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第76話 激しいぶつかり合い
しおりを挟む『第二回戦までしばし休憩でーす!』
白狼のアスタム対一目のフォルサイトの試合が終わり、第一回戦は終了した。観客たちは次の観戦に向けた食事や用意をしに席を立つ。
試合が終わり舞台から戻って来たアスタムに軽く蹴りを入れるクレイピオス。
「アスタム全然ダメだったなーまあフォル様相手だから当然だけど」
「なんど自分の死が頭をよぎったか。あと蹴らないで」
頭を片手で抑えながらアスタムは話す。
「次はおれとピオスだな!」
「タケミとは前々からやってみたかったんだ!」
タケミとクレイピオスは嬉しそうに話す、やはり性格がだいぶ似ているようだ。
話していると後ろでユイが目を覚まし起き上がる。
「ユイおはよー。第一回戦全部終わって、今休憩中だデコ大丈夫か?」
「うん、おはよう。頭は割れてないから多分大丈夫……」
額をさすりながらそう答えるユイ。
「デコピンで倒されるとは思ってなかった」
「今回は私の勝ちだったな!次の相手はフォルか」
マリスがユイに向かって胸をはって言う。
「マリスさんと戦うなんて久しぶりですね」
フォルサイトも会話に混ざる。
次の対戦相手と見合う4人。
「次はお互い思いっきり戦えそうだな」
「ああ、全力でいくぜ」
タケミとクレイピオスは笑いながら話す。
「そうだ、あとで結界の強化をお願いしておかないと」
「確かに、頼んどかないと」
フォルサイトとマリスは何か結界とやらについて話している。
「よーし!タケミ!デモンストレーションで外の屋台まで競争だ!」
「よし来た!」
クレイピオスとタケミが走り出した。
「あの二人のどちらか、それとも私かマリスさんか。チャンピオンに挑戦するのは誰でしょうねー」
走り去る二人を見送るフォルサイト。
一方その頃ネラは隣に座っているある人物に話しかけていた。
「で、お前は何しに来たんだ、バアル」
隣に座り闘技場限定ドリンクを飲むバアル・ゼブル。
「少し買い物にな」
「ショッピングね、魔神軍を抜けてから随分と暇そうで羨ましい事で」
「貴様も少しは肩の力を抜いたほうがいいぞ。死神。ふむ、にしてもこのドリンクは中々良い、複数種類の果実をすりつぶし混ぜ合わせたものか」
「すいぶんと楽しんでるな」
そんな二人のやり取りを隣からみていたマートル姫とベロニカ。
「お二人は友人関係かと思っていましたが、何やら違うようですわねベロニカ」
「ええ、ネラ様からすごい殺気が放たれますが。バアル様は何食わぬ顔でジュースを飲んでいられる。不思議な関係ですね」
「そこ、ひそひそと分析しない」
ネラが二人に向かってそう話すと席にユイとアスタムが現れた。
「姫にベロニカさん!やっぱりバアルさんもいたんだ」
ユイは両手に食事とドリンクを持っていた。
「お、戻って来たか。おつかれー」
「もー、今度はちゃんとエントリーさせるなら言ってよねー」
「すまんすまん」
謝りながら席を空けるネラ。
「バアル・ゼブル様!」
「うむ、アスタムか、ご苦労だったな。フォルサイトの相手は肝が冷えただろ」
「それはもう」
アスタムがバアル・ゼブルの隣に座る。
「まぁ、みてベロニカ!キレイな毛並み!」
「失礼ですよ姫。すみません」
初めて獣人をみたのか興奮気味なマートル姫、そしてそれをなだめるベロニカ。
「いえいえ。お気になさらず」
手を振ってアスタムは答える。
「そう言えばお前ら顔隠すのやめたのか?」
「色々とあってな、もう隠す必要がなくなったのだ」
「ふーん、そっか、獣人と言えばこの前温泉街で猫の獣人たちいたぞ。みんな軒並み盗賊ギルドに入ってたけど」
ネラは温泉街オオエドで出会った猫の獣人たちを思い出す。
「ああ、猫の獣人ですね。あの人たちは元々社会に溶け込むの上手かったから。元気にしてるんですね。あの人たち殆どが親族関係なんですよ」
懐かしむアスタム。
話をしていると時間は過ぎ、第二回戦開始の時刻がやってきた。
『それでは第二回戦始めてまいりましょう!』
会場にはまた人が戻って来ていた。
『第二回戦の一発目!こちら奇しくも初戦相手が木端微塵になるという結末になったものどうし。蹴りのクレイピオス選手か、それともタケミ選手の拳か!勝つのはどっちだ!』
選手紹介の後に入場する両選手。
「よーし!お前相手だ、全力で行くぞ!安心しろ、バアル様が結界張ってくれてるから観客には被害はでねぇ」
「あーだからさっきの炎が席までいかなかったのか!」
「つーわけだ!いくぞ!」
二人はお互いに軽く体を動かして構える。
『試合開始ィィィィィ!!』
ウェルズがゴングを鳴らす。
「ラピッド・ウィップッ!」
最初に仕掛けたのはクレイピオス、鋭い蹴りを放つ。タケミはそれをガード。
「おっと!流石に重たい良い蹴りだな」
「そらそらそらッ!!」
タケミのガードの上からもお構いなしに蹴りを放つクレイピオス。
『さっそく仕掛けたのは、クレイピオス選手!強烈な蹴りを浴びせていきます!』
「お前もすげぇ身体してるな!生き物を蹴ってるのか不安になるほど頑丈だ!」
蹴りを止め後ろに大きく飛び下がるクレイピオス。
「じゃあお次は、ラピッド……」
クレイピオスが姿勢を深くする。
「タックルッ!!」
飛び出すクレイピオス、その姿はまるで弾丸のようだった。
「今日はタックル相手が多いなぁッ!」
タケミは横に回避した。
「まだ終わってねぇぞ!」
「ぐあっ!?」
回避したタケミの横からクレイピオスの強力なタックルが襲い掛かった。
弾かれたタケミは宙を舞う。彼は空中で姿勢を整えて着地する。
「ふふーん、私のタックルは格別だろ?」
「おっかしいな、なんで横から」
「今度はよく見ておくんだな!」
再びタックルを放つクレイピオス。
(目で追ったらだめだ、こういう時は、身体全体で……!)
全身の感覚を研ぎ澄まし、相手の位置を捉えようとするタケミ。
「そこだ!!」
タケミは左後方に拳を突き出す。しかしクレイピオスは魔力で足場を作りそれを蹴る事で方向転換し、その拳をギリギリで回避。
「ふぅーおしかったな!」
そう言うとクレイピオスは再び地面を蹴って移動をし始める。
「そう言えばそうだった、お前空中でも足場作れるんだよな。それで方向を急転換してるのか、単純だけどスピードがあるから厄介だな」
「あたりー、この程度で音を上げるなよー。さっきの奴はウォーミングアップにもならなかったからなッ!」
壁や地面だけでなく、魔力の足場を利用して更にランダムな軌道で跳びまわるクレイピオス。
「行くぞ!」
クレイピオスはその勢いを利用した蹴りを放つ。
(蹴られた反対側まで衝撃が来る!)
ガードに成功するが吹っ飛ばされるタケミ。
「オラァッ!」
「おっと」
吹き飛ばされてもすぐに殴り返そうとするタケミ、しかしスピードではクレイピオスの方が上のようだ、避けられてしまう。
「追いつくには」
タケミの身体が赤くなり蒸気を発する。
「お!出たな赤鬼!」
赤鬼を発動したタケミに飛び蹴りを放つクレイピオス。しかし今度はタケミがその蹴りを躱した。
「避けられた!なーんてな!」
魔力の足場を使いタケミを追いかけ攻撃を入れるクレイピオス。
「がぁッ……!!?」
「空中で何度も方向転換できるんだぜ、避けたお前を追いかける事ぐらい訳ない」
「それともう一つ面白いもん見せてやるよ!魔力解放!」
クレイピオスの脚に黒い氷の鎧のようなものが現れる。
「足だけ?」
「私やクレイピオスは部分的な魔力解放が出来るんだ。完全な解放はダメってバアル様に言われてるから勘弁な。それじゃあいくぜ!」
飛び出すクレイピオス、更にスピードが跳ね上がり、もはやタケミの目には捉えられなくなっていた。しかしタケミは焦ってはいなかった。
(どんなに早くても必ず最後はおれ目掛け飛んで来る、だったら)
タケミは壁に向かい、壁を背にして構えた。
(壁を背にして私が来る方向を絞ったか。それでも!)
クレイピオスはタケミ目掛け突撃。
「来たッ!」
「逃げれるもんなら逃げてみな!」
「逃げねぇよ!」
タケミは姿勢を深く落とす。
「なに?!」
「オーガタックル!」
クレイピオスに向かって飛びだすタケミ。
「や、やば!方向転換が間にあわ……」
お互いの頭部を激しくぶつかり、凄まじい音が周囲に響く。
『両者頭から激突!!お互いに吹き飛ばされた!』
「うわー、すっごい音がしたよ……」
ユイが額を抑える。
地面に倒れた両者は立ち上がる。
「流石に、これはきくなぁ」
タケミは頭を抑えている。
「うーん……星が周りを飛んでる~~ガクッ」
立ち上がったもののクレイピオスが再び倒れた。
『クレイピオス選手立ち上がらない!どうやら気を失ったようです!』
「頭突き、未だに思い出すと頭が痛くなるな」
そういってマリスは自分の額をさすった。
『第5試合!勝者はカヅチ・タケミ!』
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