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4月上旬の話 第1章まで
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序章「全ての始まり」
遠くない未来。人類は情報化の波に呑まれ、生活の基盤のほとんどは情報技術に代われた。
作物を育てることは人ではなく主に環境調整システム。おかげで人件費が削減し、うっかりミスなど人特有の現象は起きなくなった。
メールは電子メール。バイクで運ぶ郵便なんて化石と呼ばれる始末。
『は?年賀状?そんなのメールで十分だろ?』
この年の流行語大賞ノミネート言葉の一つである。
もちろん、人の仕事が無くなったわけではない。むしろ、人手を雇う必要が無くなり、生産性が上がり利益が上がったものも多々ある。だが、生きづらい社会へと変貌してしまったという意見は世の中からチラホラと噴出していた。
関東にある田舎町、稲歌町。全ては、ここから始まる。
第1章「お前は人間じゃねえ!!!」
稲歌町は急速に進んだ情報社会とは異なり、まだ完全な情報化は進んでいない。
むしろ、『極端な情報化を避け、できる限り人の手を使い地域社会を育んでいく』条例の下に成り立った町であり、今の時代には絶滅危惧種並みに珍しい「携帯電話持っていない人」がチラホラいる日本でも数少ない場所だった。
そんな稲歌町の4月。穏やかな風に体を押された桜が舞い散る稲歌高校。新入生が激動の高校受験を終え、明日から高校生活を満喫しようとすでに下校済みの放課後。
「馬鹿か!貴様ああああ!!」
学校の周囲の家の人が事件でも起こったのかと外に飛び出す怒号が穏やかな空気を肌がヒリヒリする戦場の空気へと変えた。
「……近所迷惑を考えましょう?金城(かねしろ)先生」
非難の的である拓磨が呆れた顔で呟く。
「その発言は俺にツッコメというギャグか?あ!?思いっきり発言がブーメランだぞ!不動!!」
目の前の男が大声で怒鳴り返す。
要は『お前が言うな』ということだ。脳内の血管がプッツンと切れるのではないかと心配になるほど怒鳴り散らしている。
拓磨は軽く心境をまとめると、慎重に言葉を選んでなだめるように話しかけた。
「……おっしゃっている意味が分かりませんが?」
「ほう?そうか?分からない?意味が分からねえってか!意味が分からねえのはお前の存在そのものだ!この人外野郎!」
先ほどから怒鳴っているこの男は金城勇(かねしろ いさみ)。
稲歌町に赴任してから早10年。学校の風紀を守り、不良な生徒を相手に日夜労力を尽くす生徒指導担当の先生だ。
担当科目は体育。高校時代にボクシングを始め、大学時代にボクシングで一度も負けたことがないことから『不敗神話』の異名を持つ。その道の者なら知らない者はいない有名な体育会系の先生である。
彼に楯突く生徒はほぼ皆無である。異名が教師就任直後にインフルエンザウイルスのようにぱっと広まり、生徒から恐れ半分、敬意半分で見られているからだ。
そんな鬼教師とも言うべき彼が畏怖の目で見る只ならざる者がいた。
それが目の前の男、不動拓磨(ふどう たくま)である。
彼らは現在、不良な生徒と1対1で話し合う『生徒指導室』で机を挟みお互いに向かい合い論戦を繰り広げていた。
しかし主に喋っていたのは金城で、拓磨はほとんど話してはいない。珍獣でも見るように先生を観察していた。
「……これを見ろ!」
息切れをしながら金城は目の前の机に紙を叩きつけた。50枚近くある。難しい言葉がたくさん書いてあり、拓磨の場所から見ろと言われても読めなかった。
「別に花粉症じゃ無いからティッシュはいらないんですが?」
「アホオオオオオオオ!!全部被害届だ!!」
拓磨は信じられないとばかりに首を横に振り、お手上げポーズを取る。
「被害届?被害に遭ったのはこっちですよ?高校2年の朝、学校に向かおうと歩いていたらヤクザに難癖つけられて危うく殺されかけたんだ」
「そのヤクザを素手で全員ぶっ殺したのはお前だろうが!!なあ、何なんだ?お前は一体何なんだ!?人の面被った化け物か!?それとも大人数をぶち殺すのが大好きな悪魔か!?どっちだ!」
「どこにでもいる人間です。好きな食べ物は鱈のすり身入りチーズ。知ってます?コンビニで売ってる奴。嫌いな食べ物は梅干し。あんなもん食えたもんじゃねえ。そう思いませんか?」
拓磨は自己紹介とばかりにプロフィールを説明した。一方、金城先生の怒りは爆発寸前まで来ていた。
顔が真っ赤で口から破壊光線でも吐けそうな雰囲気だ。
どうやら火に油を注いでしまったらしい。
「ええと……他に何か聞きたいことは?」
拓磨は恐る恐る尋ねる。
「うるせええええええ!!」
あまりの怒りで金城の鉄拳が目の前の机に鈍い音と共に豪快なヒビを入れた。拓磨は軽く舌打ちをすると、苦笑いをしながら部屋を飛び出し緊急避難所である職員室へダッシュで逃げ込んだ。後ろを猛スピードで金城先生が追いかけてくる。結局、その後金城先生はあまりの乱心ぶりに他の職員に取り押さえられ、その日は学校に来ることはなかった。
この一連の事件は後に「神話の崩壊」と学校新聞で取り上げられ、後日校内ニュースで取り上げられた。
「とりあえず、今日の所は帰りなさい。まったく、一体何をしたんだか……」
金城先生を取り押さえた後、拓磨があまり喋ったことがない若い女性の職員が愚痴混じりで告げた。おそらく今年赴任してきた新人の職員だろう。
「また変な奴に絡まれたらどうすればいいんですか?」
拓磨の言葉に女性教員は呆れた顔を見せる。
「まさか、わざと絡まれに行くつもりじゃないでしょうね?」
拓磨は面白い冗談を聞いたように笑みを浮かべ、
「わざわざ死ににいくバカはいないでしょう?とりあえず、了解です。まあ、その時はこっちで何とかしますよ」
「え!?あ、ちょっと!不動君!」
拓磨は最後まで聞かず、職員室を後にした。職員室からの1階の廊下にはほとんど生徒はいなかった。学校にいたわずかな生徒は金城先生の乱心を見物しに職員室へと向かった。そんな彼らを気にも留めず拓磨は廊下を進み、突き当たりにある昇降口に向かい屋内用のサンダルを靴へと履き替える。
「たっく~ん!」
腹に響く拓磨の低音な声とは真逆のハキハキとした少年のような高い声が拓磨の肩を叩いた。振り返ると、ボサボサ頭の拓磨より一回り小さいスポーツ刈りの少年がニコニコしながら立っていた。
「ん?ああ、祐司(ゆうじ)。お前か」
「一体何があったんだよ!?たっくん!もの凄い大声がしたけど」
祐司と呼ばれた少年は興奮気味に尋ねた。
「別に大したことはない。先生が発狂したんだ」
「それ、すごい大したことだと思うけど………。たっくん、また何かしたんじゃないの?」
「俺が?はあ……お前までそんなこと言うのか?悪いが今回、俺は全面的に被害者だ。全部向こうが勝手に仕掛けてきて俺は適当にあしらっただけだ」
二人は昇降口を出ると校門へと歩き出す。普段は部活動でサッカーや野球をしている生徒があふれる校庭も今日は誰一人としていない。始業式だから部活もまだ始まっていないところが多いのだろう。
「おい、葵(あおい)はどうした?お前の姉だろ?」
拓磨は校庭の雰囲気を眺めながら尋ねる。
「違う。俺が兄だよ」
祐司が即座に訂正する。
「あれ?そうだったか?」
「そうだよ。それよりたっくん、近くで見ると色々高校生離れしてるよね?体とか。声とか。守護霊とか出せるんじゃない?」
「俺は人間だ。魔法なんか習っちゃいねえ」
「ははは!冗談だって!茶化し甲斐があるなあ、もう!ええと、ちょっと待ってね」
祐司は制服の胸ポケットからスマートフォンを取り出すとスケジュール帳を開く。
「それが新しく買ったスマホって奴か?」
物珍しげに拓磨は尋ねる。
「昔と違って今は携帯電話持ってないと友達も作れないじゃない?父さんに『どうせ買うなら新しい物を!』ってねだって買ってもらったんだけど…ええと、葵は今日は部活かな?」
「部活?今日は始業式だぞ?部活なんて始まってないんじゃないのか?」
拓磨は、疑問を口にした。それに対して、祐司がすぐに答える。
「あれ知らないの?葵って部長になったんだよ?剣道部の」
「……あいつ、まだ高校2年だろ?」
「それが3年生が一人もいないらしくて。2年生が12人くらい、いるんだけど葵がその中で一番強いから自動的に部長になったんだよ」
「はあ……あいつらしいな」
先ほどから拓磨と話している生徒は渡里祐司(わたりゆうじ)。不動拓磨とは幼い時からの幼なじみである。先ほどから会話に登場したのは渡里葵(わたりあおい)。祐司の兄弟でこちらも拓磨の幼なじみだ。
『たっくん』というのは祐司のみが使用する拓磨への愛称である。
「たっくんってさあ、どんな携帯持ってるの?」
「持ってねえ」
一瞬の即答だった。
「え?」
「携帯なんて金出して買うだけ損だ。ただでさえ通話料で金はかかるし、定額とかパケットだかポケットだか意味が分からねえぜ。ポケットなんて『シャブえもん』だけで十分だ」
『シャブえもん』とは子供に大人気の『頭のネジが吹き飛んだキテレツ犬型ロボットが未来からやってきて異次元のポケットから非合法の物を取り出し、主人公の子供を犯罪者に育てる』というPTAから色々と言われているアニメである。もちろん深夜放送だ。
「う、嘘!?この超情報化の時代に携帯電話の1つも持ってないの!?」
「持ってもいいんだが、いくつか条件がある。まず、どんなに電話しても月100円以内。次にどんなにメールしても月100円以内。さらに持ち主の命が危険にさらされた時は自動的に警察に電話してくれる機能。最後は持ち主が退屈な時は友達がいなくても話し相手になってくれる機能。まあこんなもんか?」
もはや携帯電話ではないリクエストに祐司は呆れていた。
「無茶苦茶だ!そんな携帯電話なんて無いよ!」
「だろ?だからいらない。話はこうしてお互い会って喋れるし、会わないと相手が何が話したいのか分からねえときがあるからな。やっぱり会うことって重要だと感じる年齢に俺もなっちまったなあ」
まるで老人のようなセリフを拓磨は呟く。
「ねえ、たっくんって本当は何歳?すごい高齢の匂いがするんだけど?」
「大人を毎日相手にしてれば自然と社交辞令も身につく。大したことはねえよ」
拓磨の老成した感想に祐司は頭を悩ます。
「『大人を相手』って……。家がパン屋だから?」
「ま、正確には『お客を相手』にだがな?」
二人は会話も弾み舗装されたアスファルトを歩いて行く。両脇にはブロック塀が並び、家々が並ぶ。都市部の人が入ってきた影響もあり、以前はド田舎で田んぼばかりだった一般道も舗装され、稲歌町には住宅街が増えてきていた。
「ずいぶん家が増えたなあ?」
拓磨は左右の住宅を見渡しながら思ったことをそのまま呟く。
「ん?そう?通学路だから気がつかなかったけど、言われてみればずいぶん増えたね。この辺、田んぼばかりだったのに」
「町が発展するのは大いに結構だが、ここまで急だと逆に不安があるな」
「不安?」
「ああ、発展のスピードに付いていけずに振り回される住民も出てくるかもしれないからな。技術の急激な発展にその時代の人が付いていけるかというとそれは疑問だ。町や国がバックアップして、できるだけ時代に取り残されないようにしていく動きが必要になる。そう思うだろ?」
「……たっくん、あなたは本当に何歳ですか?」
祐司が頭に疑問の文字を浮かべていると、道の突き当たりに大きな屋敷が見えてくる。1階建ての平屋だが、まるで城の一部を切り抜いたような風格をしている。黒い瓦が目立ち強固な木造作りが外からでも見て分かる。おまけに3メートル近い木製の門が屋敷の前に仁王立ちしている。『相良(さがら)』と書かれた縦1m、横50cmの表札らしい看板が壁に取り付けられており、見る者を威圧する雰囲気が漂い、田舎の町の風景にはいささか馴染まない光景だ。
「た、たっくん!例の場所だよ!」
「分かってる。祐司、今朝は失敗したから急いでここを離れるぞ?面倒ごとはもうごめんだ」
「わ、分かった!」
二人が突き当たりの屋敷を右折し、足早にその場を離れた。振り返るともう屋敷は点ほどの大きさになっていた。
「し、心臓が止まるかと思ったよ!ねえ、何でこの道が通学路なの!?」
まるで100メートルほど全力で走ったように息切れしながら祐司が尋ねる。
「さあな?ヤクザの屋敷が通学路にある学校なんて日本中探しても少ないだろ?その1つがここだ」
拓磨は振り返り、屋敷を苦々しい顔で眺める。
「そもそも何で通学路なんて設定してあるの!そういうのは中学までじゃないの!?」
「生徒が犯罪に巻き込まれないようにするためだ。通学路を設定しておけばその周辺の家と協力して、もしもの時に対処できる。後は生徒の非行防止だな。帰りにゲームセンターとか寄らずにまっすぐ帰るようにするとかな?教育委員会からも生徒指導の名目で太鼓判が押されているからな?諦めろ」
拓磨は、まるで駄々をこねる子供を諭すように祐司を相手にする。
「じゃあ何でヤクザが町から追い出されないのさ!ヤクザだよ!?暴力団だよ!?」
「あの相良組(さがらくみ)は相良モールを運営しているからな」
「相良モールって……。あの、何でもあるところ?」
祐司は、最近町にできた何でもありのデパートを思い浮かべた。
「食料品、服、薬品、ゲームセンター、レストラン、映画、家電製品、車…………まあ、何でもありの大型モールだ。他の町の人が相良モール目当てに買い物に来るんだ。つまり、町の大切な収益源。相良モールが無くなると一気に収益ダウンだ。分かるだろ?いくら暴力団でも反社会行為さえ行わなければ立派な企業。なかなか町の行政も思い切った行動ができないんじゃねえのか?」
「でも……やっぱり反社会的勢力じゃないの?」
祐司はやはり納得できないようだった。
「相良組に関する暴力事件の被害は滅多に出てないそうだ。組員も立派な社員になっているみたいだし、やっぱり証拠がないと警察も動けないだろ?なかなか上手くいかねえよ。まあ、おそらく裏で手を回してもみ消していると思うけどな」
「じゃ、じゃあ!この先もずっとあの道を通って学校に通うの!?」
ヤクザに遭う危険を冒して学校に通う。
そこまでしてスリリングな人生は送りたくないと祐司は不安げに拓磨に詰め寄った。
「ふうむ……あの道を通らずに学校に行けるルートを探す必要があるかもな?」
「そうしよう!大賛成!学校の規則に従って命奪われたらたまったもんじゃないからね!」
祐司はスマートフォンを取り出すと地図のアプリケーションを出す。
「ええと……そこの公園を通れば少し回り道になるけど、あのヤクザ屋敷に近づかずに学校に行けるね」
祐司が指をさした方向にはブロック塀の代わりに緑の葉が生い茂る周囲を木々で囲まれた公園が、住宅街にたたずんでいた。
「よし!じゃあ明日からこの道から学校に行こう!」
祐司は絶望の淵をのぞき込んだようなさっきまでとは対照的に希望に満ちあふれた顔をして、気分上々で歩き出す。一方、拓磨は歩きを止めてヤクザ屋敷の方を再び見ていた。
「あれ? たっくん!どうしたの?早く帰ろうよ」
拓磨は真剣な顔をして屋敷の方を見ていたが、ふとため息をつく。
顔には諦めの表情が表れていた。
「悪い、祐司。いきなり新しい通学ルートに挑戦する自身がないから、ちょっと下見に行ってくる。先に帰ってくれ」
「え?だったら俺もい…」
祐司の言葉が途中で途切れ、喉から声が出なくなる。拓磨ごしにその光景がはっきりと分かった。そしてどういう未来が訪れるのかも。
屋敷の方から20代前半の男たち3人が舌なめずりをしながら、こちらに近づいてくる。全員紺色のスーツを着ており、ポケットに手を突っ込んでいる。中にあるものがはっきりと分からないのが余計に恐怖を増長させた。
「あ……ああ……!」
「祐司」
拓磨はパニックになっている祐司に鋭い声をかける。
「な……何?用件なら………は、早く言って…!」
「先に帰れ」
拓磨は柔らかく命令口調を言う。
「帰りたいけど……む、無理……!」
「どうして?」
拓磨が祐司の方を向くと、家の方からも5人の紺色が歩いてくる。
「ふっ……。なるほどな。挟まれたってやつか」
「た、たっくん!」
祐司が拓磨にすがろうとしたとき、腹に衝撃を受け祐司の体が一瞬宙に浮いた。
「ふあ?」
『は?』と言いたかった祐司だが言葉にできなかった。次の瞬間、拓磨の背中が目の前にあった。
祐司は状況がようやく理解できた。拓磨が右肩で祐司を担いでいるのだ。拓磨のもう片方の腕にはいつの間にか祐司から離れた荷物が拓磨の分も含めて2つぶら下がっている。
「さてと、ここは天下の公道だ。争う場所じゃねえ。とりあえず公園に逃げるか?」
「ちょ、ちょっと!たっく……!ちょおおおおあああああああああ!!」
拓磨は思いっきり地面を蹴り出し、まるで何も抱えていないように走り出す。男を担いだ大男の珍光景に爆笑していた紺色ヤクザたちだったが、あまりの大男の俊足ぶりに一瞬して笑顔が吹き飛び、罵声混じりの声と共に公園に突入する。
奇跡的なことに公園には数人の子供連れ親子しかいなかった。その親子も拓磨達の突然の参入に驚き、公園から慌てて出て行ってしまう。
「た、たっくん!!逃げきれると思ってるの!?」
「ん?思ってねえな」
拓磨は当然のように答える。
「え?ぎゃああああ!!」
拓磨は走りながらスケートのように右足を角度をつけて地面に押し込み土ぼこりをまき散らせ地面の上を滑走する。さらに体をねじり、ヤクザたちの方に向き直り最後に左足でドンと地面を蹴り、体を安定させその場に停止。最後に意味ありげに含み笑いをする。
何が起こっているのか分からない祐司は叫びも出せなくなり背中で目を回していた。
「待てええ!!逃げんな!」
周囲はブランコやシーソーなど小学校に入る前の子どもが喜びそうな物が設置してある。そんな子供の楽園に場違いとも言うべきヤクザの皆さんがようやく追いついてきた。あっと言う間に周囲を囲まれ、これ以上の逃走を封じられる。
「手間かけさせやがって、ガキが!」
ヤクザその1(とっさに拓磨が命名)がしゃべりだす。
「すまねえな?けど誰だって天下の相良組の方々に追いかけられちゃ逃げたくもなるだろ?おまけに」
ヤクザの方々はポケットから色々な装備を取り出す。
ヤクザの装備
①メリケンサック(拳に付ける鉄の金具。打撃などを強化するための物)2つ。
②折りたたみ式護身用ナイフ(大きさは10cmほどの小さな物だが、刃は研がれて鈍く光っており、急所に当たれば死に繋がる危険性がある)6つ。
拓磨たちの装備
①1年の時からの通学鞄(拓磨も祐司も財布などの小物しか入っていない。教科書などは学校に置きっ放しにしている。よって、今の鞄は軽い。鈍器のように扱えない)2つ。
②肩に担がれた祐司(肩に担いだ方がてっとり早く、バラバラに逃げた場合、人質に取られる可能性があるため荷物扱いで共に行動することにした拓磨のとっさの作戦のため現在は所持品扱いである)1人。
「ロクに使えるものもねえしな?」
「なあ、学生君?俺たち、別にお前らに危害加えたいわけじゃねえんだ」
ヤクザその1の隣にいるヤクザその2が答える。
「そうそう!質問に答えてくれれば逃げたことには目をつぶって見逃してやってもいいわけよ?」
ヤクザその1が言葉をさらに繋げた。
「質問?」
拓磨と祐司を舐めたように見下し、脅し文句をチラつかせ、場の空気をこちら側に傾かせようとするヤクザたちだったが、この時普段行う場合と異なる妙な違和感を感じていた。
目の前の学生。図体がでかいことと顔が殺人鬼みたいに凶悪なことを除いてただの学生である。昨日脅して金をカツアゲした高校生と同じ高校の制服だ。おまけにこちらは8人。武器も持っている。やろうと思えば大怪我をさせることも殺すこともできる。一方向こうは学校帰りでどう見ても反撃する手段なんて無い。
そう、無いはずなのだ!なのになぜだ!?
なぜ肩に人間を背負ったまま、俺らを置いていくほどの早さで走れる!?
なぜ今も担いでいないかのように平気に振る舞える!?
なぜこれだけの状況に追い込まれて笑っていられる!?
そして何より、なぜ俺らが追い込まれている気がするんだ!?
「質問は何だ?さっさと言ってくれ」
拓磨はあくびをしながら、質問を促す。
まるで緊張感の無い光景だった。
ヤクザ達は疑問を振り切り、冷静さを保った。
「実はな、今朝うちの組で事件があったんだ」
「警察に踏み込まれたか?叩けばホコリが出てくる身の上だろ?」
拓磨は嘲るように言い放つ。
「てめえ殺されてえのか!!黙って聞いてろ!!」
ヤクザその1の罵声が響きわたる。
「まあ、落ち着け。俺たちは大人なんだ。未来ある学生を脅すわけがねえだろ?ましてや傷つけるなんてな?」
拓磨より一回り体が大きな男が暴言を吐いた隣の男を制した。
おそらく、このヤクザたちのリーダー格であろう。
服装は他の連中と同じく紺色の上下のスーツ、しかし周りの連中と異なりどこか特注品のように見えた。使われている素材の違いとも言うべきか、はっきりとはしないが、何となくリーダーの風格を感じる。
「言いたいことがあるんなら、早く言ってくれ。面倒ごとは嫌いだ」
拓磨の恐れを知らない態度がヤクザリーダーの自称『大人の理性』を吹き飛ばした。
「じゃあ、単刀直入に言うか!うちの組の奴らがなあ、40人ほど病院送りにされちまってなあ!今、犯人を捜している訳よ!」
「あんたら大人じゃねえのか?結局、脅してるじゃねえか?最近の大人はずいぶん気が短いんだな。まるで、母親に欲しい物が買ってもらえないから泣いて駄々こねる赤ん坊みたいだ」
拓磨が呆れたように半笑いで呟く。その言葉についにヤクザリーダーは怒りを通り越し冷静になってしまった。
「よし、お前、血ダルマにしてバラして犬の餌に決定な?殺れえええ!!」
拓磨に向かって8人のヤクザが各々の武器を持ち、突進する。
拓磨はとっさに持っている2つの鞄をナイフを所持しているヤクザ2人の顔面にぶん投げた。
一瞬だけヤクザが鞄に気を取られる。その瞬間を拓磨は見逃さなかった。
まず背後から迫ってくるメリケンサックの2人に体を回転させ、祐司の体を抱えるように持つ。そのまま棒のように扱い、祐司の蹴りを1人の左頬に直撃させる。まさか人間を武器にすると思わなかったヤクザはなすすべも無く吹っ飛ばされ、もう1人のメリケン持ちも巻き込まれ、倒れる。
これでメリケン持ちは全滅。
しかし、安心する間もなくナイフ持ち4人が突っ込んでくる。すると、拓磨はそのまま重力に身を任せ地面に仰向けで倒れる。祐司は拓磨の体の下敷きになり、「ぐべえ!」という奇声を発する。
突然倒れた拓磨にナイフの軌道を修正しようとしたが、拓磨はナイフ持ち2人の足を払う。人間の首を問答無用で切断するギロチンのような蹴りで足を払われた2人の足は骨が折れるような鈍い音を発し、ヤクザ2人は悲鳴と共に地面に倒れる。
しかし、まだナイフ持ちは2人いる。その1人めがけて拓磨は先ほど足を払った際に落としたナイフ持ちのナイフを拾うと肩に向かって投げつける。ナイフ持ち1人の肩にナイフが突き刺さり、血が上着を染めると同時にナイフを地面に落とす。
もう1人は恐怖の表情を浮かべて一瞬動けなくなる。その1人に向かっていこうとしたが、最初に顔面に鞄を当てた2人が回復し、ナイフを突き出しこちらに向かってくる。
拓磨は先ほど足を粉砕した男の足を掴むと思いっきり引っ張りその足でナイフを受け止める。
2本のナイフが足に突き刺さり、血が溢れた。断末魔の叫びのような声が聞こえる。
拓磨はその声を無視して立ち上がると、ナイフを奪われたヤクザ2人が半分ヤケで殴りかかってくる。
その2人の拳をそれぞれ手で掴んで受け止める。そして一瞬、手を離すとその隙を突いて今度はヤクザ2人の頭をそれぞれ手で掴み目の前で蚊を潰すように信じられない剛力で叩き合わせる。あまりの速度と破壊力に一瞬で2人は意識を失う。
そして最後、ナイフを持って震えている男を見る。意外にもリーダー格の男が最後まで残っていた。
先ほどの挑発的な態度はすでになく、もはや人ならざるものを見るかのように拓磨を見る。
「て、てめえは人間か!?」
「よく言われる。あんたはどう思う?」
拓磨は無表情で一歩一歩男に近づいていった。
拓磨よりこのリーダーの方が体格は大きいはずなのだが、今は拓磨の存在感が公園全体を占めていてゾウとアリほどの差が現れている。
「てめえは人間じゃねえ!!!」
そう言い放つと、ナイフを捨て内ポケットからまさにヤクザとも言うべきものを取り出す。スーツの内ポケットに入る大きさではあるが、テレビによく出るその黒い形状、無慈悲な穴が拓磨に向けられていた。
「へ、へへへ……!形勢逆転だな!?化け物!!サツに邪魔されることもあるからな!護身用が役に立ったぜ!」
「拳銃?この国は法治国家じゃねえのか?」
拓磨は、ため息をついた。
「うるせえ!てめえみたいなのに法なんざ生ぬるい!こいつで仕留めて解体して海に巻いて魚の餌にしてやる!」
「犬の餌から魚の餌に出世か……。まあ、悪くはねえな?」
「死ねええええええええええええええええ!」
リーダーの叫びと共に銃弾が放たれる。銃弾は拓磨の頭に向かって放たれた。螺旋の回転を行い、銃弾は宙を突き進む。拓磨の頭があった場所に向かって一直線に………。
ん?頭があった場所?
拓磨は首を右肩にかしげるようにして弾丸をスルーしていた。弾丸はそのまま直進し、背後のブロック塀に高い音と共にめり込む。
「えええええええええええええええええええええええ…………え?」
あまりの光景に次の引き金を引くのを忘れていたリーダーは拳銃を右足蹴りで拓磨に蹴り払われた。
さらに拓磨はそのままの勢いで右足を軸足にし左足の胴回し蹴りをリーダーの腹にたたき込んだ。
その時、映画のようなシーンが生まれた。
まるでバットで打ち返された野球のボールのように、リーダーの体が吹き飛びリーダーの後ろにあった
ブランコに突っ込んだ。そしてブランコは無情にも突然の乗客が持っていた運動エネルギーを反作用に変換し、乗客を前に放り出す。
その時、リーダーの目の前には拓磨が右足を垂直に振り上げているのが見えた。そしてその一瞬で自分が次に何をされるかを知り、全身の皮膚が鳥肌に変わった。
拓磨は何の迷いも無く、天高く上げた右足を振り下ろした。カカトがリーダーの脳天に当たり、リーダーの体はそのまま地面へ………。
こうして公園での死闘は幕を閉じた。被害者はヤクザであると誰もが思う一幕であった。
遠くない未来。人類は情報化の波に呑まれ、生活の基盤のほとんどは情報技術に代われた。
作物を育てることは人ではなく主に環境調整システム。おかげで人件費が削減し、うっかりミスなど人特有の現象は起きなくなった。
メールは電子メール。バイクで運ぶ郵便なんて化石と呼ばれる始末。
『は?年賀状?そんなのメールで十分だろ?』
この年の流行語大賞ノミネート言葉の一つである。
もちろん、人の仕事が無くなったわけではない。むしろ、人手を雇う必要が無くなり、生産性が上がり利益が上がったものも多々ある。だが、生きづらい社会へと変貌してしまったという意見は世の中からチラホラと噴出していた。
関東にある田舎町、稲歌町。全ては、ここから始まる。
第1章「お前は人間じゃねえ!!!」
稲歌町は急速に進んだ情報社会とは異なり、まだ完全な情報化は進んでいない。
むしろ、『極端な情報化を避け、できる限り人の手を使い地域社会を育んでいく』条例の下に成り立った町であり、今の時代には絶滅危惧種並みに珍しい「携帯電話持っていない人」がチラホラいる日本でも数少ない場所だった。
そんな稲歌町の4月。穏やかな風に体を押された桜が舞い散る稲歌高校。新入生が激動の高校受験を終え、明日から高校生活を満喫しようとすでに下校済みの放課後。
「馬鹿か!貴様ああああ!!」
学校の周囲の家の人が事件でも起こったのかと外に飛び出す怒号が穏やかな空気を肌がヒリヒリする戦場の空気へと変えた。
「……近所迷惑を考えましょう?金城(かねしろ)先生」
非難の的である拓磨が呆れた顔で呟く。
「その発言は俺にツッコメというギャグか?あ!?思いっきり発言がブーメランだぞ!不動!!」
目の前の男が大声で怒鳴り返す。
要は『お前が言うな』ということだ。脳内の血管がプッツンと切れるのではないかと心配になるほど怒鳴り散らしている。
拓磨は軽く心境をまとめると、慎重に言葉を選んでなだめるように話しかけた。
「……おっしゃっている意味が分かりませんが?」
「ほう?そうか?分からない?意味が分からねえってか!意味が分からねえのはお前の存在そのものだ!この人外野郎!」
先ほどから怒鳴っているこの男は金城勇(かねしろ いさみ)。
稲歌町に赴任してから早10年。学校の風紀を守り、不良な生徒を相手に日夜労力を尽くす生徒指導担当の先生だ。
担当科目は体育。高校時代にボクシングを始め、大学時代にボクシングで一度も負けたことがないことから『不敗神話』の異名を持つ。その道の者なら知らない者はいない有名な体育会系の先生である。
彼に楯突く生徒はほぼ皆無である。異名が教師就任直後にインフルエンザウイルスのようにぱっと広まり、生徒から恐れ半分、敬意半分で見られているからだ。
そんな鬼教師とも言うべき彼が畏怖の目で見る只ならざる者がいた。
それが目の前の男、不動拓磨(ふどう たくま)である。
彼らは現在、不良な生徒と1対1で話し合う『生徒指導室』で机を挟みお互いに向かい合い論戦を繰り広げていた。
しかし主に喋っていたのは金城で、拓磨はほとんど話してはいない。珍獣でも見るように先生を観察していた。
「……これを見ろ!」
息切れをしながら金城は目の前の机に紙を叩きつけた。50枚近くある。難しい言葉がたくさん書いてあり、拓磨の場所から見ろと言われても読めなかった。
「別に花粉症じゃ無いからティッシュはいらないんですが?」
「アホオオオオオオオ!!全部被害届だ!!」
拓磨は信じられないとばかりに首を横に振り、お手上げポーズを取る。
「被害届?被害に遭ったのはこっちですよ?高校2年の朝、学校に向かおうと歩いていたらヤクザに難癖つけられて危うく殺されかけたんだ」
「そのヤクザを素手で全員ぶっ殺したのはお前だろうが!!なあ、何なんだ?お前は一体何なんだ!?人の面被った化け物か!?それとも大人数をぶち殺すのが大好きな悪魔か!?どっちだ!」
「どこにでもいる人間です。好きな食べ物は鱈のすり身入りチーズ。知ってます?コンビニで売ってる奴。嫌いな食べ物は梅干し。あんなもん食えたもんじゃねえ。そう思いませんか?」
拓磨は自己紹介とばかりにプロフィールを説明した。一方、金城先生の怒りは爆発寸前まで来ていた。
顔が真っ赤で口から破壊光線でも吐けそうな雰囲気だ。
どうやら火に油を注いでしまったらしい。
「ええと……他に何か聞きたいことは?」
拓磨は恐る恐る尋ねる。
「うるせええええええ!!」
あまりの怒りで金城の鉄拳が目の前の机に鈍い音と共に豪快なヒビを入れた。拓磨は軽く舌打ちをすると、苦笑いをしながら部屋を飛び出し緊急避難所である職員室へダッシュで逃げ込んだ。後ろを猛スピードで金城先生が追いかけてくる。結局、その後金城先生はあまりの乱心ぶりに他の職員に取り押さえられ、その日は学校に来ることはなかった。
この一連の事件は後に「神話の崩壊」と学校新聞で取り上げられ、後日校内ニュースで取り上げられた。
「とりあえず、今日の所は帰りなさい。まったく、一体何をしたんだか……」
金城先生を取り押さえた後、拓磨があまり喋ったことがない若い女性の職員が愚痴混じりで告げた。おそらく今年赴任してきた新人の職員だろう。
「また変な奴に絡まれたらどうすればいいんですか?」
拓磨の言葉に女性教員は呆れた顔を見せる。
「まさか、わざと絡まれに行くつもりじゃないでしょうね?」
拓磨は面白い冗談を聞いたように笑みを浮かべ、
「わざわざ死ににいくバカはいないでしょう?とりあえず、了解です。まあ、その時はこっちで何とかしますよ」
「え!?あ、ちょっと!不動君!」
拓磨は最後まで聞かず、職員室を後にした。職員室からの1階の廊下にはほとんど生徒はいなかった。学校にいたわずかな生徒は金城先生の乱心を見物しに職員室へと向かった。そんな彼らを気にも留めず拓磨は廊下を進み、突き当たりにある昇降口に向かい屋内用のサンダルを靴へと履き替える。
「たっく~ん!」
腹に響く拓磨の低音な声とは真逆のハキハキとした少年のような高い声が拓磨の肩を叩いた。振り返ると、ボサボサ頭の拓磨より一回り小さいスポーツ刈りの少年がニコニコしながら立っていた。
「ん?ああ、祐司(ゆうじ)。お前か」
「一体何があったんだよ!?たっくん!もの凄い大声がしたけど」
祐司と呼ばれた少年は興奮気味に尋ねた。
「別に大したことはない。先生が発狂したんだ」
「それ、すごい大したことだと思うけど………。たっくん、また何かしたんじゃないの?」
「俺が?はあ……お前までそんなこと言うのか?悪いが今回、俺は全面的に被害者だ。全部向こうが勝手に仕掛けてきて俺は適当にあしらっただけだ」
二人は昇降口を出ると校門へと歩き出す。普段は部活動でサッカーや野球をしている生徒があふれる校庭も今日は誰一人としていない。始業式だから部活もまだ始まっていないところが多いのだろう。
「おい、葵(あおい)はどうした?お前の姉だろ?」
拓磨は校庭の雰囲気を眺めながら尋ねる。
「違う。俺が兄だよ」
祐司が即座に訂正する。
「あれ?そうだったか?」
「そうだよ。それよりたっくん、近くで見ると色々高校生離れしてるよね?体とか。声とか。守護霊とか出せるんじゃない?」
「俺は人間だ。魔法なんか習っちゃいねえ」
「ははは!冗談だって!茶化し甲斐があるなあ、もう!ええと、ちょっと待ってね」
祐司は制服の胸ポケットからスマートフォンを取り出すとスケジュール帳を開く。
「それが新しく買ったスマホって奴か?」
物珍しげに拓磨は尋ねる。
「昔と違って今は携帯電話持ってないと友達も作れないじゃない?父さんに『どうせ買うなら新しい物を!』ってねだって買ってもらったんだけど…ええと、葵は今日は部活かな?」
「部活?今日は始業式だぞ?部活なんて始まってないんじゃないのか?」
拓磨は、疑問を口にした。それに対して、祐司がすぐに答える。
「あれ知らないの?葵って部長になったんだよ?剣道部の」
「……あいつ、まだ高校2年だろ?」
「それが3年生が一人もいないらしくて。2年生が12人くらい、いるんだけど葵がその中で一番強いから自動的に部長になったんだよ」
「はあ……あいつらしいな」
先ほどから拓磨と話している生徒は渡里祐司(わたりゆうじ)。不動拓磨とは幼い時からの幼なじみである。先ほどから会話に登場したのは渡里葵(わたりあおい)。祐司の兄弟でこちらも拓磨の幼なじみだ。
『たっくん』というのは祐司のみが使用する拓磨への愛称である。
「たっくんってさあ、どんな携帯持ってるの?」
「持ってねえ」
一瞬の即答だった。
「え?」
「携帯なんて金出して買うだけ損だ。ただでさえ通話料で金はかかるし、定額とかパケットだかポケットだか意味が分からねえぜ。ポケットなんて『シャブえもん』だけで十分だ」
『シャブえもん』とは子供に大人気の『頭のネジが吹き飛んだキテレツ犬型ロボットが未来からやってきて異次元のポケットから非合法の物を取り出し、主人公の子供を犯罪者に育てる』というPTAから色々と言われているアニメである。もちろん深夜放送だ。
「う、嘘!?この超情報化の時代に携帯電話の1つも持ってないの!?」
「持ってもいいんだが、いくつか条件がある。まず、どんなに電話しても月100円以内。次にどんなにメールしても月100円以内。さらに持ち主の命が危険にさらされた時は自動的に警察に電話してくれる機能。最後は持ち主が退屈な時は友達がいなくても話し相手になってくれる機能。まあこんなもんか?」
もはや携帯電話ではないリクエストに祐司は呆れていた。
「無茶苦茶だ!そんな携帯電話なんて無いよ!」
「だろ?だからいらない。話はこうしてお互い会って喋れるし、会わないと相手が何が話したいのか分からねえときがあるからな。やっぱり会うことって重要だと感じる年齢に俺もなっちまったなあ」
まるで老人のようなセリフを拓磨は呟く。
「ねえ、たっくんって本当は何歳?すごい高齢の匂いがするんだけど?」
「大人を毎日相手にしてれば自然と社交辞令も身につく。大したことはねえよ」
拓磨の老成した感想に祐司は頭を悩ます。
「『大人を相手』って……。家がパン屋だから?」
「ま、正確には『お客を相手』にだがな?」
二人は会話も弾み舗装されたアスファルトを歩いて行く。両脇にはブロック塀が並び、家々が並ぶ。都市部の人が入ってきた影響もあり、以前はド田舎で田んぼばかりだった一般道も舗装され、稲歌町には住宅街が増えてきていた。
「ずいぶん家が増えたなあ?」
拓磨は左右の住宅を見渡しながら思ったことをそのまま呟く。
「ん?そう?通学路だから気がつかなかったけど、言われてみればずいぶん増えたね。この辺、田んぼばかりだったのに」
「町が発展するのは大いに結構だが、ここまで急だと逆に不安があるな」
「不安?」
「ああ、発展のスピードに付いていけずに振り回される住民も出てくるかもしれないからな。技術の急激な発展にその時代の人が付いていけるかというとそれは疑問だ。町や国がバックアップして、できるだけ時代に取り残されないようにしていく動きが必要になる。そう思うだろ?」
「……たっくん、あなたは本当に何歳ですか?」
祐司が頭に疑問の文字を浮かべていると、道の突き当たりに大きな屋敷が見えてくる。1階建ての平屋だが、まるで城の一部を切り抜いたような風格をしている。黒い瓦が目立ち強固な木造作りが外からでも見て分かる。おまけに3メートル近い木製の門が屋敷の前に仁王立ちしている。『相良(さがら)』と書かれた縦1m、横50cmの表札らしい看板が壁に取り付けられており、見る者を威圧する雰囲気が漂い、田舎の町の風景にはいささか馴染まない光景だ。
「た、たっくん!例の場所だよ!」
「分かってる。祐司、今朝は失敗したから急いでここを離れるぞ?面倒ごとはもうごめんだ」
「わ、分かった!」
二人が突き当たりの屋敷を右折し、足早にその場を離れた。振り返るともう屋敷は点ほどの大きさになっていた。
「し、心臓が止まるかと思ったよ!ねえ、何でこの道が通学路なの!?」
まるで100メートルほど全力で走ったように息切れしながら祐司が尋ねる。
「さあな?ヤクザの屋敷が通学路にある学校なんて日本中探しても少ないだろ?その1つがここだ」
拓磨は振り返り、屋敷を苦々しい顔で眺める。
「そもそも何で通学路なんて設定してあるの!そういうのは中学までじゃないの!?」
「生徒が犯罪に巻き込まれないようにするためだ。通学路を設定しておけばその周辺の家と協力して、もしもの時に対処できる。後は生徒の非行防止だな。帰りにゲームセンターとか寄らずにまっすぐ帰るようにするとかな?教育委員会からも生徒指導の名目で太鼓判が押されているからな?諦めろ」
拓磨は、まるで駄々をこねる子供を諭すように祐司を相手にする。
「じゃあ何でヤクザが町から追い出されないのさ!ヤクザだよ!?暴力団だよ!?」
「あの相良組(さがらくみ)は相良モールを運営しているからな」
「相良モールって……。あの、何でもあるところ?」
祐司は、最近町にできた何でもありのデパートを思い浮かべた。
「食料品、服、薬品、ゲームセンター、レストラン、映画、家電製品、車…………まあ、何でもありの大型モールだ。他の町の人が相良モール目当てに買い物に来るんだ。つまり、町の大切な収益源。相良モールが無くなると一気に収益ダウンだ。分かるだろ?いくら暴力団でも反社会行為さえ行わなければ立派な企業。なかなか町の行政も思い切った行動ができないんじゃねえのか?」
「でも……やっぱり反社会的勢力じゃないの?」
祐司はやはり納得できないようだった。
「相良組に関する暴力事件の被害は滅多に出てないそうだ。組員も立派な社員になっているみたいだし、やっぱり証拠がないと警察も動けないだろ?なかなか上手くいかねえよ。まあ、おそらく裏で手を回してもみ消していると思うけどな」
「じゃ、じゃあ!この先もずっとあの道を通って学校に通うの!?」
ヤクザに遭う危険を冒して学校に通う。
そこまでしてスリリングな人生は送りたくないと祐司は不安げに拓磨に詰め寄った。
「ふうむ……あの道を通らずに学校に行けるルートを探す必要があるかもな?」
「そうしよう!大賛成!学校の規則に従って命奪われたらたまったもんじゃないからね!」
祐司はスマートフォンを取り出すと地図のアプリケーションを出す。
「ええと……そこの公園を通れば少し回り道になるけど、あのヤクザ屋敷に近づかずに学校に行けるね」
祐司が指をさした方向にはブロック塀の代わりに緑の葉が生い茂る周囲を木々で囲まれた公園が、住宅街にたたずんでいた。
「よし!じゃあ明日からこの道から学校に行こう!」
祐司は絶望の淵をのぞき込んだようなさっきまでとは対照的に希望に満ちあふれた顔をして、気分上々で歩き出す。一方、拓磨は歩きを止めてヤクザ屋敷の方を再び見ていた。
「あれ? たっくん!どうしたの?早く帰ろうよ」
拓磨は真剣な顔をして屋敷の方を見ていたが、ふとため息をつく。
顔には諦めの表情が表れていた。
「悪い、祐司。いきなり新しい通学ルートに挑戦する自身がないから、ちょっと下見に行ってくる。先に帰ってくれ」
「え?だったら俺もい…」
祐司の言葉が途中で途切れ、喉から声が出なくなる。拓磨ごしにその光景がはっきりと分かった。そしてどういう未来が訪れるのかも。
屋敷の方から20代前半の男たち3人が舌なめずりをしながら、こちらに近づいてくる。全員紺色のスーツを着ており、ポケットに手を突っ込んでいる。中にあるものがはっきりと分からないのが余計に恐怖を増長させた。
「あ……ああ……!」
「祐司」
拓磨はパニックになっている祐司に鋭い声をかける。
「な……何?用件なら………は、早く言って…!」
「先に帰れ」
拓磨は柔らかく命令口調を言う。
「帰りたいけど……む、無理……!」
「どうして?」
拓磨が祐司の方を向くと、家の方からも5人の紺色が歩いてくる。
「ふっ……。なるほどな。挟まれたってやつか」
「た、たっくん!」
祐司が拓磨にすがろうとしたとき、腹に衝撃を受け祐司の体が一瞬宙に浮いた。
「ふあ?」
『は?』と言いたかった祐司だが言葉にできなかった。次の瞬間、拓磨の背中が目の前にあった。
祐司は状況がようやく理解できた。拓磨が右肩で祐司を担いでいるのだ。拓磨のもう片方の腕にはいつの間にか祐司から離れた荷物が拓磨の分も含めて2つぶら下がっている。
「さてと、ここは天下の公道だ。争う場所じゃねえ。とりあえず公園に逃げるか?」
「ちょ、ちょっと!たっく……!ちょおおおおあああああああああ!!」
拓磨は思いっきり地面を蹴り出し、まるで何も抱えていないように走り出す。男を担いだ大男の珍光景に爆笑していた紺色ヤクザたちだったが、あまりの大男の俊足ぶりに一瞬して笑顔が吹き飛び、罵声混じりの声と共に公園に突入する。
奇跡的なことに公園には数人の子供連れ親子しかいなかった。その親子も拓磨達の突然の参入に驚き、公園から慌てて出て行ってしまう。
「た、たっくん!!逃げきれると思ってるの!?」
「ん?思ってねえな」
拓磨は当然のように答える。
「え?ぎゃああああ!!」
拓磨は走りながらスケートのように右足を角度をつけて地面に押し込み土ぼこりをまき散らせ地面の上を滑走する。さらに体をねじり、ヤクザたちの方に向き直り最後に左足でドンと地面を蹴り、体を安定させその場に停止。最後に意味ありげに含み笑いをする。
何が起こっているのか分からない祐司は叫びも出せなくなり背中で目を回していた。
「待てええ!!逃げんな!」
周囲はブランコやシーソーなど小学校に入る前の子どもが喜びそうな物が設置してある。そんな子供の楽園に場違いとも言うべきヤクザの皆さんがようやく追いついてきた。あっと言う間に周囲を囲まれ、これ以上の逃走を封じられる。
「手間かけさせやがって、ガキが!」
ヤクザその1(とっさに拓磨が命名)がしゃべりだす。
「すまねえな?けど誰だって天下の相良組の方々に追いかけられちゃ逃げたくもなるだろ?おまけに」
ヤクザの方々はポケットから色々な装備を取り出す。
ヤクザの装備
①メリケンサック(拳に付ける鉄の金具。打撃などを強化するための物)2つ。
②折りたたみ式護身用ナイフ(大きさは10cmほどの小さな物だが、刃は研がれて鈍く光っており、急所に当たれば死に繋がる危険性がある)6つ。
拓磨たちの装備
①1年の時からの通学鞄(拓磨も祐司も財布などの小物しか入っていない。教科書などは学校に置きっ放しにしている。よって、今の鞄は軽い。鈍器のように扱えない)2つ。
②肩に担がれた祐司(肩に担いだ方がてっとり早く、バラバラに逃げた場合、人質に取られる可能性があるため荷物扱いで共に行動することにした拓磨のとっさの作戦のため現在は所持品扱いである)1人。
「ロクに使えるものもねえしな?」
「なあ、学生君?俺たち、別にお前らに危害加えたいわけじゃねえんだ」
ヤクザその1の隣にいるヤクザその2が答える。
「そうそう!質問に答えてくれれば逃げたことには目をつぶって見逃してやってもいいわけよ?」
ヤクザその1が言葉をさらに繋げた。
「質問?」
拓磨と祐司を舐めたように見下し、脅し文句をチラつかせ、場の空気をこちら側に傾かせようとするヤクザたちだったが、この時普段行う場合と異なる妙な違和感を感じていた。
目の前の学生。図体がでかいことと顔が殺人鬼みたいに凶悪なことを除いてただの学生である。昨日脅して金をカツアゲした高校生と同じ高校の制服だ。おまけにこちらは8人。武器も持っている。やろうと思えば大怪我をさせることも殺すこともできる。一方向こうは学校帰りでどう見ても反撃する手段なんて無い。
そう、無いはずなのだ!なのになぜだ!?
なぜ肩に人間を背負ったまま、俺らを置いていくほどの早さで走れる!?
なぜ今も担いでいないかのように平気に振る舞える!?
なぜこれだけの状況に追い込まれて笑っていられる!?
そして何より、なぜ俺らが追い込まれている気がするんだ!?
「質問は何だ?さっさと言ってくれ」
拓磨はあくびをしながら、質問を促す。
まるで緊張感の無い光景だった。
ヤクザ達は疑問を振り切り、冷静さを保った。
「実はな、今朝うちの組で事件があったんだ」
「警察に踏み込まれたか?叩けばホコリが出てくる身の上だろ?」
拓磨は嘲るように言い放つ。
「てめえ殺されてえのか!!黙って聞いてろ!!」
ヤクザその1の罵声が響きわたる。
「まあ、落ち着け。俺たちは大人なんだ。未来ある学生を脅すわけがねえだろ?ましてや傷つけるなんてな?」
拓磨より一回り体が大きな男が暴言を吐いた隣の男を制した。
おそらく、このヤクザたちのリーダー格であろう。
服装は他の連中と同じく紺色の上下のスーツ、しかし周りの連中と異なりどこか特注品のように見えた。使われている素材の違いとも言うべきか、はっきりとはしないが、何となくリーダーの風格を感じる。
「言いたいことがあるんなら、早く言ってくれ。面倒ごとは嫌いだ」
拓磨の恐れを知らない態度がヤクザリーダーの自称『大人の理性』を吹き飛ばした。
「じゃあ、単刀直入に言うか!うちの組の奴らがなあ、40人ほど病院送りにされちまってなあ!今、犯人を捜している訳よ!」
「あんたら大人じゃねえのか?結局、脅してるじゃねえか?最近の大人はずいぶん気が短いんだな。まるで、母親に欲しい物が買ってもらえないから泣いて駄々こねる赤ん坊みたいだ」
拓磨が呆れたように半笑いで呟く。その言葉についにヤクザリーダーは怒りを通り越し冷静になってしまった。
「よし、お前、血ダルマにしてバラして犬の餌に決定な?殺れえええ!!」
拓磨に向かって8人のヤクザが各々の武器を持ち、突進する。
拓磨はとっさに持っている2つの鞄をナイフを所持しているヤクザ2人の顔面にぶん投げた。
一瞬だけヤクザが鞄に気を取られる。その瞬間を拓磨は見逃さなかった。
まず背後から迫ってくるメリケンサックの2人に体を回転させ、祐司の体を抱えるように持つ。そのまま棒のように扱い、祐司の蹴りを1人の左頬に直撃させる。まさか人間を武器にすると思わなかったヤクザはなすすべも無く吹っ飛ばされ、もう1人のメリケン持ちも巻き込まれ、倒れる。
これでメリケン持ちは全滅。
しかし、安心する間もなくナイフ持ち4人が突っ込んでくる。すると、拓磨はそのまま重力に身を任せ地面に仰向けで倒れる。祐司は拓磨の体の下敷きになり、「ぐべえ!」という奇声を発する。
突然倒れた拓磨にナイフの軌道を修正しようとしたが、拓磨はナイフ持ち2人の足を払う。人間の首を問答無用で切断するギロチンのような蹴りで足を払われた2人の足は骨が折れるような鈍い音を発し、ヤクザ2人は悲鳴と共に地面に倒れる。
しかし、まだナイフ持ちは2人いる。その1人めがけて拓磨は先ほど足を払った際に落としたナイフ持ちのナイフを拾うと肩に向かって投げつける。ナイフ持ち1人の肩にナイフが突き刺さり、血が上着を染めると同時にナイフを地面に落とす。
もう1人は恐怖の表情を浮かべて一瞬動けなくなる。その1人に向かっていこうとしたが、最初に顔面に鞄を当てた2人が回復し、ナイフを突き出しこちらに向かってくる。
拓磨は先ほど足を粉砕した男の足を掴むと思いっきり引っ張りその足でナイフを受け止める。
2本のナイフが足に突き刺さり、血が溢れた。断末魔の叫びのような声が聞こえる。
拓磨はその声を無視して立ち上がると、ナイフを奪われたヤクザ2人が半分ヤケで殴りかかってくる。
その2人の拳をそれぞれ手で掴んで受け止める。そして一瞬、手を離すとその隙を突いて今度はヤクザ2人の頭をそれぞれ手で掴み目の前で蚊を潰すように信じられない剛力で叩き合わせる。あまりの速度と破壊力に一瞬で2人は意識を失う。
そして最後、ナイフを持って震えている男を見る。意外にもリーダー格の男が最後まで残っていた。
先ほどの挑発的な態度はすでになく、もはや人ならざるものを見るかのように拓磨を見る。
「て、てめえは人間か!?」
「よく言われる。あんたはどう思う?」
拓磨は無表情で一歩一歩男に近づいていった。
拓磨よりこのリーダーの方が体格は大きいはずなのだが、今は拓磨の存在感が公園全体を占めていてゾウとアリほどの差が現れている。
「てめえは人間じゃねえ!!!」
そう言い放つと、ナイフを捨て内ポケットからまさにヤクザとも言うべきものを取り出す。スーツの内ポケットに入る大きさではあるが、テレビによく出るその黒い形状、無慈悲な穴が拓磨に向けられていた。
「へ、へへへ……!形勢逆転だな!?化け物!!サツに邪魔されることもあるからな!護身用が役に立ったぜ!」
「拳銃?この国は法治国家じゃねえのか?」
拓磨は、ため息をついた。
「うるせえ!てめえみたいなのに法なんざ生ぬるい!こいつで仕留めて解体して海に巻いて魚の餌にしてやる!」
「犬の餌から魚の餌に出世か……。まあ、悪くはねえな?」
「死ねええええええええええええええええ!」
リーダーの叫びと共に銃弾が放たれる。銃弾は拓磨の頭に向かって放たれた。螺旋の回転を行い、銃弾は宙を突き進む。拓磨の頭があった場所に向かって一直線に………。
ん?頭があった場所?
拓磨は首を右肩にかしげるようにして弾丸をスルーしていた。弾丸はそのまま直進し、背後のブロック塀に高い音と共にめり込む。
「えええええええええええええええええええええええ…………え?」
あまりの光景に次の引き金を引くのを忘れていたリーダーは拳銃を右足蹴りで拓磨に蹴り払われた。
さらに拓磨はそのままの勢いで右足を軸足にし左足の胴回し蹴りをリーダーの腹にたたき込んだ。
その時、映画のようなシーンが生まれた。
まるでバットで打ち返された野球のボールのように、リーダーの体が吹き飛びリーダーの後ろにあった
ブランコに突っ込んだ。そしてブランコは無情にも突然の乗客が持っていた運動エネルギーを反作用に変換し、乗客を前に放り出す。
その時、リーダーの目の前には拓磨が右足を垂直に振り上げているのが見えた。そしてその一瞬で自分が次に何をされるかを知り、全身の皮膚が鳥肌に変わった。
拓磨は何の迷いも無く、天高く上げた右足を振り下ろした。カカトがリーダーの脳天に当たり、リーダーの体はそのまま地面へ………。
こうして公園での死闘は幕を閉じた。被害者はヤクザであると誰もが思う一幕であった。
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