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2nd フェーズ 集

No.22 いざ尋常に……お料理開始!

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緊張感に包まれた室内。
その室内にいる者全員の視線はある一人の女性に向けられていた。

「第一回料理対決、勝者はッ……!!」

全員が息を呑む。



時間を遡る事2時間、その日ユキチカ達は調理実習室に集まっていた。
家庭科の授業で料理を作る事に。

「ユキチカくん、今日はよろしくねー」
「ユキチカパティシエールにお任せあれ!うおおお!」
「今日はお菓子作らないよー。あと具材のにんじん切ってくれるのは有り難いけどそんな凝った感じにしなくて良いよー」

エプロンを付けたユキチカ、随分と張り切った様子だ。
人参を削って花を作っている。

「あいつは何やってるんだ」
「ジーナちゃんよろしくー」
「ジーナちゃんいつもお弁当美味しそうだから、頼りにしてるよ」

ジーナも袖をまくって食材を手に取っていた。

「シャーロットちゃん料理ってどう?」
「いや全然。でも大丈夫。とりあえず……」
「いやいや!食材を全部ミキサーに入れないで!それレシピに書いてないから!」
シャーロットは具材を片っ端からミキサーにぶち込もうとしていた。

どうやら3人は別々のチームで料理をするみたいだ。

「そういえば3人っていつも一緒にいるけど誰が料理上手いんだろうねー」

他の班にいたハナはなんのき無しにそう言った。

「ん?」
「それは」
「もちろん」
ユキチカ達はウルルに指を差す。

今回は調理実習なのでウルルはチームに入っていない。

「いやそれは分かりきってるから」

ユキチカ達は互いの顔を見合う。

「よーしじゃあ料理対決だ!」
「お!いいねぇ、負けないよー」
「え、私もやるの?まあやるなら勝つけど」

こうして料理対決を行う事になった。

教室の前で担任のヒトツバシ先生、ウルル、ハナが席についていた。

「それでは審査員は私ヒトツバシとウルルさん、それとハナさんで」
「事の一因として責任とって審査しまーす」
「料理においては公平なジャッジをしたいと思います」

先生は端末を操作すると、各テーブルにある端末に料理の画像が表示される。

「それでは作って頂く料理はチキンソテーのトマトソースがけです。各チームの代表であるユキチカ君、ジーナさん、そしてシャーロットさんが主導で調理を行ってください。他のチームメイトはあくまでサポートという事で、今回は3人の料理対決という事なので」

先生はお題と今対決のルールを発表する。

「それではいざ尋常に……お料理開始!」
ウルルが号令をかけると各チーム一斉にとりかかる。



時間が経ち、各チームの料理が完成した。
料理は審査員の前に並べられ、銀色のふたで中身が見えないようにされていた。
一体どこからこんなものを持って来たのだろうか。

「えー、ではユキチカ君のチームから」

「ごらんあれッ!」
ユキチカは蓋を開けた。
大皿に盛られた大量のチキン、まるで山のようだ。

「え、えーっとこれは一体」

「ふふん、お願いします」
ユキチカがパチンと指を鳴らすとチームメイトがスイッチを押す。

するとチキンの山の頂上から赤いソースがあふれ出した。

「名付けてボルケーノチキン!」
「山のシルエットは私達がこだわって作りました!」
自身満々なユキチカとノリノリなチームメイト。

「な、るほど……」
審査員が固まる。

とりあえず料理を食べてみる。

「ソースが常に温かい状態で提供されるのは素晴らしいですね。味もとても美味しいですね」
「発想は面白いよね」
ウルルとハナがコメントする、先生は二人の意見を聞いてうんうんと頷く。

「えー、確かに味も良く独創性に富んだものですが。ちょっと熱々のソースが飛び散ったりして危ないかな~って。あとは単純に評価が難しいですね」


次の審査にうつる。

「では次のチームお願いします」

次はジーナのチーム。
ジーナが蓋を取ると良い香りが室内に広がる。

「はぁ~とっても良い匂いですね。あれ……でも?」
だがそれはトマトソースなどの洋風なものではなかった。

ジーナチームのお盆の上に置いておかれていたのは親子丼、そのとなりに小皿の上にのせた輪切りのトマト。

「えーっとその。私、普段作るの和食ばかりで……気付いたらこんな感じで」
「私達もビックリしました。下ごしらえとかはスゴイ良い感じだったのに、少し目を離したら親子丼が出来上がっていたので」

しかし、とてもいい香りで美味しそうではある。

「とりあえず頂きましょう。ん!とても美味しいです!」
「流石ジーナちゃん!卵も丁度良い火加減でトロトロふわふわ、お肉もホロホロ~」
味は絶賛されている。

「確かに素晴らしい、お店のものと言われても信じてしまうでしょう。でも流石にお題から離れ過ぎかな~って、もう食材の共通点しか見出せないもの」

「ですよね」
先生の評価をきいて、がっかりするジーナ。


残すチームはあと一つ、シャーロットのチームだ。

「では最後のチームお願いします」

シャーロットが前に出て、蓋を取る。
すると教室内がどよめく。

「こ、これは……!」

彼女達が作ったのは完璧なチキンソテートマトソースがけだ。
まるでお手本の写真にあるものをそのまま持って来たようだ。

「ん!味もとても美味しいです。まさにお手本のようなお味で」
「凄いよシャーロットちゃん!さっきはミキサーに全部放り込もうとしてたけど、やれば出来るんだ!」

これにはウルルもハナちゃんも絶賛だ。

「ええ、文句のつけようがないものです。これは決まっちゃいましたかね」
先生も二人の意見に頷きながらそう言った。


そして迎える結果発表の時。

「では先生、結果発表をお願いしますッ!」
ハナがそう言うと先生は深く息を吸う。

「第一回料理対決、勝者はッ……!!」
先生の言葉に教室内の全生徒が意識を向けた。

「シャーロットさんのチーム!」
わっと教室が歓声を上げる。
「よしッ!」
シャーロットはガッツポーズをとった。

「……と言いたいところですが」
「え?」
先生はそう言ってテーブルの上に何かを置いた。

球体状の物体、先生の手から離れると手足のようなものが現れる。

シャーロットのコロちゃんだ。

「あ……」
それをみてシャーロットのチームメイトの表情が固まった。

「シャーロットさん、あなたはこのコロちゃんという子に調理の主導をさせていましたね」
そう言う先生の後ろでユキチカとジーナがピースをしていた。

「くっ……その二人から!はい、先生の言う通りです……」
「となれば、今対決のルール【シャーロットさんが主導となって調理する】を違反した事となります」

先生にそう言われたシャーロットは肩を落とす。

「よって今対決は無効となります!」

こうして3人の料理対決は終わりを迎えた。



「いやー、面白かったねー」
「ねー!どのチームも美味しかったし、ちょっと食べ過ぎちゃった」
「今日の夕飯もういらないかも」
クラスメイト達が話しているとその内の1人が何かに気付く。

「あれ、そういえばユキチカ君は?」
「あ、本当だ、さっきまでそこにいたのに」
「ジーナちゃんとシャーロットちゃんはいるね、ウルルちゃんも」


「ゴミ捨て、ゴミ捨て―」
この時ユキチカは調理実習で出たゴミを捨てに行っていた。

「ぽーい」
ゴミを指定された場所に置き終え、ゴミ捨て場から出るユキチカ。

「ん?」
「あっ……」
出て来たところで、彼は真っ黒なパーカーを着た人に出会った。

どうみても学校の生徒ではない、上下に黒い服を着て、顔が見えないように深くパーカーを被っている。

「お探しちゅう?」
「ッ!!」

相手はハッとしてその場から逃げだした。

「ユキチカ様ー」
「ユキチカー!ごめーんゴミ捨て1人でしてくれたの?」
「ん?どうしたのユキチカ?」

ウルル達がユキチカを見つけやってきた。
恐らく部屋にいない事に気づいて探していたのだろう。

「ううん。なんでもない、かえろー」

ユキチカは黒いパーカーを着た相手が走り去っていた方向をみながら教室へと戻っていった。
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