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第94話 慕う者、そしてイチとの戦い
しおりを挟むタケミやネラが戦闘を繰り広げている間、ユイはある場所に来ていた。
外の光が一切はいらないその場所は暗く、彼女は魔法で光源を作り周囲を照らす。
「私はここを知ってる、でもなんで」
壁や床には何やら文字や図形が刻まれていた。
「それは貴女様がここにいた事があるからですよ」
「ッ!」
ユイは声がした方に振り向き杖を構える。
「ミディカです、お初にお目にかかります。今はイトウ・ユイとお呼びすれば良いですか?」
「私がここにいたって?」
「覚えていらっしゃらない?たとえどれだけ生死を繰り返してもあの頃の記憶は残っているはず。いや……なるほど死神の仕業ですね」
ミディカは顎に手を当て頷く。
「ちょっと1人で勝手に話を進めないでよ」
「失礼、どこからか説明をしたら良いですかな」
頭を軽く下げてそういうミディカ。
「今の口ぶりからして私がここで勇者としていたか、あるいは女神をしてたって言いたいんだろうなって事は分かったよ」
「流石です、ですがそこまで理解しているには随分と落ち着いますね、衝撃の事実判明だと言うのに」
「確かに、でもそんな事であなたから注意を逸らせないから」
ユイはミディカに最大限の注意を向けていた。
(この魔力、間違いなく上級女神!魔力の探知にも引っかかる事もなく現れた。上級女神ってみんなそうなの?)
「素晴らしい。では1つ問題を出させて下さい。なぜ貴女はその記憶を無くしていたと思いますか?」
ミディカは落ち着いた様子で話す。
「ネラが関係してるって言うけど、転生の時に身体に細工されたとか?」
「素晴らしいです、ほぼ正解ですよ。より正確には、あやつは貴女様の記憶を贄としてその肉体を作ったのです。おそらくはあの大男も」
大男、タケミのことだろう。
(そういえばタケミも昔のことをあまり思い出せないって言ってたな。あれ……私のここに来るまでの記憶は?)
ユイはこの時ふと気付いた、自分がこの世界に来る前一体何をしていたのか。それが思い出せないのだ、今までそんな事をしようとも思わなかった。
「その様子だとこの世界に来る前の記憶すらあまり無いようですね。この世界に連れてこられ、毎日魔導書を読みふけり、魔術の特訓、過去の思い出に浸る時間など無かったのでしょう。あの死神め」
ミディカはネラに対して悪態をつく。
「まあ、貴女様の場合は贄以外にその記憶を忘れさせるのも1つの目的だったのかもしれませんが」
「目的?」
「転生者の肉体どころか記憶そのものまで操作できるとは。実に興味深い、貴女様の魂を取り出してみてみたい……少しだけよろしいですか?」
ミディカは手を前に出した。
「お断り」
ユイは杖にある槍の尖端をその手に向けた。
「残念、では貴女様の過去に興味は?良ければ私が申し上げることができます」
「なんでそんな事を?」
ミディカは頭を下げる。
「代わりに私を見逃して欲しいのです」
「は?」
頭を上げるミディカ。
「私の専門は薬品研究でして、他の連中のように戦うのは得意ではないのです。はっきり言って貴女と戦って私が勝つ見込みは億に1つもない」
「随分と過小評価するんだね」
「貴女様に殺されるのは本来願ってもない事ですが、今の私にはまだやらねばならない事があるのです。ですからここは見逃して……」
ユイは杖で相手の胸部中心を貫く。
「断る!」
しかし、杖はするりと相手の身体を通り抜けた、なんの手応えもない、まるで煙に突きを放ったようだ。
「え……!?身体がすり抜けて」
「おお!いまのが貴女様の攻撃……!鋭い突きでした、それもただの突きじゃない!魔力も込められている!あの一瞬でこれ程の量を込められるとは!魔力でコーティングすることで斬れ味を増し、刺した後に内部で炸裂させるのですね!おっと……ごほん失礼、これは魔力で作った幻影なので攻撃しても意味はありません」
ミディカは興奮気味に話している、息遣いが少し荒い。
「でも幻影にしては魔力がしっかり感じ取れる」
「この部屋がそう感じさせているのです。魔力が集中しやすく、この空間では幻影であろうと実体かのように魔力を纏えるのです。現在は私の工房として利用させて貰っています。だからこそここで暴れられるのは困るという話なんです。ここは私にとって命に等しい価値のある場所なのです」
ミディカは部屋の説明をする。
「あなたが使う前は?」
「長らく閉鎖されていました、私の前に使っていたのは貴女様です」
「あーもうやっぱり凄い気になる!その"貴女様"って何?超違和感あるんだけど」
杖を構えながらユイは質問した。
「私は貴女様をお慕いしているのです」
ミディカはまた息が荒くなる。
「はあ?」
「ここで貴女様は魂の研究をされていた。ここで見出された術が今日、これほどまで私達を繁栄させた!私はその術に魅了されました!貴女様が残した研究資料を毎日寝る前には必ず読んでいます!」
「私の研究……って?」
ミディカは今まで見せた中で1番の歪んだ笑顔をみせる。
「転生の術ですよ」
「……!」
先ほどからタケミはイチの攻撃をしのいでばかりで逆に攻撃をしかける事ができずにいた。イチは魔力の剣を発生させその卓越した剣術、そして魔術を織り交ぜて攻撃を放ってくる。
隙がないこの連撃、そして何よりも相手が先ほどまで仲良く話していたイチという事もあってタケミは防戦一方だった。
彼は初めて相手を攻撃することに躊躇いを感じている。
(クソッ!やるしかねぇのかよ!)
「ははははっ!さっきまでの勢いはどうしたんだ?守ってばかりでは殺されてしまうぞ?ほら、さっさと殺し合え!!」
グリーディが煽る。
「ッ!」
イチが魔力を剣に込め一撃を放つ、これの直撃を食らったタケミは一直線に後方に吹き飛ばされ、壁を突き破っていった。
「俺だ!タケミだよイチ!」
タケミは瓦礫から飛び出てイチの腕をつかむ。
タケミの力をもってしてもイチを完全に押さえつけるのは難しく、操られている彼の力は相当なものだ。
(明らかにイチの身体で出しちゃいかねぇ力だ!これ以上こんな状態が続いたらイチの身体がもたねぇ!)
イチは自身の周囲に魔力を放ち、その勢いでタケミを吹き飛ばす。
「これでもダメか!」
イチの激しい攻撃をかいくぐり、何度か説得を試みようとするも彼は一切反応しない。
「本当にお前を倒すしかねぇのか」
タケミが構える。
先にイチが剣を突き放つき、タケミはそれをかわす。
「イチ、歯食いしばれ!!!」
そう言って彼はカウンターでイチを殴り飛ばした。
だが相手はすぐに起き上がり攻撃を仕掛けてくる、その口から血が溢れているがそんな事を一切気にしていない様子だ。
その後も何発かタケミが攻撃を叩き込むものの、イチは動きを止めない。
「やめて!!!」
突然声がした、子どもの声だ。
「お、お前ら!」
避難していた筈の魔力の子ども達が出てきていた。
「何でお兄ちゃんたちが戦ってるの!!二人は友達でしょ!!」
「そうだよ!イチお兄ちゃん目を覚まして!!」
子ども達が叫ぶ。
「ピーピーうるさい魔力どもだ、大人しくしてろ!」
グリーディが子ども達に怒鳴る。
「嫌だ!お前の命令なんか聞くもんか!」
子ども達は反発した。
「貴様らなんぞただの魔力源にすぎん!ただの実験体風情が!」
グリーディは子ども達に向けて魔術を放つ。
タケミがその攻撃から子ども達を庇う。
「……!」
イチはその光景を観て目を見開く。
「子どもにまで躊躇なく手を出すなんて、本当の化け物はお前らだな」
彼はグリーディを睨みつけた。
「ふん、No.0111さっさとこいつを殺せ、そしてその後ろのやかましいガキもだ」
彼女がそう言うとゆっくりとイチが歩いてくる。
「イチお兄ちゃん!!」
子ども達が叫ぶ。
そして彼はグリーディの前に立つ。
「さあ、やれ」
彼女が指示を出す。彼はゆっくりと剣を振り上げる。
「了解……このクソ女神ッ!!」
イチは振り向きグリーディに一太刀を浴びせた。
突然の事に困惑するグリーディ、それをみてタケミがニヤリと笑う。
「な……なぜ!?命令が通じないっ!?」
早急に斬られた箇所を修復しながら、彼女は後ずさりする。
「ありがとうタケミ。目が覚めたよ」
イチはそう言ってタケミ達に振り向く。
「寝坊助め、待ちくたびれたぜ!」
タケミは笑う。
「君の声がだんだん強く聞こえてきてね。それとあのパンチ、効いたよ。お陰でうたた寝から目が覚めたよ」
「よし、じゃあいっちょやってやろうぜ!」
タケミはイチの横に立つ。
「く、クソッ!クソッ!なんなんだよ!忍は仕事をしない、ネラは私の湯浴みを邪魔するし!テメェ等も!何もかも邪魔しやがって!!」
彼女はそう声を荒げながら他の女神や勇者達を召喚し、同時に光のボウガンを取り出して攻撃を仕掛けてきた。
だが集団はイチの剣とタケミの拳に敵はバタバタと倒れていく。この二人を止められる者は1人もいなかった。
「形勢逆転だな、覚悟しやがれ!」
とうとう残りはグリーディ一人のみ。
「く、クソッ!」
グリーディはボウガンを変形させ剣にし、2人に攻撃をしかける。
「「オラァッ!」」
二人の反撃を食らい倒れる。
「ぐああ!」
地面に倒れている彼女の首を掴みあげるタケミ。後ろではイチが肩を回して準備をしている。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」
後ろに下がりながら手を前に出している、これから命乞いでもしようと言うのだろうか、この期に及んで。
「「仕返しターイムッ!!」」
タケミはグリーディの首を掴んで上から殴って地面に叩きつける。そこにトドメとイチが特大魔術でぶっ飛ばす。
「ぶべェあああああっ!」
彼女は声を上げながら飛んでいく。
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