脳筋転生者はその勇まし過ぎる拳で世界にケンカを売ります。

きゅりおす

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第87話 いざ天界へ

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 オオエドに到着したタケミ達は猫の外見をした元女神テルーの元に訪れていた。

「腕輪を手に入れたみたいだね。おや、他にもお連様がいるのかい?お茶淹れるから待っててね」
「テルーばあちゃん何か手伝うか?」
「大丈夫よ、タケミちゃん達は座ってていいわよ」
 マートル姫たちを見てテルーはお茶の準備をする。

「女神の世界にいってどうするの?」
「主神を殺す、これは私がやるからお前らは邪魔が入らねぇように騒ぎを起こして他の連中の注意を引いてくれ」
「なんだ、いつもと同じか」
 席につくタケミたち。

「ぐるる」
「クロも一緒に暴れるか!」
 クロがタケミの膝に顎を乗せる。

「私も行きますわ!」
「それでしたら私もお供します」
 マートル姫とベロニカがそう言うとテルーが浮遊するお盆に乗せられたお茶と共に現れる。

「ああそれは残念ね、お二人は一緒に行けないわ」

「ありがとうございますわ、ダメなんですの?」
「お茶ありがとうございます、それで行けないとは?」
 お茶を受け取り質問するマートル姫とベロニカ。

「今回はこの腕輪使って天界へのゲートを開くの。その時に私達の魔力と気付かれないようにしないといけないわ」
 そういってテルーは部屋の奥にあるカーテンを開けた。そこには熟睡している勇者や女神が何人もいた。

「みんながベスガに行っている間に偽装出来そうな女神や勇者をいくつか見繕ったのだけど、これでもネラちゃんとユイちゃんには相当魔力量を抑えてもらう必要があるわ。だから追加で2人分は流石に無理ね。この量を超えてしまうとすぐに偽装がバレてゲートが閉じられちゃうわ」

「がう!」
 その時クロが軽く吠えた。

「その子は……また面白い子と出会ったわね。その子は大丈夫よ別枠だから」
「えー!クロ様羨ましいですわ。でも事情があるなら仕方ありませんね」
 肩を落とすマートル姫。

ネラが横たわっている女神たちを見下ろす。

「こいつらどうしたんだ?」
「この前のエリクサーの件でね、この街にエリクサーを持ち込んでいる勇者や女神を捕まえたのよ」

「こいつらも運がねぇな。お前に捕まるなんて」
 ネラが小石を寝ている勇者に投げたが勇者たちは一切反応しない。


「さて、それじゃあ早速段取りを進めましょうか。腕輪を手に入れたことが女神たちに伝わる前に終わらせないとね」

 テルーは手を叩くと壁に地図が現れる。地図の端を指差して彼女は話し始めた。

「まずは天界という場所の説明ね。天界は中心に行くほど位の高い女神が住んでいるわ。ネラちゃんが目指すのは中心にある【主神の塔】」

「いくら暴れると言っても相手の本拠地に潜入するんだから。ゲートを繋ぐ先場所は天界の1番端にするわね」

「直接その目的の塔に入るのはダメなのか?」
 タケミが手を上げて発言する。

「できないわ、ゲートをつなげるのは女神の位に対応する場所だけなの。今回は下級女神のフリをして行くから、行けても端から少し入った所。でもそれだと多くの女神たちの目があるからね。行きは1番端からよ」

「なるほど」
 納得した様子のタケミ。

「みんなが到着したらすぐにゲートは閉じるわよ」

「帰る時はどうすんだ?徒歩か?」
「あほか、ゲート開けてもらう。どれくらいなら補足されずに済みそうだ?」

「頑張って1時間ね。だから1時間後にゲートを開くは、ゲートが開いたらすぐに戻ってくるのよ」
 テルーはネラの質問に答えた。

「1時間で親玉の首か」
「お前らは他の女神たちを引き付けてほしい。連中は数が多い、女神たちが連れ込んだ"お気に入り"たちもいるだろうしな」
「分かった」
 タケミとユイがネラの言葉に頷く。

「上級女神には気をつけるのよ。みんな厄介な能力を持っているわ」
 テルーがそう言うとネラが鼻で笑う。

「お前ほど厄介なのはいねぇよ」
「あら、嬉しいわネラちゃんがお世辞なんて」
 頬に手を当て微笑むテルー。

「さてそろそろ始めるわね」
 テルーはどこからともなく巨大な鏡を出した。

「白き月より放たれる導きの光よ、我の道を照らし、我らが魂の故郷へと導き給え」
 彼女の言葉に反応し、まばゆい光を放つ鏡。

「1時間後にな!」
「それでは!」
 先にネラとユイがゲートに入る。

「タケミ様、ご武運を」
「敵の本拠地、存分に暴れて下さいませ」
「マートルにベロニカまた後でな。行くぞクロ!」
 タケミとクロも鏡の中に入っていく。

「ネラちゃん、そしてユイちゃんには色々とつらい場所だけど頑張ってね……」


 皆を見送って間もない頃、テルーの家の扉を誰かがノックした。

「はいはーい、あら、ダイゲンちゃん」
「どうもテルーちゃん。なんだい、ネラ達は女神の世界に行っちまったのかい。オイラも呼んでもらいたかったね」
 そこにいたのは商人ダイゲンだった。

「あなたが行ったら何もかも斬っちゃうでしょ。あの場所には被害者も多いのよ。女神に関してあなたはネラちゃんよりも危なっかしいからね」

「失礼だねぇそんな節操のないように見えるかい?オイラは積極的な女しか相手にしねえよ」
 
 テルーが扉を開けてダイゲンを室内に案内する。

「どうだかね、私は斬らないのね」
 椅子に座ったダイゲンにそういうテルー。

「斬って欲しいのかい?」
 ダイゲンは杖を構える。

「今は断っとくわ、これから色々と起きそうだし」
「気持ちが変わったら行ってくれ。テルーちゃんはネラと同じ友人だ、苦しまないように斬ってやる」
 ひとしきり話すとダイゲンはマートル姫とベロニカに挨拶をした。

「こちらは随分と高貴なお方が。失礼しやした手前はしがない商人をしております、ダイゲンと申します」

「ダイゲン様、私はグランドオーク族の姫、マートルですわ。もう一人いるのは私の側近、ベロニカですわ。以後お見知りおきを」
 マートル姫とベロニカはお辞儀をする。

(この方もまた別格ですわね)
(杖に刃を仕込んでおられるのか。構えた時に放った殺気、並大抵のものではなかった……)
 二人はこの短い間でダイゲンの力量を感じ取ったようだ。

「その時はよろしくね。お茶飲む?」
「ああ頂こうかね」
 ダイゲンとテルーは何事も無かったように話をする。

「あら、お茶受けがもう無いわね。あの子達が全部食べちゃったみたい」

「それならここに」
 今度現れたのはバアルだ、開いている玄関の前で小綺麗な紙袋を手に持って立っていた。

「あらバアル様、気が利くわぁ。どうぞ中に」
 テルーが手招きしてバアルを迎え入れる。

「バアル様先程ぶりですね」
「先程ぶりですな。姫とベロニカ殿も良ければ召し上がってください、御口に会えばよいですが」
 マートル姫のベロニカにも挨拶をするバアル。

「あなたは、その節は世話になった」
「あら、二人とも知り合いなの?」
 ダイゲンをみてバアルは会釈した。

「いや、対面するのは初めてだ。だが彼は我の領地に侵入した”ネズミ”の駆除をしてくれてね」
 バアルが席につく。

「今度なにか礼をさせてほしい」
「そうだね、それなら安酒をこいつがいっぱいになる程貰えますかね?」
 ダイゲンはひょうたんを取り出してそういった。

「この世界で最上のを用意できるが、良いのか?」
「そんな良いものを飲んだら、心臓がビックリして止まっちまう。飲み慣れた酒が一番でさ」
「そういうことなら、いつでもその容器が満杯になる酒を用意しておこう」
「そりゃあありがたいね」
 そう言ってダイゲンは笑う。

「そう言えばお二人さんはなんで知り合いに?元女神と元魔神軍の大領主の二人が」

「お互いにとある骨董品集めが趣味でね。それで知り合ったのだ」
 ダイゲンの質問に答えるバアル。

「さぁお茶が入りましたよ。お二人もおかわりはいかが?」

「ありがとさん」
「ありがたく、いただこう」
「頂きますわ、ありがとうございます」
「頂戴します」
 皆は一口お茶を飲む。丁寧に淹れられたオオエド名物の緑茶だ。


「骨董品か残念だ、オイラは目利きが出来ねぇからあまり扱わねぇんでさ」
「はっはっは!それは残念だ、まあそう簡単に見つかる品じゃないからな」
 バアルは懐から腕輪を取り出す。

「この腕輪もかなり興味深いものだった」
「贋作でもあの出来ですもの、オリジナルはもっとでしょうね。見せてもらっていいかしら?」
 バアルにことわってテルーは腕輪を手に取る。

「その腕輪はどのような物なのですか?」
 マートル姫が腕輪に興味を示す。

「簡単に言うと魔力をあらゆるものに変換する。最初は魔力に反応し魔法を発しているものかと思ったが。これで生み出された現象に魔法の痕跡が一切見受けられなかった。つまり……」
 テルーが腕輪をつけて植物を出してみせた。

「これは本物の植物ということだ。それ以外にも様々な物が生み出せる」

「連中はこの腕輪で何をしようというのか……」
「とりあえずこの腕輪の分析から始めましょうか」
 バアルとテルーは注意深くその腕輪をみる。

「そうだ、テルーちゃんよ。あの後ろにいる女神たちは斬っちまって良いか?」
 ダイゲンはカーテンの向こうに勇者と女神達が寝ているのに気づいていたようだ。

「ダメよー、まだ帰りのゲートを開ける時までは。それにその子達は斬っても斬らなくても一緒よ」
「なんだつまらねぇな。はぁー、今頃ネラ達は女神共に歓迎されてるだろうな」
 ため息をつき、杖を横に置くダイゲン。

 一方その頃、天界に乗り込んだネラたちは。
「女神様!どうぞこちらを」
「女神様!」

「おいネラ、どうするんだよ」
「ぐ……!お前ら!もういいから!先を急いでるんだこっちは!」
 しっかり歓迎されていた。

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