脳筋転生者はその勇まし過ぎる拳で世界にケンカを売ります。

きゅりおす

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第67話 次の目的地

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エリクサーを卸している勇者達から情報を聞き出し、朝食を済ませたタケミ達は秘湯にいるテルーの元へと戻った。

「……て事だったみたいだ」
「なるほどね。大口の取引が行われると、それにしてもメディカねー。随分と危ないものを作るのね。昔は痛み止めぐらいしか作れなかったのに」

聞き出した情報を伝えられ、頬に手を当てるテルー。

「では、今度はこちらの番ね。何を見て欲しい?恋愛運?仕事運?健康運?」
「占いじゃねぇよ。天界に行く方法だよ」

「ふーん難しいわね、今すぐにという訳には行かないわ」

二人の話にユイとタケミが質問を挟む。

「天界って女神がいる所ですよね?」
「そうじゃん、ネラもテルーばあちゃんも元女神ならあのゲートって奴作れば良いんじゃねぇか。それが出来ない理由でもあるのか?」

テルーは二人の方を向く。

「……そうね、女神達が呼ぶ天界。そこに行くにはゲートを使う必要があって、その開け方は分かるし、今すぐに出来るんだけど。その先が無理なのよ」

「どういう事?」
ユイが首を傾げる。

「私やネラちゃんの魔力でゲートを開こうとするとすぐにバレてしまうからよ。ゲートの接続を切られてしまうの」

「ああ、だから連中を一瞬でも騙せる方法を知って無いか聞きに来たんだ。お前の特技はそのインチキな占いと空間を操ったり転移させる事だろ?」
「うーん、流石に私の特技やインチキでも無理ねー。魔力を完全に別の誰かに変換させるような事しないと」

ネラに対して首を振るテルー。

「そこら辺にいる女神とっちめてゲート開かせるのはダメなのか?」

「ダメだ、連中が連れて行くと決めた連中しかゲートを通れない。弾かれちまう、ゲートに入るまで許可が本当に与えられたか分からねぇんだ」

「じゃあ許可出したってウソついて、自分だけが逃げられちまうのか。便利だな」
ネラの回答に対し、タケミは鼻を鳴らす。


「でも打つ手なしって事じゃないわ。丁度面白い品物について友達から聞いたの、これもきっと何かの巡り合わせね」

テルーは一枚の紙を取り出してみせた。

そこにはこう書かれていた。


闘技大会開催!

優勝者にはその栄光と宝箱を埋め尽くす最高級品質の魔石を!
そして【魔力を変換する奇跡の腕輪】を副賞で贈呈
これさえあれば貴方も今すぐ魔法使いに!


「巨人の腕から出た腕輪だ!」
ユイはその奇跡の腕輪と呼ばれるイラストを見て反応した。

「え?巨人ってこの前の巨人?」
「ああ、タケミは吹っ飛ばされたあとだから知らなかったっけ?」

ネラがタケミにイラストの腕輪が巨人の腕の中から出て来た物とそっくりな事を説明する。

「それにこれが開催される都市、ベスガはここ以外じゃ一番大きな闇市がある。ネラちゃん達が話してくれた、大量のエリクサーが向かう先もここの可能性が高いわ」

「連中がそんな大量のエリクサーを誰に渡して何をしようとしているのか気になるしな。丁度良い、次の目的地が決まったな。よしじゃあ行くか」

ネラ達はさっそく出発する。


すると後ろから先ほどの忍者が現れ、タケミに声をかける。

「ああ!待ってください!その1ついいですか」
「うん?ああ、さっきの忍者か。なんだ?」

タケミは立ち止まる。

「なんであんなに僕に本気を出させるように言ってたんですか?何か作戦でも?普通、相手が全力出してないほうが戦いやすいと思うのですが」

忍者の発言に対して頷くタケミ。

「確かにな、お前が言ってる方が正論だ。相手が戦いに本腰入れる前に潰しちまえば良い。でもおれはあんま好きじゃないんだ」

「好きじゃないって……」

首を傾げる忍者。

「あるやつがおれに教えてくれたんだ。闘いってのは自分の全力をかけて、自分ってやつは何なのか相手に伝える事なんだってな。お前はだいぶと変わってる奴なのがわかったぜ」

「そりゃあ仮面を着けたら変身するのは変わってるでしょうけど」

「それもそうだが、お前の気持ちの話だ。全く今を楽しんでない、嫌でしょうがないって顔してる、自分はこんな所にいて良い人間じゃねぇってツラしてる」

「楽しむって殺し合いをですか?」
「うーん、今の状況だとそうなっちまうか。うーーんなんて言えば良いかな」

タケミは少し考える。

「例えば剣の達人は一見したら殺しの達人に見えるけどさ、これまでの鍛錬で身につけた心のあり方を人に教えることが出来るだろうし。あるいは刃物を扱う腕で魚をめっちゃ綺麗に捌ける料理人になれるかもしれない。みんなにうまい飯食わせる人になれるかもしれない」

話を始めるタケミ。

「わかるか?結局は持ってる手札をどう使うかだ。そっちのが楽しい、自分には手札なんかないって思うと、無気力になる、その癖他人が羨ましくてしょうがなくて人を憎むようになる。でも手札があるって気付くとそれでどう遊ぼうか考える事が出来るだろ?だったらそっちのが絶対楽しいじゃないか」

「自分の手札……」

「まあおれも昔は自分に手札があるなんて気付かなかった側だったけどな。あ、そうだ、お前名前は?」

タケミに聞かれるとビシッと姿勢を整えて忍者は答える。

「カシンです!」
「カシンか、おれはタケミだ。またなんか会えそうな気がする、そんじゃ」
「どうかお気をつけて!!」

「いつのまに忍者と仲良くなったんだよ」
「さっきは殺されそうだったのにね」
「あれ誤解だったみたいでさ、でもアイツ面白いぞー」

タケミは待っていたネラとユイに合流する。

忍者のカシンに見送られてタケミ達は秘湯を後にした。


「忍者ときいていたけどカシンくんだったのね」
「どうも、テルー・バースタさんご無沙汰しております」
カシンはテルーと一緒にちゃぶ台の側に座りお茶を飲んでいた。

「いいの?任務を放棄しちゃって」

「やめてくださいよ。僕たちじゃあの人に敵いません、それにそもそも依頼の前提が噓だった。奴隷だなんて……そんなのに関わったとあっては僕たちのギルドの信用に関わりますし、何より他の大領主に狙われそうですから」

するとテルーが何かを思い出したようにポシェットから一通の封筒を取り出す。

「そうだ、私の友達がカシンくんに仕事を頼みたいって。はいこれ」

封蝋がされている手紙だ。

「え?また殺しの依頼ですか?」
「中身は見てないけど殺しの依頼じゃないって」

封筒を丁寧に開けて中身を確認するカシン。

「本当だ……」
「引き取るさいに本人も出てくるみたいよ」

テルーの言葉を聞いて少し驚くカシン。

「依頼者本人が?変わってますね。普通は殺し屋なんか会いたがらないのに。自分が殺されるような心配はしてないって事ですよね」

「ふふふ、変わってる方なのは間違いないわね。それにあなた達で殺せるような相手じゃないのも確かね」

これを聞いてカシンはため息をつく。

「はぁ、今日は世界の広さを嫌というほど実感する日ですね」

「何いってんの。世界は広いからこそ面白いんじゃないの。ほらお茶でものんで元気出したらお仕事行ってきなよ」

背中をポフッと叩かれるカシン。

「はい、分かりました」

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