男のヴェッ、と何かを吐き出すような音と、女の口に広がる血の味。
 蹲っているのだろう鬼の男の嘔吐くような声に、僅かな罪悪感が刺激される。
 胸がすくような達成感と――取り返しのつかない事をやってしまった――後悔。
 慣れない血の味に口をもごつかせながらも、逃げる為に立ち上がろうとして――鬼の男が幽霊のように起き上がる。
「……くそが」
 その瞬間、視界がぐるりと回ったかと思うと、目の前には怒り狂った鬼の顔が。
 激情にギラついた鬼の瞳孔が、興奮と怒りから丸みを帯びていく。
「は、は……余程、手酷く犯されたいらしいな?」
 垣間見えた鬼の男の舌の先は、小指の三分の一程欠けていた。
 色濃く血に染まった男の唇は、なぜだか酷く扇情的に思えた。
「上等だ――腹が裂けるまでぶち犯してやる」
 お前が唆したのだろうと――憤怒に満ちた鬼の顔を呆然と見つめ、一瞬遅れて女は知ることになる。
 
 
 
「叫んでなんか変わんのか?」
 髪を掴まれて顔を上げさせられた女。
 散々泣き叫んだ末に、目元が腫れ、鼻が痛みではなく熱を帯び始める。
 どろりと鼻から何かが溢れるのを感じ取った。
 喉がヒリつき、薄く開いた唇からは血の味がした。
「あ……がっ」
 何の感情も浮かばない金の瞳に、女が映る。
 怯えから目を逸らそうとする女の行動に、鬼の男はふっと笑みを浮かべる。
 女の鼻から零れた赤い血を舐め取り、苦しげに息を吸う女の口を舌で塞いだ。
 淫らな水音を響かせながら、女の口内を弄ぶ鬼の男の舌に、女の身体は快感と恐怖に身を震わせた。
 涙で滲んだ女の黒い目をうっそりと眺め、嗜虐的な金の瞳をギラつかせた。
「いい子になって良かったなぁ?」
「あ……」
 鬼の男への恐怖から、必死に抵抗する女。
 気を遣らせるなと鬼の手ではたかれた後、いつからか鬼の力が弱まったことに気が付く。
 思わず抵抗する力を抜いてしまった女だったが、それは鬼の罠だった。
「悪りぃな」
 女の抵抗が弱まった隙をついた鬼は、着物の裾を開けば……そこには、かつて己を惑わした魅力的な脚が月明かりに照らされた。
 瞬間、蒼鬼の目が妖しく光る。
 暫くして女の顔がサッと青白くなる。
 狼狽する女の様子に、鬼の男は喉を鳴らすように嗤った。
 ゆっくりと露わになった柔らかな白肌の脚を撫でると、ガクガクと震える女に覆い被さっていった。 
 
 
 鬼の男の熱い息がかかる。
 必死に隠そうともがく女の手は、あっという間に押さえつけられた。
 しゅるりと衣擦れの音と、何故か帯が緩んでいく感覚――しかし、奇妙にも鬼は衣の全てを脱がすことはなかった。
 女の育った乳房をさらけ出すように、最も羞恥を煽られるはだけた胸元。
 露わになった胸元を吸われたかと思えば、鬼の太い指が腹を撫で回すように弄り始めたのだ。
 筋肉で覆われた巨体が覆いかぶさり、鬼の愛撫は激しくなっていく。
 あられもない姿を晒していることを恥じて身を捩れば、目敏くそれを察知する蒼鬼によって封じられてしまう。
 恐ろしい。
 恐怖に体が強ばり、表情は固くなる。
 そんな女の苦悩を嘲笑うかのように、蒼鬼は愉快そうな笑みを浮かべ、執拗に女の身体を弄ぶのだった。
 鬼の唾液には強い催淫効果があるとされ……呪いに近いものだと言われてきた。
 口吸いしてやろうと何度か唇を近づけるものの、知って知らずか――舌を噛み千切らんばかりに歯を食いしばって抗おうとする。
 まぁそれでも強引にこじ開けて、飲み込ませたのだが。
 多少呪いを齧った程度の女には、抗う術などなかろうに――健気に抵抗する女の様子に、ぞくりと嗜虐心が煽られる。
「くく……そんなに抵抗されるとは……ますます酷くしてやりたくなるなァ」
 己が刻んだ傷跡は消えることなく残り、肌から感じる冷たさに身体を震わせる女を見て――満足そうな笑みを浮かべる蒼鬼。
 表情や瞳には反抗心が見られるものの、僅かな所作からは女の恐怖が滲み出ていた。
 威嚇する野良猫――そんな図がふと浮かび上がり、鬼の口角が上がった。
 
 ――ああ……やはりこれ程までに俺を虜にする女はいない! 
 
 反抗的な目をしながら、俺に怯えているのがなんとも嗜虐心を煽る。
 舌先を食いちぎられた時は、腸が煮えくり返る余り嬲り殺しかけたが――欠けた舌先は治りつつあるとは言え――それなりにケジメはつけさせた。
 はぁと吐いた溜息は、興奮からか妙に熱を帯びていた。
 女の顏を形が変わるまで殴った訳では無いが、血の匂いに欲を煽られてしまったが故に、少しばかしやり過ぎた。
 少し鬼としての力を振るったものの、女の心は挫けていないようだった。
 己も二度も欺いた女だ――だからこそ、堕としがいがある。
 舌を噛みちぎられた恨みもあり――女に告げた通りその肉体を穢す。
 腹が裂けるまではしない――腹が裂ける寸前まで犯しはするが。
 痛みで泣かせても良いが、寛大な心でたっぷりよがらせてから捩じ込んでやろう。
 女泣かせと謳われる鬼の金棒で啼かせてきた女は数知れず。
 より愉しむ為にと若気の至りで、少しばかり手を加えているので――反抗的な女を啼かせるには好都合だった。
 もっと啼かせて、狂わせてやりたい。
 己を視界に入れまいとするこの女に、映る者は俺だけで良い。
 二度も己を欺いた憎い女だが、そんな女であるからこそ、快楽の沼に堕としてしまえば、――その蜜の味は如何程か。
 手間を掛ければかけるほど良いと考える鬼の男は、近い未来を想像し、束の間の愉悦に浸る。
 そんな昏い歓びをひた隠しにして、優しく女に語りかける鬼の姿は、気に入った玩具を見つけた童のようだった。
 どこか嬉しそうな男は再び女の唇に吸い付き、指は再び身体を弄り始める。
 鬼の唾液が女の身体を犯していく。
 その度に女は恐怖と快感で身体を震わせる。
 下卑た笑みを浮かべた鬼が、愉しげに女の乳房へと手を伸ばす。
 程よい強さで揉まれた乳房に、鬼の節くれだつ指が沈み込む。
「はぁっ……!」
「良いモン持ってんじゃねぇか……な、もっと悦くしてやるよ」
 鬼の厚く長い舌が女の耳をなぞりあげ、ちゅう、軽く吸い上げる。
 探り当てた弱い部分を、態とらしくじっくりと舐ったかと思えば、優しく何度も食んで見せた。
 柔らかい胸を揉みしだきながら、女の耳をたっぷりと弄んだ後。
 今度は何度も吸いつかれ、ぽってりと腫れた女の唇を味わい始める。
 鬼の唾液を何度も飲み込まされ、こくりと女の喉が動く。
「はっ――もっと飲み込めるよな? しっかり舌も出せよ」
 漏れた女の吐息ごと唇を塞いだ鬼が、光悦とした笑みを浮かべる。
 絹のような肌触りを気に入ったのか、鬼は愉しげに胸を揉みしだきながら、赤く色付いた先端を悪戯に弾く。
「先が固いと弄りがいがあるな……なぁ?」
 喉を震わせるように嗤う鬼の声は、女の反応をより煽ることになる。
 固く立った胸先をこりこりと軽く捻り――次いできゅっと押し潰す。
 何度も繰り返す内に、より敏感になった女が体を捩らせる。
「ひゃっ――」
 与えられた快感に思わず体を震わせる女に、鬼は何かを思いついたのか、不意に目を細めた。
「嗚呼そうだ――ここも媚薬代わりに舐めてやるよ」
 鬼が揶揄うように胸の先ぺろりと舐め、赤子のようにぢゅっと吸い上げる。
 鍛え上げられた巌のような巨体が、熱心に吸い付く様は何処か背徳的であり――鬼の唾液の催淫効果も相まって、それは女の快感を呼び起こした。
「ひ、あっ、あ、あ――」
「ぢゅっ……はっ、吸われんのも好きか?」
 鋭利になった感覚から伝わる鬼の舌の熱さ――何度も舌で弾かれ、吸い付かれる内に、キュンと女の胎の奥に何かが溜まっていく。
「んッ……」
 それが何か掴めないまま、女は快感に身を震わせるしか無く――ぴくぴくと何度も反応する女に、鬼は昂るままに口角を上げる。
「まだ舐めただけなんだが……やらしいな」
 色付いた先は鬼の唾液で、ぬらぬらと淫らに濡れて――何とも淫靡な光景だった。
「やだっ……あっああ……♡」
 雄の欲を掻き立てる甘い嬌声が、女の口から零れ始める。
 鬼の熱い舌が耳へと這わされ、ぬちゅ、と水音が鈍く響いた。
 
 ――ぢゅぽ♡
 
 耳穴に入れられた鬼の舌が、女の快感を呼び覚まそうとかき乱す。
「ふっ、あっあっ、あぁ……♡♡」
 揉まれる度に否応なく快感が呼び覚まされ、徐々に息遣いが荒くなっていった。
 そんな女の表情を見やりつつ、鬼は己の唇を舐めると、――やわやわとした手つきから一転して激しく揉みしだくように動かす。
 恐ろしい鬼は女を堕とす為に、ありとあらゆる手管を使い、狂わせていく。
 絶え間なく与えられる快感が、女の理性を侵す。
 女は、身を捩らせながら声を漏らすまいとするも、その努力も虚しく甘い吐息を零す。
「ん……あ、ん」
 長い舌で何度も舐められる耳や唇は、てらてらと唾液で光っていた。
 (――こんなはしたない声を出してしまうなんて……娼妓のよう)
 女が唇を噛み締めれば、鬼の舌がそれを咎めるように口吸いを繰り返した。
 ……強張った身体をほぐしていくような愛撫に、気付かぬうちに力が抜けていく。
 そんな女の隙を突いて再び耳を嬲り始めると、今度は執拗に舐め回し始めた。
(なんっ……!?)
「嫌っ……」
 女の身体がびくりと跳ねる。
 突き飛ばそうにも、岩のように重い鬼の体は揺らぐことなく。
 抗おうにも力の差というものがはっきりと示されてまった女は、――その理不尽さを嘆きたくなった。
 その間にも鬼の愛撫は止むことなく続けられ、より長く、より執念深く快感を引き出そうとする。
 鬼の手管は実に巧みで、鬼のなすがまま、否応なしに絶頂へと上り詰めた。
 何度も軽く達した女の体は、しっとりと汗ばみ、上気し赤みを帯びた柔肌は、昂る鬼の理性を煽った。
 口角を上げた鬼の男の言葉が、女の耳を蝕む。
「――憎む鬼に狂わされる気分はどうだ?」
 ぞくりと肌が粟立つような低い声音が、快感に震える女を揶揄うように囁いた。
 その反応を見た蒼鬼はふっと笑みを零し――更に激しく舌を動かす。 
 幾度となく責め立てられて、思考すらままならない女は、口から唾液を零してしまう。
 そんな女の痴態に気を良くしたのか、蒼鬼は執拗に耳を舐め回しながら胸への愛撫も再開させる。
(あっ……あぁっ♡♡)
 もう声を抑えることも出来ず、ただただ甘い吐息を漏らすことしか出来ないでいた。
 甘い媚毒に侵されて、快楽に溺れていく女の姿に、鬼の口が弧を描く。
「やだっ……あっあっ♡♡」
 その反応を見た鬼が更に笑みを深めると、今度はゆっくりと首筋へと舌を這わせていく。
   
 それから暫くして、ようやく満足したのか蒼鬼は女から身体を離した。
 しかし女の身体の火照りはまだ治らず……寧ろ先程よりも酷くなっていた。
 身体を這い回る無骨な手の感触に、思わず声が漏れてしまう女。
 異形ながら男らしさを感じさせる固く厚い掌が、女の官能をくすぐる。
「は、あ――んっ」
「もっと啼け」
 首筋から鎖骨へ……そして胸へと辿り着き柔らかな乳房を弄ぶように吸い付いた後、再び唇を奪われる。
 何度も繰り返される口付けは女の思考を奪い去り、身体の芯に灯った熱を呼び覚ますには十分過ぎる程だった。
 快感に喘ぐ中で、気付けば蒼鬼の手が下の方へと伸びていき――いつの間にか解かれていた帯。
 衣擦れの音と同時に、床に投げ捨てられた最後の砦。
「ああ……」
 快感に何度も襲われ続け、脱力した女の身では、鬼の動きを妨げることは出来なかった。
「だらしねぇ顔してんなァ……こんくらい蕩けてんなら、」
 そんな女の様子を見て満足げに低く嗤うと、男は繁みの中へと手を差し込んだ。
 
 ――くちゅ♡ぬちゅ……♡
 
 はっきりと分かるほどに響く水音。
 ひくひくと吸い付く襞肉に、ぬちゅぬちゅと粘ついた液が、とろりと鬼の指に絡みつく。
 女の弱い箇所を探り当て、蜜壷を抉るように弄ると、肉襞がぎゅう♡と吸い付いてくる。
「嗚呼――ここか? お前の悦い所は」
 節くれだった太い指で、女の悦い所を突くようにかき回すと、蜜壷がいやらしく蠢いた。
「なんっ――ひっ、あっ、んんっ!」
 ――女の戸惑うような嬌声に、鬼の口角が上がる。
 興奮を抑えるように牙を舐め上げ、滾る獣欲に瞳孔が開く。
「……んな声で啼くくらい、余程良いらしいな」
 ずるりと引き抜いた指は、糸を引く程に濡れて光っていた。
 赤い舌で散らつかせるように舐め取ると、いやらしい女の味がする。
「嗚呼……成程、これがお前の味か」
 
 ――じゅぽ♡じゅぽ♡
 
 発情しきった女の匂い。雄を求める女の匂い。
 雄を煽り立たせる香りが、ぞくぞくと思考を痺れさせる。
 浅く抜き挿す度に、充満する女の蕩けた淫靡な匂いが獣欲を昂らせる。
 ……蕩けきった蜜壷を優しく愛撫し始める。
 荒くなっていく呼吸を誤魔化すように、女の胸と口を愛撫混じりに、興奮に震える手で女の身体を撫で回し続けていた。
 ぐつぐつと煮え滾るような獣欲に、己の分身は既に限界まで勃ち上がっていた。
 この女を味わう瞬間を今かと唸りながら耐えていたが、それよりも早く己の金棒が暴発仕掛けていた。
 ひくりと男を誘う淫靡な蜜壷を前に、己の矜恃を天秤に駈けた結果――喉を唸らせた鬼は、
「ちっ……おい。突っ込む前に、お前の顔を貸せ」
 女の柔肌を一頻り堪能した後、蒼鬼は着物を脱ぎ捨てた。
 剥き出しになった猛々しく勃起した凶悪な獣欲に、目を丸くした女の顔を押し付ける。
 
「――舐めろ」

 女が交合ってきたどんな相手よりも、それは巨大で雄々しかった。
 女の手に収まらない程の太い肉槍に浮び上がる筋は、鬼の性豪さを強調させ、どくどくと熱い血潮を感じさせた。
 顔に擦り付けられた肉竿から発せられる雄の匂いに、女の思考は蕩けていく。
 鼻腔を刺激する強烈な匂いと熱量に当てられて、女は無意識に舌を伸ばして舐め始めたのだ。
 その行動が男の中の何かを壊したのか……男は獣の唸り声を上げながら腰を動かし始めるのであった。
(うっ……)
 男の剛直で口を擦られている。
 鈴口から垂れた粘液が口周りを濡らし、雄特有の匂いに頭がぼんやりと痺れていく。
「んちゅ……♡」
 その光景が鬼の男を興奮させるのか、女の後頭部に添えられた腕の力は強さを増すばかりであった。
(んっ……)
 そんな女の様子を見て興奮した鬼の剛直からは、先走り汁が溢れ出し、女の口にべっとりと塗りたくられていく。
 舌先に広がる塩辛い味に、過去の男達と同じ筈なのに――相手が鬼という異質さに、女の背筋に走る快感。
 未だ鬼への恐怖と敵意を抱きながらも、快楽を優先してしまっている異常さに、女の何かが壊されていく。
 牝としての本能を刺激されながらも懸命に奉仕を続ければ――口内でひと回り大きくなったそれの感触に、女の体が震えた。
「ごっ……?!」
 頭を掴まれ前後に揺すぶられたかと思えば、ゆっくりと引き抜こうとする動きに、女は無意識に追い縋るようにして舌を這わせてしまう。
「やらしいなぁ……俺の棒がそんなに気に入ったか?」
 それを感じ取った男は女の頭を固定するように鷲掴みすると――、一気に喉奥まで突き入れた。
(お"ぉっ……♡)
 根元まで咥えさせられて呻く女に構わず何度も抽挿を繰り返すと、鬼の腰の動きが早くなった。
「はっはっ……! 俺のは濃いからな、一滴残らずッ! 零すんじゃねぇぞ!」
 押し込まれた亀頭が、喉奥を優しく突く。
 同時に、限界を迎えたのか口内へと白濁液が吐き出された。
 
 ――ビュルルル♡ビュルッ……ブッ……ビュッ♡♡
 
(んっ!? んぐっ♡♡んんっ!)
 突然の出来事に目を白黒させながらも、懸命に飲み干そうとする女の口へ、
 ――最後の一押しと言わんばかりに鬼の剛直が押し付けられ――白濁液は口内へと吐き出されてしまう。
 最後の一滴まで搾り出すように扱き上げられて、女の身体が絶頂を迎えたかのようにびくびくと痙攣した。
(んぶっ! んっ!?♡)
 そんな女のことなどお構いなしに、鬼の剛直は何度も脈打ちながら、大量の精を吐き出し続けていく。
 その量たるや凄まじく、あっという間に彼女の口を満たしてしまうほど。
 ようやく射精が終わったかと思えば今度は引き抜かれることはなく――それどころか更に深く突き入れてきたではないか。
 驚いた女が思わず口を離そうとするが、大きな手で押さえつけられてしまう。
 喉の奥まで侵入してきた剛直を拒む術もなく、女の喉がごきゅ♡と音を立てた。
 ――その隙を逃さず鬼は、女に構わず腰を振り続ける。
「零すなって……最後の、一滴まで……最後まで付き合えるよなァ?」
(お"っ♡♡んぉっ♡)
 もう喉奥に直接流し込まれる感覚だけで軽く達してしまいそうになる女の身体。
 恐怖すら生まれていたが――その恐怖すらも、何かに塗りつぶされたように、快感へと変わっていく。
 それでもなお行為をやめようとしない男に為す術なく――長い吐精を終えた。
 にもかかわらず鬼の肉槍は、固く勃ちあがっていた。
 白濁液と混じりあった唾液の糸を引きながら、ずるりと大きな質量が引き抜かれていく。
「嗚呼……最後まで飲めたな、良くやった」
 
 
 
 鬼が漸く満足した頃は、女のぐったりと脱力した身体を、鬼の腕が支えている状況になっていた。
 そんな女を労るように撫で回しながら、満足げに男は言う。
「堪んねぇな」
 彼女が着ていた服は、最早乱れに乱れて見るも無残なものへと変わり果てていた。
 ……女の匂い立つような肢体と乱れきった姿を惜しげもなく晒していた。
「嗚呼……疲れてるとこ悪ぃが、まだお前はやることがあんだろ」
 男は満足そうに呟くと女の身体を抱き寄せ、その柔らかな肢体に顔を埋める。
 
 ――やること?
 
 女の中でひしひしと湧き上がる嫌な予感を察したのか、鬼が低く笑い声を上げた。
「お前の疲れは取ってやる。……ん? 言っただろう? 腹が裂けるまでお前をぶち犯すってな」
 顎の先を持ち上げられ、鬼の表情がよく見えた。
 金色の瞳の中に、蒼い炎が燃え上がる。
 淡い輝きをみせると同時に、女の身体から疲労が抜けていく。
 鬼が使う妖術だと気付いた時には、再び床へと押し倒されていた。
 
「俺のは女泣かせと言われるくらいにはでけぇからなぁ」
 
 鬼が目を細めながら牙を剥いた。
 
「舌を噛みちぎり、二度も欺いた恨みを俺は許しちゃいねぇ」
 
 瞳孔が縦に裂けた金の瞳が、鬼の歓びを表すように輝きを増し始める。
 
「お前が痛みで泣くか、快楽で啼くかは、俺次第ってとこだ――どうした? 笑えよ」
 
「小賢しい頭でよぉく考えるこった……俺の機嫌を上手にとれよォ? また痛い思いをしたくねぇならな」
 
 そうして女の体を味わおうと伸ばされた、鬼の節くれだつ指が這わされ――再び長い夜が始まる。
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