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2nd フェーズ 集
No.21 剝がれ落ちた面
しおりを挟むメンハギ事件の容疑者が何者かに暗殺された。
その報告を受けてキビとコウノは病院へと車を走らせた。
「ふぅー、全くよ次から次へと」
コウノが運転する車の後部座席でため息をつくキビ。
「本当ですね。でも信じられないですね、あの病院は民間のものとは言えアンドロイドの警備がついているのでそう易々とあんな事……」
「起きちまった事はもうどうする事もできない。とりあえず状況を整理しねぇと」
二人はミヅキがいた病院に到着した。
病室に入ると既に鑑識がミヅキの遺体などを調べていた。
「キビさん、お疲れさまです」
「おう、いやーにしても随分とまあ……」
「うっ……これは」
ベッドの上にいるミヅキの遺体を見て眉間に皺を寄せるコウノ。
「まさかあの大手美容品メーカーの社長とはな……年齢はもう60歳超えてるのか」
「鋭利な刃物で首を切断されています。切り口からして日本刀のようなものかと思われますが」
キビは鑑識からの報告を受ける。
「忍者か侍にでも殺されたってか」
「ちょっと先輩、不謹慎ですよ」
コウノにそう言われ鼻でふっと笑うキビ。
「犯罪者に行儀よくする義理がねぇし、こいつもそれを望んでるだろ」
そう言ったキビの表情はどこか悲しげだった。
病室を出た彼女の元に警官がやってくる。
「キビ刑事!犯人がどうやって店の商品に薬品を入れていたのか分かりました」
警官の報告によれば、メンハギは店に商品が搬入される際に自身の物を忍ばせたというのだ。店のアンドロイド達が搬入時に確認するのは輸送の際に瓶などに傷が無いかで、内容物のチェックは行っていないとの事。
内容物や品質のチェックに関しては生産工場と運搬前に行っている。コストカットの面から再度品質チェックはせず、その機能を無くした分安く済むシステムを店のアンドロイドに採用しているようだ。
「なるほど、だがどうやって搬入時に忍ばせるんだ?それだってアンドロイド達が作業してるんだから、そう易々と一般人が潜り込むなんて困難だと思うが」
「それに関しては不明で、現在運搬を担当した企業に問い合わせているとこです」
警官には随時情報が入れば報告するようにと伝え、キビとコウノは車に乗る。
「キビ先輩、これどうみたって……」
「ああ、めんどうな事が裏で起きてるな」
同時刻、ウミノ・サヨリの病室にて。
「ウミノ様、お加減いかがですか?」
ウルルが病室に顔を出した。
「あなたは?かわいい服ね」
顔に包帯を巻いてはいたが、隙間からウミノはウルルの服装をみてそう言った。
「私はとある方の使いで来た者です。実は以前警察の方とこちらに来た事があるんですよ。少しよろしいですか」
そう言ってウルルはウミノの包帯に触れようとする。
反射的に身を引くウミノ。
「大丈夫です、貴女にちょっとプレゼントがあるのです」
「プレゼント……?」
ウミノの包帯を優しく外す。
そして一つの瓶を取り出した。
瓶の中身を手に取り、ウミノの顔に塗り始める。
なるべく刺激しないようにゆっくりと優しく。
「はい、終わりました」
「え……?」
ウミノはすぐに自分の異変に気付いた。
「顔が……戻って……!?」
彼女の顔の皮膚が完全に戻っていた。
「如何ですか?念のため担当のお医者様にも診て頂くようお願い致します」
「あ、ありがとう……ありがとう……ありがとう……ッ!!」
ウミノはウルルの手を握って涙を流して感謝の言葉を何度も伝えた。
「……はい、そのお言葉、我が主に必ず届けますね」
お辞儀をしてウルルは病室を出た。
一方その頃ハナが入院している病院にユキチカ達が訪れていた。
「ハナちゃん!」
「やっほー」
「ど、どうも」
「え?!ジーナちゃん!それにユキチカ君にシャーロットちゃんも?」
3人はフルーツがいっぱい入った籠を持っていた。
それをジーナがベットの隣に置く。
「はい、入院の差し入れ」
「入院って私のは検査とかの為だから。今日のお昼にはもう退院だし、でもありがと!さっそく食べようよ、ジーナちゃんりんごの皮剝くのうまいから剥いてよ」
ハナは嬉しそうにフルーツのかごを見る。
ジーナはリンゴの皮を綺麗に剥く。
「あの、えっと、どうしてハナさんって外に出てたんですか。その、みんなあまり夜は外に出ないから」
りんごをシャクシャクと食べながらシャーロットが聞く。
「あー、それはね。はい!」
ハナは自分の鞄から荷物を取り出してジーナに差し出す。
「スキンケア用の化粧品!」
「これを買うために?」
化粧品が入った袋を見てジーナは質問した。
どうしてこれを自分に渡したかったのか。
「そう!だってジーナちゃん全然メイクしないし、スキンケアもおばあちゃんが使ってる奴を気が向いた時に使うだけって言ってたでしょ!だからまずは土台となるスキンケアから!」
「え、えええ。そんな別に良いのに」
ハナは袋をジーナに押し付ける。
「何言ってるの、元が良いんだからメイクしたらもっと良くなるって!」
「確かに、私あまり人の顔の良さとか詳しくないけど、ジーナは美人な傾向の顔だと思う」
シャーロットがそう言うとハナちゃんがシャーロットの方をみる。
「そういうシャーロットちゃんもだよー。顔が良すぎて気付かないけど、あなたもスキンケアすら日常的にしてないタイプでしょ!くぅー顔が良いからってさぁこの!」
ハナはシャーロットの顔を両手で挟んだ。
そんな女子トークがもり上がっている所でユキチカはというと。
「イチジクうめぇ」
いつの間にか林檎を平らげて他の果物を食べていた。
それから数日後、ハナが放課後にジーナ達に化粧をしていた。
「ん~まだなの?さっきから目の周りに色々と塗り過ぎじゃない?」
「始めたばっかりでしょ、ほら、じっとしてて」
目を閉じてハナに化粧されるジーナ。
「シャロ様、本当お肌が綺麗ですね、もう少し色味を……」
「うー、なんで私まで……」
その隣ではシャーロットがウルルに化粧をされていた。
「ウルルちゃんお化粧手慣れてるねー」
「ええ、もちろんこういう機能もありますから」
クラスメイトはその光景を興味津々で観ていた。
「みんなーみてみてー」
するとユキチカは自分でした化粧をみんなに披露する。
誰かに叩かれたのかと思う程に真っ赤なチーク。
真っ青でやたらと目立つラメが入ったアイシャドウ。
そして極めつけはアクリル絵の具で塗ったかのような真っ黄色なリップ。
化粧というよりはそういう作品として認識した方がまだ分かるレベルのものだった。
「う、うーん。ユキチカ君は素材のままの方が良いかも~」
「あれ?」
みんなの反応に首を傾げるユキチカであった。
ウルティメイト社内最上階のオフィスにて。
「ええ、分かりました。ご苦労様です」
ヒメヅカが連絡を終え、振り向く。
「薬品及び彼女の研究データの回収は完了しました。それともう一つ、興味深いおまけがあるようです」
ウルティメイト社代表執行役のリリィは報告を聞いて頷く。
「彼女が開発した薬品はまだ一定以下の刺激、温度そして適度な湿度が整った環境下で一定期間それを塗り込まないとならない。という条件はあるものの拒絶反応を抑える効果は十分に発揮されています。彼女はそれを自身の美の為に使っていましたが」
受け取った研究データなどを参照しながらヒメヅカは続けて報告した。
「そうか……彼女も災難だったね。最初は自分より若く美しい女に男を取られた嫉妬心から始まり、殺しを犯し、殺した相手の皮を被り表舞台から姿を消した。そして美の麻薬を生み出し、最後にはそれに沈んだという訳だ。いやはや、美とは恐ろしいものだね。ここまで人の心を惹きつけ狂わせるとは」
リリィはそう言って頭を横に振った。
「数十年前にわが社と提携しこの薬品開発に協力していた彼女はあの火災事件で姿をくらましていた。それを数年前に発見し再度研究への参加を促した、その為彼女への協力も色々としたな」
ため息をつくリリィ。
「落ち込んでいる事すら許されない、私達はそれでも前に進まねばならないね」
こうしてメンハギ事件は幕を閉じた。
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