脳筋転生者はその勇まし過ぎる拳で世界にケンカを売ります。

きゅりおす

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第16話 商売の街は勇者がいっぱい

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ソウトゥースとの戦闘を終えたタケミ達は次の街へと向かっていた。

「良い?タケミは次の街で闘うのは極力控えてね」
「なんでおれだけ?」

その途中でユイがタケミに注意をする。

「この前の傷だってなんとかなったけど。危なかったんだから!」
「しょうがねぇだろ。ソウトゥースに勝つにはあれくらいしないと……」

タケミの返答にため息をつくユイ。

「はぁ、前にも言ったけど私の治癒魔法は傷を治す為だけのもので、治療される側の体力もかなり消費するの。だからバンバン使えるものじゃないの。前回は殆どタケミ自身の身体が持つ治癒能力で治ったけどさ」

「俺の身体が自己修復して、それでも間に合わなかったらユイに頼めば良いって事だな!じゃあ問題無いじゃないか」

あっけらかんと言うタケミ。

「いや、だからそこまで酷使するような戦い方は危ないって話で……なんでそこまでするの?あの魔神だってみんなで戦った方がもっと被害が……」

「まあ、その通りなんだけど。どれくらい今の自分に力があるのか試してみたくて」

「この世界に来るときの願いが『挑戦する』だったもんな」
ネラがそう言うとユイは不思議そうな顔をする。

「挑戦するってなんでそれが良いの?」

「一番後悔した事だから。ん?良い匂い、腹減って来た!早く行こうぜ!」

「え!本当?!早くいこ!」
タケミとユイの腹が急になりはじめ二人は走り出した。

「あいつらの胃はもう少し小さくしときゃ良かった……待ってよー」



商売の街【オスティウム】に入る一行。

赤や白色のレンガ出来た建物が並ぶ街。
どこを見ても絵になるような街並みは多くの人々が活気に満ちた様子で商売をしていた。

「前のとこに比べてこっちは随分と栄えてるな~」
きょろきょろとしながらタケミが話す。

「この街は3つの領土の中間地点にあるからな。港町以外だとかなり規模がデカイ方だな、ここは」

街を進むと向こうから馬車が通り過ぎる。

「お、本物の馬車だ、馬でけぇ!そういえばこの世界には車とかねぇのか?」
初めてみる馬と馬車に嬉しそうにするタケミ。

「あー、ないなそういう移動系は。この世界における技術って、殆どが転生してきた奴とか女神がよそから持ってきたものだからなぁ。銃とか衣服、酒、クスリ、あとは電気だな」

ネラが言う通り街中には電灯が並んでいた。

「最初は魔神軍討伐に役に立つからって持ち込んでたみたいだけど……」
ユイは街行く人を見て話す。

その者達の服装は街の雰囲気にしてはやけにタケミがいた世界、つまり現代的な服装をしている。

「気付けば女神達が興味あるものをどんどん持ち込んでるみたいだね」

「何か問題があるみたいな言い方だな、スゲー勢いで進化してるって事だろ?良いんじゃねぇのか?」

彼女の声色から察するに、どうもこの状況を良しと思っていないように感じたタケミ。

「確かに他所からみれば発展してるように見えるけど、それらは他の世界から持ち込まれたもの。この世界の人が試行錯誤したり色々な経験を得て到達したものじゃない。中身が抜け落ちた発展って言えば良いのかな、だからこの世界の技術とか文化、文明って歪なんだよね」

「この世界には連中が持ち込んだものに酷く入れ込む奴も少なくないのさ。その方が簡単に稼げるからな」

ネラがユイの話に付け加える。

そしてユイはため息をつく。
ネラは勇者達に薄くした目を向けていた。


「さぁ堅苦しい話は終わりだ!まずはここで一番良い宿を確保しに行くぞ!魔石もたっぷりあるからな!パーッと行くぞ!」

ネラの手には魔石が入った大きな袋を持っていた。
「あ!いつの間に!私の鞄からとったでしょ!」

「さあ行くぞ!聞けばこの道の先にあるってよ!」
ユイが呼び止めるのもネラはどんどん先に進んで行く。

タケミ達はその街の一番高い所にある宿を見つけた。

床や壁は大理石で出来ており、室内を照らすランプ一つとっても繊細な装飾が施されている。一目で分かるくらいには高貴な空気漂う宿だった。


「ようこそいらっしゃいませ、三名様のご利用ですか?」

フロントのスタッフが対応する、武器を携え、お世辞にもこのような高級宿に来る格好ではない彼らに対しても眉一つひきつらせずに対応してきた、相当場慣れしているベテランなのだろう。

「一番いい部屋で二泊、風呂も付けてくれ、それとメシもだ。ああ、それとコイツようにデカいベッドがあるといいな、無かったらいくつか繋げてもらえるか」
ネラがカウンターに肘を置き注文する。

「かしこまりました、お部屋はおいくつご用意いたしましょうか」
スタッフがペンを走らせながら質問する。

「うーん、できれば同じ部屋にしたいんだが、できるか?」
ネラはロビーを見回しながらそう答える。

「はい、最上階のお部屋でしたら満足いただける広さかと、ベッドの移動に少しお時間を頂きますが、よろしいですか?」
スタッフはペンを走り終えメモ帳からその用紙を切り離す。

「支払いはこれで足りるか?」
ネラは魔石をスタッフに渡す。

「ええ、十分の魔石でございます」
スタッフはその魔石を掲げ光に透かして見ていた。

待っている間はその宿のスタッフがウェルカムドリンクを持ってきてくれて一行はそれを飲みながらイスでくつろいでいた。

「これ果物のジュースって奴か。うまっ、おかわり」
「アタシも」
「あ、えーっとそれじゃあ私のも」
遠慮なくウェルカムドリンクを一口で飲み終えた3人。


しばらくすると先ほどのスタッフが現れる。
「お待たせいたしました、お部屋にご案内いたします」

「本当よくできた宿だな」
タケミが宿内を歩きながらつぶやく。

「有難うございます」
案内をしながらスタッフがにこやかに話す。

部屋はベッドが三つ並んでいた、そのベッドはどれも特大だった。これまた装飾が施された机やイスがありカーテンにいたる細部までこだわられている。これらの調度品もこの街の貿易の恩恵なのだろうか。一つ売っただけでも相当の値になりそうだ。


三人はシャワーを浴びて体の汚れを流す。そしてタケミはそのぼさぼさの髪を切るためにユイが散髪に連れていく。ネラは部屋に用意されていた酒を飲むと言って残った。

「いらっしゃい、お兄さん随分伸びてるね、どんな髪型にしやすか?」

(そういえば前はずっと坊主にさせられてたから髪型とかよく分かんねぇな)
そう思ったタケミはユイに目線を送った。

「あ、えーっとこれからまた長い旅をするので、短くしてもらいたいです」
目線に気付いたユイはそう店主に伝えた。

「ではお客さんの男前に似合う感じにさせてもらいますね」
店主はそう言うとハサミを使い髪をどんどん切っていき、仕上げにカミソリで顔の毛を剃っていく。

「いやぁ~店でしてもらうのって結構気持ちの良いもんだな。王様になったみたいな気分だった~」
タケミは帰り道に髪の毛を触りながら言う。

「そうだね、サッパリして良い感じだよ」
前を歩くユイは手に持っているメモをみていた。

メモにはこの街で調達するものが書かれている。必要なものを用意して貰って明日出発前にとりに行く予定だ。

「そう言えば俺たちってあの勇者って連中と同じ感じだよな?死んだあとにこっち来てるし、でもなんか違う感じするんだよな~。ユイはどう思う?」

タケミが街中にいる勇者たちを横目に見てユイにそう言った。

「確かに私達は勇者達とはちょっと違うよねぇ。私たちは魔神族に勇者や女神も相手にするから気は抜けないよね。でも前の街と違って私も魔術使いたい放題だから安心して!」

ファイティングポーズを取るユイを見て笑うタケミ。

「ははは!おう、頼りにしてるよ、でもおれも闘いには参加するからな」
「無理はしないでよー」


そう話して街を行く二人を、物陰から何者かがみていた。

「……」

どうやらこの街でもなにやら起きそうだ。
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