脳筋転生者はその勇まし過ぎる拳で世界にケンカを売ります。

きゅりおす

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第101話 手足を取り戻すために

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 不陽城が崩れた翌日の事。

「ん……」
 タケミは目を覚ました。

「タケミ様……!」
「あれ?おれは生きてんのか?」
 ベッドの横にいたマートル姫に話しかけるタケミ。

「タケミ様は見事ネラ様とユイ様を救ったのです」
 マートル姫は明るい顔でそう伝えた。

「おい!タケミ!」
「タケミ!」

「おおー、2人とも、元気そうだな」
 部屋にネラとユイが駆け込んで来る。

「ふふふ、私はお食事の用意をしてまいりますね」
 入れ替わるようにマートルは部屋の外に出る。
 
 外にはベロニカが待っていた、マートル姫はベロニカに抱きつく。

「……よかった、本当に……」
 彼女は大粒の涙を静かに流し始めた。 
「ええ」
 ベロニカは優しくマートル姫の頭をなでた。


「なんだこの腕」
 タケミは自分の腕に気付く。
 青黒色で炭のようにカサカサした肌だ。

「ここに、運ばれたときからそうだったんだ」
「運ばれた時はもっと細かったんだよ。木炭みたいな」

「運んだって?」
 タケミは首をかしげる。

「貴様を運ぶのは二度目だな」
「バアル!サンキュー」
 バアルも部屋に現れた。

「でこの腕はなんだ?お、脚もだ。あれでも手脚は粉々にぶっ壊したはずなのに」
 話を聞いてネラとユイが反応する。

「はぁ!?」
「粉々ってどういう事!?」

「あ!いや、まあ成り行き?」
 二人に詰め寄られてしまうタケミ。

「なるほど、そういうことか。どうりでお前の魂にアイツの魂が混ざってる訳だ」
「?」
 バアルがタケミの腕を見て話す。

「どういうつもりか、不死王は壊れた手足を与えたのだ。自分の手足を魂ごとな」
「そうか……」
 タケミは自分の腕を見て微笑む。
 
「ほっとしている場合じゃないぞ」
「え?」

「魂を無理やり融合させたのだ。いくらお互い死神に転生されたという共通点があろうとも、それは簡単な事ではないだろう」
 バアルはタケミの足を指さす。

「その足で立てるか?」
「ああ、よっと……とっとっと!なんだ?!足にうまく力が入らねぇ」
 ふらつくタケミ、ネラとユイが咄嗟に支えた。

「やはりな、その手足はまだ仮初のものということだ。自分の手足にするには慣らさないとな」
 バアルがそう説明すると後ろからテルーが現れた。

「とりあえずご飯にしましょ」

「おう!」
 ふらつきながら食卓に向かうタケミ。

「あれ、なんかうまく食器が持てねぇ」
「は!それでしたら私が!はい、タケミ様あ~ん」
 マートル姫が食事をとってあげた。



「これからどうするかな、いつまでもこんな状態でいられねぇな」
 食事を終えて、自分の腕をみるタケミ。まだ少しだけ動かせる程度だ。

「使えるようになるまで使い倒すしか無いだろう、そこで助っ人を呼んでおいた」
 バアルが部屋の扉を開けると、見覚えのある人物が現れた。

「よう、タケミ」
「プロエさん!」
 そう闘技場で闘ったプロエだ。

「闘技場は暫くの間休みでな、それで以前約束しただろ?お前に稽古をつけてやるってな」
「本当!?」
 嬉しそうにふらつきながらも立ち上がるタケミ。

「稽古ってこいつはまだ立つのでやっとなんだぞ」
「そこを使って慣らすんだろ?」
 ネラにそう返すバアル。

「ということだ。腹ごしらえは済んでいるみたいだな。早速始めるぞ」
「おう!」
「外に丁度スペースがあるから使っていいわよ。必要なら広げるから」
 テルーにそう言われ、タケミとプロエは外に出る。

「自己紹介してなかったな、ダマトだ」
「よろしくお願いします!」
 外にいたダマトにあいさつするタケミ。

「まずは足を使えるようにする。この重りをつけてひたすらジャンプしろ」
 ダマトはベストを箱から取り出しタケミに着させた。
 
 ベストには重りが仕込まれており、通常なら動く事すら出来ない程の重さが彼にのしかかる。

「ただし、クロ、タケミと追いかけっこだ。思いっきりじゃれついていいぞ」
 
「え?」
「ガウ!」
 後ろからクロが跳びかかった。

「うお!そういうことか!」
「タケミ、このリングから出ないようにな」
 タケミの周囲に円ができる。

「クロ!思いっきり来い!ビリビリ使っても良いぞ!」
「GRRR!」
 閃光迸る電撃を纏うクロ。

「よしこい!うおっ!」

「ほお、動かない足でも上手く転げまわれるもんだな」
 転がり回って回避するタケミをみてプロエが関心する。

「山に住んでた時にな、大怪我してても魔獣は追いかけてくるから、そう言う時はこう動き回るしか無いんだ」

(いいぞ、この調子で……)
 
 すると突然タケミの足に激痛が走る。

「があああッ!いっで!」
「ん?どうしたタケミ」
 抱えたくなるほどの痛みだが、今は腕が動かない。

「なんだ、脚がッ!?」
「あー始まったな」
 
「バアル様、タケミの身に一体何が」
 プロエにきかれたバアルはタケミの様子を見る。

「拒絶反応だ、人類は同類間の輸血でさえ慎重に血の種類を選ばねばそれが起きる。ようはそれの魂版だ」

「なる、ほどな!いって!」

「本来は他の魂を融合するなぞ拒絶反応どころの話ではない。即死の筈だ、だが貴様は一度死んだみたいだし、不死王と貴様には死神の魂が少量入っている、それにより拒絶反応が抑えられているんだろうな」

「なるほど、即死を免れてるなら、こんなもんか」
 バアルの説明を聞き、痛みに耐えながら立ちあがるタケミ。

「自身の拳を使いつぶすような貴様が苦痛で顔を歪ませるとはよっぽどなのだろうな。だが恐らくこれからそれが続くぞ、手足が貴様のものになるまでな」

「おっけー、ならさっさとものにしてみるさ」
「がう?」

「クロ、続きだ!」
 練習を再開するタケミ。

(すげぇ痛みだな、神経を内側から抉り取られるような、今まで味わった事がねえ痛みだ)

「魂の拒絶反応、いくら似た性質で反応を抑えているとしてもあんなすぐに立ち上がれるものではないと思うが。やはりアイツはイカれてるな」

「彼の恐ろしい所ですよ、痛みとは身体がだす危険信号、それなのに奴はそれでも止まろうとしない」
「まったく、いかれてるぜ」
 バアル、プロエ、ダマトの三人はタケミのタフさを改めて感じていた。


「今日はそこまで」

「ハア、ハア。もうそんな時間か」
 ダマトにそう言われて地面に倒れ込むタケミ。

「今日一日でだいぶ動くようになったじゃないか」
「たぶん、足はまだ元の身体が多めに残ってたんだろうな。だからほら腕は全然だ」
 プロエはタケミに手を貸し起こさせる。

「なら明日は腕のトレーニングも組み込もう」
 ダマトは立ちあがったタケミにそう伝える。
 
「こちらは問題なさそうだな、あとは任せたぞダマト」
「ええ、これからご用ですか?」
「まあな。何か必要だったらいつでも言ってくれ、それではな」
 バアルはその晩に用事があるという事でテルー宅から去って行った。


 翌日、ダマトとプロエがテルーの家を訪れる。テルーは二人に泊まって良いと言ったが、二人はバアルが予約していた宿に停泊していた。

「さあ、今日からはおれとのトレーニングだ。おれの攻撃を避け続けてみろ」
「追いかけっこの相手が変わっただけか」
 プロエが構える。

「どうだろうな、いくぞ!」

 さっそくプロエが攻撃を仕掛けてきた。

「フットワークを意識しろ!細かく正確にだ!」
 タケミは足を使ってプロエの攻撃を回避する。

「難しいこというぜ!」
 午前中はひたすらプロエの攻撃を無駄なく避けるという練習を続けた。


「午後は腕を使えるようにするぞ、構えろ」
 腕を上げようとすると激痛が走る。

「っ!やっぱり腕も動かすといってぇな」
「その分神経が通り始めていると思え。こう構えるんだ」
 構えを教えるプロエ。

「まずはガードを上げ続けろ」
「わかった!」
 なんとか上がって来た腕をその高さで固定するタケミ。

 ガードの上から殴りつけるプロエ。
 
(なんて硬い腕だ、以前の肉体も相当だったが。これは別格だ、これが不死王の腕!もしこれを完全に使いこなせたらお前の拳はさらなる高みへ!)
 まるで金属でも叩いているような音がする。

「ガードが下がって来ているぞ!」
「うっす!」
 タケミはなんとかガードの高さを維持していく。

「よし、次は打ってきてみろ」

「待ってました!」
 こうして手足を自分のものにする為の特訓が始まった。

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